アブソリュート・デュオ ~聖槍を受け継ぎ者~   作:ぬっく~

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第三章 『無手模擬戦』

 入学二日目の朝。学食へ行くと私たちに―――というより、ユリエに多くの視線が集まっていた。

 

(やっぱり、集まっているな……)

 

 一年だけでなく二年や三年からも注目を集めていたのだが、当然ながらユリエちゃんは気にする事なく平然と食堂内を歩いて行く。

 その後ろを従者よろしく透流もついていくのだが、「銀色の……」「男女で同居」などといった周囲のひそひそと交わされる会話の一部が耳に入ってくる。

 その中に一つ気になる単語も混じっていた。

 

「《異能》」

 

 つまり、透流も話題のネタということらしい。

 

(外国人の美少女と、《異能》とやらの組み合わせじゃイヤでも噂になるか)

 

 その中にもう一つある単語があった。

 

「《特別》」

 

 つまり、私のことだ。

 《焔牙》を出しただけで大抵の人は気絶する。

 現在、私が知る中では最強の部類に入る存在だろ。

 とはいえ気にしてもどうにもならないことだし、問題が無い限りは堂々としていよう。

 

「A定食を」

 

 昊陵学園の学食は肉がメインのA定食、魚がメインのB定食、和洋中の五十種類から好きなものを選べるビュッフェの三種類から選択する形式となっている。定食は学食のおばちゃんが栄養管理をしっかりと考えた組み合わせだが、やはり自由に選べるビュッフェが人気らしく、大半の生徒が思い思いの料理を皿に載せていた。

 

(透流くんとユリエちゃんは、ビュッフェなんだ……)

 

 透流とユリエはビュッフェにしたらしく既に皿に手にし料理を見て回っていた。

 しかし―――

 

「……何故そんなバランスの悪い選び方をしているんだ、キミは。少しは氷室のを見習え」

 

 突然横から呆れ声で話し掛けられる。

 誰かと思ったら同じクラスの―――

 

「橘……さん、でしたっけ?」

「その通りだ。おはよう、氷室、九重」

「ああ、おは―――」

「ところで先程言わせてもらったが、何故それ程までバランスを考えない組み合わせなのだ。さっきから見ていれば、肉、肉、肉。キミは肉しか食べないつもりか? いくらビュッフェが自由なものを選んでいいとはいえ、物事には限度というものがあるどろう」

 

 透流が返しの挨拶を遮ったかと思うと、何故か説教を始める橘。

 それもそのはず。透流の皿にはから揚げが四つに、甘酢がかかった酢豚、牛肉の黒胡椒炒め、牛すじトマト煮込み―――と野菜が全くと言ってない。

 

「ふむ……。載せてしまった分は仕方ないとして、後は出来る限りバランスを考えて、これとこれと……後はこれもあった方がいいな」

 

 橘は透流の皿を奪い、そこら中から野菜を盛り付ける。

 

「よし、これでいいだろう」

 

 しばらくすると、とても満足そうな笑みを浮かべた橘から様々な種類の野菜と魚が載せられた皿が返ってきた。

 

「サ、サンキュー……。セロリは全然嬉しくないって言うか好きじゃないんだが……」

「それは食わず嫌いというものだ」

 

 透流くんよ、もう少し好き嫌いを無くすことを努力しようね。

 

「さて、それでは私も自分の朝食を取ってくるとしよう」

 

 こうして橘は言いたい事を言い、やりたいことをやり終えて去って行った。

 お互いに言いたいことを思い思いつつ、既に着席済みの彼女の居るテーブルの席に座る。

 

「なあユリエ。頼みがあるんだけど……」

「何ですか?」

「実はセロリとナスを食べて欲―――」

 

 とそこまで言いかけた時だった。

 ガタッと音を立て、テーブルの向かい側に女子が座る。

 

「せっかくだから私はここで食事を摂らせてもらおう」

 

 橘さんだった。

 

「おはよう、ユリエ。昨夜はよく寝れたかい?」

「おはようございます」

 

