──人が次第に朽ちてゆくように国もいずれは滅びゆく運命にある。
1000年栄えた帝都ですらも今や過去の栄光、腐敗しきった生き地獄……人の形をした悪魔や怪物共が息をする事と同じような感覚で簡単に、無慈悲に弱者を虐げ蹂躙する腐った国へと姿を変えていた。
弱者は願う、どうか助けと。
弱者は求む、この外道達を裁く者を。
そして、立ち上がった者達がいた──。
帝歴1024年──。
深夜0時を回り月が真上に達し大地を照らし、人々が眠りについていたまさにその時。
帝都のとある大富豪の邸宅ではこの世のものとは思えない凄惨な光景が広がり、その場にいる者全てを恐怖に震え上がらせていた。
「で、デタラメ過ぎるだろ、コレ……」
男の足元と周りには先程まで共に酒を酌み交わし、語らい合っていた仲間達の成れの果てが転がっていた。
突然の急襲、しかも“1人”の人物によってだ。
当然ながら男達護衛はこれを退ける又は討ち取るために襲ってきた人物へ挑む。
……だが相対して1分、たった1分で30人はいた護衛の男達は、今呆然と立ち尽くす者以外を残して人の形をした肉の塊と化してしまった。
「な、何なんだお前は!“ナイトレイド”の者か!」
「…………」
男は震えながらも仲間達を屠った人物へと叫ぶ。
その人物は全身を白銀と金色の鎧で身を包んでおり、その素性はおろか性別も分からなかった。
だが明らかなのはその鎧の人物が両手に持つ巨大な二挺拳銃によって仲間が殺された事、自分と自分の仕える主人の敵という事のみ。
「う、うおおぉぉぉぉっ!死んでたまるかぁぁぁぁっ!」
男は右手に持っていた長剣を両手でしっかりと握りしめ、雄叫びをあげながら鎧の人物へと突進していく。
「…………」
だが男が長剣を間合いに入る前に鎧の人物は両手の巨大な二挺拳銃を構えると、2つの銃口から青色の輝きを持つ銃弾が放たれる。
放たれた4発のうち2発の銃弾は男が持っていた長剣を打ち砕き、残り2発は男の心臓と眉間を正確に撃ち抜いた。
ゆっくりと前のめりに崩れゆく男。
ほぼ即死、痛みも感じる事もなく、苦しむ事もなく男は逝った。
「あ、あぁ……。そんな……」
最後の護衛が殺された所を見たこの家の主人はあまりの恐怖に腰を抜かし、その場から逃げ出す事ができなかった。
鎧の人物はゆっくりと主人へと近付いていく。
手には二挺拳銃はなく、全長約3m近くはあるであろう巨大な片刃の大剣が握られている。
「か、金か!?金なら山ほどある!だからこ、こ、殺さないで──」
風切り音と共に主人の体に4本の切れ目が横と斜めに入ったかと思えば、ずるずるとゆっくりずれていき、最後には血を吹き出しながら崩れ落ちていく。
吹き出した血が鎧に飛び散り、不気味に月明かりに照らされたその姿はまさに獲物を喰らう狼のようであった──。
◇◆◇◆
──翌日。
「おい、また大富豪の1人が殺られたらしいぞ」
「知ってる知ってる!ゾート家だろ?噂じゃ裏でろくでもない事してたらしいぞ……」
帝都では既に大富豪のゾートが殺された話で持ちきりであった。
家に仕える護衛の緊急要請で帝国兵が駆けつけた時には既に遅く、護衛全員は愚かゾート本人もバラバラ死体となって発見された。
ゾートと護衛を殺した犯人の姿は無く追跡調査しようにも手がかりすら残ってないないのでお手上げ状態だ。
「“ナイトレイド”の仕業じゃないのか?」
「夜襲を仕掛けて金持ちや重役の人間ばかりを襲ってる殺し屋集団……ゾートが殺られたのも夜だからな、あり得る話だな──ん?」
ヒソヒソと屋台のカウンターで話す男達の横にマントを羽織った1人の男が座る。
マントはボロボロ、口元をスカーフのようなもので隠しているのでよく見えないが、全身真っ黒でどこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「……おっちゃん、ランチ1つ」
「あいよ」
屋台の主人は男の注文を承り男に水の入ったコップを差し出してからフライパンを手にしてランチを作り始める。
注文をした男は口元のスカーフをずらしてコップの水を一気に飲み干す。
喉が渇いていたのか男はカウンターに置いていた水の入ったピッチャーを手に取り、空になったコップへ新たに水を注ぐ。
そして再びごくごくと喉を鳴らして飲み干した。
