誰が為に征く   作:駆華野 志想之介

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およそ一ヶ月ぶりの更新なのに、今までよりはるかに早いとか……
全くお笑いです、頑張らねば

くりっく?
くらっく!


邂逅する二人

side––––キリト

 

黒い雨合羽の男。

それが、鍛冶屋ネズハが明かした、強化詐欺事件の黒幕だった。

フードつきマントという装備は、RPGでは決して珍しくない装備だ。そしてその用途は主に顔を隠すこと、のはずだ。

顔も素性もわからない相手だが、強化詐欺で得た利益の分け前の受け取りに現れるはず。

そう考えてネズハに分け前の受け渡し方法を訊ねた。

しかし返ってきた返答はあまりにも予想外だった。なんとその男、報酬の要求は一切なしだそうだ。

 

「……つまりその人は、ブレイブスに武器のすり替え方法だけを教えて、すぐに消えた……ってわけなの……?」

 

アスナがそう確認すると、ネズハは頷きかけて、頭を中途半端な位置で止めた。

 

「……ええと……正確には、もう少しだけ話していきました。やっぱり詐欺は詐欺ですから、最初はオルランドたちも否定的な反応だったんです。そんなの犯罪じゃないか、って。 そしたら、あいつがフードの下ですごく明るく笑って……わざとらしいわけじゃないんですけど、なんだか映画みたいに綺麗で、楽しそうな笑い方でした」

「綺麗な……笑い方……?」

「ええ。なんていうのか、……それを聞いてるだけで、いろんなことが深刻じゃなくなっていく感じで……気づいたら、僕を含めてみんな笑ってました。そして、あいつがこう言ったんです。……『ここはネトゲの中だぜ? やっちゃいけないことは、最初っからシステム的に出来ないようになってるに決まってるだろ? ってことはさ、やれることはなんでもやっていい……そう思わないか?』って……」

「そ……そんなの詭弁だわ‼︎」

ネズハの口が閉じられる前にアスナが叫んだ。そしてそれに同調するように、今まで押し黙ったままのレイが頷いた。

 

「アスナの言う通りだよ。なんでもやっていいなら……モンスターを他の人になすりつけたり、他の人が戦ってるモンスターを横から攻撃したりっていうマナー違反を許容することになるよ」

「それだけじゃないわ、圏外じゃ犯罪防止コードは働かないんだから、極論他のプレイヤーを」

 

言葉は、そこでぷっつりと途切れた。

アスナはきっと怖れたのだ、その先を口にしたら、本当にそれが起こるかもしれないというように。

しかし。

 

「そう、システムに止められないなら…………犯罪防止コードの働かない圏外で、何も悪いことをしていない人を殺してもいい。 そんなことにはならないんだよ」

 

レイの言葉で、俺とアスナ、ネズハは固まった。正確に言うならば、冷たい何かが自分の心臓の側を掠めたような感覚に陥ったのだ。

改めて実感させられたプレイヤーキルの可能性。 起こらないとは限らないソレは、いつか必ず俺たちの前に立ちはだかる。 そんな気がした。

俺は白い肌を青ざめさせているアスナの左腕に、無意識のうちに、ごく軽く触れさせた。普段なら身を引かれるのだろうが、今は接触点が精神的なアースになったかのように、細剣使いはふっと体の力を抜く。

手を戻し、俺はネズハをじっと見て訊ねた。

 

「ポンチョ男が言ったのは、それだけか……?」

「あ……は、はい。グッドラックって言って……そのまま出て行きました。以来、二度と会っていません……」

 

その後、ギルドの雰囲気が変わり、やれるのならやってみようという方向へ向かっていった。そしてネズハは強化詐欺を行った。

 

「初めて詐欺を実行した日、すり替えたエンド品が砕けた瞬間のお客さんの顔を見て、気づいたんです。 たとえシステム的にできたとしても、こんなこと、やっちゃいけないんだって。 お客さんに打ち明ける勇気がなくて、やっぱりやめようってギルドの溜まり場に戻ったんです。 でも……みんなが、僕の騙し取った剣を見て、すごく……すごく喜んで、僕を褒めて…………だから…………だから、僕は…………!」

 

ガン! と激しい音を立ててネズハは自分の額を激しくテーブルに打ち付けた。

二度、三度と繰り返されるが《コード》に保護されているネズハのHPは減らない。

きっと彼はどうしていいか解らないのだろう。自殺を否定され、弁償はもはや叶わない。

唯一償えるとすれば、それは己の行為を広く告白し、謝罪をすることだ。だが、それをしろと俺は言えない。このアインクラッドで戦っているプレイヤー全てがネズハを許すとは思えないし……許さなかった場合の《罰》がどうなるのか、想像もつかない。

