すっかり暑くなりましたね
さあ、問題の後半戦でございます
side––––NO
レイド全体が態勢を立て直してから四十分が経過する頃、二十五層ボス攻略は佳境を迎えていた。
ボスである《シュレスホールド・ガーディアン》のHPバーは三段目は残り数ミリ、そこを突破すれば残りのゲージは一本となる。
最後の一本で何を仕掛けてくるか、プレイヤー達は戦いの中でそのことを気にかけていた。
そしてとうとう三本目のHPバーが消滅。
今まで黙して侵略者と対峙していた《ガーディアン》は、ここで初めて声を上げる。
「ゴアアァァァァアアアアッ‼︎‼︎」
怒りを露わにし、手に持つ両手斧を地面すれすれに大きく振り回す。壁隊は受け切れないと判断し、後ろに飛んで回避する。
レイドが多少ばらけていた陣形を組み直す間に、ボスは斧を体の後ろに構えた。
それを見たレイドの半分以上のプレイヤーは、今まで見てこなかった構えを見て注意深く《ガーディアン》を見ていた。
しかしもう半分。キバオウ率いる《ALS》は違っていた。
「ゲージラスイチで最初のモーションや、行くでぇ‼︎‼︎」
「「「うぅおおおおおお‼︎‼︎」」」
自信と確信に満ちた彼らの顔に恐怖はなく、猛々しく雄叫びをあげてボスの足元へと殺到する《ALS》。
残るプレイヤー達は呆然とした様子でその突撃を見守っていた。
《DKB》を率いるリンドは、まさかボスの情報を握られていたのか⁉︎ と思案した。
当然、ボスに挑む前に二十五層各所のクエストをしらみつぶしに受けている。自分たちの見つけられなかったクエストフラグを、《ALS》が見つけ、あまつさえ全体の四分の一という大舞台で攻略の要となるべく独占していたのではないだろうか。
短い間ながらも、思考は加速していた。
しかし、その考えは大きく覆されることとなる。
まず第一の変化。ボスが体を隠すように構えていた大斧を振るったと思われる次の瞬間、ライトエフェクトが連続で二度走る。《バーチカルアーク》だ。
振り抜かれたのは片手剣だった。斧はどこへ?そう思ったプレイヤー達はボスの左手に持たれた大きな盾を見た。
その形状は先程までボスが振るっていた大斧の刃の部分だった。
ボスの得物は両手斧ではなく片手剣と盾。これなら、今まで《剣技》を使用してこなかったのにも頷ける。
《ALS》はコレを知っていて勝負に出たのだろうと、リンドは思っていた。
––––––––しかし。
===================
side–––キリト
抜け駆けをしたかに思えた《ALS》だが、俺たちは違う意味で驚愕に晒されていた。
目の前で光るのはボスへの攻撃エフェクトではなく、プレイヤーの散るソレだった。
なぜ、こうなっている?
先程突撃を仕掛ける《ALS》の顔は、自信にあふれていた。しかし今は、理解できないといったような阿鼻叫喚に苛まれている。
「なんで、情報とちがっ……。リィィダァアアア!!??」
そうして一人、防御もままならずにHPを全損させる。
ギルドリーダーであるキバオウは、信じられないといった面持ちで立ち尽くすのみ。
その様に苛立ったミトが、キバオウの目の前に立って胸ぐらを掴む。
「おいキバオウ、何かしらの情報を掴んでたんじゃねぇのか⁉︎」
「––––っ⁉︎ つ、掴んどった。掴んどったはずや‼︎ やのに……」
「ちっ……この話は後回しだ。A隊B隊下がれっ、死にたいのか‼︎」
ミトの叫びに弾かれたかのように逃げ出す《ALS》のプレイヤー達。しかし彼は、恐怖に怯え、怪物から目を逸らしてしまった。
そのままボスを見ようともせず、見ていれば避けられたであろう安直な振り下ろしを喰らう。
次々と繰り出される攻撃、その度に舞うポリゴンのかけら。
地獄のような光景の前に、バックスが立ち上がった。
「……やら、せるかあああああ‼︎‼︎」
大声を上げ、今まさに振り下ろされんとしていた剣を受け止める。
助けられたプレイヤーは、必死の形相で逃げ切り、レイドメンバーとの合流を果たす。
