アブソリュート・デュオ ~聖槍を受け継ぎ者~   作:ぬっく~

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なんだか、思いついたのでちょこちょこと書いていたら出来上がってしまった。


第一章 『焔牙』

 

 

 

 

 

 

『願わくば、汝(なんじ)がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へ至らんことを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》―――

 その言葉の意味するところを尋ねる余裕は無かった。

 

「―――っく!!」

 

 胸元に《星紋(アスター)》と呼ばれる印が浮き上がり、強い熱を発したのだ。

 熱は瞬く間に全身へ広がり、呼吸が苦しくなる。

 まるで体内で業火が燃え盛るかのような感覚に身を捩(よじ)る。

 しかし、これは儀式だ。

 人を超える力―――《黎明の星紋(ルキフル)》を体内へ取り入れ、昇華(しょうか)するためのものなのだ。

 

「うっ、ぐ……あ……あぁああああああっっっ!」

 

 血が、肉が、骨が灼(や)けつくような壮絶(そうぜつ)な痛みに絶叫をあげ―――

 直後、私の体は《焔(ほのお)》に包まれた。

 《星紋(アスター)》から溢(あふ)れ出した業火は、生み出した私自身を灼き尽くすかのように荒れ狂う。

 けれど屈するわけにはいかない。

 この《焔》を制さなければ、私の望むものは手に入らないのだから。

 

(私は……私にはやらなくちゃいけないことがあるんだ!!)

 

 そうだ。それを果たす果たすまで決して足を止めるわけにはいかない。

 だからこそ、この荒れ狂った《焔》を制御しなければならない。

 いや、制御できて当然だ。

 こ(・)の(・)《焔(・)》は(・)私(・)自(・)身(・)―――私(・)の(・)《魂(・)》な(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

「はぁああああああっっ!!」

 

 力の限り叫び、拳を突き上げ―――《焔》を掴む。

 

 

「《焔牙(ブレイズ)!!》」

 

 

 《力ある言葉》に呼応し、私を覆(おお)い灼き尽くさんとばかりに猛(たけ)り狂っていた《焔》が蛇のように手へと集まり、閃光を放つ。

 

「くっ……!」

 

 余りにも強い輝きに、目を開けていることすら敵(かな)わず―――

 やがて光が消え失せたとき、私は自身の手に視線を向け驚愕(きょうがく)する。

 《焔》が《槍》と化していたのだ。

 

「これが……私の《焔牙(ブレイズ)》……」

「《特別(エクセプション)》、といったところですわね」

 

 あの言葉を口にしてからここまで、無言で事を見守っていた人物が口を開く。

 魔性(ましょう)もしくは不吉。

 それらを連想させる漆黒の衣装(ゴシックドレス)を身に纏(まと)った少女が。

 《特別(エクセプション)》―――少女がそう口にした理由は一つだ。

 その《長槍》から放たれる気が異常だったからだ。

 本来は《焔牙(ブレイズ)》とは《魂》を具現化させた武(・)器(・)なのだから。

 だが、私の手に具現化されたものは、私の存在感を差し置いて物凄い気を放っていた。

 一振り振るだけで風が起こり、この《長槍》は全てを貫き通すことができると思わせる。

 

(あの夢のと同じ……)

 

 ここ数日私はある夢を見ていた。

 一度目にしたら忘れることが出来ない黄金の髪に黄金の槍を持った軍人―――

 黒衣の少女によってその思考は遮られる。

 

「さあ、お行きなさい。その《長槍》が貴女をどう導くのか……楽しみにしていますわ」

 

 くすくすと笑い声を残し、黒衣の少女は闇の中へと姿を消す。

 後には静寂(せいじゃく)のみが残されるばかりだった。

 

 

 これが私の―――氷室(ひむろ)愛花(あいか)の物語、その始まりだった。

 

 

 ■第一章『焔牙』

 

 

