地元に4DXしかなかったので大枚叩いて見ましたが。
しょーじきおとなしく見させて欲しかったですね。
ではでは、くりっく?
くらっく!
side––––ロノミア
濃霧の広がる森を颯爽と歩いていく森エルフの少女。わたしたちが彼女のあとについて歩くこと十五分、辺りを覆っていた霧が突然晴れました。
森の東端にある野営地の近くには川が流れていて、これを東に辿っていくと主街区であるズムフトに着くそうです。
左右に細長い柱が立ち、その頂点には森エルフのシンボルマークたる緑地に金の刺繍が施された旗が風にたなびいていた。
そして、柱の下前には、エルフの少女よりは重武装の森エルフの衛兵が背筋を伸ばして立っていた。
森エルフの少女に付いて行くと、一際大きい天幕の前まで来た。そこで行われた森エルフ先遣部隊司令官とのやりとりは、平穏な雰囲気を保ったまま無事に終わった。
司令官は翡翠の鍵の入手にたいそう喜び、かなりの額のコルと、性能の良い装備品をくれた。
最後に司令官から、キャンペーンの第二幕である次のクエストを受け、わたしたちは天幕を後にした。
川沿いにある野営地に戻ると、時刻は間も無く午後五時だ。
目の前を歩く森エルフの少女はゆっくりと伸びをすると、わたしたちに向き直った。
「人族の剣士さん、あなたたちの助力に改めて感謝を。次の任務もよろしくお願いしますね」
「ええ、頑張りましょう」
「あっ、そういえばまだ名前を聞いていませんでした。差し支えなければ教えて頂けますか?」
へぇ、と意外に思いました。
一応はmobであり、立ち位置としてはNPCに近い彼女から名前を聞かれることになるとは思いもしませんでした。
いや、もしかしたら……高レベルのAIということもありえるのでしょうか。
「わたしはロノミアです」
「少し発音が難しいですね。ロノミア、でいいですか?」
おお、難しいなんて言っておきながらあっさりと発音できてしまうとは。この子、できますね。
完璧ですと告げると彼女は満足げに頷いた。その後に行われたミトとの同様のやり取りを見守る。
「ロノミアさん、ミトさん。わたしのことはライエと呼んでください。……それでは、任務に向かう時刻はお任せします。人族の街に戻るのもいいですし、この野営地で休んでいただいても構いませんよ」
わたしとミトの考えとしては、このまま主街区には戻らず、一定までクエストを進めようというものなので、野営地で休むほうを選択する。
「……せっかくだから天幕を貸してもらおうと思うが、空いているか?」
あれ?なんだかミトの言葉が僅かばかり淀んでいた。まるで何か嫌な予感がするかのような…………おや、ライエちゃんが少しばかり楽しそうに見えるのは一体……。
「……すみませんが、予備はないのです。お二人にはわたしの天幕で寝てもらうことになります」
「あぁ、すまないな」
「いえ、小さい頃に友人が泊まりに来たみたいで、少し楽しみですので」
なるほど、楽しそうにしていたのはお泊まり気分を味わいたかったからですか。三人……か、いいですけどね。
ライエは一礼すると、食堂へと歩み去っていった。彼女の天幕はかなり広めであり、六人でも余裕を持って横になれるほどのスペースがあった。床にはフカフカの毛皮で作られた絨毯が敷かれ、壁側りの布は分厚く、外からの音がほぼ聞こえてこない。
あぁ、こういうところならやっぱり…………。
「間違っても、寝込みを襲っちゃダメですよ?」
「……阿呆、NPCに手を出したら犯罪だ。そうでなくても欲情なんてしない」
「そういえば、そんなシステムもありましたねぇ。……ところでミト?」
ささっとミトとの距離を縮め、耳元でそっと囁く。
「オプションメニューのほぼ最下層に……《倫理コード解除設定》がありまして、解除対象を指定できるみたいなんですよ」
それを聞いたミトの表情はものすごく微妙な顔をしていて『こいつ何言いだしてんだ?』と言わんばかりでした。してやったり、ですね。
「呆れた……、タランの村でキリトたちを待っていた時に何をしてたのかと思えば……倫理設定の内容なら知っていたぞ?」
「な…………」
知っていたですって?
