誰が為に征く   作:駆華野 志想之介

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あってんしょん!
この話の中には私の技量不足が見受けられますが、温かい目で見守って頂けると幸いです。

くりっく?
くらっく!


緩み始めた気

 

side––––キリト

 

ボス部屋の中。第二十五層のボスが倒され、多くのものはその場に座り込んでいた。

その中の大半はボスを倒しきったことへの喜びに満ちていたが、ある少数––––《ALS》は悲壮に満ちた顔をしていた。

 

話によれば、《ALS》はボス攻略の数日前に、とある男から情報提供を受けたようだ。

内容は大まかに言えば、ボスの体力ゲージが残り一本になった時が攻め時。というものだった。

前線組の権力争いに夢中になってしまっていたキバオウは、事の真偽を碌に確かめることをせず、結果として手痛い仕打ちを受けた。

多くのものが聞けば自業自得と答えるだろうそれを、恐ろしいと思うものが確かにいた。

少なくとも俺や《DKB》のリンドは理解しているだろう。

《ALS》を誑かした何者かの恐ろしさを。

キバオウの話では性別が男であること、まるで引き込まれるような話術を持っていたことくらいだ。

今回の《ALS》の失態は公にされることはなく、粛々と二十五層での事件は幕を閉じ、《ALS》は攻略集団から脱落、一層に居を構えて自治組織を運営するようだ。

 

 

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side––––キリト

 

結局、事の真相は曖昧なままだ。

曖昧と言えば、二十五層のラストアタックボーナスもそうだ。

ボスへととどめを刺したのはミトのはずだが、あいつはボスが消滅し次第キバオウへの詰問を行なっていた。

結果として聞き逃していたわけだが、次に会った時に聞いてみてもいいかもしれない。

……そういえば、二十六層に登ってからミトを見てないな。

ボス攻略から数日が経って、今までよりは遅めながらもフィールドボス討伐の作戦会議をする段に至っている。

それと同時に攻略集団改め、攻略組に新たなプレイヤーを加える動きがある。

理由としては《ALS》が抜けた穴をカバーするためだ。

攻略組の人数としてはほぼ問題ないだろう。なにせ、ギルドを連れて加入して来た猛者たちがいたのだから。

その名も《血盟騎士団》通称《KOB》だ。

ヒースクリフという学者然とした顔つきで、長めの髪を後ろで縛っている男性プレイヤーだ。

その彼に連れられたプレイヤーたちは、半数はレベルが高く、攻略の主力として今回のボス攻略から参戦するほどだ。

ギルドといえばもう一つ、《天穹師団》がいる。彼らの場合は未だレベルが足りていないが、その不足が無くなり次第、ボス攻略に加わることになっているようだ。

しかし俺としてはあまり好みの集団ではなかった。聞くところによれば、彼らはレベリングの際強引な手段で狩場を独占していたとの情報を、アルゴから聞かされている。

そして驚くべきことに、狩場を独占するにあたり、カーソルをオレンジにさせた者までいたそうだ。

その話を噂としてでも聞いているであろう攻略組だが、現状の深刻な人手不足を補うために黙認しているらしい。

オレンジで思い出したが、十層の時以来、ミトはプレイヤーを殺してはいないようだ。彼は時折下層に降りては、オレンジプレイヤーを取っ捕まえているそうな。

ロノミアはミトと常に一緒、というわけではないようだ。時折一人で前線にてレベリングをしている姿を見かける。

レイとセンはアルゴから美味しいものが食べられる店を聞いては時間を見つけて食べに行ったりしており、この世界を楽しんでいる。

アスナは……最近悩んでいるようだ。

聞くところによればギルドからの勧誘を受けたらしい。

相談を受けた身としては安全のためにも入った方がいいだろう。ソロの俺が言えたことではないが。

どうなるかはアスナの気持ち次第だろう、俺がとやかく言って決めさせることじゃない。

ふと、背後に視線を感じた気がして振り向く。

現在歩いているのは二十六層のメインストリートで、人通りはそれなりだ。

こちらを見ている人物は見当たらなく、気のせいかと再び歩き出した。

 

結果として、アスナはギルドに加入することになった。

《血盟騎士団》カラーの装備に身を包んだ彼女を見たときは、攻略組の誰もが驚いたことだろう。

この時からだろうか、アスナがひたすら攻略に勤しむようになったのは。

まるで追い立てられるようにレベルを上げ、ボスへと挑む彼女。

心配したレイやセンが時折お茶に誘ったりしていたが、不安げな表情は変わらず、そのことにアスナは気づいていないようだった。

 

 

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side––––キリト

 