 ユリエはよく寝れたと返すも、その後で透流に怪訝そうな表情を向ける。

 多分、相手が誰なのか分からないんだろう。

 自己紹介の時はずっと透流くんに意識を向けていたから、仕方ないと言えば仕方ない。

 

「私は橘巴。キミや九重、氷室と同じく新入生―――つまりクラスメイトだ」

「そうでしたか。失礼しました、巴」

「ふふっ、別に構わないさ。昨日は入学初日、しかもあんな試験の直後だから色々と混乱していただろうしな」

 

 僅かに橘の頬が緩む。凛とした雰囲気を持っている彼女でもそんな表情を浮かべるんだなと透流は少々意外に思ってしまう。

 

「ところでトール。頼み事とは何だったのですか?」

「……いや、何でもない」

「―――?」

 

 不思議そうにユリエは小首を傾げ、チリン、と鈴の音がする。

 橘はと言うと、学食のおばちゃんから定食を受け取っている女子に視線を向けていた。

 

「む……すまない、私のルームメイトをこちらに呼んでいいか?」

「ああ、構わないぜ」

「ありがとう。……みやび、こっちだ」

 

 橘が手を上げて声を掛けると、女の子がやって来る。

 

「こ、ここにいたんだね、巴ちゃん」

「はぁ……。呼び捨てでいいと何度も言っているだろう、みやび」

「で、でも巴ちゃんは巴ちゃんだから……」

「全く、キミは……っと、すまない。彼女が私のルームメイトのみやびだ」

「え? あっ……!? お、おはよう、穂高みやびです……」

 

 私たちに気付いて慌てて頭を下げる穂高と言う女子は、大人っぽい橘とは対照的で身長は平均よりやや小柄で、幼い顔立ちをしていた。肩口で切り揃えた髪は後ろの方だけを伸ばしているらしく、お下げとしてまとめた部分を前に持って来ているのがワンポイントとなっている。

 しかし何よりも目を惹くのはその豊かな胸の膨らみで、かなりスタイルのいい橘よりもさらに大きかった。

 そんな穂高へまずはユリエが、次いで透流、最後に私が名乗り返すと―――

 

「あ……。う、うん、よろしくね……」

 

 穂高は赤面し、視線を落として小さくなってしまう。

 

「どうかしましたか、みやびさん?」

「わ、わたし、その……じょ、女子校出身だから、その……」

 

 理由を尋ねると、ちらちらと透流を見つつ穂高が答える。

 

「なるほど、男が苦手なのか。……大丈夫だ、九重は別に噛み付いたりなどしない」

「ほ、本当……?」

 

 橘が保障し、おどおどした様子で透流を見る穂高。

 

「ともかく座りたまえ、みやび」

「う、うん……」

 

 穂高が椅子に座るその瞬間、大きな胸が揺れ、思わず目が行ってしまう。

 しかも座った後はテーブルの上に載っているとなれば、イヤでも意識せざるを得ない。

 

「ときにユリエ。その……九重がいる前で申し訳ないが、来週までとはいえ同居生活は大丈夫そうか?」

「ヤー。大丈夫です」

「それならいいが……」

 

 と言いつつ今度は透流へ顔を向け―――

 

「九重。今ので気分を害したらすまない。年頃の男女だ、何事か問題があってはと心配でな……」

 

 こほんと咳払いをしつつ、その問題とやらを想像してか頬を僅かに赤らめる橘。

 

「いや、いいさ。そう思うのも無理ない」

「トールは優しい人ですので、何も問題ありません」

「そ、そうなんだ」

 

 こくりと頷き、ユリエが発言を続ける。

 

「昨夜も……先に眠ってしまった私を……優しく抱いてくれましたから」

 

 ……爆弾発言を。

 

「「「ぶーっ!?」」」

 

 味噌汁吹いた×2。……穂高は牛乳吹いた。

 

「ユ、ユリエ!?」

「なっ、ななっなっ!?」

「ユユユ、ユリエちゃんっ!?」

「傑作物ね……」

「―――?」

 