「あんた旅人かなんかか?」
先に座ってゾートの話をしていた男の1人がマントの男に話しかける。
よく見ればマントの男はまだ若く、男の見立てでは17か18歳くらいの少年に見えた。
「…………」
少年は話しかけてきた男達の方へ視線を移す。
無表情で見られた男達は一瞬たじろぐがすぐに言葉を続ける。
「いきなり声かけてすまなかったな。いやなに、見た目からして帝都の外から来た奴かなと思ってよ」
「……ハンターをしている」
「ハンター?危険種のか?」
「あぁ」
少年は短く答えると再びコップを口へと運び水を1口飲む。
「若いのにすごいな。それが本当なら何体くらいの危険種を狩ってきたんだ?」
「……覚えてない」
「はいよ、ランチセットおまちどおさま」
「どうも」
屋台の主人からランチセットを受け取り、少年は静かに食べ始める。
腹が減っていたのか料理を口へと運ぶスピードは速く、料理が出されてからわずか5分でぺろりとたいらげてしまった。
「……帝都の人間は表情が暗いな」
「え?あ、あぁ……何せ不景気な上に恐怖政治だからな。明るい表情で暮らせるのは大体金持ちで俺等一般市民は食っていくだけでやっとだしな」
「大きな声では言えないが、これは皇帝を陰で動かしている大臣のせいなんだ」
コソコソと少年と話す男達に店の主人も混ざり話し始めた。
「変な声出すなよ?守備兵に聞かれれば問答無用で打ち首だ。今の皇帝はまだ年端もいかない子供なんだがな、それを大臣のオネストがいいように操ってるのさ。だから正確には大臣がこの国を牛耳ってるようなもんさ」
男達の話を無言で聞きながら少年はコップに残っていた水を飲み干し、ランチのお代をカウンターに置く。
「……悪には悪を」
「え?なんか言ったか?」
「なんでもない。ごちそうさま、貴重な話ありがとう」
再びスカーフを口に巻いて少年は席を立ち、大通りの方へと歩き出し人混みに姿を消した。
「よく分からんやつだったな」
「あぁ。だが珍しくもないだろ、あーいう奴は」
再び飯を食い始める男達をよそに屋台の主人は少年が歩いていった大通りをじっと見つめていた。
(あの少年のマントにあった“狼のエンブレム”……どこかで)
場所と時間は変わり、マントの少年はまた別な飯屋に来ていた。
先程とは違いきちんとした佇まいのお店だ。
店に入ったのは閉店時間の1時間前で店内にいる客はまばら、そこでそわそわと誰かを待っているかのような少年がいた。
「お客さん方、そろそろ店じまいですぜ」
「あ、オレ人を待ってるんで」
そう店主に言ってもう少し待たせてもらえるように話すが、店員の次の言葉に人待ちの少年は絶句する。
「ありゃあんた、金持ち逃げされたんだよ。残念だけど」
「え!?」
「今の帝都で人をホイホイ信じるとはな。あんたバカでしょ」
「さ、サギじゃねーか!訴え出て──」
「無理無理。ってか、あんな話、騙される方が悪いって。あんなうまい話があるかよ普通」
さらに絶句する少年。
そこへ店主は追い討ちをかけるように飯代の書かれた紙を晒す。
「というかきちんと金は払えるんだろうね?払えないなら守備兵に突き出すよ?」
「え、えっと……」
ドサッ。
「え?」
少年のテーブルに金の入った麻袋が置かれる。
何事かと思い少年が見上げるとそこには、マントを羽織ったあの少年がいた。
「これで足りるだろ」
「あ、あぁ。まいどありー」
「じゃっ」
手をヒラヒラさせながらマントの少年は店から出ていく。
「ちょ、ちょっとあんた!待ってくれよ!」
血相を変えて少年は荷物をまとめて今しがた金を立て替えてくれたマントの少年の後を追う。
おーい!と大声で呼ばれマントの少年は立ち止まり、自分を呼んだ人物へ向き直る。
「なに?」
「いやなにって……。なんで金を払ってくれたんだ?そりゃ金がなくて困ってたけど……」
「……君、地方から帝都に出稼ぎか何かで来たんだろ?剣を携えているところを見ると軍に入隊希望な感じで」
「なっ!あのおっぱい──じゃなくて女と同じだ、帝都の人間は心を読む事ができるのか?」
「……?何を言ってるかは分からないが、金が払えなくて捕まって打ち首にはなりたくはないだろ?」
当たり前だ!と少年は食い付き剣を握って天を仰いだ。
