「──隊長、魚釣れたですかー?」
「……ぼちぼちだな」
川岸の岩の上で魚を釣っていたディセントにレイルが訊ねた。
ディセントの傍らに置いてある数個のバケツには魚が山積みに積まれていた。
あれから約1週間、ディセント達はタツミとブラートの本拠地であるナイトレイドに厄介になっていた。
いくら共に大臣を抹殺するという目的があるとはいえ、かつて帝国で伝説を誇ったガン・スイーパーがその人なのだから革命軍側としては油断ならない。
故に革命軍はナイトレイドにディセント達を監視するように命令を出したのだ。
当然ながらこの事はナイトレイドのボス、ナジェンダから直接伝えられディセント達も承諾している。
むしろ監視の件についてはディセントからの提案であり、その代わり協力者としてナイトレイドのアジトに厄介になる事を条件とした。
行動に監視はつくものの、捕虜ではなく協力者、もしくは居候としての扱いなため3人は自由気ままに過ごしていた。
「とりあえずは今夜の晩御飯分の魚は取れたさ。そこにいる大食らい娘に足りるかどうかだがな」
そう言いながらディセントは横目で後方の森へと視線を移す。
すると手前の木の影から1人の少女──アカメが姿を現し、無表情だがどこか嬉しそうに右手でサムズアップした。
「問題ない、十分だ」
「相変わらずの食欲ですねー」
「ちなみに、そこの山盛りバケツはアカメのだ」
「なんとっ!?」
どこか古くさいリアクションを取るレイルを尻目にディセントはアカメに1つ質問を投げ掛けた。
「アカメ、スピアはどうしてる?」
「タツミやラバック達と鍛練をしている。腹の傷が開かない程度にな」
「そうか、ブラートは?」
「タツミ達の鍛練を見ている。まだ満足に動けないから車イスに座っての指導だけど」
「そうか……」
──1週間前。
「──久しぶりだなアカメ」
「……やはり、お前なのだな」
あの日の夜、ディセントはアカメに呼び出されアジト屋上に2人でいた。
重傷を負ったブラートやタツミ達を送り届けたディセントやレイル達は当然ながら最初は警戒された。
だがブラートを助け、三獣士を共に斃したという事から拘束はされず、こうしてアカメと2人きりでいられるのだ。
「あぁ。ただ、昔と違うのは今は“ディセント”と名乗っているとこだな」
「それが今のお前の名か。……ディセント、ブラートとタツミを救ってくれてありがとう。ディセントには感謝しても感謝しきれない」
深く頭を下げてアカメはディセントに礼を言う。
一方のディセントは懐からタバコを取り出し、ナジェンダのようにふかし始めた。
「気にするな。救える命は救う、それだけの事だ」
「……何か目的があって私達の所へ来たのではないか?でなければわざわざ2人を送り届ける事もないはずだ」
「目的、ね……強いて言うなら協力関係とでも言っておこうか」
口から煙を吐きながらディセントは続ける。
「……オレとレイル、帝具使いとして力を貸す代わりにしばらくここを活用したい。もちろん監視はつけてくれても構わない」
「ナイトレイドには入らないのか?」
「同じ目的とはいえ、まだオレは革命軍に警戒されているだろう。ある程度信頼を得てからでも遅くはない……なに、敵になる事はないさ」
短くなったタバコを携帯型の灰皿に入れてディセントはその場を後にする。
その際アカメの頭を軽くポンポンと撫でながら言った。
「……オレからナジェンダにも言っておく、一応お前からも伝えといてくれ。……あの小さかった女の子が今では帝国を揺るがす暗殺集団のエースとはな、人生何があるか分からないもんだ」
「そ、それはこちらの台詞だ。
「……色々あったんだよ、色々な」
話は戻るが、あの戦いで深傷を負ったブラートだったが、スピアとレイルによる応急措置と革命軍による緊急手術によって一命をとりとめた。
だが命を繋いだ一方、失ったものも大きい。
心臓を避けていたとはいえ出血が激しかったため、ダメージが深かったブラートは二度とインクルシオを使えない体になってしまった。
生身での戦闘は制限時間つきだが可能、しかし体に莫大な負担がかかるインクルシオはブラート自身の体が耐えられなくなったのだ。
「……ブラートには気の毒だがもう最前線での任務は無理だろうな。よくてタツミ達や革命軍の教官か」
「けど生き残った。あの状況で全員が生き残れたのは奇跡に近い。三銃士はともかく、元黒狼隊の刺客がいたのだからな」
「……元部下とはいえ、大臣の下についたのであれば誰であろうと穿ち斬るだけだ」
釣り針にかかった魚を釣り上げ、バケツへと放り投げながらディセントはぽつりと言った。
岩から立ち上がると一度背伸びをし、持っていた竿をレイルに預け、自分は魚の入ったバケツを持ってアジトへと歩き出す。
もちろん山積みになっている方はアカメに持たせている。
「さて戻るぞ。そろそろナジェンダが出発する頃合いだ」
「了解です~」
「分かった」
並んで歩きながらアジトへ戻り、調理場へと釣ってきた魚を置くと3人は最初にタツミ達が鍛練に励んでいる屋外鍛練場へと赴く。
鍛練場へと入ると丁度タツミとラバックが互いの背にレオーネ、スピアを乗せて腕立て伏せをしていた。
実に汗臭い事このうえない状況である。
「誰かっ!アタシと訓練しなさい!!」
するとそこへもう1人、腕の骨折が完治したマインが元気よく飛び込んできた。
当然ながらタツミ達の様子を見て汗臭いと思ったのは言わずもがなである。
「よぉマインにディセント!」
