今回はのんびり回となっています。
そう言えば夏真っ盛りですね、湿気が多くなってやですね、首の後ろが髪のせいで蒸したり、黒くて平べったい我が宿敵が出たり、頭にばっかり特攻してくるミンミンなくやつらがいたりと。
そんなことはいいですよね、くりっく?
くらっく!
ではどーぞ!
Kirito side
「……んども言ってるダロ! この情報だけは、幾ら積まれても売らないんダ!」
語尾に被さるコケッティッシュな鼻音を響かせて喋るのは知人の情報屋――アルゴだ。
俺ことキリトは、先ほどミトと二層のアクティベートを済ませて隠れていると、高速で主街区のウルバスか走り去っていくアルゴとそのあとを同じような速度で追いかけていく二人組の男を見て、俺はミトに声も掛けずに駆け出していたのだった。
そして現在も彼らは話をヒートアップさせていく。
息を潜めて話を聞いていると気になる言葉が男の口から出た。奴は今《エクストラスキル》と言ったのだ。つまりこの男たちはそれについての情報を売れと言っているのだろう。
俺がその推測に至ったときぴりっ、と空気に流れていた緊張感がさらに一段階上がった、――と感じた瞬間、俺は覗いていた岩棚の上に立ち上がり、飛び降りようとした瞬間――
「邪魔だ」
聞こえた声に弾かれたように身を捻ると、俺の横を誰かが高速で横切り、アルゴと男たちの間に割って入る。俺もそれに倣うように身を躍らせた。目の前に現れた俺たちに男二人は後ずさり、アルゴは驚きの声を上げる。
「セーちゃん!? キー坊!?」
緊張感を感じないあだ名に俺ずっこけ、セーちゃんなる人物は呆れたように溜息を吐き、アルゴをちらりと見る。俺はセーちゃんを観察してみた。赤く膝あたりまであるフード付きコート、黒のタイツに編上げのブーツといった軽装の、女性だろうその人は、恐らくアルゴの知り合いかボディーガードだろう。
彼女は腰からダガーを引き抜くと、男たちと向かい合うように構えている。
アルゴの方を振り向いた際に見えた目は鋭く、一瞬びくりとしてしまった。
すると、こらえきれなかったのか二人組が口を挟んだ。
「貴様ら何者だ‼︎」
「他藩の透波か⁉︎」
その声に俺は男たちをよくよく観察する。なんだか忍者風衣装を創意工夫で真似たような格好だ。
そう言えばベータ時代にいたなこういう奴ら、なんだっけ…………
「フー……フーガ……だっけか?」
「風魔でござる‼︎ 」
「ギルド風魔忍軍のコタローとイスケとは拙者たちのことでござる‼︎」
「そうそれ!」
パチンと指を鳴らして答えを得る。
その後、俺の発言に風魔の二人が反応して腰のシミターを抜く間際の所で二層特産の牛モンスター《トレンブリング・オックス》が乱入してきたおかげで彼らは逃げ出してくれた。
セーちゃんは構えを解くとダガーを納めた。
そしてこちらを向いた彼女から発せられた言葉に俺は驚いた。
「おいアルゴ、逃げるのはいいけどオレを置いて行くなよ、オレの足じゃ追いつけないんだから」
「そんなこと言ってもナ、こっちも必死だったんダ」
「ったく。まぁ、無事ならいいさ」
聞いてびっくり男口調だった。
そんな彼女は振り返るとフードを取った。そのことで隠れていた顔がよく見えた。中世的だが美人だとわかる顔立ちに少々気怠そうな目をしていて、肩辺りまでの髪は自然に下ろされていた。
その彼女がこちらを見た。
思わずびくりとするが、こほんと咳払いをして挨拶をすることにした。
「キリトだ。えっと……セー……ちゃん?」
直後、ビキリと音がしそうなほど目の前のセーちゃんのこめかみが震えた。まさか、地雷だったか?