「村を、皆を救うためにあいつらと切磋琢磨して帝都に来たんだ……。簡単に夢を終わらせるかよ」
「……なら、ちゃんと出世しないとな」
「あぁ。だけど今は金もないから今日は野宿だ。どこだって寝られる」
そう言って少年は近くにあった石橋の入口付近に座り、バックから厚手のコートを出して体に羽織った。
「そういえばまだ自己紹介してなかったな。オレはタツミ、よろしく」
「……ディセントだ、こちらこそ」
そう言ってディセントもタツミの隣に腰を下ろし、左腰に携えていた大太刀を外して左腕で抱え込むように持った。
「あんたも剣士なのか?変わった形の刀剣だけど」
「剣一筋って訳でもないけどな……」
「ふーん。他にもあるのか?」
「あぁ──」
「止めて!」
甲高い女性の声と共に目の前で馬車が1台止まる。
護衛が2人降りると、馬車から1人の少女が護衛の1人に支えられて降り、走ってこちらに近付いてきた。
高そうな服を着ている、どうやらお金持ちの家の娘らしい。
まず馬車に乗って護衛が同乗している時点で一般人ではないのだが。
「あ、あの……あなた達地方から来たんですか?」
「んぁ?あ、あぁ……そうだけど」
「……まぁ、似たようなもんだ」
それを聞いた少女はぱぁっと笑顔になり、凄いことをさらりと言い放った。
「もし泊まるアテがないんだったら、私の家に来ない?」
「「…………」」
ディセントはタツミの顔を見た。
明らかに疑ってますよ的な表情で少女を見上げている。
「オレ金持ってないぞ?」
「持ってたらこんな所で寝ないわね」
クスッと少女は笑う。
すると後ろにいた護衛の2人も近付いてきてディセントとタツミに向けて話し出した。
「アリアお嬢様はお前達のような奴を放ってはおけない性格でな」
「ここはお言葉に甘えておけよ、ここまで親切にしてくれる人なんて今の帝都に中々いないぞ?」
「もう、お世辞はやめてよっ。で、どうする2人とも?」
少し心配そうな表情を浮かべながらアリアがディセントとタツミの2人に訊ねる。
「……まぁ、野宿するよりはいいけどよ」
「……別にオレも行くあてないしな」
「なら決まりねっ!早く馬車に乗って、私の家はここからさほど離れてないから」
そう言ってアリアは満面の笑みを浮かべながら2人の手を引いて自分の乗ってきた馬車に乗せる。
「良かったなディセント!オレ達は運に恵まれてるぞ!」
「……そうだな。とてもツイてる……とてもな」
その時、ディセントが大太刀の収まる鞘を強く握りしめた事を隣にいるタツミはおろか、向かいに座るアリアと馬の手綱を引く護衛2人は知るよしもなかった……。
◇◆◇◆
場所は変わり、ディセントとタツミはアリアに連れられて彼女の屋敷に来ていた。
屋敷はとても大きな豪邸で中も高そうな壺や絵画が飾られ、とても広くこれぞお金持ち!という感じだ。
「おぉっ、アリアがまた誰か連れて来たぞ」
「クセよねぇ。これで何人目かしら?」
アリアに通された大きな部屋ではアリアの父親と母親が2人で優雅にお茶を飲んでいた。
「タツミと言います!この度はお世話になります!」
「……ディセント。世話になる」
「こんな屋敷で良ければいくらでも泊まっていきなさい」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げるタツミに対してディセントは軽く会釈する程度だったが、アリアの父親は気にする事なく朗らかに微笑を浮かべている。
「あの……ついでに1つお願いしたい事があるんですが……」
そこでタツミは自分の事について語り始めた。
自分の生まれた村、その村を救うために帝都に来た事、軍に入隊して出世したい事、そして途中で離ればなれになってしまった仲間2人の事を。
「アイツ等強いんで心配はしてないんですけど、イエヤスって奴がどうしようもないくらい方向音痴で帝都まで無事に辿り着けるか心配で……」
それを聞いたアリア父はパンと手を叩き、タツミに嬉しい案を出してきた。
「よかろう!軍に知り合いがいるからその者に口添えしておこう。それとその2人の捜索もな!」
「あ、ありがとうございます!」
思いもよらない言葉にタツミは心からアリア父に感謝を述べ頭を深々と下げる。
それを隣で見ていたアリアはそっとタツミの手を握り笑みを浮かべた。
