誰が為に征く   作:駆華野 志想之介

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それではっ、どーぞ!


少女乱入

今、俺ことキリトはとてもまずい状況にいる。

正確に言えば置かされている。

 

「ぎしゃああぁぁぁぁぁ」

 

植物に酷似したリトルネペントというモンスターに囲まれてしまっている。

問題らそれだけではない。

 

ちらりと俺の後ろにいるの剣と円盾を装備したプレイヤーを見やる。

《コペル》という名前の、歳は同じくらいの少年だ。

諸事情によりコペルと《森の秘薬》

というクエストを協力してクリアしようということになった。

そこまではよかったのだが、途中で彼からモンスターのなすり付け ──MPKを受けてしまったのがこの状態だ。

 

 

 リトルネペントには特定の部位を攻撃すると仲間をポップさせるという特殊能力がある。コペルはそれを逆手に取った。

 ハイディングスキルというものがあり、名前の通り自らの姿を視認することを妨げるものでコペルはリトルネペントにわざと仲間をポップさせ、スキルを使い逃げようとした。

 だが、コペルは致命的なミスを犯した。

 そもそもハイディングスキルはこのデスゲームに限って言えば対人のようなもので特定のモンスターには効かないことが多々ある。今回、その例外に含まれるモンスターだった。植物をモデルにしているためか視力がない代わりか、嗅覚で獲物を察知する設定だった。

 つまり、逃げられると思っていたコペルは足止めをくらい、俺と同じくこの状況を打破しようと彼も奮闘している。

 

 

「うおぉぉ!」

 

 

 ネペントどもの軋めきに負けじと雄叫びをあげながら、握っている片手剣に剣技の光を纏わせる。

《剣技》ソードスキルという、この世界では必要不可欠の技。システムという見えざる力に押され高速で横一文字に腹を薙ぐ。

 HPがなくなったネペントは少しふくらみ、ポリゴン状に破裂した。

 

 ふと視線を左上に向ける。

 

 そこには俺の命が散るまでを示す忌々しいメーターがある。それは半分くらいで黄色くなっていた。

 つまり、俺はもう半分消されればリアルの死を突きつけられる。

 無慈悲にもネペントは群がり続ける。

 もう一度、元凶だが今では運命共同体のコペルを見る。

 彼の頭上に現れたメーターは僅かしかなく、赤くなっていた。

 

 ──ここまで、なのか──

 

 頭によぎった諦めの言葉を振り払うと同時に迫りくるネペントを斬り払う。

 それでも、奥に見えるのは希望の光なんかではなく、億劫なほどのネペント。

 まさに四面楚歌。絶体絶命とはこのことだ。

 かぶりついてくるネペントをバックステップで避け、カウンターに斬り払いを食らわす。

 突如、背後に強烈な衝撃を受ける。

 いきなりのことで踏ん張れず、地面にひれ伏す。

 首だけ動かして後ろを見るとコペルだった。

 よくそんな微妙なHPを残せたなと思ってしまうくらいの雀の涙のHP。

 転倒状態からすぐに立ち直り、新たに迫るネペントを退ける。

もう一度コペルの方を見る、うずくまったまま動いていない。

 

 

「ばかっ!早く回復しろ!!」

 

 

 俺の声で慌てて腰に提げているポーションを呷る。

 この世界でHPを回復する方法は非常に大きく分けて二つ。

 

 1、町や村で宿に泊まる。

 2、アイテムを使っての回復。

 前者は現状不可能、後者は序盤では徐々にしか回復しないリジェネバフを付けるアイテムしか入手できない。

 そのため回復するときは余裕を持ってするか、誰かがタゲを取るのが定石だ。

 俺も人の事を言えるHPではないのだが、まだコペルより余裕がある。

 一心不乱に剣を振り回し、四散させていく。

 それでもあざ笑うように湧く、湧く。

 無限にも思えるネペントの群れ。

 

 ──やはり…………

 

「「「ぎしゃぁぁぁぁあ!?」」」

 

 複数の悲鳴が背後から上がったと同時に、ガラスが砕け散る音が響く。

 反射的に振り向いたときに俺が見た者は。

 

