静かにそれぞれの武器を構えて対峙する3人。
だがその均衡を最初に破ったのはクレイオルの笑い声だった。
「クックックッ……アハハハハ!殺す?君が?この僕を?忘れたのかい?部隊にいた頃、僕は君より強かったんだ。それは今でも変わらない」
「相変わらずの自惚れっぷりですね、その様子だとまだ童○を卒業してないと見ました」
カチン。
目元をひくつかせ、顔を真っ赤にしながらクレイオルは短剣──スターライトをレイルへと向ける。
どうやら図星だったようだ。
「一々癪に触るんだよ……このビッチが!!」
クレイオルがスターライトを振る。
すると先程と同様に光の剣が出現しまっすぐレイルに向かって放たれた。
「あら?ビンゴでしたか。いつまでも成長しない男は……消えるがいいですよ」
レイルの眼差しが今までと一変し冷たいものになる。
向かってくる光の剣を全て回避するとレイルは右手の剣を前に突き出し呟いた。
「──ルストハリケーン」
突き出された剣の切っ先に風が集まりだし勢いを増しながらぐるぐると螺旋を描く。
そしてレイルが真横へ振り切ると、集束された風は渦を巻きながら高速でクレイオルへと向かっていく。
「こんな風ごときに!ライトシューター!」
クレイオルは負けじと光の剣と球を向かってくる高速回転する風へ向けて放つが、あまりの回転速度でクレイオルの攻撃は弾かれてしまった。
「なにっ!くっ!」
上空へと跳躍しクレイオルはレイルの攻撃を回避、真下へライトシューターを放ってその爆風を利用し着地した。
「どんな気分ですか?格下と罵っていたビッチが自分より強いって」
レイルは自身の帝具──ルストヴァルスの刃に風と酸を纏わせ、ロングブレード大の真空と酸の刃を形成する。
かつての仲間にレイルは一切躊躇せず突進し、踊るように双剣の演舞をクレイオルへ叩き込んでいく。
それをクレイオルはスターライトの刀身に光を集束させ、エネルギー刃の剣にしてレイルの攻撃を凌いでいた。
「隊長を裏切った罪、その身をもって償って頂くですよ!」
「裏切ったのはお前達の方だ!くだらない正義感等抱かずに大人しく大臣の命令を聞いていれば良いものを!あまつさえその男は
怒りに満ちた表情を浮かべながらクレイオルは叫ぶ。
そして一瞬の隙を突いてレイルの脇腹へ左手の拳を放った。
「うぐっ!」
あまりの激痛にレイルは顔を歪め双剣の乱舞も止まる。
そのチャンスを見逃さずクレイオルはレイルの頭にエネルギー刃の切っ先を向け、突きを放った──が。
ギャリィィンッ!!
突如2人の間に光る鎖で繋がれた巨大な分割された刀身が割り込み、クレイオルがレイルに放った突きを完全に受け止めていた。
「これは……!」
クレイオルは連結刃の出所を睨み付ける。
睨み付ける先には白銀と金色の鎧──エクセリオンを纏ったディセントがいた。
「……“ファング”じゃない。なんだこの奇怪な剣は」
「グレイプニルだ、覚えておけ」
「……ちっ。1対2ですか、これは分が悪いですね」
クレイオルは後方へと跳躍しディセントとレイルから距離を取った。
どうやら退却しようとしているらしいがそれを許す2人ではない。
「逃がすとでも思ってるですか?」
「お前には訊きたいことが山程ある」
「ま、そうなるよね。でもね、僕はまだ死ぬ気はないんだよ……ね!」
クレイオルは自分の前に1つの光の球を浮かべる。
その刹那光の球は炸裂し目映い閃光が辺りを支配した。
「閃光弾!?」
「逃げる時の常套手段でしょ。それじゃ、次会ったときは殺すから」
目を閃光弾でやられている2人を尻目にクレイドルは背を向け、手をヒラヒラとさせながらこの場を離脱した。
閃光がおさまる頃にはクレイオルの姿はどこにもなく、残されたディセントとレイルは互いに武装を解除し改めて対峙した。
「お久しぶりです隊長。お元気そうで何よりです」
「……レイルもよく生きていた。それとオレはもう部隊の隊長ではない、ただの指名手配犯だ」
「いえ、私の中では隊長は隊長です。だからこうして馳せ参じたのですよ」
するとレイルはルストヴァルスを腰に携えるとその場に片膝と左拳をつき頭を下げた。
「レイル・ロード、隊長の指揮下に復帰したく思います。どうかご命令を」
「……レイル、復帰を許可する。だが無茶はするなよ、死ぬな」
「はい!隊長~、会いたかったですよ~!」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべながらレイルは思わずディセントに抱きついてしまう。
だがすぐに我に帰り自分のしている事に気付いたレイルは慌てながらディセントから離れた。
「し、失礼しました隊長!う、嬉しさのあまりつい……」
「変わらないな、お前は」
少し困った表情を浮かべながらもディセントはわしゃわしゃとレイルの頭を撫でる。