わたしが何かないか延々と考えた挙句、メニューウィンドウの膨大な文字列を一つ一つ読んでいた苦労をなんだと思って…………。
「せめて後何層かは誤魔化せると思ってたのに……変なところまで鋭いから困る」
「……ふ、ふふん。時既に遅しですよ、観念してください」
じりじりと寄っていってみる。まぁ、いくらなんでも人様の天幕の中で事に至るほど不満ではないですけど?
いわば遊んでいるようなものです。こういう風ににじり寄ると大抵ミトは…………。
「っ!?…………ぐぇ」
一瞬思考が他所にずれていたことで隙を晒したらしく、わたしはミトに転ばされたようです。
この人素手だとめちゃくちゃ強いから、意識をそらすと地面に倒されるなんてよくあることです。おかげで突然の痛みにも耐性がついてきましたけど。
打ち付けたお尻をさするわたしの横を、さっさと通り過ぎて天幕を出て行くミト。急いで立ち上がると、わたしは彼の後を追った。
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side––––キリト
「理不尽な要請であることは、こちらも深く理解している」
と、藍色の長髪を後ろで束ねたシミター使い––––ギルド《ドラゴンナイツ・ブリゲード》の初代リーダーとなったリンドは、急ごしらえの演壇上で重々しく告げた。
DKBの下地を作った、今は亡きディアベルと比べれば表情も言い回しも硬いが、大グループを十日間指揮してきたなりの貫禄は感じることができた。
ズムフトに入ってからレイとセンの二人と一旦別れて、二重の意味でお高い部屋で仮眠してパラメータの元気とやる気を回復させたのち、別れた二人と合流した。その後、食料とポーション類を買い込み、単発クエストを七つほど受けてから街を出た。五時間かけてあちこちを走り回り、時には定点狩りをしながら数多くのmobをポリゴンの欠片に変えて街に戻った。クリア条件を満たした七つのクエストを全て報告した結果、俺のレベルは15。アスナは二つ上がって14。レイも二つ上がって15と、驚きの結果となった。センに関しては本人が言い淀んだので、伸びが悪かったのだろうか。まあ、他人のステータスを詮索するのはしないほうがいいだろう。
心地好い疲労と達成感に満たされながら酒場で軽く祝杯を上げ、掲示板で告知されていた午後五時の十分前に、三層初となる攻略集団の全体会議へと足を運んだ。
さすがに十分前ともなるとほとんどの攻略集団のメンバーが集まっていた。見渡せば広場の端にじっと構えるミトとロノミアを見つけることができた。結局あの後、二人はエルフクエストを受けたのだろうか。この会議が終わった後に、クエストの内容を確認し合うのもいいかもしれないな。二人の他に俺が親交のあるプレイヤーと言えば、残るは一層のトールバーナでの会議から何かと世話になっているエギルだろう。二層の宿屋に預けている《ベンダーズ・カーペット》を進呈する約束をしているうちに五時の鐘が鳴り響いた。
それを合図にリンドとキバオウの簡単な挨拶が始まり、いよいよ攻略会議が開始された。
最初の議題は、ここまで攻略集団の主力を担ってきた青グループと緑グループが、いよいよ正式なギルドになったという報告だった。続いて両ギルドの正式名称、《ドラゴンナイツ・ブリゲード》と《アインクラッド解放隊》が発表され、現時点での所属プレイヤーの紹介があり、最後にギルドメンバー募集の呼びかけが行われた。実際のところ今回集まったメンバーの中でどちらのギルドにも参加していないのは斧使いのエギルと彼の仲間たち三人、そして俺とアスナ、レイにセン、ミトとロノミアの計十人なのだが。付け加えておくと、センは今回から正式に参加するようだ。
「この会議に参加していて、どちらのギルドにも参加していない人たちは、全員その要件を満たしているはずだ。だから、手さえ挙げてくれれば喜んで迎え入れたい。ただ……たった一つだけ、特定の人に関しては要件を付け加えさせてもらう。これは、キバオウさんとも話し合って決めたことだ」
