そんなことはどうでもいいですね。
くりっく?
くらっく!
では、どーぞ!
side Kirito
ポリゴン片を四散させ、周囲の松明が暗いオレンジから、明るいイエローへと色彩を変えた。
訪れた静寂を破る者はいなかった。もしかしたらボスが復活するかもしれないという恐怖から殆どの者が辺りを見回していた。
しかし、その静寂を破るかのように、空中にcongratulationsと表示される。 それはつまり、戦いが終わったことを意味した。
それを見たプレイヤーたちはようやく元どおりになり嬉しさに騒ぎ出した。
「お疲れ様」
フーデッドケープを剥ぎ取ったアスナの言葉に俺も戦いが終わったことを確信した。
ほっと息を吐くと肩を叩かれた、振り返るとミトがいて、その隣にはレイがいた。
「ナイスアタックだ、キリト、アスナ」
「すごかったよ二人とも!」
二人からの賞賛に俺たちはお互い様だと言い合った。
今度はそこに両手斧使いのエギルがゆっくりと近づいてきた。
「見事な剣技だったぞ。コングラチュレーション、この勝利はあんたたちのものだ」
ニッと太い笑いを浮かべているエギルに対して、俺は気の利いた一言も言えないでいた。
そんな時だった。
「――――なんでだよ‼︎」
声の方を向くと、鎧姿のシミター使いが泣きながら立っていた。
「――――なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ‼︎」
シミター使いとその他数人曰く、俺はベータテスターで、ベータテスト時の情報を共有していればディアベルは死なずに済んだとのこと。
それに対して、呆れたように溜息を吐きながらミトが割り込んだ。
「最初に異変に気付いたのは俺だ、こいつはそれを見て初めて知ったんだ。それに、最初から知っていたら言っていたはずだ。例えゲームでも、命がかかっているんだからな」
ミトの正論に場は静まり返るが、ミトは止まらない。
「それに、取り巻きを相手していた俺たちよりも、実際に目の前で見ていたお前たちの方が気づくはずだが?」
その発言にシミター使いが食いついた。
「気づくわけないだろ‼︎みんなあの状況で目の前のことで必死だったんだ‼︎」
「周りに目を配れないと、いつか無駄死にする羽目になるぞ」
「なんだと!……このっ、他にもいるんだろう⁉︎ベータ上がりの汚ねぇやろうが‼︎」
あたりがざわついて、お互いを疑い始める。
俺はこの時言いだすべきか迷った、この選択をとればそれこそ闇討ちでもされかねない。しかしーー少なくともアルゴたちほかのベータテスターに敵意が向けられることは避けられるかもしれない……。
それなら……。
side Rei
透の発言で収まったはずの静寂が、シミター使いの発言で息を吹き返すように騒ぎ出した。
みんなが互いを疑い始めて疑心暗鬼に陥る中、キリトが苦悩の表情を浮かべているのを、わたしとアスナは見つめていた。
わたしとアスナ、エギルさんが抗議しようと前に出ようとすると。
それを遮る笑い声が辺りに響いた。
声の主はキリトだった。
「元ベータテスター、だって?……俺をあんな初心者連中と一緒にしないでほしいな」
ありったけのふてぶてしさを醸し出し、キリトは話していく。
ふとミトを見ると悲しそうに、申し訳なさそうにキリトを見ていた。
自分よりも年下であろう彼が自ら、敵意の対象となるのが悔しいのだろう。
「ベータテストに受かった千人のうち、本物のMMOプレイヤーが何人いたと思う。ほとんどがレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだマシさ」
まるでボス戦前のような張り詰めた空気が戻ってきたような空気が辺りを包む。
「――でも、俺はあんな奴らとは違う」
キリトは冷たい笑みを浮かべその先を口にする。
「俺はベータテスト中に、他の誰も行ったことない層まで登った。ボスのスキルを知っ出たのはカタナスキルを使うモンスターと上の層で戦ったからだ。他にも、アルゴなんて問題にならないくらいの情報とかな」
「なんだよそれ……」