「マイン殿は無事に完治したみたいだな」
「なにやってるのあんた達?」
「この男達、いつまでたっても鍛練やってるから手伝いをな。な、ブラート」
縁側で車イスに座りながら様子を見ていたブラートはレオーネに振られうんうんと頷いてみせた。
「俺自ら鍛練してやりたいが残念ながらこのザマだからな」
「……兄貴が抜けた分、オレ自身が強くならなくちゃいけないんだ。そのためにも体をしっかりと作らないとな……!」
「ハッハッハッ!期待してるぜタツミ!う、イタタタタ……」
豪快に笑うブラートだったが腹の傷に響いたのか顔をしかめながら腹を手で押さえた。
お約束と言えばお約束のリアクションである。
「全員揃ってるな」
「……む、ナジェンダ」
ディセントがタバコをくわえていると後ろから大きなリュックを担ぎ、コートを着ているナジェンダが現れた。
どうやらもう準備はできているらしい。
「ボス?どこか行くんですか?」
「あぁ、革命軍本部までな。三獣士と元黒狼隊から奪取した4つの帝具を届けにな」
「……けどその斧、めちゃくちゃ重いですよ」
「あぁ、これ位なら……」
そう言いながらナジェンダは足元に置いていたベルヴァークを軽々と持ち上げてみせた。
当然ながらタツミは驚愕し隣にいたラバックにヒソヒソと質問をし始めた。
「もしかしてボスって凄い人?」
「当たり前だろ?元将軍だぜ?」
これを聞いていたナジェンダ本人はちょっと嬉しいみたいでご機嫌である。
だがそこはナイトレイドを束ねるボス、すぐに顔を引き締めて気持ちを切り替えた。
「留守は頼むぞアカメ。作戦は“みんながんばれ”だ!」
「大体分かった」
「おいぃぃぃぃっ!えらくアバウトだけど大丈夫か!?」
すかさずアカメとナジェンダにつっこむタツミだが、これが当たり前なのかラバックに宥められしぶしぶ引き下がるタツミ。
一方のナジェンダは縁側の柱に背を預けながらタバコを取り出すと、それを口にくわえた。
「……ん」
「む?おぉ、ありがとう」
ちょうど同じようにタバコを吸っていたディセントがナジェンダに火の灯ったライターを差し出す。
その行動に少しばかりナジェンダは驚くが、別に拒否する理由もないのでありがたくタバコに火をつけてもらった。
「本部へ行く目的はメンバーの補充も兼ねている。ディセントやレイルもいるが、彼等はあくまで目的が同じという理由だというだけであって、私達の仲間ではない、協力関係ではあるがな。まぁ客人や居候の待遇はしているが監視つきだ。革命軍側で即戦力でこちらに回せる人材となると期待は薄いがな……」
「……ごめんよ……オレが弱かったばっかりに」
うつむきながらタツミは話すがナジェンダは目を閉じ諭すように口を開いた。
「……お前がブラートとディセントと共に戦った三獣士は帝国最強の攻撃力を持つエスデス軍の中軸だ。そいつらを全員撃破、かつ奴等の帝具を3つ、おまけに1つ奪取できた。いくらエスデスが無双でも、これで軍の弱体化は確実だ」
「でも、オレ──」
「胸を張れタツミ。お前はまだ青いけど絶対に強くなる。厳しく鍛えていきゃあそれこそ、この俺を超える男になるかもしれねぇ……」
「兄貴……」
ブラートの言葉に思わず涙が零れ落ちそうになるタツミだが、ぐっとこらえ静かにブラートの話を聞いた。
「だから、だからお前にはこれを受け取ってほしい」
そう言いながらブラートが取り出したのはかつての相棒──インクルシオの起動キーである片手剣だ。
「あ、兄貴!!」
「受け取ってくれタツミ。今までは俺の相棒だったが、これからはお前の力として助けてくれるはずだ。なーに、今まで積み重ねてきた経験値と熱い心があれば
ブラートから差し出されたインクルシオの剣を受け取り、タツミは何かを決意したかのように真剣な面持ちでブラートへ宣言した。
「オレ、頑張るよ!兄貴が見込んだ男になれるように、強くなってインクルシオを使いこなしてみせるから!」
「おう!」
「では行ってくる」
荷物を背負いナジェンダは改めて1人目的地である革命軍本部へと向かう。
道中ナジェンダの心境は現ナイトレイドの戦力不足に対する悩み、そしてレオーネが持ち帰ったエスデスが帝具使いのみで構成された特殊警察を組織するという情報への懸念。
1つが解決すればすぐに出てくる障害に気が休まる事はない。
革命が成功する日まで、いや、成功した後もナジェンダの気が休まる日が来るのは当分先になるだろう。
(なんとかせねばな……せめてディセント達元黒狼隊がナイトレイドに入ってくれれば……。いや、たられば話はよそう。今は早急に人員を補充しなければ)
◇◆◇◆
「──なに?都民武芸試合?」
ナジェンダが本部へと向かって数日、ディセントはタツミと一緒にラバックの経営する貸本屋兼帝都内隠れ家に赴いていた。
服装はいつも通り黒狼隊のマントを羽織ってはいるが、ボロボロで擦りきれているため分かりづらい。
何よりも手配書が出ていても描かれている似顔絵と本人が似ていないためこうして堂々と歩けるのだ。
「そ。今日の昼頃からの開催だそうだぜ。エントリーすれば誰でも出られるそうだし、勝者には賞金だってさ!故郷に仕送りできる額が増えるんじゃね?」
「エスデスが気になるなら直接見てくればいいさ。あの危険人物、一体何百万人殺せばあんなハクがつくんだか……」
ソファーで酒を呑んでいたレオーネがどさっと横になりながら愚痴を溢す。