 銀色の少女が姿を見せた瞬間、講堂からまるで波が引くかのように音が消えて行く。

 それは私も同様で、彼女を目にした瞬間、息を飲み込み言葉を失った。

 一目見れば記憶から決して失われることは無い―――そう言わしめるだろう容姿の少女が、昊陵学園(こうりょうがくえん)入学式場、その入り口で佇(たたず)んでいたのだから。

 腰まで届く銀色の髪(シルバーブロンド)、透き通るような雪色の肌(スノーホワイト)、故に際立つ深紅の瞳(ルビーアイ)は、一目で異国の少女だとわかる。

 

(西洋人形(ビスク・ドール)みたいだな……)

 

 私にそんな感想を抱かせる理由は、幻想的とも言わせる容姿。だけじゃない

 多くの視線を向けられていながら、まだ幼さの残るその顔には表情というものが一切見て取れなかったからだ。

 やがて銀色の少女は、一拳手一投足が注目される中―――

 チリン、という鈴の音とともに歩き出す。

 コツ、コツ……と革靴の音が響くほどの静けさの中、周囲の視線を一身に集めたまま、けれどそれらを全く意に介す様も無く歩く姿はまるで映画のワンシーンのようだった。

 彼女は私の前を通り過ぎ、四列程前の席へと腰を降ろすと、そこでようやく講堂内に掛けられた沈黙という名の魔法が解かれ、多くのため息とともに音が帰って来る。

 でも、私は分からなかった。あの子が何故、こ(・)んな(・)学(・)校(・)に入学したのか……

 こんな学校―――昊陵学園(こうりょうがくえん)は一般的な高校とは違い、特殊技術訓練校という面がある。

 この学校で教わる特殊技術とは―――戦闘訓練。

 平和な日本において、日常では必要としない術を教えるという非常に特異な学校だ。

 

(何か事情があるだろな)

 

 海を越えてまで戦闘技術を学びにくるのだから、銀色の少女には相当の理由があるのだろう。

 普通の人間を辞めてまで……

 

 《超えし者(イクシード)》―――

 それは、数年前にドーン機関と呼ばれる組織が開発した《黎明の星紋(ルキフル)》と言う名の生体超(・)化(・)ナノマシンを投与された者のことを指す。

 千人に一人と言われる《適性(アプト)》を持った者へ投与すると、人間の限界を遥かに凌駕した身体能力を得ることができ、同様に超化された精神力によって《魂》を《焔牙(ブレイズ)》と呼ばれる武器として具現化させる能力も得るのだ。

 

 とはいえこれらの事柄は今日―――《黎明の星紋(ルキフル)》の投与直前になって初めて明かされた話であり、私でもさえ未だに実感していない。

 そんなことを考えている時、パチンとスピーカーの入る音がした。

 直後に『あ、あ……』とマイクのテストの声が講堂に響く。

 

『一同、静粛に。間もなく、入学式を開始します。進行は私、三國(みくに)が行ないます』

 

 壇上へ続く階段脇に立った二十代後半と見られる男性教師らしき人物が『静粛に』ともう一度口にすると、それに伴って講堂内のざわめきが小さくなっていく。

 

『ただ今より、昊陵学園(こうりょうがくえん)高等学校入学式を始めます。まず初めに、当学園理事長より新入生の皆さんへ式辞を贈りします』

 

 こうして式が始まった次の瞬間、私は驚愕(きょうがく)する。

 壇上へと向かうゴ(・)シ(・)ッ(・)ク(・)ド(・)レ(・)ス(・)を(・)纏(・)っ(・)た(・)人(・)物(・)を目にしたために。

 

(あの時の……)

 

 壇上へと立つその人物は、見紛(みまが)う事無く私に《黎明の星紋(ルキフル)》を投与した黒衣の少女だった。

 

『昊陵学園(こうりょうがくえん)へようこそ、理事長の九十九(つくも)朔夜(さくや)ですわ』

 