 激しく動揺する透流たち三人を前に、チリン、と鈴の音を響かせてユリエが小首を傾げる。

 

 

 

「フン、バカらしい」

「そう言うなよ……」

 

 朝食を摂り終えた私たちは教室へと向かっていた。

 途中から合流したのは、透流の友人のトラと呼ばれるクラスメイトだった。

 先程の騒ぎについて問われたので透流は答えると、呆れられてしまう。

 

「先程、私は間違った答え方をしたのでしょうか?」

 

 相変わらず、自分の爆弾発言の意味に気付いていないユリエが、小首を傾げる。

 言ってやれというトラの視線に、透流は渋々とだが答える。

 

「ええと……日本で抱くっていうのは、男女の……その……エ、エッチな……いや……」

 

 しょうがないので、私は助け船を出す。

 

「夫婦としての夜の営みをするって意味にもとれるんだよ」

 

 幸いその手の知識はあったようで、ユリエはようやく事情を飲み込めたらしい。

 表情は変わらないまでも、僅かに頬を染めていた。

 

「……すみません。巴には誤解だと伝えておきます」

「た……頼んだ……」

 

 あの様子だと透流の話に耳を持ってくれそうにないので、ここはユリエに任せるのがいいだろう。

 

「―――というわけで―――っ!」

 

 朝からハイテンションの月見先生が、両手を拡げて授業が進む。

 

「《黎明の星紋》は《位階》って呼ばれるランク付けがされてるの! みんなは昇華したばかりだから《Ⅰ》ってわけ!」

 

 昨日は不安に思えた月見先生も、なかなかどうして教える姿が様になっている。

 

「これは学期末ごとに《昇華の儀》ってのをやってランクアップさせていくから、一年間ランクが上がらないと、見込みナシ!として退学させられちゃうよ!」

 

 性格はともかく、技術と能力に関しては心配無いという話には嘘偽りはない。

 ……ただし今日も今日とてウサギ耳のヘアバンドにメイド服と、教師にあるまじき服装をしているのだ。

 

「だ・か・ら☆ 日頃から心身ともに鍛えてこーね☆」

 

 月見先生の話によると上のランクに昇格するためには、より強靭な肉体と精神力が必要になるらしく、今学期は特に体力強化を重点的に行っていくことになるらしい。

 

「つぎにー! 昨日言った《絆双刃》についてのプリント渡すよー!」

 

 

 

 その日はマラソンなどの基礎体力の強化で終わり、すぐさまに寝ることにした。

 だけど、今日はいつもとは違う。

 夢は必ずあの人がいることが普通なのに、今日は違った。

 

「…………」

 

 何処かの酒場に私はポツンと座っており、服装は昊陵学園の制服を着ていた。

 そこから見える空は暗く、夜だと分かる。

 最もそれ以前に周りがそう言う雰囲気だったのですぐに分かってしまった。

 

「アンナちゃん! 追加でもう一杯」

「は~い」

 

 しかし、誰も私の存在を気にしない。

 一人だけ服装が違うのに誰も気にしていないのだ。

 私はその場から立ち上がり、歩き、ぶつかる。

 しかし、誰一人として私のことに気付かない。

 

「ここは……夢の中……なの?」

 

 これだけのことをしてなお、気付かれないと言うことはそうなる。

 少ししてある席に私は目が止まる。

 そこの席には神父と女性、軍人三人と赤毛の店員で仲良く飲んでいた。

 

「「「「「「ジークハイル」」」」」」

 

 手持ちのビールを掲げ、飲み交わす。

 周りとさほど変わらない雰囲気なのに何故、そこに気を留めたのかは分からない。

 しかし、それもすぐに分かった。

 赤毛の店員と目が合ったのだ。

 

「え?」

 

 そこで私は目が覚める。

 朝日がまだ昇る少し前に私は目覚めしまったのだ。

 

「あれは……なんだったのだろう」

 

 いままでの夢とは違い、リアルに近かったことに私は違和感を覚えていたのだ。

 しかし、それを確かめることはできない。

 そうして、今日が始まった。

 