「アリアの勘って当たるんだけどね?タツミはきっと近いうちに2人に会えると思うよ」
「アリアさん……」
思わずタツミは赤く頬を染める。
その横でディセントは1人出された紅茶を飲み茶菓子をつまんでいる。
「そういえばディセント君、君はなぜ帝都に?タツミ君の話に夢中で聞いていなかったな」
いきなり話を振られて少しディセントは固まるが口に含んでいた紅茶をごくん、と胃に流し込みマグカップをテーブルに置いて改めて口を開いた。
「……オレは依頼された危険種を討伐して生計を立てている。帝都に来れば危険種の情報が沢山入ってくると思ってな……特にタチの悪い危険種なんかは、な」
「なるほど、確かに危険種の情報は帝都には沢山入ってくる。良かろう、こっちも軍の知り合いに口添えしておこう。危険種は軍でも討伐の対象だからな、君のような専門のハンターが部隊に加われば心強い事この上ないだろう」
「……助かる」
「何の何の。年寄りは若い者の力になってやらねばな」
朗らかに笑いながらアリア父は紅茶を飲み干し、座っていたソファーから立ち上がる。
「ではこの辺にして皆休もうか」
「あ、あの!」
するとタツミもソファーから立ち上がりアリア父に訊ねる。
「なんだね?」
「ここにいる間、オレに手伝える事ってありませんか?」
すると隣にいたアリアが閃いたように手を叩き、タツミに1つの提案をする。
「あっ!ならアリアの護衛をしてよ、他の人と一緒にさ!」
「それはいい。ガウリ君、頼んだよ!」
アリアの背後にいた護衛の1人──ガウリと呼ばれた男はこくんと頷く。
「……分かりました」
「ディセントくん、君はどうするかね?」
「……オレはオレで帝都にある危険種の情報を調べたい。単独で動かせてもらうがいいか?」
「あぁ、構わんよ」
「私は全然大丈夫よ!」
「……感謝する」
「ではアリア、2人を寝室へ案内してあげなさい」
「はい、お父様!」
そしてすぐに2人はアリアの案内で今夜から泊まる寝室へと通される。
寝室はちょうど2人部屋でかなり広い、ベッドで寝なくても雑魚寝であと5人くらいは余裕で横になれる。
「いやー、今日はついてるぜ!最後の最後に良い人達に助けられた!」
ごろんとふかふかのベッドに入りながらタツミは窓の外の風景を眺める。
「サヨとイエヤス、もう帝都に入ってるかな……?無事だといいけど」
「……気ぃ揉んでも何も始まらないぞ。口動よりも行動だ」
ディセントはベッドに座ると両腰に装着していた二挺拳銃とそのホルスターを枕元に置き、左腰に差していた大太刀を壁に立て掛けた。
「うん、分かってる」
「後悔のないようにしろよ……」
──翌日。
タツミはガウリ他数名と共にアリアの護衛のために街へ、ディセントは1人危険種の情報を集めるために軍の関係所へ赴いている……はずだった。
「…………」
ディセントはまだ屋敷内にいた。
しかも屋敷内にいる使用人や警護の者に見つからないように、隠れながら何かを探っているようだ。
「……ここじゃない」
様々な部屋を開け、首を振り再び別な部屋を開ける。そんな行動を繰り返しているうちに、いつの間にか外に出ていた。
そこは丁度屋敷の裏のようで後方にはそこそこ大きな倉庫が建っており、どこか怪しげな雰囲気を放っている。
「…………」
周りを警戒しながらディセントは足音を立てずに倉庫に早足で近寄る。
倉庫の扉には南京錠がかけてあり鍵無しでは開かないようにしてあるが、ディセントは懐から細長い器具を取り出し、鍵穴へ差し込む。
差し込んでわずか10秒程でカシャンと音を立て南京錠は解除され、ディセントはゆっくりと禁断の扉を開けた。
「……ビンゴ……!」
◇◆◇◆
時刻は変わり深夜。
満月がちょうど空のてっぺんに昇る時、屋敷内を1人歩く女性がいた。
アリアの母、彼女はニコニコとしながら右手に日記帳を持ってどこかに向かっていた。
「さぁて……今日も日記をつけようかしら。ふふっ、やめられないわねこの趣味は──」
──じゃこん。
急に体が浮くような感覚をアリア母は覚える。
腕の感覚がない、腰から下の感覚もない……。
気付けば目の前には自分の“腰から下”が上下逆さまで立っている。
それが自分のものだと気付く頃には彼女は絶命していた……。
切断された下半身と上半身から血が吹き出し、力なく下半身が崩れ落ちる。