どうやら単独でエスデスを殺そうとしたらしいが、丁度帝具ライオネルを使っていたため、野生の勘でエスデスの禍々しい殺気を感じ取って退散したらしい。
街でもそのエスデスがイェーガーズなる帝具使い6人で構成された特殊警察を組織した話題で持ちきりだった。
「……エスデスはオレが現役だった頃からその強さは逸脱していた。今しがた話していた数年前に起きたバン族との戦闘にオレ達黒狼隊も援軍として駆り出されたが……酷いものさ、帝国もエスデス軍もな」
グラスに注いでいたウイスキーを呑みながらディセントは語る。
「当時黒狼隊──シュヴァルツェア・ヴォルフは帝国でも珍しい帝具使い5人と一般兵20人で構成された特殊部隊でな、帝具使いがそれぞれの小隊長を務めてたんだ。
そこでディセントは一度話を切り、喉を潤すためにウイスキーを飲むと話の続きを始めた。
「他の小隊は別な場所で作戦遂行中だったが……随分前から帝国には疑問を持っていたが、あの戦いがきっかけだったな、オレの中の疑問が確信に変わったのは。それからの展開は察しているように隊内には亀裂が入り分裂、解散したんだ」
「兄貴やアカメからはある程度は聞いていたけど……ひどいもんだな」
「……隊全員が全く同じ考え方なんて持ってないさ。どんなに頑なな結束力でも少しでも綻びが緩めば歪みが生まれ、いつか必ず崩壊する。今の帝国と革命軍が如実にそれを表しているだろ」
ディセントは懐からタバコを取り出すと何の気なしに天井を見上げながら口から煙をゆっくりと吐いた。
ゆらゆらと天井に浮かび消えていくその様子はどこか寂し気だとタツミはふと思った。
「……さて、昔話が長くなったな。そろそろ会場に行かないとエントリーできなくなるんじゃないか?」
ゆっくりと立ち上がりディセントは貸本屋へと繋がる隠し階段へと向かう。
それにつられるようにタツミ達も後に続く。
(ディセントのやつ、まだ何か隠してるっぽいけど……訊くのも気が引けるからやめておこう……)
◇◆◇◆
場所は変わり帝都中央多目的闘技場。
ここでは今まさにエスデス主催の都民武芸試合が行われていた。
既にタツミはこの試合にエントリーし今は控室にいる。
対するディセント・ラバック・レオーネは観戦するために観客席に座っていた。
何故タツミしかエントリーしなかったかの理由は至ってシンプル。
ラバックはテクニックタイプであり出場している選手はパワータイプしかいないため有利ではあるが、性格上目立つ事が嫌い。
レオーネは誰から見てもパワータイプだが試合に出るよりタツミの勇姿を見たいため。
ディセントも似たような理由でめんどくさいから、との事だった。
「それにしてもタツミはまだー?もうつまらなさすぎて飽きたー」
レオーネがぐでーっとだらしなく席にもたれ掛かる。
傍らには会場で買ったポップコーンの入った特大サイズの器があり、手を伸ばしてはボリボリと食べていた。
「……組み合わせでは今やっている試合の次だな。もう少し待て」
「えー、もうあのチョンマゲとコスプレマッチョの試合飽きたよ。吠えてばかりで魅力も感じない」
確かにレオーネの言う通りだ。
民衆からすればバカ騒ぎする口実になるから盛り上がるが、特に興味のない者達からすればつまらない事このうえない。
現にディセントもタバコをふかしながら暇そうにしていた。
『勝者、呉服屋ノブナガ!』
会場のスピーカーから審判の声が響く。
どうやら今の試合に勝ったのはあのチョンマゲらしい。
「お、いよいよタツミだな」
ラバックの声に暇そうにしていたディセントとレオーネも視線をリングへと移す。
『東方!肉屋カルビ!西方!鍛冶屋タツミ!!』
最後の試合だと言う事で会場の歓声も一際大きくなる。
タツミの相手は顔がまるで牛(自前なのか被り物かは不明)にそっくりないかにもなパワータイプのマッチョマンだ。
「タツミの奴、面白い仮の身分だな。鍛冶できるのか」
「オレ程じゃないけど器用な奴だよ」
「……お手並み拝見、だな」
そう言いながらディセントはチラッと自分達のいる観戦席エリアの上方へと視線を移す。
そこにはこの試合の主催、帝国最強を誇るエスデスが鎮座していた。
どこか気だるそうにソファーに座っているのは今までの試合がお気に召すものではなかったためだろう。
『はじめっ!』
審判の声と共にタツミの相手──カルビが先に仕掛けた。
だがタツミも反応が早くすぐに身を屈めたかと思えば、カルビの鉄拳が当たる瞬間に空中へ跳躍、これを回避する。
唖然とするカルビに対しタツミは空中で体を捻り落下の勢いが乗った右回し蹴りを繰り出すが、カルビも負けじと両腕を交差させた防御の構えでタツミの攻撃を防ぐ。
だがタツミは続けざまに蹴りの連撃を浴びせていく。
「バアッ!」
一瞬の隙をついてカルビは一度距離を離すとすぐにタツミへと鉄拳の連撃を繰り出す。
ところがタツミはこの連撃を全て捌いたうえ、カルビの腹部へと強烈なパンチを左右1発ずつ放った。
「ううっ……」
負けじとカルビは両手を絡め頭上からそれを振り下ろそうとする。
だがタツミは再び身を屈めると両手を軸にした鋭い回転蹴りをカルビの足の後ろへと放つ。
当然ながらこの攻撃にカルビは対処できるはずもなくぐらっと後方へ倒れる。
その隙を待っていたかのようにタツミは跳躍し、渾身の一撃とでも言うような右回し蹴りをカルビの顔面へと食らわせた。
「ほう……」
カルビが床に倒れると同じタイミングでタツミは着地する。
そこで審判の判定が出た。
