誰が為に征く   作:駆華野 志想之介

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最近テスト週間が近くなり、更新が遅くなり、お待たせしました。

くりっく?
くらっく!


そして彼らは動き出す

side––––キリト

 

地下水路からの出来事からおよそ一ヶ月が経った六月十二日。今も記憶に残るその日、第二十七層の迷宮区で……

––––月夜の黒猫団は壊滅した。

 

その前日の十一日。狩りが終わって宿屋に戻った俺たちに、リーダーのケイタから発表があった。

黒猫団の当面の目標であったギルドホーム購入資金が、この日、目標額の二十万コルに到達したのだ。

その発表に沸き立つ黒猫団のメンバーたち。ホームは翌日、ケイタが購入へと向かうこととなり、その間俺たちは宿屋で待つことになった。

しかしテツオが、ケイタがホームを買いに行く間、自分たちだけでコルを貯めて、家具を買おうと提案した。

それに賛成した俺たちは最前線から三層下にある、第二十七層で狩りを始めた。

もちろん俺は以前にそのダンジョンで戦ったことがあり、そこが稼ぎはいいがトラップ多発地帯であることも知っていた。だが、それを告げようとはしなかった。

迷宮区では、レベル的には安全圏だったと言うこともあり、順調な狩りが続いた。一時間ほどで目標額を稼ぎ上げ、さっさと戻って買い物をしよう、という時になって、シーフ役のダッカーが宝箱を見つけた。

俺は、その時ばかりは放置することを主張した。しかし、理由を聞かれた時、この層からトラップの難易度が一段跳ね上がるから、とは言えずに、何となくやばそうだから、と口ごもることしかできなかった。危機が迫るという段階に至っても、身元がバレることを気にしていたのだ。

そして宝箱を開けダッカーが開けた時、アラームトラップがけたたましく鳴り響き、怒涛のようにモンスターが押し寄せてきた。

俺はすぐさま全員に転移クリスタルで脱出しろと叫んだ。しかし、その部屋はクリスタル無効エリアに指定されており––––俺を含む全員は、パニックに陥った。

最初の犠牲者はダッカーだった。彼を皮切りに、次々とHPを全損させていった。

サチは、モンスターの波に呑まれHPを全て失うその瞬間、俺に向かって右手を伸ばし、何かを言おうと口を開いた。見開かれたその瞳に浮かんでいたのは、縋り付くような痛々しいまでの信頼の光だった。

 

どうやって生き残ったのか……、覚えていない。だだがむしゃらに剣を振り回して、襲い来る敵を撃退しながら逃げつづけ、気づいたら宿屋の前にいた。

新しいギルドハウスの鍵をテーブルに載せ、俺たちの帰りを待ってたケイタは、俺の話を––––四人がなぜ死に、俺がなぜ生き残ったのか、その全ての話を聞くと、あらゆる表情を失った眼で俺を見て、ただ一言こう言った。

 

「ビーターのお前が、僕たちに関わる資格なんて無かったんだ!」

 

そういって彼は、町外れのアインクラッド外周部へ向かい、追いかけた俺の眼前で、何のためらいもなく柵を乗り越え、無限の虚空へと身を躍らせた。

ケイタの言ったことは、全くの真実だった。俺が、俺の思い上がりが月夜の黒猫団の四人––––いや、五人を殺したことには何の疑いもない。俺が関わりさえしなければ、彼らはずっと安全なミドルゾーンに留まり、無茶なトラップ解除に手を出したりすることもなかったろう。

 

『自分一人で、最後にはなんとかできるなんて……思わない方がいい』

 

ロノミアの言った通りだ。俺は何も解っていなかった。アラームトラップを警戒した時、自分ならみんなを守りながら戦える、そう思い込んでいた。だが結果は真逆。誰も守れずに、黒猫団は俺を残して壊滅した。

守ると誓ったサチでさえも、俺の身勝手で殺したのだ。

 

 

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side––––セン

 