リンドが俺の思いもよらないことを口にした。この時点で俺は呑気に「特定の人? 誰?」などと考えていた。だから、壇上のリンドがミトとロノミアを一瞥した後にこちらをまっすぐ見た瞬間、危うく階段状の座席から転げ落ちそうになった。
「……キリトさん」
「ああ、解ってる……」
硬い声で呼びかけられて、俺は瞬時に得心した。つまるところ、俺はビーターだからギルドには入るなということだろう。そう思っていた。
だから俺は、いや……俺たちはその発言に全員が反応した。
「アスナさんにレイさん、それにセン……さんだったか。そしてもう二人、ミトさんとロノミアさん」
アスナはピクリと肩を動かす。表情は、すぐ隣の俺からでもよく見えない。
他の四人の反応はそれぞれだった。レイとセンら不審げに、ミトとロノミアは静かにリンドを見据えていた。
そんな俺たちを順に見ると、リンドはひとつ咳払いしてから言った。
「昨日のボス攻略戦を見ても明らかなように、君たちの実力は、我々の中でも突出している。何せ、キリトさんとアスナさんはボス三匹のLAボーナスを持っていき、ミトさんたちは、崩れたレイドを立て直すに十分な時間を四人で稼いでみせた。それを踏まえると、現状ではいちおう対等と言える両ギルドの戦力の均衡を保つために、君たちがギルドに入るには三人ずつ入ってもらうことになる」
いちおうの一言に引っかかったのか、キバオウの額に青筋が浮いた。その様子を他人事のように眺めながら、俺はSAO初のギルドリーダーとなった男の主張を聞いていた。
「これが理不尽な要請であることは、こちらも深く理解している。だが、どうかそちらも理解してもらいたい……」
なぜ、リンドはわざわざ俺たちがギルドに加入する条件を話した?
少し考えれば、俺たちがギルドに入らない決断をするのは明白、キバオウだってベータテスターである俺を入れるのには反対であるだろう。
頭の中には疑問が浮かんだままだが、壇上のリンドがこちらの返事を待つかのような視線を向けるので、とりあえず立ち上がると俺は言った。
「えーと……突出した実力とまで言ってもらったのに申し訳ないけど、俺は当分どっちのというか、そもそもギルドに参加するつもりはないよ。……っていう答えは、あんたたちも予想してたと思うけどな」
するとキバオウはフンと鼻を鳴らし、リンドはほんの一瞬苦笑したように見えたが、すぐに元の硬い表情に戻ると軽く頷いた。
つまるところリンドは、このデスゲームをクリアするという目標を達成するためには集団を作るのが最善策だと考えているわけか。それならやはり、俺とは相容れない。
「つまりキリトさん、あんたは当面ギルドに加わるつもりも、率いるつもりもないと、そういうことでいいのかな」
その言葉を聞き、今度は俺が苦笑する。
「そういうことでいいよ、ちゃんとしたメンバーになれる気もしないのに、ましてやリーダーなんてどう考えても荷が重すぎる……」
………………ははあ、そういうことか。
自分のセリフをヒントに、ようやく彼の意図に気づいた。
つまりリンドは、みんなが集まる公の場で、俺からギルドを作る気はないというセリフを引き出したかったのだろう。俺が、新たな第三のギルドを旗揚げするという可能性をあらかじめ潰すために。
直接言えばと思わなくもないが、安易に水を向ければそのせいでギルドを立ち上げる気にさせてしまう可能性が出てくるのは否めない。
俺ははたと気づいた。隣のアスナやレイに何も言わずにギルドの加入を断ったが、彼女たちの意見を聞くのを忘れていた。そう思ってまずはと隣のアスナを見て驚いた。フードを被っている彼女の顔は見えないが、その怒気はこちらにも感じ取れた。ちらりと後ろにいるレイとセンを見れば彼女たちは呆れを多分に含んではいるものの、アスナのように怒りを表に出してはいなかった。
下手したらこのまま壇上に登って抗議を始めるのではと忌避した俺は、体を彼女の前に出し怒りを鎮めるように口を開こうとするが、その前にフードの奥から低く掠れた声が発せられた。