対してレイルは少し顔を赤くしながら昔から変わらないディセントの手の温もりに懐かしさと嬉しさを噛み締めていた。
「お、終わった……?」
と、そこへ今まで隠れていたスピアがガサガサと草木をかき分けて現れた。
ディセント1人だと思ってたとこに見知らぬ女の子がいるこの状況、スピアは訝しげにディセントに問う。
「ディセント殿、その者は誰だ?」
「元部下だ」
「んなあっさり!」
しれっとした感じで返答したディセントにスピアは思わず躓きそうになるが何とか踏ん張り、頭を撫でられていたレイルへ視線を移す。
自分に対して疑問の眼差しを向けているスピアにレイルは、右手拳を左胸に置いたかつて部隊で使われていた敬礼の姿勢を取り、自分の自己紹介を始めた。
「はじめまして!元特殊戦闘部隊シュヴァルツェア・ヴォルフ所属帝具使い、レイル・ロードと申します!この度隊長の指揮下に復帰しました、よろしくお願いしますです」
これはどうもご丁寧にと言わんばかりにスピアも頭を下げて自己紹介を始める。
「元大臣チョウリの娘、スピアだ。訳あってディセント殿と行動を共にしている。そういえばレイル殿、先程帝具使いとか言っていたが……」
「はい。『殲風双破ルストヴァルス』それが私の帝具です」
そう言いながらレイルは携えていた双剣──ルストヴァルスを抜刀しスピアに見せた。
2本とも根元が折れ曲がったサバイバルナイフのような形をした左右対象の異形な形状であり、大きさ的にはブッシュナイフ並だ。
「これが帝具か……ディセント殿のエクセリオン以外の帝具を見るのは初めてだな」
「私のルストヴァルスは扱いやすいですけど隊長のエクセリオンは非常に扱いが難しいんです。只でさえ鎧型は肉体への負担が大きい上、エクセリオンは適合者以外が装着すると文字通り“捕食”してしまうんです」
レイルの説明にスピアは背中に嫌な汗が流れたのを感じた。
「……エクセリオンを装着した瞬間、鎧自体が装着者を吸収してしまうんだ。……オレが適合者として選ばれるまでに何人もの人間がエクセリオンに喰われたと聞いている」
「ちょ……それかなり危険なんじゃ」
「そうですね。まぁ使われてる素材も素材ですし──」
「レイル、それ以上は話すな」
ごすっ、とレイルの頭にディセントのチョップが炸裂する。
痛がるレイル、プルプルと体を震わすが痛みからくるものではない。
「~~~~~っ!これですよこれっ!懐かしいですね~、部隊にいた頃はこうやってよくツッコミされてましたね~!」
「え、あなたたちってそういう……」
いけない妄想を膨らましあからさまに引いている表情をスピアは見せる。
だがそれをディセントは嫌に冷静に手を横に振って否定した。
「それは絶対にない」
「……ちょっとは慌てたりたじろぐとかしたらどうですかあなたは」
「……何を期待していたんだお前は」
なぜかげんなりとするスピアにディセントは意味が分からないと首をかしげ、改めて自分達が向かう場所へと続く道の先を見据えた。
「……とにかく、一刻も早く帝都に到着しなくてはならない。
「それなら足を手に入れる必要がありますね。どこかで馬でもかっぱらいましょう」
「ぬ、盗むのか?」
「まさか、ちゃんと金は払う。危険種狩りで金はあるからな」
懐からじゃらじゃらと大量に金が入った袋を取り出しスピアに見せつける。
その量から3人分の馬を買う程度等問題ない事が窺える。
「なら急ごう。式典は明日なのだからな」
「あぁ」
「ですっ!」
──帝都近郊。
時刻は既に夜の21時を過ぎているが、大運河が横たわるこの街から灯りが消える事はない。
街道にはまだ沢山の人々が歩き露店や飲食店には、今日の仕事から解放された男達が酒を呑み料理を楽しんでいた。
沢山ある露店の1つにジョッキでエールを呑む1人の青年がいた。
筋肉隆々とまではいかないがその体は引き締まっており、着用している軍服の上からでも分かる程である。
「兵隊さんよ、あんたこんなとこで呑んでていいのか?仕事中じゃねーの?」
光輝く頭に手拭いをねじり鉢巻にし、白のTシャツを肩までたくしあげた筋肉隆々な露店の主が問う。
青年は喉を鳴らしながらジョッキのエールを呑み干し、上唇に白い髭を浮かべながら言った。
「別にいいんだよ、仕事なんて。仕事と言っても酔っ払いの相手や喧嘩の仲裁に入る程度、ここは帝都の中でも治安がいいからな」
「カッカッカッ!ちげぇねぇな!なら兄ちゃん、もっと呑んでおじさんの懐を暖めてくれや!」
「しゃーねーな。ならもう1杯もらおうか」
青年は主が注いだエールを再び呑みながら後方の大運河に浮かぶ巨大な船へと視線を移す。
(……さて、明日の式典には情報通り獣が
青年は自分の両手両足に装着されたガントレットと脚甲を撫で、皿に乗せられた牛肉の串焼きにかぶりついた。
(やれやれ、最近は諜報員として動いてたけど今回はそうもいかないみたいだな……なぁ、隊長さん?)