始まりの街に戻って、見つからないように街の片隅で息をひそめるか、いっそのこと戦闘職に転向して、ゲーム攻略に対する大きな貢献をすれば……と思うが、ネズハに使用可能なのは《投剣》スキル一択。

一体どうすれば…………。

そう考えたいたときに、レイが口を開いた。

 

「…………ねぇ、ネズハ」

 

硬さも棘も含まない、まるで支えるような声に反応して、鍛冶屋はゆっくりとテーブルに押し当てていた額を上げた。

涙に濡れた顔が、僅かばかり驚いたような表情をしていた。

 

「レベルは今幾つ?」

「……10、です」

 

その瞬間、俺の頭にある閃きが浮かんだ。まるで全身が電流を発したかのように。思わず「あっ」と言ってしまい、アスナから変なものを見る目で睨まれた。

こちらに視線を移したレイに頷き、ネズハにある提案をする。

 

「なら、スキルスロットはまだ三つだよな? ……もし、君にも使える武器があるって言ったら、スキルの中の一つ、武器作成を……鍛治スキルを捨てる覚悟はあるか……?」

 

 

===================

 

 

side––––???

 

ネズハの強化詐欺が露わとなった日から二日後の深夜。

アインクラッド第一層主街区のはずれに存在する《BAR》の文字が掲げられている建物、いわゆる酒場に、一人の男が入ってきた。

全身を黒いマントで覆った男はゆっくりと店内を見回し、他にプレイヤーがいないかを確認すると、最奥に位置するテーブルへと進んでいった。

男が来たテーブルの前には、一定の間隔をあけてジョッキを口にする男がいた。雨合羽のようは服装をした、プレイヤーかNPCか区別のつかない仕草ゆえに、言葉を発さなければ判断しかねるだろう。

しかし男は雨合羽に向けて言葉をかけた。

 

「やっと見つけた。いくらここが百層まであるっつっても、現段階では二層までしかないからな」

 

雨合羽は黙したまま、ジョッキを再度口へ運ぼうとした。

 

「…………《レジェンド・ブレイブス》」

 

男が呟いた言葉に雨合羽はピクリと反応を示した。次いでその口からは感嘆の声が漏れ、口元には笑みが浮かんでいる。

 

「Wow…………まさかこんなにも早く、見つかるなんて思ってもみなかったぜ」

「あの詐欺について引っかかるものがあってな、昨日からあっちこっちを探し回ってたんだ」

 

男は雨合羽の前に腰を下ろすと、NPCにジョッキを注文して一口煽る。

正面に座ったことで互いの顔がハッキリと見え、お互いに無用とばかりにフードを払った。

露わになった黒ポンチョの男は、どこか日本人離れした顔立ちをしていた。

対するマントの男も、純粋な日本人ではない出で立ちをしている。

お互いに顔を視認し一瞬眼を見張るが、それはすぐに笑みへと変わる。

 

「こいつぁ驚いた」

「ああ、全くだ。運命の女神様ってのを信じて見たくなっちまう」

 

くつくつと、愉快そうに笑う男たち。

まるで旧友との再会のような雰囲気を見せるが、両者の目はまるで違っていた。

獲物を見る目だ。

相手の性格、癖。そういったものをいち早く読み取ろうとする、職業柄とも言える目つきだ。

 

「…………俺の記憶が正しければ、お前は攻略集団のミトだろ? 正義のために、なんてぬかして俺をとっ捕まえに来たのか?」

 

両腕を広げて愉しそうに笑う雨合羽の男を見て、マントの男––––ミトも、愉快げに笑う。

 

「まさか、お前を捕まえるには、俺は命をかけなきゃならなそうだ。…………それに、俺は正義感なんかで動いてるわけじゃないからな」

「ほおぅ…………そのセリフ、他の攻略集団にも聞かせてやりてぇぜ」

「ふはっ、……ぬかせ。 まぁ、やり過ぎなければ、俺とお前が本気で殺しあうことなんてないだろうさ」

 

それは一種の提案だった。

現段階で死ぬことを良しとしないミトからの、雨合羽の男への犯罪の見逃しというものだ。

そして雨合羽の男は、その提案を聞いて笑い出した。

本当に愉しそうに、溜め込んでいた不満を吐き出しでもするかのように。

 

「ッハァ……本当に、本当に愉快だ。 いつか、お前と本気の殺し合いをするのが楽しみだぜ」

「その時が来ないことを願ってるよ、出来れば野垂れ死んでくれ」

 

冷たく突き放すと、ミトはがたりと席を立った。

初めから顔の確認と、やりすぎるなどの警告だけをするつもりで来たのだ。長居はするだけ無用だろう。

最後に雨合羽の男は、酒場のドアを開けて出て行こうとするミトを呼び止めた。

 