 理事長。その役職から受けるイメージとは違い、十に達したかどうかという年端のいかない少女が堂々とした様で式辞を始める。二つに結った闇色の髪に漆黒の衣装(ゴシックドレス)に身を包んだその姿は、初見同様どこかしら魔性めいたものを感じてしまう。

 そんな事を考えている内に、理事長の式辞がそろそろ終わりを迎えそうだった。

 

『これより、新入生の皆さんには当学園の伝(・)統(・)行(・)事(・)《資(・)格(・)の(・)儀(・)》を(・)行(・)な(・)っ(・)て(・)頂(・)き(・)ま(・)す(・)わ(・)』

「伝統行事?」

「進行表には何も書かれていないけど……」

 

 後ろの席に座っていた人の言う通り、壁に貼られていた表を見る限り、本来なら理事長の式辞に続くのは在校生代表による歓迎の挨拶なのだ。

 

『それでは《資格の儀》を始める前に、貴方達にはして頂くことがありますわ。隣に座る方を確認して下さいませ。その方が此(これ)より儀うを行うに当たり、パートナーとなる相手ですの』

 

 私は隣の席を確認する。当然、隣の人も私を確認する訳だがこの時私は分からなかったが、その答えは理事長の次の言葉ですぐにわかる。

 

『これより、貴方達にはパ(・)ー(・)ト(・)ナ(・)ー(・)と(・)決(・)闘(・)を(・)し(・)て(・)頂(・)き(・)ま(・)す(・)わ(・)』

 

 行事の内容を伝えられた瞬間、そこかしこで驚きの声が上がった。

 

『此より開始する伝統行事《資格の義》は、昊陵学園(こうりょうがくえん)への入学試験ということになりますの。勝者は入学を認め、敗者は《黎明の星紋(ルキフル)》を除去した後、速やかに立ち去って頂きますわ』

 

 新入生たちの驚きとは正反対に、涼しげな顔で理事長がとんでもないことを口にする。

 やがて言葉の意味を理解すると、新入生がざわめきだした。

 

「じょっ……冗談でしょ……!?」

「どうりですんなり、入学式に出られたわけだ」

 

 前に座っていた女子生徒は、納得がいかなかったようだ。

 

「今更、入学試験って……《黎明の星紋(ルキフル)》の《適性(アプト)》があれば、誰でも入学できるんじゃなかったの……!?」

 

 その問い掛けに対して答えたのは、理事長ではなく進行役の三國と言う男だった。

 

『入学試験が存在しないなどとお伝えたした覚えはありません。《適性(アプト)》があれば、当学園へ入学資(・)格(・)があるとお伝えしただけです』

「この入学に落ちた者から学園内の情報……《黎明の星紋(ルキフル)》のことも、洩れてしまうことは考えていないのか? そのリスクを負ってでも、半数を落とすつもりかっ……」

『当学園の内情に関しては、様々なかたちで情報規制がされています。心配はありません』

 

 薄い笑みを浮かべる三國の表情に、いま聞かされたことが真実だと肌で理解する。

 困惑と動揺でざわめく講堂内。

 

『……ご理解を頂けましたら、試験のルールについて説明いたしますわ』

 

 けれど壇上に立つ黒衣の少女は、特に気にした様子も無く、淀(よど)みない口調で残酷なルールについては話し始めた。

 

『この決闘は基本的に何をしようとも自由……つまり武器の使用制限はありません。もちろん《黎明の星紋(ルキフル)》による《魂》の具現化武器《焔牙(ブレイズ)》の使用も許可します。決闘が嫌ならば逃げ出して下さっても構いませんわ。決着はどちらかの敗北宣言もしくは戦闘不能と判断された場合、また、10分以内に敗北が決まらない時は……どちらも不合格。―――これは、何処にもある入学試験ですわ。他人を蹴落として自分が生き残る単純なルール』

 

 そこに命が懸かってなくても、負ければ道は閉ざされるのだから、理事長の言っていることは間違いは無い。

 間違いは無いのだが、それで全員が納得できるわけじゃない。

 