◇◆◇◆
──この大運河は全長約2500km、これを完成させるために帝国はおよそ100万人の民衆を動員し、わずか7年という短期間で完成させた。
必然的に民への負担は大きく帝国への不満はさらに高まった。
しかし、長い目で見ればこの大運河は他国との流通の動脈として間違いなく機能する。
帝国の良識派はその発展に力を注いでいたのであった。
そして、皇帝が巡幸で使用する巨大豪華客船『竜船』の完成セレモニーもその一環であった。
「お、大きいな……まるで砦や城のようだ」
「です~……」
竜船を見上げながらスピアとレイルは呆気に取られていた。
その隣ではディセントがサングラスをかけ手に持っている手帳のようなものを確認している。
「ディセント殿、それは?」
「情報屋に作らせたオレ達の偽の身分証明書と乗船チケットだ。オレはこの港町を管轄する帝国軍人の幹部、お前達はその部下という事になっている。偽者だとボロが出ないように気をつけろ……」
2人にしか聞こえない口調でディセントは話す。
ディセントから偽の身分証明書と乗船チケットを受け取り、その出来栄えにレイルは声を漏らした。
「ほぇ~……どっからどう見ても本物にしか見えないですよ。その情報屋さんって何者ですか?」
「……会えば分かるさ。そいつも竜船のセレモニーに出席するからな」
誰だろうと頭を捻るレイル、だが皆目検討がつかない。
仕方ないのでレイルは考えるのをやめて今回の作戦についてディセントに問う。
「今回のターゲットはエスデス将軍の部下の三獣士の抹殺で間違いないんですよね?」
「あぁ、それと情報ではナイトレイド側からも潜入してる者がいるそうだ。三獣士のターゲットである良識派の守護と三獣士暗殺のためにな」
「ナイトレイドが?同じ目的なら下手に手を出さない方がいいですね」
「敵の敵は味方、という訳だな」
船員に乗船チケットと証明書を提示しディセント達は竜船に乗り込む。
まず最初の難問は難なくクリアできたという事だ。
潜入できた事に安堵しながらディセントはレイルとスピア達と共に用意された客室へと向かう。
客室は豪華客船というだけあってかなり広く、敷かれている絨毯からカーテンに至るまで全てが最高級ブランド物だ。
「うはぁ……さすが大金使っただけありますですね。こんなふかふかな布団、今までお目にかかった事ないですよ」
キングサイズはあろうベッドに腰掛けレイルはその肌触りを楽しみながら仰向けに寝そべる。
「……こんな部屋を用意させるなんて、偽装がバレたらどうするんだあいつは。牛裂きの刑どころじゃないぞ」
窓の外を見ながらディセントは思わずため息をついた。
それもそのはず、当初聞いていた話では用意される客室はここではなく、もっと簡素な作りのスタンダードクラスと呼ばれる客室だったのだ。
してやったりとにやつく提供元の男の表情が浮かびディセントは珍しく項垂れた。
「ディセント殿も項垂れる時があるのか……意外だ」
「部隊にいた頃はよく頭を抱えてましたですよ~。皆クセが強い人ばっかりだったですからね~」
「ほう。そう考えると今よりも感情が豊か──」
そこまで言ってスピアは口をつぐむ。
“シャーナメリアも可哀想に、こんな奴のために死んだなんてね”
“その男は親友だった副隊長を殺したんだぞ!”
あの時、自分達を襲ったクレイオルが言い放った言葉はどういう意味だろうか。
なぜシャーナメリアという女性は死んだのか、なぜディセントは副隊長を殺したのか……この男は本当に信用できる人物なのか。
疑いの念が出てきたところでスピアは頭を振り考えるのをやめた。
三獣士から命を救ってくれたのはディセント、傷を縫合し暗殺部隊やクレイオルからも守ってくれたのもディセント。
紛れもなくスピアにとってディセントは命の恩人だ、その恩人を疑う等失礼極まりない、とスピアは自分を叱咤し気持ちを切り替えた。
「さて、私達はどうすればいい?」
「……スピアとレイルはここで待機だ。スピアは三獣士に顔を知られているし、今は傷負いの身だ。レイルはスピアをそばで守ってやってくれ。それと……」
ディセントは刀袋に包まれた大太刀を肩から下ろすとそのままレイルに預ける。
そしていつものマントの代わりに羽織っていたコートを脱げばどこで手に入れたのか立派なタキシードを身につけており、その裏には上手い具合に革製のケースに収まるアスティオンとアクティオンがあった。
「さすがにコイツは目立ち過ぎる、お前が持っていてくれ。……銃声が2発分聞こえたら全速力で持ってこい、いいな」