「まぁ待てよ、これだけでも覚えていきな」

 

そう言って雨合羽の男は宙に指で文字を書いていく。

P……o……H

そう書いてにやっと笑ってみせた。

 

「《PoH》だ、よろしくな兄弟」

 

それを聞いて、ひらひらと手を振ってミトは酒場を後にした。

静寂さが戻った酒場で男が一人、くつくつと嗤っていた。

 

 

===================

 

 

side––––キリト

 

そしてもう少し時が流れ、二〇二二年十二月十四日、水曜日。

第一層フロアボスが倒されてから十日目。

俺とアスナ、レイを含む、いわゆる《前線攻略集団》プレイヤーは、迷宮区タワーを踏破し、ついに第二層フロアボスの待ち受ける広間にまで到達した。

ボスに挑む《レイド》の人数は四十四人。

攻略当初からの人数の変化はあったものの、おおよそフルのプレイヤーが集ったことに安堵するべきだろう。

集まった広間の中で、互いに励ますものや装備の確認をするものが大半を占めた。そんな彼らを見やりながら、俺は隣で相変わらずフードを深くかぶっているアスナに囁きかけた。

 

「あいつ、結局間に合わなかったな」

「そうね。 ボス部屋到達が予想よりもだいぶ早かったし……」

 

アスナはそこで言葉を区切ると、フード越しにじろりと俺を睨んだ。

 

「何せ、どこかの誰かさんでも二泊三日コースだったんですものね」

 

痛いほど突き刺さった言葉に思わず視線を横に逸らす。その先には固い握手を交わすエギルとロノミアがいた。何してるんだあんたら……。

 

三日前。

タランの村で、俺はネズハにエクストラスキル《体術》が取得できるクエストの場所が記された地図を譲り渡した。

《体術》を取る代わりに《片手武器作成》スキルを削るという非情な提案に、ネズハは深呼吸一つを挟んで頷いてみせた。

 

「……三層の攻略には、きっと参加してくれるさ。あの武器、使いこなせれば結構強いはずだから、きっとブレイブス以外のどこかのギルドで、上手くやっていけるだろう」

「ええ……そうね」

 

頷いたアスナと同時に、安全地帯の反対側にいるオルランドたちを見やる。

ネズハが三日前から行方をくらませたからか、彼らの顔には不安と不機嫌さが滲み出ていた。

オルランドたちの不安は理解できる。しかしそれを解消してやる義理などないし、何より自分たちのことを考えなければならない。

前回のボス攻略のことを考えられると、俺たちは今回もおミソパーティということになるだろう。うんうん唸っているとエギルが声をかけてくれた。

彼のパーティは四人で、俺とアスナを入れればちょうど六人のフルパーティになる。

助かった、そう思ったのもつかの間。レイとロノミアをどうするのか、俺たちに新たな問題が生じた。

いっそのこと四と四の二つのパーティにしてはどうかという案が出た。

結果としてその案は通った。エギルたちのナイスガイズが守備を務め、俺たち四人は攻撃役だ。まあ、取り巻きを相手にするというのは変わらなかった。

 

そして、とうとうその時が来た。

一層の攻略からわずか十日という短い時間での二層ボスの攻略。

レイドのリーダーを務めるのは、キバオウとのコイントスで決まったらしいリンドだ。

掛け声とともに扉を開くその姿は、まるでディアベルのようだった。

「こっちの方が自意識が高い」とレイは零していたが。

一層攻略時にその実力を見せつけてくれたミトがいなくとも、やってみせる。そう意気込んで、俺はボス部屋へと入っていった。

 

 

===================

 

 

side––––レイ

 

「緊張してますか?」

 

隣から優しく声をかけてくれたのは、ハルバートを担いだロアだ。

まるで包み込むかのように微笑みかけてくれる彼女は、見ているだけで幾分か緊張が和らぐほどだ。

こちらを見ていた目の前のリンド隊の一人が顔を赤くしていた。こっちを見るな。

 

「ロアは初めてのボス攻略だけど、緊張は…………してなさそうだね」

「あはは、そんなことないですよ? 下手を打って手足が飛ばないか心配です」

 

陽気に笑ってみせるが、心配とか緊張のベクトルが違う気がする。

後、SAOの中で手足が無くなったらどうなるのだろう。片腕で攻略を続けなければならないのかと思うとかなり不安だ。

視界の先では、シミターを引き抜き、高々と掲げたリンドが目に映った。

ミトがいなくても、自分の身は自分で守ってみせる。

そう意気込んで、ボス部屋に突入する部隊に続いた。




プーさんとミトを絡ませたかっただけ
あとプニキの話し方がわかりませんw

はつかねずみがやってきた。
はなしは、おしまい
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