「止めても無駄よ。いままでも、あの人の発言には何度か辟易させられたけど、今回だけはひとこと言わないと気が済まないわ」
「……今回というのはつまり、『入りたいなら均等に』っていうヤツ?」
アスナはその問いにイエスともノーとも言わず––––きっと、いう必要もないということなのだろう––––硬さを増した声を響かせた。
「ギルドに入るとか入らないとか、誰かと一緒にいるとかいないとか、それはわたしが自分で決めることだわ。……百歩譲って、押し付けがましくあれこれ言うだけなら我慢もするけど、あの人は心の奥底で、自分が他人を導いてあげなきゃならないって思い込んでるのよ。厳しく命令することが、最終的には相手のためになるって信じてるのよ。そして、そういう自分の行いを、指導者としての自己犠牲だと思っているんだわ」
「…………」
俺に向けられたものではないことは解っているのに、それでも背中にうっすらと汗が滲むほど辛辣な言葉だ。
アスナの言う通りだとすれば、リンドが回りくどい真似をして俺によるギルド設立を阻止しようとしたのも、自分のリーダーシップを確立するためだけではなく、俺というプレイヤーを正しく導くためでもあるということになるのか。
確かにそれは少しばかり責任感というものを履き違えているよなあ、と思う反面、アスナの考えすぎではないのかという気もする。そんな俺の内心を感じ取ったのか、細剣使いはほとんど音にならない声で呟いた。
「……解るのよ。あっち側じゃ、子供の頃から、そんなことばっかり聞かされてきたから」
「…………!」
思わず息を呑む。アスナが現実世界の自分について語ることはほとんど初めてではないだろうか。
自分が自分であるために剣を取ったアスナが、そうあるためにはここでリンドの命令に抵抗しなければならないのだろう。
––––––––しかし。
…………しかし、俺がアスナにどうしろと言ったところで、それこそがアスナの嫌悪する、《相手のためを思ったつもりの押しつけがましい命令》になるのだということは理解している。
だが、アスナをはじめとして、レイやセン、ミト、ロノミアにも言えることだが、彼、彼女らには俺が持ち得ない資質を持っている。ここから先、攻略においてきっと輝くであろうものを。それを攻略序盤であるこの初期に失うような真似をしてはならないのだ。
もしもリンドに抵抗したことで、アスナが攻略集団から離れ、最悪死んでしまったとして、俺はどうする?
突然、俺はまたしても、一つの単純な事実に気付いた。
コンビ解消だの、ギルドに入れだのと回りくどいことを言わずとも、ただ素直にそう告げればいいのかもしれない。
言葉を口にしようとして、口を開く。
しかし、長年かけて閉ざしてしまった意識の回路が、たった一つの単純な気持ちを口にできない。
不意に、耳元で、かすかな声が聞こえた気がした。
––––––––キリト。
––––––––伝えたいことがあるのなら、伝えられるうちに伝えたほうがいい。そうできるのは、とても幸せなことなのだから。
静かな、しかし凛と響く囁き声は、遥か離れた森の奥で別れたダークエルフの騎士のものと思えた。
幻の声は確かな強さで俺の背中を押した。諦めかけた言葉が、閉じたはずの意識をこじ開けて、仮想の空気を震わせた。
「……俺は、君に、死んで欲しくない」
そう言うのと同時に彼女の手を掴んだ。見れば、アスナの瞳が、ほんの一瞬ではあったが大きく見開かれた。
「……だから、今は我慢してくれ。リンドや彼のギルドが、俺や君の命を救うことだって、きっとあるはずなんだ。彼に助けられるぐらいならとか、そんなことは、思わないでくれ」
情けないことに最後のほうは、べそをかく子供かというくらい声が揺れた。
視線を下に外し、掴みっぱなしだったアスナの右腕から手を離す。
五秒ほど経過したところで、短い言葉がぽつりと発せられた。
「……なら、我慢しておくわ」