「了解っ」
右手拳を左胸に添える敬礼をし、レイルは刀袋に入った大太刀を受け取るとそれを肩に担いだ。
……担いだはいいがあまりの長さと大きさに切っ先側が完全に絨毯に接し引きずっているのは言わずもがなである。
◇◆◇◆
「──見渡す限り、名うてな人物ばかりだな」
ワイングラスを片手にディセントは壁に背を預け、セレモニーに参加している面々を見渡した。
皆帝都や地方で有名な富豪や会社経営者、軍属の人物ばかりである。
チラッとディセントは奥にいる人物へと視線を移す。
真っ黒いスーツに身を固め、サングラスをかけたいかにもなガードマン達の中に1人、高そうなコートを羽織りカクテルをちびちびと飲む老人がいた。
この老人こそが帝都の良識派で大臣にとっての目障り、そして三獣士達が殺すターゲットの1人である。
(……プロの護衛達か、さすが放っているプレッシャーが違うな。普通の暗殺者相手なら実力も発揮できそうだが、今回の相手は分が悪すぎる)
1人分析をしているとサングラスの男が近付き、ディセント同様に壁に背を預け皿に盛られた料理をがつがつと食べ始めた。
「いやーさすがVIPが集まる船だけあって料理も絶品だなっ。美味すぎて胃袋が足りないぜ」
「……どういうつもりだ」
「なにが?」
ディセントの問いに男はニヤニヤとした笑みを浮かべながら聞き返す。
「……客室の事だ。あれではオレはともかくお前まで正体がバレるぞ」
「あれくらいちょろいもんだよ。元々出席する予定だった奴のとこに滑り込ませればいいだけだし。あぁ、そいつはオレ達でいうとこの
「まったく……相変わらずだな“クレイ”」
かけたサングラスをずらし、ニシシと男──クレイは笑う。
その笑みよりもディセントは右目から首まで達する縦一直線の傷を見て、不謹慎ではあるがどこか懐かしく思えた。
「しっかし、おかしな話だよな。3年前まで同じ隊ではあったけど解散後、今じゃあんたは帝国に追われる罪人、オレはその帝国軍人。なのにこうしてお互いに顔を合わせて前みたいに話してる」
「……今のお前も何かしら企んでるって事だろ?」
「あぁ、オレ1人では無理だ。立場は違えど狙う羊は同じだからな、協力しあっていこうじゃねーか。な、隊長」
そう言いながらクレイは懐からタバコを取り出し、口にくわえ火を付けた。
「吸うかい?」
「……あぁ、もらおう」
クレイからタバコをもらい、ディセントも同様に吸い始め、一緒のタイミングで吸い込んでいた煙を口から吐き出した。
「……それにしても、あの目立つ赤髪はどうした?染め直しでもしたか?」
隊にいた頃クレイは赤い髪の色をしていたが、今ディセントの目の前にいる彼の髪は赤ではなく紺色をしている。
ディセントの指摘にクレイは笑いながら髪の端を摘まんだ。
「ははっ、これはヅラさ。さすがに現役軍人且つ元
「……それもそうだな」
クレイからもらったタバコを吸い口から煙を吐き出しながら、ディセントは道中仲間だったクレイオルに襲われた事を伝えた。
クレイは吸いがらを海へと捨てると縁に寄りかかりながら頭をかいた。
「あのガキ……馬鹿だ馬鹿だと思ってちゃいたが、ここまで大馬鹿野郎だったとはな。まさか大臣の下につくたぁ考えたもんだ」
「……仮説ではあるが奴を刺客として送り込んだのはエスデスだろう。奴の性格なら自分が出向いて始末しに来ると思うんだが……」
「
「チッ、見くびられたものだな……」
短くなったタバコを最後に一吸いしクレイのように吸いがらを海へ捨てながら舌打ちをする。
その様子を見ていたクレイはディセントの背中を強めに何回か叩き、再びタバコを吸い始めた。
「ハッハッハッ!そう機嫌悪くするなよ、あの帝国最強の将軍がわざわざ探りを入れるほどだぜ?それだけ警戒するに値する男って事だろ」
「ふん……帝国最強だか知らんが大臣と手を組んでる以上、エスデスには大臣もろとも消えてもらう。大臣を殺しても奴の存在はあまりにも危険──」
危険だ、そう言おうとした時ふとどこからか笛の音が聴こえてきた。
辺りを見回してもオーケストラ等はもちろん、この笛を吹いている奏者も見つからない。
2人が不審に思っていると今まで甲板でセレモニーに参加していた客達が1人、また1人と無気力にその場に倒れはじめたのだ。
「こいつぁ……!」
「あぁ、間違いない……この音色、帝具……“軍楽夢想スクリーム”……!」
演奏を聴いた者の感情を自在に操るという笛の帝具。