「そこまでっ!!勝者タツミ!!」
「やったぜっ!」
満面の笑みでタツミはガッツポーズをする。
恐らく観客全員が自分へと声援を送っているのだから嬉しいのだろう。
「さすがタツミ!やってくれるじゃないか!」
「あの少年がここまで成長するとは……」
ナイトレイドに入るように言ったのはディセントだったが、まさかここまで成長していたとは思っていなかったらしく、珍しくその心には嬉しさがあった。
だがそんな喜びの余韻に浸っている中、1人の女性──エスデスが座っていたソファーから立ち上がりゆっくりとリングへと続く階段を降り始めた。
「え、エスデス自ら賞金やるのか?」
「…………」
今の展開にハラハラしている中(主にラバック)、当のタツミとエスデスは淡々と話を交わしていた。
「タツミ……といったな。いい名前だ」
「ど、どうも……」
「今の勝負鮮やかだった。褒美をやろう」
「ありがとうございます!」
懐から何か取り出そうとエスデスがゴソゴソと手を入れる。
当然ながらここにいる観客は賞金を渡すと思っているだろう、もちろんそれはタツミ自身もだ。
……だが、現実は違った。
カチャリ。
「今から……私のものにしてやろう」
「……え?え?え?」
なんとあろう事かエスデスが取り出したのは鎖付の首輪、それを至って自然な流れでタツミの首に付けたのだ。
「ここは邪魔が多い。宮殿へ来い」
「ちょっ、待っ──」
「駄目だ。待たん」
トン、とエスデスはタツミの首の後ろを叩く。
抵抗すらできずにタツミは意識を失い、エスデスに担がれてそのまま会場の外へと連れていかれてしまった。
「「…………」」
思いもよらなかった出来事にラバックとレオーネはあんぐりと口を開けたまま互いの顔を見る。
「……とにかく一度戻るぞ。対策を考える」
「あ、あぁ……」
ディセントに諭されるようにラバックとレオーネは席を立ち会場から出る。
その後ろをついていくような形でディセントも会場を後にした。
(無事でいろよタツミ……)
◇◆◇◆
(──チッ、こんな時に討伐依頼が入るとは間が悪い)
心の中で舌打ちしながらディセントは木の上に隠れターゲットである危険種『ウィップグリード』の群れの様子を窺っていた。
あの後ディセント達はタツミがエスデスと共に宮殿へと連れ込まれた所まで探り、アジトへ戻り待機していたアカメやマイン達にタツミがエスデスに拐われた事を伝えた。
あのエスデスに捕まったのだから当初はタツミがナイトレイドだとバレたという指摘があったが、エスデスの様子が穏やかであった事から詳細は分からないままだった。
話し合いの結果、拠点を一時的に今の場所よりも山奥へ移す事、そして行ける範囲の限界までタツミやエスデス達を見張る事になった。
そこでディセントも宮殿近くで見張っていたのだが、危険種ハンターとしての依頼が来てしまったため、こうしてターゲットのいる
(ウィップグリードは何よりあの鞭みたいな尻尾攻撃が強い……。懐に入られる前にやるしかないな。さっさと片付けて監視の任務に戻らなくてはな)
本来なら居候の身であるディセントにここまで手を貸す道理はない。
だがナイトレイドにタツミを推したのは自分でもあったため、その責任も含めて率先して協力していた。
「……数は15。手を煩わせるレベルじゃないな」
隠れていた木から飛び降りディセントはアスティオンとアクティオンを抜き放ち、反応に遅れたウィップグリード達に向けて弾丸の雨を浴びせていく。
1発1発がウィップグリード達の急所へと当たり、1匹また1匹へと反撃すらできないまま絶命していく。
すると1匹味方を盾にしながら全速力でこちらに向かってきていた。
どうやらこの群れのボスらしい。
「……悪いがこっちは急いでいるんだ。相手にしている時間はない」
ウィップグリードの尻尾攻撃を難なく上空へとかわし、ディセントはエクセリオンの起動キーである大太刀を抜刀、あっという間にボスの頭を一刀両断してみせた。
「これで……最後!」
着地するや否やディセントは最後の1匹に向け大太刀を投擲する。
投擲された大太刀は外れる事なくウィップグリードの眉間に突き刺さり、あっという間に全てのターゲットを撃破してしまった。
「……ん?」
突き刺さった大太刀を抜き付着した血を拭っていると、ふと耳に人の話し声が聞こえてきた。
しかもこちらに向かって走ってきているうえに、すぐそこまで来ている。
(まずいな……帝都の兵達か?なるべく交戦は避けたいが……)
「動くな!!」
「!!」
男性、しかも比較的若い者がディセントの背後から声をかけてきた。
「先程この周辺から叫び声のようなものを聞いた!一体何を─って、うわっ!なんだこいつら!」
「落ち着いてウェイブ君。これは危険種のウィップグリードだね、しかも皆死んでる」
「あなたがこの危険種達を狩ったのですか?ゆっくりとこちらを向いてください」
青年からの要求にディセントは素直に従いゆっくりと振り向く。
そこには6人の帝具使い──イェーガーズがいた。
「あなた名前は?」
「……オウカ。オウカ・ディセント」
咄嗟に思い付いた偽名を青年──ランにディセントは教える。
「職業は?」
「危険種ハンターだ。ここにいたのもこいつらの討伐を依頼されてたからでね」
「……ならその際に用いる武器を出してください」
怪しんでいる。
すぐに勘づいたディセントだったがここで拒否すれば自分が
そのためディセントは敢えてランの言う通りにアスティオンとアクティオン、大太刀を取り出し見せた。