シミター使いではない男が掠れた声で言った。
「そんなのもうチートじゃないか‼︎」
ベータのチーターだという声が周りからから上がり、やがてそれが混ざり合いビーターという単語が生まれた。
キリトはニヤリと笑うと全体をぐるりと見回した。
「……ビーター、いい響きだな。これからは、元テスターどもと一緒にしないでくれよ」
そう言ってキリトはウインドウを操作する素振りを見せると、真っ黒なコートを羽織った。
「俺はこれから二層のアクティベートに行く。主街区までモンスターの出る道を歩くから、死にたい奴は付いて来いよ」
そう言って黒のロングコートを翻して、独り、主を失った玉座の裏にある扉を押し開け出て行った。
わたしはどうしようかと逡巡していると、後を追うようにミトが扉へと向かった。
「あっ――」
「お、お前も、ビーターなのか?」
その背に声をかけようとしたところで他の声に遮られる。
ひどく震えている声だった。
見たところさっきのシミター使いのメンバーだろう男は、レイと同じ槍使いだった。
まるで恐ろしいものでも見るような目だな。ふとそう思い、悲しくなった。
わたしは外していた視線をもう一度透に合わせる。
透は歩みを止めてゆっくりと首だけ振り返る。
「違ぇよ」
そう言って再び歩き出そうとするが……
「死ぬ気かお前っ、二層には俺らの知らないモンスターがいて、こ……殺されるかもしれないんだぞ⁉︎」
先程の槍使いがまた声を上げる。
確かに、未知のモンスターともなれば動きは読めないし、下手をすれば殺されるかもしれない。
「はっ」
でも、そんなこと関係ないとばかりに透は笑って、槍使いを見据えた。
「モンスターに殺されるだって、この状況で命の心配か? 今は、俺にとってはどうでもいいことだ」
ただな、と一旦言葉を区切り、その場の全員見渡していく。
「俺らよりも一回り以上小さな奴が命張って前に出たんだ、そんなやつに味方が何人かいてもいいだろうが」
その言葉と気迫に全員が息を飲み、それを意に介す様子もなく透は進んでいく。
わたしは――
不意にわたしの手をアスナが掴んだ。
「行きましょう、お礼くらいは言わなくちゃ」
アスナに連れられる形でわたしは扉に向かった。途中でエギルさんとキバオウから伝言を頼まれたが、アスナがキリトに話しておいてくれるとのことだ。
ありがとうアスナ。
扉をくぐると二層に続く階段があり、そのテラスにもたれかかる透とキリトを見つけた
二人とも意外そうな顔をしていたが、すぐに透が意図に気付いたらしく階段を登り始め、わたしはそれについて行った。
透はテラスに寄りかかるとやれやれと言ったように乾いた笑みを浮かべた。
わたしはここに、榛名紗季としてここにきた、だから本名で呼ぶよ。
「ねぇ、透」
「……ん、答えられる質問になら答えてやるぞ」
「透はどうしてここにきたの?」
その瞬間、穏やかだった透の目が一瞬だけ見開かれたが、すぐに元に戻った。
「ここに囚われた奴らを一人でも多く現実へ還すため。っていうのは建前で、もしかしたら俺は死に場所を探しにきたのかもな」
なんでもないようにとんでもないことを言ってくれるが、こちらはそれを予期してきたのだ、今更驚きはしない。
透の言葉は淡々と続いていく。
「だけど、ここに来て、この手で守らなきゃいけないものができたし、そうしなきゃいけないものがここに来たことを知ったからな。どいつもこいつも、俺の予定を狂わせてくれるよ」
まったく、と呆れたようなのにどこか嬉しそうな、そんな笑みだった。
「そういえば紗季はなんで来たんだ?SAOをやるなんて話は聞いてなかったけど」
「それはね、菊岡さんに頼まれたんだよ。透くんはどうせ死ぬ気なんじゃないかなって、だから助けてくれないか?って」
「あんの阿呆……」
頭を抱え、ここにいない菊岡さんへの悪態を吐くも、ああ、だからかと何かに納得したように呟いた。
「どうかしたの」
「いや、なんでもない。……そうだ紗季、これやるよ」
そう言って透が何回か腕を動かすと、わたしの前にアイテムが送られてきたことを知らせるウィンドウが出た。どうやらカテゴリはフーデットケープらしく、名前が表示されていたので読み上げた。