生憎2人は部隊にいた頃にこのスクリームの音色を何度か聴いており、笛の曲への耐性は既に持っていた。
「まさか三獣士の1人がスクリームの所有者たぁ……前に持ってた女はどうし──」
「シッ、声を出すな。このスクリームを聴いて立ってる少年がいる」
「あん?」
身を屈めながらクレイはディセントの指差す方へと視線を移す。
そこにはフラフラとはいえ両足でしっかりと立ってるスーツを身に纏う少年──タツミがいた。
「クソッ……!一体どうしたんだよ!兄貴を呼ぼうにも体から力が抜けやがる!まさか……さっきから流れ続けるこの笛の音か……!」
音色を聴かまいと耳を塞ぐタツミだが帝具相手にそのような行動等無意味、いくら塞いでも音色は容赦なく耳に入りタツミの自由を奪っていく。
「あーっ。隠れてるのダルかった──おっ!この状況でまだ頑張ってる奴がいるじゃねーか」
するとタツミの背後から右肩を回しながら巨漢の男──ダイダラが現れ、ニヤニヤと笑みを浮かべながらタツミへと近付いていく。
「催眠にかかってりゃ記憶は曖昧、こいつらみたいになってりゃ生かしておいてやったもの……運がなかったながきんちょ」
「……って事は……てめぇが偽物のナイトレイドか」
「ほう!そっちは本物さんかい!こりゃいいや」
タツミがナイトレイドのメンバーであると知るや否やダイダラは近くに倒れていた護衛の1人から片手剣を奪い、それをタツミへと向かって投げ渡した。
このダイダラの行動にタツミも訝しげに片手剣を投げた本人へと訊く。
「なんのつもりだ?」
「俺はさ……戦って経験値が欲しいんだよ。最強になるためにな」
そう言いながらダイダラは背に携えた大斧──帝具ベルヴァークに手を伸ばし、両手でしっかりと保持し構えた。
「……あっそ。じゃあいい経験させてやる、地獄巡りだ!!」
タツミは片手剣を抜刀と同時に駆け出し跳躍、ダイダラの頭上へと飛び上がり剣を降り下ろそうと構える。
だがダイダラは避けようとも防ごうともせずに嬉々としてベルヴァークを頭上へと降り上げた。
「いいぜぇ!!その威勢の良さ!!すっげぇぶっ壊し甲斐がある!!!」
「!!」
背筋に冷たいものを感じたタツミは咄嗟に片手剣の構えをとき、右手で受けを取り後方へと退避する。
その瞬間、タツミが着地し受け身を取った場所へダイダラのベルヴァークが降り下ろされた。
大きな破壊音と共に降り下ろされた部分の甲板には巨大な穴が空き、宙を舞った破片がパラパラと落下していく。
あと一瞬でも反応が遅れていたら……と思うタツミ、彼の額からは嫌な汗が流れた。
「ほう?音にやられた体でよく避けたじゃねーか……だったら」
そう言いながらダイダラはベルヴァークを正面で持ち2本に分離させタツミへ向け投擲した。
「これはどうだオラァ!!」
「くっ!」
咄嗟に身を屈めタツミは投擲された片方のベルヴァークを避ける。
だがベルヴァークはありえないカーブを描き倒れていた客を甲板ごと切り裂きながらタツミへと迫った。
「なっ!!」
驚愕しつつもタツミは再び後方へと回避、真っ二つは避けられたものの腹部にベルヴァークの刃が掠り傷を負ってしまった。
「うぐっ!くそっ、演奏のせいで体が思うように動かねぇ……しかもこの斧、帝具だな!避けても避けても追ってきやがる!こうなったら!!」
何か決心したようにタツミはダイダラへと視線を向けると一目散に走り出した。
「てめぇにこいつを当ててやる!自滅しろ!!」
だが当のダイダラは馬鹿が、とでも嘲笑うかのように笑みを浮かべ、手元に残していたもう片方のベルヴァークを構えた。
「──ふん、お前の勝手だが……その前に右に避けろ……」
「え?」
その声にタツミは言われるがままに右へと避ける。
すると2発の銃声と共にタツミを追っていたベルヴァークが真上へと跳ね上がり、くるくると回りながら持ち主のダイダラへと戻った。
「……タツミ、相手は手慣れた様子で待ち構えていただろう。そこへ馬鹿正直に突っ込んでどうする」
「え、お前……ディセント!?」
まさかの再会に驚くタツミ。
一方のディセントは意に介さずゆっくりと立ち上がりダイダラと対峙する。
「てめぇ何モンだ?只の銃使いじゃあなさそうだな」
「あぁ」
「……ナジェンダの読みが当たったな」
すると船の中からズボンのポケットに手を入れながら1人の巨漢──ブラートが現れ、ゆっくりとした歩みでディセントの手前で止まった。
「……こうして顔を合わせるのは初めてだよな?