「拳銃が二挺、それに大太刀ですか。危険種相手にするには装備が少なすぎではありませんかオウカさん?」
「ランさん、こいつ手配書の
一気に場の空気が一転、一触即発の状況へと変わる。
特に黒狼隊のマントだと見破った少女──セリューはこちらに敵意と殺意が剥き出しだ。
「……確かにこいつは黒狼隊のマントだよ。当たり前だ、オレは元黒狼隊メンバーだからな」
「そのような嘘が通用するものか!コロ──」
「待てセリュー」
今まさにディセントを攻撃しようとしたセリューにストップをかける声が彼女の後方から聞こえてきた。
何者かとディセントは警戒すると、現れたのはイェーガーズのボスであり、タツミを従えたエスデスその人であった。
「貴様、元黒狼隊とか言ったな?」
「あぁ。任務中に大怪我、そのまま除隊となっちまってな。軍を辞めてからはこうして危険種を狩る事で生計を立てている」
「二挺拳銃使いか。貴様達の元隊長と同じようだがこれはどういう事だ?」
「隊長の弟子だったんだよ、だから今でも教えてもらった技術を使っている。疑うのは無理もない。けど、元黒狼隊にはオレみたいな奴は何人もいたぞ?同じスタイルを今でも使っていても何らおかしくはないと思うが?」
そう、実際に隊にいた頃はディセントに憧れて彼に弟子入りする隊員が何人もいた。
ディセントが名乗ったオウカという名もその隊員の1人だった。
「………………」
「………………」
長い沈黙、だがこの沈黙を破ったのは意外な人物だった。
「え、エスデスさん!」
「タツミ?どうした?」
「こ、この人オレが帝都に来たばかりの頃に助けてもらったんですよ!そんな人が
なんとディセントに助け船を出したのはタツミだった。
エスデスやイェーガーズのメンバーに注目されて一瞬たじろぐタツミだったが言葉を続けた。
「オレが食い物屋で金を騙し取られて勘定できなくて困ってたら、その人が立て替えてくれたんです!まさかこんな所でまた会えるなんて思ってなかったですけど……」
「……この話は本当か?」
「あぁ、間違いない」
「……なら私はタツミを信じよう、この者は
『ありません』
エスデスの判断は絶対、イェーガーズのメンバーはディセントへの警戒を解いた。
少々セリューが不服そうだが、上司の判断なので従うしかなかった。
「すまなかったなオウカ。良かったら私達の所へ来るといい、今回の詫びとタツミを助けてくれた礼をしたい」
思いもよらないエスデスからの誘いにディセントは内心警戒するが、タツミを信じると言ったエスデスの言葉を信じる事にした。
「ならお言葉に甘えさせてもらおう」
軽くエスデスに頭を下げディセントは共に宮殿へ向かう事にした。
イェーガーズの戦力把握、タツミを救出するために。
「それにしても危険種ハンターって凄いなあんた!あ、オレはウェイブってんだ。海の危険種なら詳しいぜ!」
そう言いながらウェイブはディセントへ肩を組む。
「ここは陸地だからウェイブの知識は役に立たない」
「なんだとークロメ!」
「こらこら、喧嘩はいけないよ2人とも」
クロメの言動にウェイブが食って掛かるがすかさずイェーガーズの常識人、ボルスが割って入り2人を宥める。
「さて、寄り道してしまったが宮殿へ帰るとしよう。時にボルス、お前結婚していたがどうやって相手の心を掴んだのだ?」
「……え、あんた結婚してんのか」
囚人用の拘束面をしている巨漢のボルスがまさか既婚者だったとは思わず、さすがのディセントもたまらず訊いてしまった。
「そうだよ。今年で結婚6年目なんだ!あ、それでですね、相手のハートを掴むコツは……諦めない事ですよ」
「ほう」
「私なんか2回もフラれちゃって、それでもチャンスを見つけてはアタックして落とせたんです。ある程度時間がかかると思ってください」
「ふむ……なるほど」
熱心にエスデスは『タツミの落とし方』と記されたメモ帳にボルスのアドバイスを熱心にメモしている。
これを見たディセントはタツミが拐われた理由がエスデスに惚れられたからだと確信した。
「タツミ、お前年上好きか?」
「なんでそうなるんだよ!」
違うらしい。
「……
◇◆◇◆
──帝都宮殿内イェーガーズ本部。
ギョガン湖の山賊殲滅の任務から戻ったイェーガーズは各々自分の時間を過ごしていた。
セリューやクロメ女子組は戦闘での汗を流すために浴場へ、ランとボルスはボードゲーム、スタイリッシュは自分のラボ。
そしてウェイブは自室でオウカ──ディセントと共に雑談をしていた。
「なぁなぁオウカさん!あんた海には行った事あるか?こっちにもすげー危険種がいるんだぜ?」
「海の危険種だと戦い方も変わってくるな。過去に一度だけ戦った事がある、まだ隊にいた頃にな」
「さすが危険種ハンターは違うな。そーいや、あんた達の隊長ってどんな人だったんだ?資料は読んだけど直々の部下だったオウカさんから聞いてみたいんだけど」
コーヒーを一口啜りながらウェイブはディセントに訊ねる。
それを見ながらディセントも同じようにコーヒーを飲んでから話し始めた。
「……隊の皆を家族のように慕ってくれていた人だったよ。そして任務では自分が戦場へと出て指揮を執り確実に成功させる……そんな人だったよ」
現役だった頃の自分を自分の口から話す事にディセントは嘲笑しながらウェイブへと話す。
「けど、その隊長も今や帝都の治安を乱す悪党になっちまってるんだよな。部下だったオウカさんからしたら辛いんじゃないか?」