それを聞き俺は胸に溜まっていた空気の残りを細長く吐き出した。何か言うべきかと思ったが、まるで言葉が浮かばず、俺はただこくりと頷くことしかできなかった。
少しして、右の耳元で、もう一度微かな囁きが聞こえた。
––––頑張ったな、キリト。
これには我ながら苦笑してしまう。キズメルの声援を捏造するなど、いくらなんでも調子が…………。
いや。
しかし、まさか、そんな。
いくつかの接続詞を連発させながら、俺は恐る恐る右手を持ち上げ、すぐ隣の何も存在しない(ように見える)空間を探った。
すると、何やら柔らかい感触が指の先を押し返した。
刹那、体を襲った衝撃に飛び上がってしまった。
「よく言ったな、キリト!」
「公衆の只中で女の子を口説くなんて、大胆ですね」
振り返って見れば、俺の背中に手を置くミトと、感心したというふうな表情をしたロノミアがいた。
ああ、この口ぶりからすると俺がアスナに言ったことは聞かれていたのだろう。我ながら恥ずかしいことをと思ったが、それでも言ってよかったと思っている。
俺の背中を思い切り叩いたらしいミトは、先ほど俺が右手を向けた先を数秒みつめると、愉快そうに鼻を鳴らした。
「過保護なことだな」
「……なんのことだ?」
「いや、こっちの話さ」
その後、前回と変わらぬ雰囲気の攻略会議が淡々と進んでいき、あっという間に終わった。決まったことといえば、今回からレイドリーダーがボス部屋を見つけたギルドのリーダーになるということくらいだ。
攻略会議が終わり、俺たちは再びエルフクエストを受けるためにダークエルフの野営地に戻るためにズムフトを出ようとしていた。
メンバーは一緒にクエストを受けた俺を入れた四人と、ミトとロノミアの二人だ。
「いるんだろ、キズメル」
「え!?」
俺が突然発した言葉にアスナが驚きの声を上げる。そしてすぐさま、呼びかけられた本人が姿を現した。
何もなかったはずの虚空から、ダークエルフの騎士キズメルが現れた。これにはレイやセンも驚いていて、俺はいたずらをする子供のように、半ばしてやったりと思っていた。
––––それが間違いだと思わずに。
異変はすぐさま起こった。
「ミト、まずいんじゃないですか?」
「あぁ、めんどくさい事になった」
即時に辺りを見回し、警戒態勢に入った二人を見て、アスナが制止に走った。
「待って、彼女は味方––––」
そう言い終わらぬうちにロノミアが動き、一息でアスナと距離を詰める。その速さにも驚いたが、彼女のとった行動にも驚かされた。
仮に二人がキズメルを敵だと思い、それを庇ったアスナも敵であるのだと判断したなら、武器を突きつけて退かせるなりしたのだろう。それともアスナが襲われると考えたのなら、キズメルとの間に割って入ることも考えられる。しかしロノミアのとった行動は、アスナに武器を向けるでも、キズメルから庇う立ち位置でもなかった。
まるでそこに第三者が襲いかかってくるかのような、ソレから守ろうとする立ち位置だった。
俺たちが呆然と見守る中、そいつは現れた。
「ハアアアアアアアッ!!」
裂帛の叫び、怒号にも聞こえる声を上げて森エルフの少女が空中からキズメルに襲いかかる形で現れた。まさに、瞬間移動でもしたかのような、一瞬でその場に現れたのだ。
突然の奇襲に、俺たちはおろかキズメルさえも動けずにいた。
少女の振り抜いたロングソードが、キズメルを捉えようとしたそのとき、甲高い金属音が響いた。
ぎゃりり、と音を立てて、曲刀で攻撃を防いだミトがキズメルの前に立っていた。
少女は地面に足をつけると、そのままロングソードを押し込む。本来なら、キズメルと同レベルである森エルフの少女との鍔迫り合いで、ミトは一歩も引くことなく、余裕の風体で受け止めていた。
防がれた事に驚いていた少女が、悔しげに顔をしかめた。
「どうして……どうして邪魔をするんですか!!??」
鍔迫り合いではっきりと見えたその顔は、俺たちとそう変わらないように見えた。その少女が、瞳に憎悪を浮かべて剣を握る様は、本物の人間のように、あるいは本当に人間なのではとすら思えてしまうほどだった。