「やあ、キリト。こうやって話すのはなんだか久々だね」

 

前線である二十六層のフィールドに出る門の前で、俺は後ろから呼び止められた。

艶やかな黒髪を靡かせ、攻略組に四人しかいない女性プレイヤーであり、俺が初期に組んでいたコンビの相棒––––レイだった。

 

場所を移して下層に移り、レイのお勧めだという喫茶店で少し早めのティータイムに興じていた。

見た目と味の違いに驚くイチゴのショートケーキ(の、見た目をしたくせにモンブラン味)をつつきながら、近況を話し合っていた。

 

「今日はセンと一緒じゃないんだな」

「センはソロクエストに行っちゃってね、短剣のインゴットが貰えるらしいんだ」

 

わたしは槍だから、迷宮区にでも行こうと思ってたんだけど。ね?

と言ってケーキを頬張る彼女は幸せそうだ。女の子はやはり甘いものが好きなのだろうか。

 

「あー、大半はそうかもね。センも好きだしロアも好きだよ」

「ミトは?」

 

俺がその問いを投げると、レイはにやりとした目で微笑んだ。

 

「ミトは自分で作っちゃうくらい好きかな、お菓子も作れるから本当にすごいよねぇ」

 

なんだかんだでつるんでいるミトの意外な一面を知って、なんだか楽しくなる。

だからだろうか、バカなことをつい言ってしまう。

 

「基本的に女の子って甘いものが好きだよな?」

「そうだね……ふふっ」

 

俺の言いたいことの意図に気づいたであろうレイが吹き出した。

 

「「ミトって女の子?」」

 

お互いに腹を抱えて笑い出す。

店の中にはNPCしかいないのは確認済みなので、心置きなく笑えた。

久々に声を上げて笑ったが、なかなかいいものだ。攻略に根を詰め過ぎるのもよくないだろうし、いい気分転換になった。

ひとしきり笑いあった後、互いに残っていた紅茶に口をつけた。

その時だった。

 

「激写。攻略の合間に笑い合う《黒ずくめ》と《撫子》。ニヒヒ、こいつは高く売れるヨ」

 

突如落とされた特大の爆弾に、俺は盛大にむせ込んだ。

投下した張本人は背景を歪ませて現れる。その人物は特徴的なヒゲのペイントを顔に施した情報屋、アルゴだった。

 

「アールーゴーさーん?」

「ナハハ、悪い悪いレーちゃん。ジョークジョーク」

 

そう言って笑う情報屋は、椅子に座ると紅茶のみを頼んだ。

ジト目でアルゴを睨んでいたセンだったが、気が済んだようで紅茶の入ったカップを持ち上げた。

そういえば最近になって、俺のことを《黒ずくめ》、レイのことを《撫子》などと呼ぶプレイヤーが増えてきた。通り名のようなものだが、付けられた身としては未だにむず痒い。

頼んだ紅茶NPCから受け取ったアルゴは、おそるおそるといった様子で口をつけた。

この喫茶店の紅茶は他店に比べてなかなか美味いらしい。俺はもう空になってしまった。

 

「ところで、今日はどうしたんだよ?」

 

普段アルゴとは、情報の交換くらいでしか顔を合わせない。レイやセンであるなら、お茶を飲むくらいはするだろうが、生憎と俺だ。それはない。

そのレイにしたって、待っていたようには見えないので、何かしらの情報でも売りにきたのだろうか。

アルゴはそっとカップを置くと、真剣な眼差しで俺たちを見た。

 

「二人は最近、視線を感じたことはあるカ?」

 

視線、そう聞いて俺たちは互いに目を見開いた。二十六層で感じたあの視線は、気のせいではないということか。実のところその後何度か視線を感じていたので、かなり不審には思っていた。

迷宮区で感じた際には追いかけてみたこともあったが、影すら見ることは叶わなかった。

 

「ストーキング、っていうのじゃなさそうなところが不思議だよねぇ」

「やっぱりレーちゃんもそう思うカ?」

 

ストーカーは背中に貼り付くような視線なのだろうが、俺たちが感じていたのは別種。まるでこちらを観察するようなものだ。というか、レイも覚えがあったか。

今回アルゴが話を持ちかけたのは、自分以外のプレイヤーの感じる視線が、自分のものと同じかどうかを確認するためだったようだ。

アルゴが出した結論として、新興ギルドが攻略組やそれに連なる者の情報収集をしているのではないかということになった。

俺もレイもその意見には賛同できるし、そう思うと納得がいく。これまでに攻略組に何の被害も出てないことは確認済みだ。

 