「……辛いも何もない、あの人が決めた事だ。ウェイブ、お前はかつての仲間や友が敵になったら排除する覚悟はあるか?」
ディセントの問いにウェイブは黙りこみ静かに壁に立て掛けていた黒鉄色の片手剣をじっと見つめた。
「オレは……大恩人が海軍にいるんだ。その人にどうすれば恩返しができるかって聞いたら、国のために頑張ってくれればそれでいいって言ってくれたんだ。だから……命令ならば誰であろうと斃す。覚悟はできてるさ。軍に入った以上、そういう巡り合わせもないとは言えないからな……軍人として優先すべきは国民の平和を守る事だ」
「そうか……ならばその覚悟、最後まで貫き通せ。もし、信念を曲げるような選択を迫られた時は己を信じろ、そして選べ。未来の自分が後悔しない道をな……」
ウェイブは敵、いずれ必ず戦うであろう男だが、ディセントは敵意よりも嬉しさが勝っていた。
こんな腐りきった帝国でも目の前の男のような穢れのない強い信念を持っている軍人がいた、それを知れただけで十分だった。
「オウカさん……」
「さて、そろそろ寝るとしようか。オレは……どこで寝ればいい」
今更だがエスデスから寝る場所を訊くのを忘れていた。
潔く食堂で寝ようとディセントが立ち上がるとすかさずウェイブが制止する。
「どこ行くんだよ?」
「食堂。テーブルに伏せて寝れば邪魔にはならないだろ」
「さすがに冷えて風邪引くぜ?良かったらオレのベッド使ってくれよ!オレは床に寝るからさ」
そう言いながらウェイブはクローゼットから布団を取り出し、ベッドの下に敷き始めた。
「いや、ベッドはお前が使え。元々お前の部屋だし……」
「いいっていいって!客人に床に寝せる訳にはいかねぇよ」
「………………」
どうもウェイブは世話を焼きたがる性格らしい。
これ以上ウェイブの気持ちを蔑ろにするのは野暮だと考えたディセントは諦めてウェイブのベッドを借りる事にした。
「悪いな」
「謝る事はないよ。オレからしたらオウカさんは軍人の先輩なんだ、これくらいはさせてくれよ。んじゃ電気消すぜ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
床に入りながらディセントはウェイブとの会話を頭の中で繰り返した。
騙しているとはいえ身を偽り、名を偽り、帝国の敵であるディセントをここまで慕っているウェイブに対し、ディセントはほんの少しだけ胸が傷んだような気がした。
「…………敵同士として出会いたくなかった男だ…………」
既に布団に入り寝息を立てて寝ているウェイブを横目で見ながらディセントは小さく呟いた。
ディセントがようやく寝たのはそれからしばらく時間が経ってからの事だった。
──翌朝。
ディセントはウェイブと共に食堂へ向かうと、そこには既にクロメがおり、ポリポリと自前のお菓子を食べていた。
まだ朝食の時間には早いためウェイブとディセントがコーヒーを飲んでいると、目の下に濃いクマができたタツミが入ってきた。
「よぉ。昨日は休め──なかったみたいだなそれじゃ」
「エスデスの部屋に厄介になってたみたいだが?」
「緊張して朝まで眠れやしなかったんだよ……。しかもあの人何もしないって言ってたのに抱き枕にされてたし……」
ラバックが聞いたら絶対に羨ましがるな、そう思いながらディセントはコーヒーを1口啜る。
頭をかきながらタツミは1人お菓子を一心不乱に口へ運ぶクロメへと視線を移した。
「クロメはまだ午前中だってのにお菓子か」
「余計なお世話」
「もう少し海産物を口にした方がいいぞ」
「そしたらウェイブみたいに磯臭くなる」
どこかウェイブに対し冷ややかな態度で返すクロメ。
ウェイブはクロメの指摘に動揺しながら自分の服や肌を嗅ぎ始めた。
「えっマジ?オレ臭う!?」
「安心しろ。臭いはしない」
ふとディセントはクロメを見る。
端正な顔立ちに名前、ディセントはこの少女についてよく知っていた。
(クロメ……ビルのジジイが遺した遺産がまだいたのか。そして、アカメの妹……こんな所で会うとはな)
まだ黒狼隊にいた頃、アカメ本人からクロメの話を聞いていたのだ。
実際に会うのはこれが初めてだが、話に聞いていた情報と合致したため、すぐに分かったのだ。
するとディセントとタツミの視線に気付いたクロメは持っていたお菓子の袋を守るように抱き抱えた。
「このお菓子はあげない!」
(食い意地までそっとりとは……)
「何?」
「いや……失礼かもだけど手配書のアカメって人と似てるなって思って……」
「あ、それはオレも思った」
訝しげにディセント達を疑うクロメにタツミは少しでも気を紛らわさせるために話題を変える。
「あぁ、優等生の身内だよ?帝国を裏切っちゃったけどね。早くもう一度会いたいなぁ……。会って……私の手で
「……!」
そこで食堂の扉が勢いよく開き奥からエスデスが現れ、ツカツカと食堂に入ってきた。
「タツミ!今日から数日は狩りだ。フェクマに行くぞ!」
フェクマとはフェイクマウンテンの略称、これは逃げるチャンスだとタツミとディセントは無言で顔を合わせた。
「ウェイブとクロメも供をしろ。フェクマは潜伏にはもってこいな地形だ、危険種を狩りつつ賊を探すぞ!」
「了解!」
「夕方までツーマンセルで行動だ。現地についたら私とクロメで東側、ウェイブとタツミで西側を探索してもらう。あとオウカ、お前はウェイブ達に同行してもらう。危険種ハンターであれば2人に危険種との戦い方を教えてほしいんだが?」