わなわなと震える肩が止まったかと思うと、ゆらりとこちらに近付いた。
「言っとくが、オレをセーちゃんと呼ぶな。俺は「お、やっぱりいた」ちっ」
俺とアルゴの後ろからミトの声がして振り返ると、そこにはやはりミトがいた。
ミトは「急に走り出したからびっくりしたぞ」と俺に言って、セーちゃんの前に出る。
何が起きるのかと不安だったが、それは杞憂に終わった。
「久しぶりだな、ミト」
先に彼女が声をかけ、ミトもそれに返す。
「久しぶりって言っても、朝に会ったばっかだろ、セン」
センと呼ばれた彼女はつまらなさそうに、でも笑ってみせた。
ミトは何かに気づいたようにこちらを向いた。
「キリト、こいつはセンだ。言葉遣いが男っぽいけど、ちゃんと女の子だからな」
これでもかわいいとこあるんだぜ、とセンの頭をポンと撫でるも次の瞬間には叩き落とされた。
「こんなとこでなにしやがる⁉︎」
全く悪びれた風でもなくミトは笑っていた。もしかしたら現実での知り合いなのかもなと、俺は推理した。
その後、アルゴにお髭の理由を聞くことはせず、エクストラスキルの話を聞くことにして、現在、アルゴを先頭にクエストが受けられる東の端にある小屋の前に来ていた。
「さて、オイラの案内はここまでダ。みんな本当にいいんダナ?」
何度か聞いたその言葉に俺たち三人は頷く。
小屋に近付いていくと、仙人のような老人が出てきて、近くにあった岩を一つ割れとのたまった。
試しに叩いてみて感触を探ると……
「キリト、どうした?」
「こ、これ、破壊不能オブジェクト手前の強度だ……」
その呟きにミトとセンーーさんをつけようとしたら怒られたーーは若干引きつった笑みを見せた。
一日二日かでは壊せないと思った俺は逃げようとするも老人に阻まれ、筆で顔に何かしらを書かれた。恐らくこれがアルゴのヒゲの理由なのだろう。
「なあアルゴ、俺もお前と同じようなペイントか?」
その声にアルゴは答えず、代わりに笑いをこぼした。
「強いて言うなら、キリえもんダナ」
そしてアルゴは堪えられないとばかりに盛大に笑いこけた。
俺の顔を見たミトはアルゴと同じように笑い、センは目を丸くしてから後ろを向き、小刻みに震えていた。
アルゴは笑い転げたのち、仕事があると言ってその場を離れた。
先程センとアルゴの関係性を聞いたら、一ヶ月ほどの契約コンビを組んでいたらしい。なんでも、一人でモンスターと戦っているセンの様子を見て危ないと思い。この世界でのノウハウを教える代わりに一ヶ月ほどボディーガードを頼んでいたらしい。
その後、俺は岩の前で構え、何発か思い切り岩を叩くも割れる気配はない。
「なあミト、試しにやってみてくれよ。センも」
「しょーがねーなー、年上の実力を見せてやるよ」
「じゃあオレもやる」
そう言って二人はクエストを受け、岩の前に立つ。
ミトは腰を落として軽く数発岩を叩くと右手を引き、気合を溜める素振りを見せる。
俺たちが見守る中ミトは短く声を発すると岩の中心に的確な突きを入れた。しかし変化はなくホッとした瞬間にぴきっ、という音がして岩が真っ二つに割れてしまった。
「なんっ、なんっじゃそりゃあ⁉︎」
「意外といけるな」
なんてケロリと答えるミト、それに敵対心を燃やしたのかセンも岩の前に立ち、ミトと同じような構えをとる。
やはりセンも数発当てると右手を引き、一気に突きを放つ。
ゴッ、と重い音を立てて衝突するも、さすがに今回は割れなかった。
それを見ていたミトは「はっ」と笑った。
叩いた本人はわなわなと震えたかと思うと右手を握りしめて振り上げ、怒りに任せてそれを振り下ろす。
まさかとは思ったがその一撃で岩が割れてしまった。
割った本人は悔しさが晴れ、晴れ晴れとした笑顔を見せた。
何だろうこの二人、人間じゃないのかな?