 

 茶色い革でできた防具を身に纏い、その上から白いパーカーを着ているために艶やかに揺れる腰まである黒髪が映える。

 一目見ただけで活発な性格だと分かる瞳に、

 整った顔に形のいい耳、鼻、唇を持つ。

自分とあまり変わらない歳に見える、少女だった。

 

 

 

「今のうちだよ!!速く行って!!」

 

 

 握った槍を掲げ彼女が作ってくれたらしき逃げ道を駆け抜ける。

 が、走り出した時に背後についてくるはずのコペルが動いていなかった。

叫ぼうと息を吸い込むがその必要はなかったらしい。

少女がコペルに肩を貸し、こちらへと向かってくる。

俺は駆け寄り少女と役目を交代する。

そして逃げ道を再び駆けだす。

 しかし、一度見た生還の道が閉ざされていく。

新たにポップしたネペントが道を塞ごうとしているのだ。

塞がりつつある道に少女が躍り出る。

 

「破ァッ!!」

 

 

 まるで武道の掛け声のような鋭い声と共に塞ぎかけていたネペントを薙ぎ払う。

 今度こそ俺とコペルは脱出に成功した、そこではたと気づく、あの少女が後ろについていない。

 

「何してるっ、君も早く逃げろっ!」

少女に対し声を張り上げるが、帰ってきたのは了承を表す返事ではなく……、

 

「誰かが殿を務めなきゃ逃げられないでしょ?HPは満タンだから安心して」

 

不敵に微笑むその顔を見てキリトは思った。

彼女は、戦士なのだと。

振り下ろされるネペントの蔓を最小限の動きで躱し、高速で弱点である部位を突き、ネペントを消滅させる。

少女は迫る二体目のネペントの攻撃をバク転で躱す、しかもただ躱すのではなく、バク転で下がると同時に弱点である捕食器の下あたりに斬りつけを行っている。

器用なのだと言うのは簡単だだがこれはあまりにも……

 

「器用すぎる……」

SAOには《必中の魔法攻撃》は存在しない。ゆえに、論理的には、プレイヤーの判断力と反応力が圧倒的に高ければあらゆる攻撃を回避し続けることは可能だ。と言っても、俺にはそこまでのプレイヤースキルはないし敵が多すぎるので、被弾ゼロとはいかない。いや、そもそも常人には無理な芸当だ。それでも目前の少女はさも当然のような動きでネペントの攻撃を躱し、反撃する。

そんな中、一体のネペントが彼女を横切りこちらへ向かおうとする、俺は迎え撃とうと剣を構えるがそれが無駄だったと知る。

「ぎしゃああぁぁぁ⁉︎」

ネペントが驚きの悲鳴とともに横一文字に両断されたのだ。

少女が斬ったのだと遅れて分かった。少女の戦う様はまるで舞だ、流れるような動きで攻撃を躱し、与えるている。

「早く行って!」

 

その声にはっとして俺はコペルと戦線を離脱した。少女に殿を務めさせたという自分の情けなさを噛み締めながら。

 

再び生還という家路につけた俺たちはHPを回復させることにした。

満タンになったことを確認した俺は少女の加勢に行くことにした。

来た道を逆走して少女を探す。

 

「いたっ!」

十メートル先に少女はいた。驚くことにネペントは残り二体にまで減っていた。加勢するために強く地面を蹴ろうとしたところで少女の顔を見て思わず足を止める。笑っているのだ。

この世界でのHPの全損は即、死を運ぶ、その中で少女は笑っているのだ。狂っているのかと思った。このデスゲームに恐怖し精神が壊れたのかと。

だが違った、少女の笑みは一見愉快そうに見える、しかしその笑顔を見つめていたキリトは気づいた。

 

「……無理やりに笑顔を作っているのか」

 

目の前でネペント相手に引けを取らない戦士と言っても、まだ自分と同じくらいの少女なのだ、当たり前のように恐怖する、それを笑うことでもみ消そうとしているのだろう。

そんな少女に任せっきりの自分に腹が立つ。

気がつけば地面を蹴り飛ばし、一気に加速した。

 