バックスは未だ逃げきれていないプレイヤーを守るため、必死に動き回る。
己の攻撃を繰り返し阻止する目の前のプレイヤーに怒りを覚えたのか、《ガーディアン》は咆哮を上げた。
「グゥ……ガアァアアアアアアアア‼︎‼︎」
雄叫びにひるむ様子も見せず、バックスは盾を掲げ続ける。
《ガーディアン》の持つ片手剣が再びライトエフェクトを纏い、三連撃の《シャープネイル》が繰り出される。
素早い高速撃を、体勢を変えることで上手く逸らすが、最後の振り下ろしで僅かにバランスを崩した。
しかし、技後硬直の発生しているボスからの追撃は来ず、バックスは短く息を吐き出した。
視線をちらりとレイド側に向ければ、HPを大きく減らした《ALS》のメンバーが地に伏せながらポーションを口にしている。
ボス討伐まで、ひと押し。だが、レイドの士気からすれば絶望的とも言える。
立て直しは可能だろう。こうしている間もバックスがボスの攻撃を捌ききっている。
しかし、いつまでもその集中力が続く保証はない。
ミトやロノミアが、レイドをまとめようと指示を出す中、レイとセンはいつでも飛び出せるように構えていた。
そして、その時が来てしまった。
バックスは、《ガーディアン》の片手剣が正面に来るように盾を構えていた。
誰しもその構え方が正しいと思うはずだ。だから、反対方向から来た一撃に対応ができなかった。
初め、斜め上からの斬り降ろしが来ると思い盾を構えたバックス。しかし衝撃は来ず、不審に思った瞬間の横からの衝撃に、彼は地に転がされた。
原因は盾だ。ボスは、防御にしか使われないと思っていた盾を使ってバックスを殴り飛ばした。盾によるダメージは発生しないが、生み出された隙は大きなものだった。
ボスの片手剣に煌めくライトエフェクト。大盾の戦士は逃げ場をなくし、正面から受け止める構えを見せる。
––––初撃。どっしりと構えた盾は僅かに揺れるが、防ぎ切る。
––––二撃、三撃目でバックスの顔に苦悶の表情が浮かぶ。左右に揺さぶられる連撃を受け、体勢が崩されつつあった。
––––四撃目。正方形を描くようにして放たれた最後の一撃は、バックスの命を奪うことはなかった。しかし、今までで一番重い衝撃に見舞われ、彼は盾を手放してしまっていた。
されど、これで《剣技》は耐えきった。
誰もがそう思う中、ソレは発生した。
繰り出された四つの剣閃。その奇跡が正方形を形どっており、それが押し広がるような衝撃が起きた。
当然、ボスの目の前にいたバックスは直撃を受ける。
「バックスもうええっ、下がれ‼︎‼︎」
リーダーであるキバオウが声を張り上げ、撤退を指示する。
バックスはそれに従って立ち上がろうとするが、転びでもしたのか、床に尻餅をつく。
「……なっ⁉︎」
最初に気づいたのは本人のバックス。
その異変に気づいたレイドプレイヤーが彼を見て驚愕する。
「……あぁ…………」
「そ、そんなっ」
バックスの両足が、部位欠損により無くなっていた。
より正確に言うならば腰から下が、消えていた。
「ひっ……うあぁ…………」
そこで初めて恐怖の声を漏らしたバックスが、這いずりながらもボスから逃げようとする。
「––––っ、させない‼︎‼︎」
「やらせない‼︎‼︎」
アスナとレイが逃げるバックスを助けようと駆け出す。それを追いかけるのは俺とセンだ。
《AGI》が俺よりも高い二人は、当然走る速度も速い。だがそれよりも、《ガーディアン》が次なる《剣技》を放つ方が早かった。
《シャープネイル》の三連撃全てがバックスのアバターを切り刻み、そのHPがイエローからレッドへと減って––––––––
ガラスの割れるような音がした。
助けに入ろうとしたアスナとレイの目の前に、バックスを構成していたポリゴンがカケラとなって四散する。
===================
side––––NO
助けられなかった。
その思いに囚われたアスナは、迫り来る凶刃に対する反応が遅れた。
「アスナ‼︎」