「だからって……どうして決闘なんですか! 普通に試験じゃ……」

 

 納得がいかない内の一人が問いかける。

 それは大半の新入生の代弁と言えるものだった。

 

『いつか必ず……貴方達には闘う時が訪れますわ。《超えし者(イクシード)》として、ドーン機関の治安維持部隊へ所属後……時には命を懸けた闘いも……こんな事よりも厳しい決断の時が必ず……やって来るのです』

「つまりこの入学試験は、学園側から俺たちへ贈る最初の決断ってわけか」

 

 一人の男子生徒の言葉に理事長が笑う。

 

『……それでは、開始前にひとつ……《焔牙(ブレイズ)》について補足説明をさせて頂きますわ。《焔牙(ブレイズ)》とは《魂》を具現化させて創り出した武器……故に、傷つけることが出来るのもまた《魂》のみですの。―――よく聴きまして……《焔牙(ブレイズ)》の攻撃は相手の精神を疲弊(ひへい)させるだけのものであり、肉体を傷つけ命を奪うことはありません。……つまり、制圧用の武器なのですわ』

 

 これがどれ程どこの場の新入生を安堵(あんど)させ、迷いを揺さぶるものだっただろうか。

 ざわりと動揺が広がる様が目に見えてわかる。

 次いで一人、また一人と意思を固めていく様子もまた。

 

「……すみません。ひとつ……」

 

 前の新入生が手を上げ、理事長へと質問を投げる。

 

「パートナーの変更……は……」

 

 彼は僅かばかりの期待を込めて問うも―――

 

『―――できませんわ。貴方は受験で数学が苦手だから得意の教科で評価してくれと言えますの?』

 

 返ってきた無慈悲な言葉へ、彼はその後を続けることが出来なかった。

 おそらく過去に同じような要望を問い投げ掛けた者がいたのだろう。

 しかし、理事長は容赦無く歯車を動かしてしまう。

 

『闘いなさい。天に選ばれし子(エル・シード)らよ!! そして己の未来をその手で―――……掴み取るのですわッ!!』

 

 鋭い声―――同時に講堂のみならず学内すべてに鐘の音が響き渡る。

 一瞬だけ間を置き―――

 

「うわぁああああああっ!」

 

 誰かが発した叫びが本当の合図となった。

 状況をようやく認識し、何人かが悲鳴を上げながら講堂入り口へと逃げ出す。

 同じように悲鳴を上げつつ、その場でパニックに陥る者がいた。

 いまだに状況に心が追い付かず、呆然としたまま立ち尽くす者もいた。

 そして―――この試験を、決闘を受け入れ、闘う意思を持った者が《力ある言葉》を口々に叫び、あちこちで紅蓮の《焔(ほのお)》が発せられる。

 剣、槍、弓―――視界に映る幾多の武器、それを手にすると試験相手へ向けて振るう。

 講堂内へ喧騒(けんそう)が、剣戟(けんげき)が響く。

 私も怯えるパートナーを前に《焔牙(ブレイズ)》を呼び出す。

 

「私は総てを愛している……形成(Yetzirah―) ここに神の子 顕現せり(Vere filius Dei erat iste) 聖約・運命の神槍(Longinuslanze Testament )」

 

 《長槍》を握った瞬間、一帯の空気が変わった。

 今にも押しつぶされてしまいそうな、威圧に包まれ相手はそのまま、気を失う。

 それどころか、周りにいた新入生すら気を失っている者もいた。

 

「…………」

 

 約束の10分が経ち、入学試験が終了した。

 

『……それでは最後に、この言葉を贈らせて頂きますわ』

 

 理事長はそこで一旦言葉を止め、新入生全体を見回し―――

 再び、あ(・)の(・)言(・)葉(・)を口にする。

 

『願わくば、汝(なんじ)がいつか《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》に至らんことを』

 

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