「……任せろ」
自分からタツミ達に同行させてほしいと進言するつもりだったが、エスデス直々の依頼が来たため手間が省けた。
ふたつ返事でディセントはエスデスの依頼を引き受ける。
「さて、各々準備しろよ。朝食を食べたらすぐに出発だ」
「「了解!」」
「……了解」
◇◆◇◆
「──海の危険種にゃ詳しいが……山のとなるとさっぱりだぜ」
「この辺りの危険種は擬態からの不意討ちが多い。木でも石でも油断するな」
「任せとけオウカさん!」
あれから予定通りディセント達はフェクマに来ていた。
西側を担当されたディセント・タツミ・ウェイブは山頂に続く山道をひたすら登っている最中だ。
「しっかしなぁ。宮殿内じゃこんな事は言えないけど、タツミも大変だよな。何かあれば相談に乗るぜ?」
「……ありがとう。でも大丈夫、こんな方向性の扱い慣れてるから」
「あ……なんとなく分かる」
心当たりがあるのかタツミのもウェイブもテンションが一気に下がり始めた。
どうやらウェイブもウェイブでイェーガーズの苦労人らしい。
「……2人とも、お喋りはそこまでだ」
2人の前方を歩いたディセントは突然止まると2人の方を向いて両腰のアスティオンとアクティオンを抜いて銃口を向ける。
「え?オウカさん──」
「──!!危ねぇ!」
「うおあっ!!」
ディセントの視線と銃口が自分達の後ろに向けられている事にいち早く気付いたタツミ。
すぐに振り返りウェイブに迫っていた触手を切り落とした。
《キシャアアァァァァァ──》
すかさずディセントが現れた危険種である木獣へ銃弾を放ちトドメを刺す。
「助かったぜ、借りは返す!」
すると今まで隠れていた木獣達がぞろぞろと現れたあっという間にディセント達を囲んでしまった。
(……タツミ、木獣を斃しつつ離脱しろ)
(え?それじゃディセントは)
(2人いっぺんにいなくなったら不審に思われる。オレが空へ向けて撃ったらインクルシオを使って逃げろ)
ブラートからインクルシオを譲り受けたタツミはブラートの期待通りインクルシオの適合に成功した。
インクルシオ自体も使用者がブラートからタツミへ代わった事により、彼が動きやすいように進化した。
その結果、ブラートが使っていた頃よりもスマートになり、以前よりも機動性が向上した鎧となった。
奥の手である透明化も訓練を重ねた事で短時間ではあるが発動もできるようにはなっている。
(分かった!タイミングは任せる!)
「ぞろぞろとおでましかぁ。海のと違って食えそうにねぇな」
「こいつらは単体では雑魚だ。だが数が多いから気をつけろ」
「よぉし!カカッと片付けるぜ──っ!燃料にしてやる!」
3人同時に3方向へと飛び出し目の前の木獣達をバタバタと斃していく。
ウェイブの方を何度も確認しながらディセントとタツミは木獣を斬り、撃ち貫き、ウェイブが完全にディセントとタツミに背を向けた瞬間、空へ向けてディセントがアクティオンを放つ。
空へと撃たれた事とウェイブの気が完全にこちらから外れている事を確認したタツミは全力疾走をする。
そしてある程度距離が開いたところでインクルシオを纏い離脱した。
タツミが離脱した頃には現れていた木獣達は全滅しウェイブはほっと息をつきながら片手剣を肩に担いだ。
「ふぅ……こんなもんだな。そっちも片付いたみたいだな、オウカさん、タツ……」
ウェイブが振り返るとそこには積み重ねられた木獣の上で一服するディセントしかいない。
しばらく固まってたがようやく状況を理解したようで慌て始めた。
「アレっ?アレレ?オウカさん、タツミはどこに?」
「……気付いたらいなくなってた。どうやらどさくさに紛れて逃げたみたいだな」
その瞬間、ウェイブの顔から血の気が失せる。
ウェイブの後ろに角を生やしたゴゴゴなエスデスの姿が見えた気がしたが、恐らくあながち間違ってはいないだろう。
「やべぇ!気持ちは分かるがそうはさせねぇぞ!オレだってまだ死にたかないんだ!!」
「なら二手に別れて探そう。まだそう遠くには行ってないはずだ」
ディセントもこの場から離脱するために2人で探すよう提案を持ちかける。
当然ウェイブはこの裏の目的を知るはずもなく、二つ返事で了承した。
「そ、そうだな!ならオレはこっちを探すからオウカさんはそっちを頼む!」
「了解」
ウェイブが先に探しに行くのを見届け、遠くまで離れた事を確認するとディセントもエクセリオンを纏い空へ向けて飛んだ。
「……やれやれ、ウェイブには悪いがオレも抜けさせてもらうぞ」
遥か下にいるウェイブに謝り背を向けるとディセントはナイトレイドのアジトへ向けて飛び始める。
だが飛び立って間もなく後方から轟音が鳴り響いた事によってディセントは急停止し振り向いた。
目を凝らして見れば遠くの渓谷あたりから土煙が上がっている。
「まさか……!」
急いでディセントは現場へと向かう。
到着するとそこにはインクルシオを装着したタツミと漆黒の鎧『修羅化身グランシャリオ』を纏ったウェイブの姿があった。
「知ってるぜその帝具、インクルシオだろ?このグランシャリオのプロトタイプ……そして何よりそれを着てるって事はお前、ナイトレイドの奴だな?なるほど、うさんくさい山にはうさんくさい奴が潜んでるぜ!」
幸いウェイブはインクルシオを纏っているのがタツミとは気付いてないらしいが、完全に
タツミは離脱しようと跳躍するが性能はグランシャリオの方が上らしく、あっという間にタツミの退路へと飛び覚悟を決めて戦うように強要する。