「……落ち着けよ、仮にこのダークエルフを殺したところで、お前の兄貴は帰ってこないんだ」
ミトの発言に、またしても俺たちは驚愕した。昨日……いや、今朝早く起きた俺は、同じく起きていたキズメルと会話する時間があった。そこで聞かされたのだ、ティルネルというキズメルの妹がいたこと。その妹が、森エルフに殺されたのだということを。
そして俺は考えもしなかった。森エルフ側にも、家族友人を殺された人物がいるかもしれないということを。
「…………わかっています」
絞り出すような、涙をこらえるような声だった。そこには、今にも泣き出しそうに目を赤く腫らしたひとりの少女がいた。
「復讐をしても虚しいだけ、えぇ、わかっています。……いえ、わかっているつもりだったのです。現にこうして、ダークエルフの方を見た瞬間に、わたしの中で理性の壁は崩れてしまったのですから」
がしゃん。と剣を手から落とし、その場に座り込んでしまう森エルフの少女。
誰も言葉を発さない中で、キズメルがゆっくりと少女に近づいていった。そうして近づき、ゆっくりと腕を上げる。
少女はびくりと身を震わせるが、すぐさま驚きに目を見開く。
キズメルは怒ることはせず、妹の復讐をしようということもなく、少女の頬に手を添えた。
「わたしも……わたしも大切な人を失った」
僅かな言葉、それだけで、少女は弾かれたように顔を上げると、キズメルのことを驚きの表情で見つめた。
「わたしもついこの間まで、死を選んでも良いと思っていたのだ。しかし––––」
キズメルは俺やアスナをちらりと見ると、ふっと微笑みかけてくる。彼女の言わんとすることを察した俺は同じように微笑みを返す。
「そこの彼らによって、再び生きる意味を見出せた。わたしはいつかきっと、リュースラの民とカレス・オーの民が手を取り合える日が来ると信じている」
「……そんな、そんな途方も無い、できるかどうかもわからないことを信じるのですか?」
後半は涙交じりになった少女の問いかけに、黒い騎士は見惚れるくらいの笑みを見せた。
「できるさ、なにせそなたは、剣を納めてくれただろう?」
とうとう堪え切れなくなった少女が、片手で涙を必死に拭いながら、キズメルの手に自分の手を置く。
夕焼けに照らされる二人の姿は、さながら幻想的であり、これがゲームではなく、本当は映画の舞台なのではと錯覚するほどで。アスナとレイに至っては揃って涙を流していた。
結果として自体は丸く収まった。
ライエと名乗った森エルフの少女とキズメルが互いに名乗ると、俺たちもそれに倣って言葉を交わしていった。
その後すぐに、俺たちはお互いの野営地へと戻ることとなった。
エルフクエストはその後も順調に進んでいくこととなる。途中、森エルフとの抗争になったりして、ライエを知っている俺たちにはかなりきつい場面もあったが、層を重ねてもクエストを進めていき、無事九層にてその結末を見届けることとなった。
俺なりに印象に残ったことといえば、エルフクエストを受けていたリンドとキバオウのギルドがクエスト進行中に衝突をしたが、双方がクエストの進行を俺に任せて降りたことだろうか。
一つ、気にかかることがある。
三層から始まったことだが、謎のプレイヤーによる攻略の妨害が行われることがあることだ。
各層ごとに行われるということはないが、問題なのはリンドとキバオウがこの件に気づいていなかったことだ。ビーターの俺が告発したところで信憑性はないだろう。素性が全く知れないため、現状では手が出せないでいた。
ここまで言ってきたが、それよりも大きな問題が起きた。問題、というよりは異常なのだが。
––––ミトが、第九層ボス攻略に完全に参加しなかったのだ。
エルフクエストは流します。まだ原作の方でも途中までしか書かれておりませんので、するりと流れます。
誤字等発見いたしましたら、遠慮なくお申し付けください、
確認はしたのですが、何せ一万字近くなってしまいましたからw
はつかねずみがやってきた。
はなしは、おしまい。