「新興ギルドと言えば、アーちゃんはどんな感じダ?」

 

程よく冷めてきた紅茶を飲みながら、アルゴはそう尋ねてくる。

 

「情報屋はおまえだろ、アルゴ」

「さしものオイラも、アーちゃんの心情はわからないヨ。最近話せてないしナ」

 

そう悲しげに指を組んだアルゴに、レイは顔を俯かせる。

その様子から察するに、良い方向には進んでいないだろうことが窺える。

 

「最近は、あんまりよく寝てないみたい。フィールドで見かけたときはちゃんと戦えてるんだけど、鬼気迫るっていうか、追い詰められてるように見える」

 

アスナはまるで急き立てられるように、攻略に打ち込むようになった。

その様は鬼のようだとまで言われるほどで、最近では会議の中で攻略の提案をしたほどだ。発言の内容は効率重視。地の頭の良さが、ここにきて発揮されているようだ。

話を聞いていたアルゴは、しばし目を瞑って考えた上で口を開いた。

 

「そう悲観することはないヨ、レーちゃん。今もアーちゃんには声をかけたりしてるんだロ? なラ、それを続けることだヨ」

「続けて、いいの?」

 

攻略に打ち込むアスナに声をかけ続けることは、彼女の邪魔になるのではと考え始めていたレイにとって、アルゴからの提案は不安を覚えるものだった。

 

「大丈夫サ、アーちゃんは強い。それはキー坊も含めてみんなが知ってル」

 

もちろん、心のナ。

そう言って胸をトンと叩くアルゴはにかっと笑ってみせた。

 

「でも、そんなアーちゃんでもいつか必ず限界は来ル。アーちゃんが助けを求めたとき、レーちゃんたちがいるんだってわかるはずサ」

 

そこで一旦言葉を区切り、アルゴは俺たちを順に見た。信じると言わんばかりの、まっすぐな目だった。

 

「会った時に声をかけて少し話すくらいでもイイ。それがきっと、アーちゃんの居場所を作るからナ」

 

そう言い切って紅茶を飲み干した情報屋は、カタンと音を立てて席を立つ。

フードの奥に見える瞳は、いつものイタズラ気なものではなく、優しいものだった。

 

「いつものオイラは情報屋だケド、今日はオネーサンからのアドバイスだヨ。じゃナ!」

 

扉を開けて出ていくその背中は、小さいながらも、とても大きく感じられた。

レイは、これからアスナに突撃して来るらしい。

俺も会った時には声をかけるくらいはできるようにしないとな。

先に店を出て行ったレイから少し遅れて、俺も喫茶店から出る。

もう少ししたら、武器の強化をしないとな。素材は、下層に取りに行くんだったか。

扉をくぐって店外に出た俺は、こちらを照らす陽の光に思わず目を細めた。

いい天気、だな。

 

みんな順調に進んでいく。

攻略はかつての賑わいを取り戻すだろう。現在は、未だに足りないメンバーの補充と、全員のレベリングが課題となっている。

驚いたことに、あのクラインがギルドを立ち上げていたようだ。実力は申し分なく、次層からは攻略に出て来るかもしれない。

二十六層主街区でばったり出くわし、一層で彼を見捨てて逃げ出したことを後悔してうまく喋れなかったが、アイツはどう思っているのだろうか。

エギルは最近になって、商業の方でのコツを掴んできたようだ。そのうち攻略そっちのけにならないか不安が残るが、上手くやってくれるだろう。

レイは先程のように、気合を入れ直したらしい。彼女が根を詰めすぎているアスナに寄り添ってくれるなら心強い。俺も少しでも彼女に話題を振ってみよう。……突き返されなければいいが。

センは、いつも俺とはあまり話さない。だが、出くわした時には彼女の方から声をかけてくれるようにはなった。

ミトとロノミアは、最近は攻略でしか顔を合わせない。あの二人のことは心配するだけ無駄だろうが、やはり気にはなるものだ。

 

––––そう、順調だった。俺も含めて。

アスナのことが気がかりだが。みんなが前に進もうとしていて、安心しきっていたこともあるだろう。

だからこそ起こった悲劇とも言える。

その日、けたたましく鳴り響くアラームが聞こえたその時には、全てが手遅れだった。

 

 




一層の攻略?から四ヶ月の間、絆を深めあったキリアスがそう簡単に離れるとは思えないのですが……
ちなみに個人としては《ALS》崩壊の裏にラフコフがいるんじゃないかと疑っています。
書けば書くほど疑問が積もります。ここでオリジナリティを出せるように頑張っていきたいですね。

はつかねずみがやってきた
はなしは、おしまい
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