迷宮4階層の部屋の一つ、石畳の世界を仄かな灯りが照らす。
相対する魔物の姿、表層に於いて最強に近いと言われる、ゴブリン達の王――ゴブリンより一回り巨大な肉体、引き締まった筋肉、強大な力を持つ、ゴブリンロード。
知能が低く数さえ居なければ敵では無いと、言われるゴブリン種の中で、ロードだけは別格であり、単独でも4階位、現状のゴブリン部隊を率いた状態で5階位……軍と呼ばれる程のゴブリンを率いていた場合6階位にもなるらしい。
鉄格子の扉を使い、俺と仲間を分断、扉の解錠をら狙えば、後ろから表層最強の名に違わない膂力を持って、ゴブリンロードは俺に切りかかって来るだろう。
仲間達がゴブリン相手に奮戦するのが聞こえる。
本当なら、ニケリアの訓練予定だったのだが、大分予定とずれてしまった。
手に握る剣の柄が滑る、相手は魔術を扱う相手では無く、純粋な力と技術で戦う戦士だ。
相手の得物は
だが――
「やるしか無いって所かな」
気負い過ぎても結果は出ない、何時も通りに戦うしか無い。
「疾……ッ!」
先手は此方、一気に駆けて胴薙ぎの一閃。
ロードは両手剣を盾に防ぎ、そのまま力で押し返される。
「Ghhaaa!」
雄叫びと共に空いた距離を物ともせずに縦の一撃、後ろに跳び回避する。
地面が砕け、欠片がこちらにも飛び頬を傷付ける。
内心で舌打ちを一つ、右手だけで突きを放つが当たらない。
突きを避けたロードが内側に踏み込んでくる。
「そこは俺の――」
左拳を握る。
「――距離だッ!!」
右手を引き戻すと同時に相手を掴む。
――力業で上に投げ、引き戻した右手で落ちてきたロードの身体に、袈裟の一撃。
【格ゲー機動】、【格闘】と【上級剣術】の三つの技術による補正の入った一撃で、ロードが壁まで吹き飛ぶ。
だがまだ健在、流石にこの程度じゃ倒れる気配は無い。
いわゆる投げ技一発で相手をK.O.出来る程この世界は甘く無い。
起き上がりを狙って短剣を投げるが、弾かれ無傷。
睨み合う、お互いに油断は出来ない勝負。
だが、睨み合うだけでは後ろの仲間達が危ない。
なるべく速くケリを着けなくてはいけない。
――格闘ゲームに於いて、最も人間を越える動きとは何だろうか。
前ダッシュ、バックステップ?
それとも攻撃全般?
俺はこう考える――宙を蹴る二段ジャンプ、或いは空中ステップだと。
跳ぶのでは無く、ロード目掛けて前方に跳んだ頂点から、更に飛ぶ。
「一つ……ッ」
短剣を投げ牽制、更に前に飛び対地の前方落下突き。
突きはマトモに当たりバランスを崩すが、まだ浅い。
地面に降り立った所からショートアッパー、ロードの身体が浮く。
「Gaa」
追撃――袈裟、フック、突き。
壁に縫い留め、顔面目掛けた大降りのフック。
ロードの身体に蹴りを入れつつ、剣を抜いて距離を取る。
普通のこの階層の魔物ならば、此れだけ与えれば死ぬのだが、流石は単独4階位。
傷がジワジワと治り立ち上がる。
「ちっ、どれだけ強いんだよ」
後方から聞こえる爆発音が減ってきているのが気になるが、振り返る余裕は無い。
出来る事は変わり無い、駆けて上段からの唐竹割り。
肩口に刃が入り――
『Ghaaaaaa!』
ロードの咆哮、衝撃波が生まれ身体が壁まで吹き飛ばされる。
「くそっ……なん、だよ」
すぐに立ち上がりロードを見れば赤いオーラを纏う姿。
肩口には衝撃と汗のせいで放してしまった剣。
「ゲームとかなら、瀕死で能力アップとかありそうだけど……」
ロードが肩の剣を抜き投げ捨てるのを見て、宙を蹴る。
反応したロードの一撃は先よりも遥かに速く、左腕で防ぐが叩き落とされる。
続けて放たれた突きは避け、転がりながら剣を回収。
即座に振り返れば、今まさに振り下ろされんとする両手剣。
立ち上がるには遅い、転がるにも同様、ならばと剣を盾にと掲げる。
響く甲高い金属音――飛び散る刃の破片、続いて感じるのは熱、左の肩から腹部まで、直線で感じる痛み。
――切られた。
行動は思考よりも速く、バランスを崩しながらも後ろに跳ぶ。
立ち上がろうとするが、力が上手く入らない――近寄ってくるゴブリンロード。
「――
無意識の呟きと共に俺の意識は暗転した。
続く。