「あぁ、そうだな。ナイトレイド」
「……おいおいてめぇら。やけに元気だな……無気力化の演奏は船全体に響いていたはずだが……?」
突然現れた2人の珍客にダイダラは警戒しながら訊ねる。
当たり前だ、スクリームを聴いているのに目の前の2人はピンピンしているのだ。
「……スクリームは過去に聴いている。今更聴いてもオレにはただの笛の音だ」
「俺にも効かないぜ。俺の体に流れる熱い血はよ……他人に鎮められるモンじゃねーんだよ!」
ブラートはスクリームの耐性を持っていない。
故にブラートは自身の右足を剣で突き刺し、その痛みでスクリームの無気力化を阻止したのだ。
「お前らおもしれぇな。名を名乗りな」
「ナイトレイドのブラートだ。ハンサムって呼んでもいいぜ」
「……元シュヴァルツェア・ヴォルフ、ディセント。
「エスデス様の僕、三獣士ダイダラだ」
腰を落としダイダラは両手に持ったベルヴァークを構える。
どうやら二挺形態で戦う事にしたらしい。
すると竜船に一陣の風が吹いたかと思いきや、船の客室の窓を破り、ディセントの手元に大太刀が飛んできた。
それを見逃さずにディセントは左手で受け止め肩に担いだ。
「1つ訊くが
「無論だ。少なくとも背中くらいは預けられるぞ」
「上等。……タツミ、お前は俺の──いや、俺達の戦い方をしっかりと目に焼き付けとけ」
振り返らずにブラートはタツミに一言言うとディセントの背中を合わせるように立って右手を甲板に翳し、対するディセントは大太刀を鞘から抜刀し甲板に突き刺し互いに叫んだ。
「インクルシオオオォォォォォォ!!」
「エクセリオオオオォォォォォォン!!」
炎と突風が吹き荒れ互いの背に白と金色の鎧が現れ、体に装着されていく。
炎と突風が止む頃には2人は互いの帝具であるインクリシオとエクセリオンに身を包み威風堂々と立っていた。
「こいつはたっぷり経験値持ってそうだぜぇぇぇ!!」
ダイダラが駆け出すと同時に隠れていた残りの三獣士のニャウとリヴァが飛び出し、2人の頭上からダイダラと共に襲いかかった。
「兄……!!」
「……そっちは任せたぞハンサム」
「任せろ」
ほぼ同時、ディセントとブラートは三獣士達の真上へと飛び上がり、彼等の虚を突く。
呆気に取られて油断したところをブラートは見逃さず、最初にニャウを横殴りで吹き飛ばし、その反動を活かしてリヴァへ向けて捻りの加わった右足での回し蹴りを繰り出す。
「んな、馬鹿な──」
「死ね」
そしてディセントは両腰に携えていた深紅の大型銃──『ヴァナルガンド』を抜き放ち、至近距離で弾丸の乱舞をダイダラへと浴びせる。
防御する術もなくダイダラは放たれた無数の弾丸1発1発を体中に浴び、ベルヴァークを握った両手だけを残して爆ぜた。
「……!!!」
2人の圧倒的な強さに一部始終を見ていたタツミは声を出す事ができないくらい驚愕していた。
ナイトレイドに入ったタツミはブラートがどれ程強いのか知っていたつもりでいた、だが改めてその凄さを目の当たりに自分は何を見ていたんだと自問自答をしていた。
そしてもう1人、タツミがナイトレイドのへ入るきっかけを作ったエクセリオンがディセントであった事についても驚きを隠せないでいた。
「ふむ、即興だったがタイミングばっちりだったな!
「……そう言うお前もな。100人斬りのブラート」
「あ、兄貴ってめちゃくちゃ強いんだな!そんなあだ名まで持っててよ!」
「おうっ!あだ名はただの伊達や酔狂じゃあねぇぜっ──」
「正確には128人斬ったな」
第三者の声にブラート・タツミ・ディセントはその主の方へと向き直る。
視線の先には打ち付けられた壁からゆっくりと降り、こちらに向かって歩いてくる男──リヴァがいた。
「あの時は特殊工作員を相手に大活躍だったな。その帝具、その強さ、そして兵士時代のあだ名……やはりブラートだったか」
「リヴァ将軍……」
「なんだ、知り合いか……」
「兵士時代の俺の部隊の上官さ。大臣に貢がなかった事を理由に捕まっていたはずなんだが……」
「フッ、悪いがブラートよ。今の私はもう将軍ではない……エスデス様に救われてからはあの方の僕だ」
リヴァは感慨深そうに胸元の十字架のタイを触る。
「……味方なら再会を祝して酒でも飲んだろうが……敵として現れたなら斬るのみ!!任務は完遂する!!」
「こちらの台詞だブラート。絶対に任務は完遂する、主より授かったこの帝具でな。何より先日の任務を邪魔した
「ならその殺す役は僕にさせてよ?」
その声と共に上空から黄色いエネルギー弾がディセントへと向けて降り注ぐ。
だがディセントは一切避けようとはせずにヴァナルガンドを上空へ向け、迫り来るエネルギー弾全てを撃ち漏らさずに全てを撃ち落とした。
「……クレイオル」
竜船の艦橋の上にエネルギー弾を放った張本人の青年──クレイオルはいた。
その右手には帝具であるスターライトが握られており、彼の周りにはいくつもの光の玉が浮かんでいる。
「貴様……私の戦いに水を差すというのか」