 

「うおおぉぉぉぉっ」

その勢いのままに、二体のネペントをまとめて《ホリゾンタル》で消し去る。ガラスの砕け散る音とともに戦闘は終了した。

 

村へ着いて、キリトはクエストを終わらそうと思ったがその前にやることがあった。

 

「本当に助かった……ありがとう」

 

 

 きちんとした礼をしていなかったことを思い出し頭を下げる。

 

 

「当然のことをしただけだよ」

 

 

 少女はニコリと、人懐っこい無邪気な笑顔で返す。

 

 

 

 改めて見ると、かなり可愛らしい顔立ちである。この少女が先程までネペントを倒し続けたとは実感しづらい。そういえばあの動きはどこで身につけたものなのだろう……

 

 

「っと、君は待ってね」

 

 

 考えにふけりそうだった意識が少女の声によって戻される。

 見るとコペルの首根っこを掴んでいた。

 どうも逃げ出そうとしたらしい。

 

「……ごめん……ごめん……」

 

 

 ひたすら謝ってくる。

 正直、俺はコペルを恨むどころか共感に近いものを覚えた。

 デスゲームと化したこの世界で生き延びるためには引き籠るか、抗うかの二者一択。

 そしてコペルは後者を選び、俺もまた後者を選び始まりの街を飛び出した。

 

 抗う、というより戦うために必要な物。

 それは武器だ。

 茅場晶彦は犯罪者だが、それ以前にゲームデザイナーだった。

 だから序盤から詰むような展開は仕掛けてこなかったし、アイテムが無いということも無かった。

ということは、備えを万全にしていればよほどのことが無い限りHP全損はないのだ。

だが、先程も言ったとおり、別個クエストを共闘して終わらせようとしていた。

別にこのクエストは一度切りというわけではなく、何度でも受けられる。それなのになぜコペルはMPKを仕掛けたのか、それは今後のためだろう。

この先攻略が進めば一度切りのクエストはごまんと出てくるだろう。

つまりはそういうことだ。自分と同じ速さでここまで来た俺なら、将来自分とクエストの取り合いをしてもおかしくはない、そのため、早いうちから潰せば自分がクエストを受けられる、そのためのMPKだったのだろう。

 

それを卑怯だと、俺には言えない。

 

MPKでないにしろ、SAOで最初に出会ったクラインというプレイヤーを置いて行ったのだから。

 

つまりは、結果的に俺も同じような過ちを犯している。

 

「ふ〜ん、事情は分かったけどキリトはそれでいいの?」

 

 

 あらすじを話した後の少女の顔は浮かないものだった。

 

 

「あぁ。ネトゲの中では日常茶飯事だしな」

 

 

「……自分が死ぬかもしれなかったのに?」

 

 

「街に引きこもっている奴よりクリアを目指す奴の方がカッコイイと思うぜ」

 

 

 大きな理由がこれだ。

 同じ前線で戦うものを殺すのは決して褒められるものではないが、現時点では

 前に進むという行為だけでも希望となれる。

茅場は言った、すでに二百人がログアウトを試みて自殺したと。

恐怖に負け、死を選んだ者もいるだろう。

それに比べればコペルの前に進み攻略をしようという動きは希望になれる、良くも悪くも前進しているのだ。

 

「同じ轍を踏まないようにな」

 

 

はいっとコペルの足元にアイテムを置く。

《森の秘薬》クエストのクリアアイテムであるリトルネペントの胚珠である。

はっと顔を上げるコペルの口は驚きを隠せず開いている。

 

「共闘って話だったろ」

 