ここニヶ月くらい前線を離れてたキリトが戻ってきた。それ自体はいいことだ、あいつの実力はミトも認めているほどだから。しかし、その戻ってきたキリトに問題があった。

以前のような快活さは全くなく、他者を拒絶するかのような雰囲気を纏っていた。

始めにリンドが事情を訊ねるが、キリトから帰ってきたのは「すまなかった」の一言のみ。レイや、二十六層から攻略に加わったクラインとかいうやつが訊いても同じ言葉が返され、他にキリトに話しかけるやつはいなかった。

最初のうちは攻略に参加していなかったことに対して、ひどく責任を感じているのかと思えた。

だがそれは違うのだと、すぐに思い知った。今まで見てきたキリトの戦い方と、今のやつのソレは明らかに違っていた。まるで自滅することも厭わないような戦闘スタイル。致命傷になる攻撃は避けるか防ぐものの、それ以外は受けても構わないというような、無茶な攻略をしていた。

ボス戦では、レイが声を上げてキリトに注意するのだが、やつは聞く耳を持たずにボスへと突撃していく。

それと同時にレイはアスナにも注意を向けており、彼女のここ最近の疲労具合は高いはずだ。

ギルドに入ったアスナをオレがどうこうできないのは明白。ならばとキリトの方の原因を突き止めるべく、情報を集めることを決める。

二人ら何かしらの事情を知っていそうなプレイヤーに目星はついている。一人はロノミア。あいつはキリトが攻略に戻ってきたのとほぼ同時期、数日の間纏う空気が悲しみのそれに変わっていた。顔を見れば普段通りの笑みを浮かべているように見えていたので、その変化に気づいていたものは少ないだろう。

ロノミアが悲しむほどの理由。それだけで十分な情報であるし、それを分かっていて事情を聞くほど落ちぶれてはいない。

もう一人はミトだが、こちらも無理だ。ロノミアが伏せていることを、あいつが軽く話すはずもない。

よって手詰まり、ではない。まだ一人いるのだ。このSAOで、優秀かつ最も有名な情報屋が。

 

 

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side––––セン

 

そいつを呼び出す際に、レイも誘うことにした。キリトの隠し事を暴くことに抵抗があったようだが、あいつ自身なんの事情があったかわからずにいたことと。オレの「何かあったときにフォローができるだろ」の一言で渋々といった様子で承諾した。

 

 

「ギルドが……壊滅?」

 

驚きを隠せないといったレイは、アルゴが言い放った言葉を聞き返す。

ことの発端は二ヶ月前の四月頃に、キリトが《月夜の黒猫団》というギルドに加入したことだ。当初は攻略組に入れるようなレベルではなかったが、二ヶ月の間にレベルを上げ、そう遠くないうちに攻略組に加わることも可能というところで、事件は起きた。

無謀にも当時の最前線から三層下の迷宮区に挑み、シーフのプレイヤーがアラームトラップを引いたらしい。

 

「ただ一人、キー坊だけは生き残って前線に戻って来タ……ってことだナ」

「……そんな」

 

レイは顔を伏せ、膝の上に乗せた両の手を握りしめる。

自分以外を残してメンバーが全員死亡、その心情はセンたちには計り知れないものであった。

情報代は特別にタダで済ませてくれたアルゴは、一足先に集合していた人気のない喫茶店を後にした。

 

「……セン、わたしたちも行こう」

 

そう言って立ち上がるレイを、センは不安げに見つめる。

転移門へと向かう途中、ずんずんと進んでいくレイを気にかけ、センは声を掛ける。

 

「……おい、レイ。大丈夫か?」

 

その言葉にぴくりと反応し、立ち止まったレイは勢いよくセンを振り返った。

その顔は悲観や不安を浮かべず、決意に満ちたものだった。

 

「平気だよ、わたしは決めたから」

「決めた?」

 

うん。そう頷いたレイは、視線を上に向ける。その先に見えるのは雲がたゆたう空のみ。しかしその目は、さらに遠くを見ているようであった。

 

「大切な人たちの力になりたい、でもそれができないときもあるってわたしは知ってる。だから……だからはわたしは見守るって決めたの。キリトにアスナも、今はまだ力になれないからね」

 

それが、彼女の選択。曇ることないレイのまっすぐな目は、とても眩しいものだった。きっとこの少女は、これからもずっと進み続けるのだろう。だからこそ、オレはこいつを信用しているんだ。

 