「ホワイトケープ?」
「ああ、ホワイトウルフからのドロップ品なんだが、なかなかステータスが良くてな。それで顔でも隠してろ。女プレイヤーなんて珍しいから、声をかけられることも多くなるだろうしな」
なるほど、と納得して装備してみた。
一度フードを被って、顔の横が全て隠れるのを確認するとフードを取った。
そうだ、お礼を忘れていた。
「ありがとっ」
「どういたしまして」
なんでもないように笑って返してくれるその笑顔が綺麗で、眩しいと思ったのは私だけの秘密。
きっとわたしは、透のそんなところに憧れた。精一杯背伸びをしてでも、隣に立って同じものを見たいと思った。
言いたいことはたくさんあるけど、今は……
「聞いて、透」
「……ああ」
透はわたしの目を見据えて、真剣な表情になった。
「わたしは今まで、透たちに守られて生きてきた。でも、武器と自分の力だけでどこまでも行けるこの世界で、わたしはあなたたちに守られるだけの弱い自分を超えて見せるよ」
だから見てて、と透に笑いかける。
透はふわりと微笑むと、くしゃりと私の頭を撫でる。
「Go ahead make my day」
おかしそうにくすくすと笑い、そのままわしゃわしゃと撫で続ける。
今何と言ったのだろう、まったくわからないが、なんとなくバカにされた気がする。
ちらりと階段の下を見るとアスナとキリトの話は終わったらしく、小さく手を振るとアスナは扉から戻っていった。
「わたしも戻るよ、またね」
「あぁ、またな。 今は全てを話せないけど、いつかきっと、お前の知りたいことを教えてやる」
わたしたちも手を振り別れた、キリトがすれ違いざまに「よかったな」と言ってくれた。
キリトに「ありがとう、またね」と返し、わたしはアスナを追って扉をくぐった。
side Kirito
まさかアスナやレイが追いかけてくるとは思ってなかったが、おかげで肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。隣のミトはと言うと、なぜだか階段の段数を数えていた。
集計の結果四十八段あり、フルパーティなら一人一段で並べるな。とのことだった。
それはさておき。
俺とミトは二層に上がるべく階段を上っていった。
途中、ミトからラストアタックアイテムについて聞かれ、俺は今装備しているロングコートについて話した。そういえば。
「ミトはボスの武器を破壊したよな。その報酬とかはないのか?」
「あー、あったなそんなもん。今すぐ使うのは無理そうだが」
いまいち要領を得なかった俺に、ミトはウィンドウを可視モードにしてくれた。そこにあったのは。
「獣人の太刀……ってこれ⁉︎ カタナスキルが使えるってことか⁉︎」
そこに武器カテゴリの欄にカタナと表示されており、それはつまりカタナスキルがプレイヤーにも使えるということだろう。
「絶対に全プレイヤー初のカタナ入手だろうな、使う気はないのか?」
少し考える素振りを見せるミトだったが、面倒くさそうに。
「取ろうとは思うんだが、ただなぁ、スキルがな」
ミトは現在両手剣を使っていて、スキルを変えるのは並大抵の苦労ではないだろう。 それに、カタナスキルの入手方法さえわかっていないのだから、道は険しい。
結果的に、ミトは取ることを選択し、アルゴに情報が手に入り次第流して欲しいとの旨を伝えることで事なきを得た。
ついでに俺の方も、アルゴがお詫びに情報を一つタダで教えてくれるそうなので、おヒゲの理由を口頭で聞くことにした。
「さて、行くかキリト。道案内よろしく」
「まかせとけ、まぁ一キロちょっとだからすぐだけどな」
そうして俺たちは二層の主街区《ウルバス》へと向かった。
うむむ、ミトとレイの話はもっと掘り下げるつもりだったのに、あんまり話し込むのもおかしいと思いこうなってしまいました。
ちなみに最後の英語は超かっこつけセリフです。 要約すると やってみろ 的な感じになります。
はつかねずみがやってきた。
はなしは、おしまい。
では、この辺でお暇しますね。