彼女が死んだ事を確認すると背後にいた“女性”はペコリと頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
「すみません」
「──!!」
ベッドでぐっすりと寝ていたタツミはカッと目を見開き勢いよく起き上がる。
「なんだ……?殺気!?」
すぐさまタツミは自身の剣を握りしめベッドから出ると、寝ているはずのディセントのベッドへ向かった。
「ディセント起きろ!何者かが屋敷に──あれ?」
だがディセントの寝ていたベッドは裳抜けの殻、彼自身はおろか彼の身に付けていた二挺拳銃と大太刀すら見当たらない。
「こんな時アイツどこ行ったんだよ!」
タツミは1人急いで部屋から出て自分の守るべき人間であるアリアの元へ向かう。
タツミの脳裏には日中共にいたガウリの言葉が再生されていた。
“帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ……。帝都の重役達や富裕層の人間が命を狙われて──”
「まさか……!」
ふと窓の外を見るとタツミは足を止めた。
それもそのはずだ、何故ならその
「富裕層だからってここも狙うのかよ!」
窓の外を改めて見るとガウリ達護衛3人が慌てて出ていく様子が見えた。
そしてその3人の前に1人の黒髪の少女と鎧を身に纏った者が立ちはだかる。
3人は雄叫びをあげながらナイトレイドの2人へ攻撃をしかける──だが。
「葬る」
スパァァンッ!
護衛達の攻撃が届くよりも先に、瞬速で少女は抜刀しガウリの喉を切りつける。
そして鎧の方も手にしていた巨大な槍でアックスを持った巨漢の護衛の体を貫き、一発で絶命させる。
「心根も……腐っていた自分には……当然の……報いか──」
斬られた首から呪詛の文字がガウリの体を這いずり、そのまま彼は前のめりに倒れ絶命した。
その様子を見て怖じけずいた手斧の護衛は逃げようと2人に背を向けて走り出すが、空中にいたナイトレイドのスナイパーによって頭を射抜かれ倒れる。
……護衛全員、一瞬で全滅である。
「クソッ!せめて、せめてアリアさんを守らないと!」
タツミはアリアを守るために走り出し、彼女がいる部屋へと向かった──。
「──さすがナイトレイド。この短時間で対象を5人抹殺するとは……。さて、こちらも動くか……」
◇◆◇◆
「──アリアさん!」
「タツミ!!」
肩で息をしながらもタツミはようやくアリアと彼女の護衛3人を見つけ出した。
場所は屋敷の裏にある“離れの倉庫”の前だ。
「丁度良いところに来たな!オレ達は倉庫に逃げて警備兵が来るのを待つ!その間に敵を食い止めてくれ!!」
突然の護衛からの言葉に思わずタツミは耳を疑う。
「そ、それはいくらなんでも無茶──」
苦茶だ、そう言いかけた時だ。
タツミの後ろにガウリ達を葬った黒髪の少女が空中から降りてきたのだ。
「クソッ!こうなったらやるしかねぇ!」
少女がこちらに向かって走り出した事でタツミは覚悟を決めて背に携えていた剣を抜く。
だが少女はタツミと剣を交えるどころか、その刀すら抜いていない。
「……標的ではない」
そう短く呟き少女は跳躍し、タツミの肩を踏み台にしてさらに跳躍した。
「お、オレを踏み台にした!?」
少女はまっすぐ護衛とアリアの方へ走り、刀を抜刀した。
「クソッ!こっち来たぁぁぁ!!」
護衛の1人がマシンガンを放つがそれを少女は意図も簡単に全て避け、右薙ぎの斬撃で護衛の1人を一刀両断した。
「クソッ!」
アリアの隣にいた護衛の1人が少女の頭に向けてマシンガンを向ける。
「葬──」
少女が刀を構え言いかけたその時──。
ガァァンッ!
1発の銃声と共に今しがた少女に銃口を向けていた護衛の頭が文字通り吹き飛んだ。
首からは大量の血が溢れだし、隣にいたアリアを真っ赤に染め上げる。
「な、なに……?」
「……誰だ」
少女はアリアの遥か後方へと視線を移し、刀を構える。
少女の視線の先、タツミも見ると人の気配がした。
森と頭上の雲影になって姿が見えなかったが、その雲が動き、月明かりがゆっくりと森を照らし始める。
そして、ゆっくりと月明かりに照らされて現れたのは……。
「……え?」
「……金色の……鎧?」
神々しく煌めく金色と白銀に輝く鎧が、そこにはいた……。