 それを拾うとその場で何度も、頭を下げる。

 俺自身は全く怒ってないから謝られても困るし、ちょっと見苦しい。

 助けてくれた少女にも渡そうと胚珠を差し出すが手で制される。

少女は腰のポーチに手を突っ込むと胚珠を取り出した。

「実はちゃっかり回収してたんだ」

エヘヘと無邪気に笑う彼女だが何かを思い出したように、辺りを見回す。

「どうしたんだ」

すると少女はバツが悪そうにうつむく。

「クエスト受けた家ってどこだっけ」

がくっとずっこけるモーションを取る俺に少女が頬を膨らませる。

クエストの家を教えると、猛スピードで家に駆け込んで行く。その際に。

「待ってて、今胚珠を持って行くから」と言っていることから、少女がNPCを普通の人と同じように考えていることがわかり、なんとも暖かい気持ちになる。

ふと辺りを見回すとコペルの姿がない。気まずくなって一先ず退散したのだろう。

俺は家の壁に背中を預け、少女が出てくるのを待った。

 

数分後涙をながしつつ「よかった、よかった」と呟きながら少女は出てきた。

壁に寄りかかっていた俺と目が合うと、ものすごい勢いで涙を拭き笑顔を作る。その早技に唖然とする。

「なにかな、私の顔になにかついてる?」

威圧たっぷりの笑顔が怖すぎる。ここで地雷を踏むのはまずい、話をそらさなければ。

そう思ったキリトはあることを思い出した。

「そ、そういえば、さっきのきみの体捌きはすごかったよ、何処かで武道でも習ってるのか?」

それを聞いた少女は少し困ったように眉を寄せる。言いにくいことなのだろうか。

「言いにくいならいいんだ」

「あ、いや。そうじゃなくてね。なんと言えばいいのかな。説明すると長くなるんだけど、簡単に言うと、住んでる家が武術とかをやってるとでも言えばいいのかな。小さい頃からそこのおじいちゃんに手ほどきを受けてたの」

俺は納得したように頷く。あそこまでの動きも、小さい頃からの訓練の賜物と聞くと頷ける。

不意に、今度は少女が質問してくる。

 

「あのね、人を探してるんだけど、銀髪の男の人なんだけど。見かけたりとかしてない?」

 

俺は思考を彷徨わせる。銀髪、それだけで絞り込めそうなものだが、生憎と一人としてそのような人物は見ていない。

それを伝えると少女はさみしそうに睫毛を伏せる。

その動作にも、不謹慎ながらどきりとしてしまう自分がいたが首を振り雑念を払い落とす。

 

「リアルの友人、というわけか。待ち合わせでもしてたのか」

 

少女は首を横に振る。つまりは否定だ。

 

「ううん、知り合いからこのゲームをやるって聞いたから探しに来たの」

 

探しに来た。まるで帰れなくなることがわかっていたようだが、そんなわけないよなと考えを否定する。

 

「俺はここで宿を取るけど君はどうするんだ?」

少女は暫く黙考した後、答えた。

 

 

「私もここで泊まろうかな。その宿ってどこにあるの」

 

小首を傾げる仕草に、やはり普通の女の子なのだと実感させられる。どんなに強くても人間なのだ。

俺は家に入りクエストを終わらせアニールブレードを受け取ると宿へと歩き出した。

「こっちだよ」

そうして俺たちは宿へと入って言った

 

「ねぇ」

扉を開けたところで少女が声をかけてきた。

 

「さっき君が剣を光らせて攻撃してたけど、あれってなんなの?」

 

「は?」

思いもよらぬ質問に俺はそれしか言えなかった。自然と、ここまで来たのだからβテスターなのだと思い込んでいた。しかし、思い返せばこの少女はソードスキルを使ってはいなかった。

まさか……

「ひょっとして君はこのゲーム初心者なのか?」

 

恐る恐る尋ねると少女は笑顔で。

 

 

「うん、そうだよ。そういえばまだ名乗ってなかったね、レイだよ。よろしくね。えっと……」

 

「き、キリトだ。よろしくな」

こうして、キリトのSAO徹夜講習会が幕を切ったのだった。

 

 

 

 




こんな感じでオリキャラ登場回でした、早いうちにもう一人出すかどうか悩んでます。
何はともあれ、また次回に。



〜宿の一部屋にて〜

キリト)だからな、これはこうで……
レイ)じゃあさっきのスイッチってのは?
キリト)それはだな…… (おいっ、もう2時だぞ! いつまで続くんだ……)
レイ)キリト?
キリト)なっ、ナンデモナイ


朝まで続きましたとさ☆
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