レイの呼びかけに意識を戦闘へと戻すが、すでに片手剣のレンジに入ってしまっており抜け出せない。
意を決して細剣を構え、受け止める構えをとる。そこへレイも加わり、槍の柄で受け止めようとする。
横から迫る《ガーディアン》の攻撃が二人の武器と接触し、大きく火花を散らす。
受け止めた剣に、追いついたキリトが《レイジスパイク》を命中させて弾いた。
《STR》の軽さからキリトにパリングを任せていたセンが、ボスの右足に四連撃の《フィア・クラウ》を当て、素早く後退しつつ投剣スキルの《ツイン・シュート》を放って追い討ちをかける。
下がったセンに合わせて、キリトたちも《ガーディアン》から距離を取る。
それと同時にミトとロノミア、リンドの率いる《DKB》が前進してきた。
《ALS》は、守りの要であったバックスを筆頭に多くのプレイヤーを亡くし、とても前線に来れる精神状態ではないようだ。
リーダーであるキバオウも、拳を握りしめ、死んでいった仲間に涙を流していた。
だが《DKB》は、今まで以上に指揮が高かった。ライバルであった《ALS》の潰走を受け、自分たちがやらなければ、という思いに駆られたのだ。
キリトたちに合流したミトとロノミアは、彼らにこれからの流れを説明した。
《ALS》はプレイヤーを二手に別れさせ、《ガーディアン》の剣と盾両方に対応する。
つまり、《ALS》全体が壁役を務め、俺やエギルの遊撃隊がボスを叩く。
「行動、開始‼︎‼︎」
リンドの号令に、雄叫びで答える壁役戦士たち。一糸乱れぬその隊列は、思わず息を呑むほどのものだった。
その彼らの守りは、まさに鉄壁と言えた。
先程までのバックスのように一人で防ぐのではなく、群で防ぐ。
誰か一人が体勢を崩せば、仲間がすぐにそれをフォローしていく。
そうして出来上がった確かな隙を、キリトたちは突いていく。
途中に何度か、遊撃隊に向けての《ガーディアン》からの攻撃があったが、ロノミアやエギルたちのパーティがそれを通さない。
次第に削れていくボスのHPバーは、残り数ミリ。いや、もはや肉眼では見えないほどだ。
まるで本物の門番のように、不屈の闘志で立ち塞がる《The Threshold Guardian》。
ロノミアとエギルが《剣技》で《剣技》を弾き返し、キリトとアスナが攻撃を加え、レイとセンが追い討ちをかける。
ミトが《剣技》を発動させ、刀をライトエフェクトが刀身を包み込む。
《ガーディアン》はそれを阻止せんばかりに、剣を袈裟懸けに振り下ろす。
迫る凶刃を、しかしミトは慌てる事なく見据えていた。
ガギィッ、という武器同士がぶつかり合う音が響く。ミトと《ガーディアン》の間に割り込んだロノミアが、《ヴォルガング》の振り上げで剣を弾いたのだ。
攻撃を弾いたロノミアが声を張り上げた。
「行ってください、ミト‼︎‼︎」
「ああ、任せろ!」
がら空きとなった《ガーディアン》の胴体へ、ミトがライトエフェクトを纏わせた刀を振り抜く。
「第一幕、閉幕……ってな」
五連撃の《鷲爪》が目にも留まらぬ高速で放たれ、ボスのHPを削りきった。
「グウゥ……オオオォォォォ…………」
苦悶の声を漏らしながら、《ガーディアン》は片膝を突く。それと同時に体がポリゴンのかけらへと変わり、膨大な量のそれを四散させた。
空中に浮かび上がるCongratulationsの文字。
初めは皆呆然とそれを見ていたが、一斉に歓喜へと変わった。
多くのプレイヤーを犠牲にしながらも、第二十五層ボス攻略は、ここに終了した。
束の間の勝利を、皆が喜んだ。
《ALS》が25層で壊滅したとある事件、というものを自分なりに解釈したのですが、私の文才ではこうなります……
目標としてはキャラが勝手に動き回る小説を書きたいものです。
誤字脱字、文章の構成など、ご意見ありましたら是非是非。
書いてる途中で、あれ、ボスの武器、モンスター狩者のあれだなぁ……と思いました(笑)
はつかねずみがやってきた
はなしは、おしまい