「あっれー?いいのかな?僕は君達の主であるエスデス将軍からの命令でここに来てるのに。エクセリオンを殺せってさ。その主様の命令に逆らう気?」
「……っ!よかろう、エクセリオンの相手は貴様がやれ、私はブラートを斃す!」
クレイオルのあからさまな見下す態度に内心苛立ちながらもリヴァはぐっと堪え、目の前に立ち塞がるブラートを排除する事に気持ちを切り替える。
一方のクレイオルはリヴァの様子を見て内心嘲笑いながらスターライトの力で作った光のスロープを使い、滑りながらディセントの前で降り立った。
「やぁ裏切り者。約束通り殺しに来たよ?あのビッチもいないようだし、邪魔も入らずお前を殺せるってもんだ!」
高笑いしながらクレイオルはディセントを見下すが当のディセントは全く意に介していない。
これが気に入らなかったのかクレイオルは咳払いを1つすると、ディセントを囲むように光の玉をいくつも召喚した。
「……気に入らないんだよ。その僕を哀れむような目付きがさぁっ!!」
スターライトが降り下ろされ宙に浮いていた光の玉が一斉にディセントへと向けて放たれる。
轟音が響き煙が舞い上がるがディセントはいない、先程同様上空へと飛び上がり回避したのだ。
「馬鹿の一つ覚えが!上に避けるなんて予測済みだ!!」
スターライトの能力により形成された光の剣や槍が上空のディセントへと向けて放たれる。
空中に飛び上がっては隠れる場所はない、だが今のディセントには問題はないのだ。
「……ッ」
背中の装甲がメキメキと音を立てて広がれば、それはドラゴンや悪魔のような翼へと姿を変え、空中を縦横無尽に飛び回る。
様々な動きの飛び方に緩急をつけながらディセントは放たれる光の剣や槍、エネルギー弾を回避、時にはヴァナルガンドで撃ち落としていきながらクレイオルへと接近していく。
「くそっ!空を飛ぶなんて聞いてないぞ!あのアマ、この僕を当て馬にしやがったな!」
「ったく、変わらねぇな、そのツメが甘い所はよッ!!」
男の声、振り向こうとした瞬間背中に衝撃が走りクレイオルは吹き飛び、吹き飛んだ方向にあったワイン樽へと突っ込んだ。
激痛とワインの香りに頭をクラクラさせながらも睨めば、そこにはヤクザ蹴りの形で立っている変装したクレイの姿があった。
「貴様何者だッ!!」
激昂しながらクレイオルは右薙ぎにスターライトを振り半月状のエネルギー刃をクレイに向けて飛ばす。
「──シッ!!」
エネルギー刃が放たれたのと同時にクレイは低い体勢で飛び出し、たった1回の跳躍でクレイの懐まで迫った。
防御も反撃する隙もなくクレイオルは鳩尾にクレイの放った右ストレートを食らう。
「がはっ!?」
吐瀉物と血を口から吐き出しながらクレイオルは宙を舞う。
そこへ容赦なくディセントが腹に蹴りを繰り出し真下へと落とした。
「……様子見てるんじゃなかったのか」
「隙あらばってやつだよ」
クレイのマイペースぶりに少々頭を痛めるディセントだが、これは部隊にいた時から変わらないので何も言わない事にした。
視線を移すとブラート達の戦いも最終に近づいているようで互いに獲物を握って対峙していた。
お互いに満身創痍、ブラートに至ってはインクルシオは既に解除されている。
「お前が相手だからな、ドーピングをさせてもらうぞ」
そう言いながらリヴァは懐から注射器を取り出すと、右腕にドーピング剤を打ち込んだ。
「あ、兄貴!コイツなんかヤバイぞ──」
「他人の心配をしている暇があるのかい!!」
「ッ!!タツミッ!!」
ブラートは対峙するリヴァを無視しタツミの元に駆け出す。
腕を広げた瞬間、ブラートの背後からいくつもの剣と槍が突き刺さり、彼とタツミを真っ赤に染め上げた。
「がふっ……」
「あ、兄貴イイィィィィィッ!!」
ゆっくりと崩れ落ちるブラートにタツミは涙を浮かべパニックになりながら詰め寄る。
心臓は避けられてはいるが、右胸と腹部、手足を貫かれておりかなり重傷だ。
そしてブラートを仕留めた張本人──クレイオルは狂ったように笑いながらスターライトを振り回していた。
「アハハハハハハ!!油断したなぁナイトレイド!!まさかそっちのガキには手を出さないとでも思っていたのか?」
「クレイオル!!貴様──」
「うるせーんだよ老害がぁ!!」
半ば逆ギレな状態でクレイオルはリヴァへと向けて光の槍を放つ。
体がボロボロなリヴァは為す術もなく槍を一身に受け、壁に貼り付けられた。
「ごぁっ……き、貴様……こんな……」
「リヴァ!お前よくもリヴァを……その眼鏡ごと頭割ってやる!!」
激昂したニャウはスクリームの奥の手『鬼人招来』を使おうとスクリームを構えるも、肝心のスクリームが──否、腕が見当たらない。
「ぼ、僕の腕があぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ショックと激痛でニャウは発狂しその場にのたうち回るが、クレイオルが召喚した光の剣で眉間を貫かれ絶命した。
「クレイオルてめぇ……」