「──!!|
「オラッ!!」
先にウェイブがタツミへと仕掛け地面が陥没する程の鋭い蹴りを繰り出すが、タツミは後方へと回避する。
すかさずウェイブは追撃し防戦一方のタツミに対し容赦なく鋭い乱打を繰り出していく。
「よせっ!お前と戦う理由はない!」
「お前になくても……オレにはあるんだよ。ナイトレイド!!!」
気付かないうちに壁へと追い込まれていたタツミは回避する余裕もなく、ウェイブの鋭い右ストレートを腹部に受け岩壁へと打ち付けられる。
「うがっ……」
「お前達の資料は読んだ。無差別に暗殺を繰り返し、帝都の治安と平和を蝕む大悪党!おまけに反乱軍と繋がってるって話じゃねぇか。お前達は存在自体が許されないんだよ!」
ウェイブの言動にタツミの怒りは最高潮に達する。
ふらふらと立ち上がると右手を力強く握りしめ叫んだ。
「……違う、確かにオレ達は人殺しかもしれねぇ。けど……オレは……
「そうだ、それでいい」
「「!!」」
次の瞬間、ウェイブの頭上に水色のエネルギー弾が無数の雨のように降り注ぐ。
すかさずウェイブは自分の背部に浮かぶ防護フィルムで防ぐが、爆発と衝撃によって岩壁へと叩きつけられた。
「ぐはぁっ……!!」
ずるずるとその場に座り込みながらもウェイブは頭上を睨み付ける。
「くそっ!!誰だっ!!」
その問いに応えるかのように空からゆっくりと舞い降りたのは金色の鎧──エクセリオンを纏ったディセントだった。
「お前……!
「………………」
ディセントは答えない。
だが肯定するようにディセントは一気に跳躍、ウェイブの頭を掴んで上空へと飛び立った。
「は、離せ!てめぇ……離しやがれ!」
「そうか。なら望み通りに」
「え──」
次の瞬間、ディセントは掴んでいた右腕を振りかぶり、あろう事かウェイブを真下へと投げ飛ばしたのだ。
凄まじい腕力で投げられたウェイブは為す術もなく岩や石がゴロゴロ転がる地面へと叩き付けられる。
「ごはっ!!?」
あまりの衝撃に肺に貯まった空気が強制的に排出され動けないウェイブ。
そこへディセントは容赦なく追撃、上空から滑空しながらスピードの乗った回し蹴り放った。
ビシビシと装甲の至る所に亀裂が入り、頭部前面を覆うバイザーも割れ、かなりのダメージを受けたウェイブは反撃する所か立ち上がる事すらままならない状態だった。
「……すまないな。お前にも信じる正義があるように、形は違えどオレやナイトレイドにも信じる正義ってやつがあるんだ。その正義を邪魔するのなら……手加減はしない」
「て、てめぇ……は……!絶対、このオレが……斃す……」
悔しさに満ちた眼差しでディセントを睨み付けながらウェイブは気を失い、同時にグランシャリオも解除された。
ウェイブの体には所々キズやダメージが見受けられるが、致命的な大怪我もなく命に別状はない状態であったため、一部始終を見ていたタツミは安堵のため息をもらした。
「というかディセント、やりすぎじゃないか?いくらなんでもここまで痛め付ける必要なんて──」
「正体を知らないとはいえウェイブはタツミを斃そうとしていた。極力戦闘を避けて被害を最小限にしようという点は評価するが……下手したらタツミがこうなっていたかもしれない」
「それはそうかもしれないけど……」
「……安心しろ。ウェイブはどこぞの狂気的な正義娘とは違って憎しみでは向かってこない。むしろやられた悔しさを糧にして強くなる。元々完成された強さだ、更に磨きをかけてくるかもな……」
「おいおい!それじゃオレ達が不利になるじゃん!」
「タツミ!ディセント!」
タツミがディセントにコントよろしくつっこんでいると森の中からアカメが2人の名を呼びながら飛び出してくる。
抜刀している村雨には返り血が付着しておりどうやら途中で危険種を片付けていたらしい。
「アカメ!どうしてここに」
「皆それぞれ行ける範囲の限界で見張っていたんだ。私は帝都の城門前でな、そしたらお前達が狩りの支度をして飛び出してきたから距離をとって尾行してきたんだ。ようやく2人に追い付いた!」
そう言いながらアカメはインクルシオを解除し膝をついているタツミに駆け寄り肩を貸し立たせる。
「それにしてもディセント、お前までイェーガーズにいたとは驚いたぞ。一体どうしたんだ?」
「ギョガン湖周辺で依頼された危険種の討伐をしていた時にイェーガーズに鉢合わせしてしまってね……なんとか身分を偽ったらこれがうまくいってな、こうして共に生きて脱出できたって訳さ」
エクセリオンを解除しディセントは大太刀を背中に背負っていた鞘に納めると、アカメに肩を貸してもらっているタツミを軽々と肩に担いで歩きはじめた。
「……とりあえず、さっさとここを離れよう。先程の戦闘音をエスデス達が聞き付けて来るかもしれない」
「あぁ、そうだな」
「って!担ぐよりもせめておぶってくれよ!オレは荷物じゃねー!」
「背にはエクセリオンの刀がある。諦めろ」
「ならせめてお姫様だっこにしてくれ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐタツミを余所にディセントはアカメと共にアジトへと向けて疾走する。
だが彼等はまだ知らない、この日の夜、ある男の部隊が遅いかかってくる事を。
そして、望んでもいなかった出会いがディセントを待ち受けている事なぞ、誰1人知るよしもなかった……。