「お前があいつらの力になりたいのなら、オレはお前の力になる。一人で気負うことなんてないんだ」

 

それを聞いたレイは、瞬きを繰り返してこちらを見ていたが、やがて嬉しげに満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとうっ」

 

そうして元気を取り戻したレイと、転移門へと向かう途中の露店を見物しながら、オレたちは帰路に着いた。

 

 

「ねえ、セン」

「あん、なんだ?」

「どうしてそんな男の子みたいな口調になっちゃったのさ」

「…………」

「初めて会ったときはあんなにおとなしい子だったのに」

「……そこは触れないで欲しい」

 

 

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side––––レイ

 

センと一緒にアルゴさんからキリトのことを教えてもらってから攻略階層が進んで、現在は第三十三層が最前線となっている。

キリトが戻ってきてから、みんなの様子はあまり変わっていないように見える。

あくまでセンやアスナたちの様子は、というだけであって、ギルド関係で言えばそうでもないのだ。

アスナの所属する血盟騎士団が力を伸ばし、最古参のドラゴンナイツ・ブリゲードを追い抜いたところにあるだろう。その他には天穹騎士団というギルドが攻略組に主力として加わったことだが、なんとドラゴンナイツに併合しないかとの提案を持ちかけているようだ。

そのような形で、攻略はゆっくりとだが確実に進んでいた。

そして今日もミトは主街区で稽古決闘をしていたのだが、その相手の動きがなかなか良かった。片手剣使いのそのプレイヤーの顔は背後からなので見えなかったが、レベル差が無ければ攻略組に名を連ねられるほどの実力があると推測できるほどだった。

わたしも参加しようかと思ったが、ここで思ってもみなかった人物と遭遇した。

攻略組トップギルドに手をかけた血盟騎士団の団長であり、その実力も折り紙つきのヒースクリフだ。

 

「やあ、レイくん。君もミトくんの見学かい?」

「ん、そんなところ。珍しいね、血盟騎士団団長様が出てくるなんて」

「事務仕事が早くに片付いてね、もう正午だ、昼食を摂ろうかとしていたところなのだよ」

 

それでたまたまミトを見つけた、と。そんなものかと思いながら辺りを見回す。さすがに攻略ギルドの団長だけあって知名度も高く、その場に居合わせた多くのものがこちらを見ていた。顔を隠すために被っていたフードを下に引っ張り、隠す面積を増やす。注目などされていい気分にはなれない。

ヒースクリフの言う通り、もうお昼の時間だ。この後はセンと一緒に食べる予定があるので、ヒースクリフに別れを告げ、待ち合わせ場所へと急いだ。

 

「よぉ、レイ」

 

三十三層のフィールドへと続く門のそばで、センは気さくに手を振った。

世間話をしつつ、昼食を食べるお店を探しているときのことだった。

 

「…………」

「……ちっ」

 

背後からの視線。それに気づいたわたしは黙し、センは舌打ちした。

視線の性質からして、前にこちらを見ていた人と同じだろうと推定する。

センと目配せをして、細い路地へと入り込む。視線は未だ背中に感じる。道を半分ほど進んだところで、わたしたちは勢いよく振り返る。

 

「ありゃりゃ」

「……ふんっ」

 

振り返った先には、誰もいなかった。道の陰から覗く人影すら見えず、こちらを見ていた気配も消えている。

その後はパスタを出してくれるお店を見つけて、二人で堪能したが、センは若干不機嫌だった。むくれてるところを見ると面白いけど、言ったら後が怖いね。

 

 

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side––––NO

 

「撫子と桔梗か。やっぱり他の攻略組よりいいセンスがある」

 

フード付きロングコートで体全体を覆い隠した女が呟いていると、背後から大柄な男が近づいてきた。

 

「お嬢、そろそろミトとの約束の時間です」

 

その声に、お嬢と呼ばれた女はフードから唯一見える口元を緩める。

 

「ああ、行こうか。……やりたいようにやるために」




次回からは三十五層でキリトがニコラスと戦うまでの間を描いて行きます。今まで温めてきた新キャラの設定が、全ては明かさないにしろ多くあります。書くわたしはとても楽しみです。みなさんにも楽しんでいただけると幸いです

はつかねずみがやってきた
はなしは、おしまい
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