「はっ!見ず知らずの男に、しかも裏切り者の肩を持つようなクズに言われる筋合いはない!」
目の前の青年がかつての仲間だと気付けないほどにクレイオルは頭に血が上りすぎていた。
せっかく部隊から解放され大臣に仕える事で自分の欲求を満たしてきた、帝具を与えられかつて無かった力を手に入れた。
なのにここへ来て最大の障害が現れた。
手に入れた帝具の力に慢心し戦った結果、突き付けられたのは圧倒的なまでの強さと敗北。
プライドはずたずたに引き裂かれ今のクレイオルは1つの感情、憎しみで溢れていた。
「憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!お前が!ナイトレイドが!エスデスが!全部憎い!てめぇらまとめて僕が地獄へ送ってやる!!」
クレイオルはそう叫びながらスターライトで己の腕を斬りつける。
するとスターライトはクレイオルの血を吸い真っ赤に輝きだしたかと思えば、空中に赤い魔方陣が浮かび上がった。
その魔方陣の中央へ向けクレイオルはスターライトの切っ先を向ける。
魔方陣は切っ先が向けられると回転をし始めバチバチとエネルギーが集束されて巨大な球体になった。
「お前達に正義の裁きを下す──死だ」
「あいつ……奥の手出してでもオレ達を殺す気かよ!!」
「……結局はその程度だったという事だ」
ディセントはクレイやタツミ達の前に立ちエクセリオンの副武装である大剣『グレイプニル』を右手に召喚する。
「ならば……せめてもの情けだ、オレが直々に殺してやる」
「はっ!!灰塵となれ
刹那、目映い閃光と共に真っ赤なエネルギー集束砲がディセント達へと向けて放たれる。
逃げる術はない、防ぐ術もない──なら?
「たたっ斬るまでだ」
ディセントはグレイプニルの柄を両手でしっかりと構え、迫り来るエネルギー体へ向けて頭上から振り下ろし、文字通り一刀両断した。
「な、なんだと……!?」
クレイオルを含めその場にいた全員が今起きている光景に目を疑った。
それもそうだ、いくら帝具とはいえ何倍もの質量を持つエネルギー体をたった一振りで一刀両断にしてしまったのだから。
「な、なんだってんだ……!分からない、なぜお前は帝国に楯突くんだ!栄誉も富も名声も手に入れられるのに!!」
更にクレイオルは追い討ちをかけるように再び光の玉を作り出す。
「──神に会うては神を斬り」
上空へと飛び上がりディセントはグレイプニルを構える。
「悪魔に会うてはその悪魔をも撃つ」
そしてクレイオルのエネルギー弾の攻撃を全て避けながら滑空していく。
「戦いたいから戦い、潰したいから潰す」
右手で持っていたグレイプニルをもう一度両手で握り直し頭上へと振り上げる。
「オレに大義名分などないッ!!!」
「くっそおおぉぉぉがあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
断末魔の叫びと共にクレイオルは無慈悲に頭上から振り下ろされたグレイプニルにより、一刀両断されその衝撃により体を撒き散らしながら絶命した。
「……オレが地獄だ」
エクセリオンを解除しディセントはクレイオル
膝をつきディセントはタツミの足元で倒れているブラートの首筋に手を置き脈を確認する。
「お、おい……」
「……安心しろ、まだ息はある。傷は酷いが幸い心臓にも急所も外れている」
「じゃあ……!」
「あぁ、こいつは助かる。とりあえずはこの船から抜け出さないと始まらん」
だがディセントは言葉とは違い壁の下で倒れていたリヴァの元へ向かった。
ブラートと違い致命傷、もう虫の息だった。
「……残念だ……エスデス様の任務すら……完遂できず……ブラートもこの手で……仕留められんとは……」
虚ろな目でリヴァはディセントを見つめる。
「見事だ……
「……善処しよう」
「……あぁ……ありが……と……う……」
ゆっくりと目を閉じリヴァは穏やかな表情のままその人生に幕をおろした。
その後ディセントは隠れていたスピアとレイルを甲板に呼び、脱出用のボート回収した帝具とレイルやタツミ達を乗せた。
「お前はどうする?」
気になってディセントはクレイに訊ねるがクレイは横に首を振り、タバコを吸い始めた。
「オレはいい。表ではオレとあんたは敵同士、色々とリスクが高い。それに、情報を伝えられなくなるからな。こっちは任せて早く行きな」
「……分かった」
ディセントはボートに太めの縄を数ヶ所にくくりつけると再びエクセリオンを纏い翼を広げた。
「え、ディセント殿?」
「飛ぶぞ、しばらく空の旅だ」
そう言ってディセントは縄を持ち宙に浮かべば軽々とボートを持ち上げ、あろう事かそのまま翼をはためかせて飛び始めたのだ。
「ちょ、えっ!?空!空飛んでるぅぅぅぅっ!!」
「た、高いです~……」
「……さてタツミ、道案内頼むぞ」
「え、道案内?」
始めての空を飛ぶという体験に不謹慎ではあるが興奮しているタツミ、最初ディセントが何を言ったか分からなかったが次の言葉でようやく理解した。
「……お前達、ナイトレイドのアジトだ」