 

 

 《無手模擬戦》

 本日から始まる授業の一つで、自由組手。

 素人が多い新入生に、最初から怪我を負うかもしれない組手を行なわせるはどうかと思うのだが、学園側の方針としては技術は教わるだけでは意味は無く、使用してこそ身につくということらしい。

 その模擬戦にて、昨日の運動能力測定で目立っていた女子二人、ユリエと橘が、再び周囲の注目を浴びることになった。

 息も吐かせぬ連撃を見せる橘。まるで舞うような動きに、驚きと感嘆の声がそこかしこで上がる。

 対してユリエは接近したり離れたのヒットアンドアウェイを主体にし、自信の速さを有効に使って対抗していた。

 

(速い……)

 

 ほぼ互角……手数はユリエの方が多いが、それらを殆ど捌きながら一瞬の隙をついて攻防を入れ替える橘。

 特に目を惹くのは、ユリエの手数を受けきるその防御の優秀さだった。

 

「さすがは橘流十八芸と言ったところだな」

「橘流?」

「古武術を主体に様々な武芸に通じている有名な流派だ」

「へぇ……」

 

 武術未経験者の私はトラの説明を聞き理解する。

 と、そこで組手終了のホイッスルが鳴り響く。

 

「はいはーい。そこまでー。三分休憩の後、今度は相手を変えてねー♪」

 

 その宣言に、ユリエと橘は一礼して一言二言交わして組手を止める。

 結局、どちらも決定打を与えることは出来なかったようだ。

 

「さて…………ん?」

 

 軽く準備運動をしていた途中―――ふとユリエの姿が目に入った。

 ユリエは―――おそらく次の相手を探しているのだろう……しかし、なにやら様子がおかしい。

 女子が首を横に振り、最後に頭を下げて離れていったのだ。そして今度は別の女子に話し掛けるも、同じように頭を下げられていた。

 

「もしかして、ユリエちゃん、相手が見つからないの?」

「ヤー」

 

 次に誰に声を掛けようかと悩んでいる様子のユリエへ話し掛けると、心なしか返事に力が無い。

 どうやら今の橘との手合せを見て、怖じ気づかれたといったところか。

 

(しょうがないか……)

 

 私を含めて大半の女子が武術未経験者だから、それも当然と言える。

 

「ユリエちゃん、私とやりませんか?」

「いいのですか?」

「いいのよ。私も少し、やりたくなちゃったから」

「……。ありがとうございます」

 

 一瞬、目が少しだけ大きく見開かれ、すぐに頭を下げてくる。

 

「じゃあ、始めましょう」

「ヤー」

 

 ホイッスルが鳴り、軽く拳を合わせる。

 チリン、とこんな時でも外さない鈴の音が響いたかと思うと、ユリエが一気に間合いを詰めてきた。

 

「私の身体は鋼で出来ている……」

 

 ふと、私が漏らした言葉がとある現象を起こす。

 寸止めとは言え、ユリエは本気を出している。

 決定打が当たり勝負が決まったかと思ったが、私は平然とした顔をしていた。

 さらにユリエは追撃するも、私は何ともなかった。

 なので、私は右の掌をユリエに叩きつけた。

 

「がっ!?」

 

 胸の辺りに直撃した掌底打ちはまるで車に跳ねられたかの様な衝撃で、ユリエは床と平行に後方に吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。

 何が起こったのか分からないままに受けたダメージに混乱するが、ユリエは何とか立ち上がる。

 

「げほっ……ごほっ……」

 

 あまりの衝撃に肺から空気を全て吐き出してしまっていたユリエは、咳き込みながら呼吸を整える。

 しかし、組手終了のホイッスルが鳴るまで私はサンドバックされるも、平然としていた。

 もちろん、その合間に何回か掌を叩きつける。

 

「ごめんね。こんなことしかできなくて……」

「はぁ……。はぁ……。い、いいえ。大丈夫です」

 

 お互いに礼を交わし、授業は終わりを告げた。

 

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