そう思っているとミトとセンが俺の肩をポンと叩いた。
「頑張れよキリト」
「きっと割れるぜ」
なんだろう、励まされてるのに全然嬉しくない。
その後二人とここで別れ、三日後に岩を割ることができた俺は主街区のウルバスに向けて歩き出した。
Rei side
あの第一層攻略から二日後、わたしは主街区ーーウルバスでここまで来た相棒とも言える武器のアイアンスピアの強化をするために鍛冶職人を探していると、妙に騒がしい人だかりを見つけた。男の人がふざけるな! とか、元に戻せ! と叫んでいる。
何が起きているのか見るために人混みを掻き分けていると、目の前にアスナとキリトを見つけたので、声をかけた。
「おはよ、アスナ。この騒ぎはどうしたの? 」
「俺は無視か……」
しょぼくれるキリトだが、冗談だよと言うと気を取り直してくれて、アスナに変わり説明してくれた。
曰く、鍛冶職人に武器の強化を頼んだが失敗。その後ムキになり三回強化依頼をするもその全てが失敗に終わり、今の状況に至ったらしい。
こういうギャンブル的なことってハマると危険だよなとキリトは言ったが、妙に実感のこもった言葉だった。
それにしても、変装用なのかは知らないけど、キリトのバンダナダサいなぁ。そう思ったところでレイはフードをかぶり直した。
その後、アスナが武器を先程の鍛冶屋に強化してもらう旨をキリトに伝えると、確率は高い方がいいだろうと言い、それを聞いたアスナが、口だけ出して体を動かさない人は嫌いだと返し、わたしを巻き込む形でアスナのウインドフルーレの強化素材集めを行うことになった。
アスナとキリトは先にどちらがウインドワスプを五十体倒せるか競うらしい。わたしは自由でいいと言われたので安心した。
因みにこの勝負、負けた方はウルバスにあるメインストリートから細い道を北に折れ、更に右、左と曲がったところにあるレストランがあり、そこのトレンブルショートケーキを奢ることになっている。しかも相当お高いのだ。
結果、キリトは奥の手の体術スキルというものを使ったにもかかわらずアスナに負けたのでした。
side out
キリトとアスナの勝負が終わったちょうどその頃。
メインストリート通りにて。
一組の男女が祭りじみた通りを歩いていく。 二層が開通したことでお祭り騒ぎとなり人で溢れかえっている中を少年の方は器用に進んでいき、それを少女が追いかけている。
少年の方は黒の混じった銀髪、少女の方は漆のような黒髪が肩辺りまで伸びている。
「なあ、鍛冶屋はさっきのプレイヤーがやってるとこがあっだろ。 あそこじゃダメなのか?」
「あれはダメだ、人が多いし、それに……」
なにやら言い淀みそれを不思議に思うが、なんでもないと言われたのでそれ以上は追求しなかった。
現在武器の消耗を回復させるために鍛冶屋を探しているのだが一向に見つからない。
用事をさっさと済ませて一緒にメインストリートを散策したい彼女、センはなかなか見つからない鍛冶屋にイライラしていた。 別に付き合っているとか、そういう好意を向けられたことがあるわけではないが、これを機に距離を縮められたらと思っている。
しかし目の前を歩く青年はいつも自分を子ども扱いだ、歳の差がこんなにも恨めしいことはない。
思考の海に沈んでいるとポンと頭に手が置かれる。
「どうした? 眉間に皺を寄せていると男ができないぞ」
「…………っ⁉︎ 待てこら‼︎ 三枚に下ろしてやる‼︎」
ストリートの波をすいすいと進んでいく彼を顔を赤く染めてわたしは追いかける。 一体いつになったら隣を歩けるのだろうか。
彼がどのような道を歩んでいるのかは今はまだ秘密。
衝動的に書いた最後はあんなのでよかったんでしょうかね、後悔はしていませんが。
ところで皆さんもお気付きでしょうが、この章、刀神追究編ではミトのサイドは最初の頃を除きほとんどないでしょう、今後もそのつもりです。
ミトの心中を語らせないことである程度展開を分からなくさせたいという私のささやかないたずら心です。
では、また次のお話で
はつかねずみがやってきた。
はなしは、おしまい。