「…………………………………」
『…………………………………』
──ガチン!
「『解けた~~~』」
都度3時間。遂に俺とイースは錠を解いた。
「なっっっがい!!部屋の扉一つにどんだけ手間かけてんだよ!!」
『改めてマリーちゃんの凄さが分かったね…』
イースが振動を与え続けてくれたお陰で内部の構造把握は完璧に出来たのだが厄介な事に抜け道なんかが見付からず一つ一つ丁寧に手順を踏まなければならなかったのだ。
「マリーちゃんはこの作業をほんの10分程度で終わらしそうだもんな…」
『精密機械真っ青な精度だもんね』
答えが分かっていても数式は全て書かなければなりません、そんな感じだったので答えのみを知ってる身としては辛かった。その点マリーちゃんは途中の計算を完璧かつ超速で行うので凄い。
「歴代最年少
『うん…ねぇ、そういえば連絡しないの?』
「マリーちゃんにか?」
『うん』
「しようにも連絡先聞いてなかったんだよなぁ…」
『ええ…』
「それにきっと大丈夫だ」
マリーちゃんは強い。俺よりも根がしっかりとしているしそばにはハルタ―さんもいる。
『でもナオト君の事も…』
「それだが多分生きてるはずだ」
『え?でも大深度地下層に落ちたんだよ!?』
「リューズちゃんも一緒に落ちたんだろ?」
『へ?うん…』
「リューズちゃんは毒舌で主人のはずのナオトをディスるが絶対にナオトが死ぬことを良しとしない。もしその時に死ぬことが分かっていたらどんな無茶をしてでもナオトを生かそうとするはずだ。つまり一緒に落ちたという事は何らかの生存する術があったって事だ。その崩落ってのももしかしたらナオトが指示したかもしれないぞ?」
あいつは周りに説明すること無く周囲を巻き込むことがある。そこに絶対服従のリューズちゃんだ、死んだと思ってても実は生きてましたくらいはありうる。
「だから大丈夫だ」
俺はイースに笑いかける。内心不安であることに変わりはないがこれ以上弱いところは見せたくない。
「さて、扉も開いたんだ。…入るぞ」
『…うん、了解!』
俺はドアノブに手を掛けゆっくりと開ける。
「……」
変わらない。整理はされているものの十年前と変わっていない両親の書斎に俺は言いようのない痛みに襲われる。すると俺の手を包むものがあった。イースの手だ。
『大丈夫』
優しく微笑むイースに俺は一言ありがとうと言って改めて部屋を見渡す。
「やっぱり埃を被ってるな」
『十年も経ってるしねぇ…』
俺は二つ並べられた親父とお袋の机の前に行きじっと眺めた。
「…言い付け、破るけど勘弁してくれよ」
『ねぇ、私一応あの設計図記録してあるんだよ?』
「うん?…ああ、確かに言ってたな。どこの設計図だ?」
『動力と、あと武装の所』
「動力ってのはあの俺に見せたやつか?」
『うん』
「なら足りない」
『どういうこと?』
「そうだな…」
俺は埃っぽい部屋を見渡し棚に置かれていた犬の形をした
「俺がちっさい頃に作ってくれた玩具だ。持ってみ」
『?』
イースに渡したと同時に俺はゼンマイから手を離す。すると、
『うわ!え?なにこれ、見た目よりずっと力強いんだけど!?』
手の平に収まるサイズの玩具からは想像ができない程に大きい力に驚いてイースは目を丸くした。
「足の各関節にそれぞれ動力が仕込んであるんだ。背部のゼンマイを回せば他の動力も自分から動き出す。動力というよりは増幅装置だな。全部で13個」
『そんなに!?』
「親父は動力に造詣が深かったみたいでな、小さくかつパワフルな動力を作ることに長けてた」
指でつまめるサイズの動力でバイクを動かすなんて朝飯前だって言ってたな。
『でもどうやってそこまでエネルギーが伝わるようにしてるの?増幅装置だとしてもその装置を動かすのにも必要なエネルギーがあるでしょ?』
「そこでお袋だ。お袋は力を伝える構造にお熱で動力で生まれたエネルギーを余す事無く全体に伝えるものを作れた」
普通エネルギーは遠くに移れば移るほど減って行くはずなのに減衰という言葉を知らないかのように残るもんだからお袋の頭を疑ったものだ。
「永遠、までは行かないけど少なくとも市販的な奴よりずっと長く動き続けられる。こんな風に親父たちの作る物は全体が動力であることが多いんだ。それもいくつかが欠けても動いていられるような奴がな」
『じゃあ私が記録してきたのは…』
「武装系のはまだしも動力系はちょっとそのままじゃ使えない。だから昔俺が見たあれにそっくりな設計図を探し出す」
『そんなものがあるの?』
「ああ」
十年前に見たあの‟生体義手”の設計図。もしあれの元があの兵器の設計図であるならそれと照らし合わせて大体の当たりをつけられる。
「探すのは腕の設計図だ、とにかく手あたり次第漁るぞ」
『分かった』
俺は本棚を、イースは二人の机を探し始めた。あの時は読めない文字が多くなんの本か分からなかったが成長した今見ると時計技師らしい書籍が多かった。だが一部が随分と偏った種類だった。どう考えても電磁技術についての書籍だ。かなり古いものまである。
「…これが俺の為に集めたものであることを願うよ」
間違ってもあの兵器の為じゃありませんように。俺は一冊一冊取り出して探すがそれらしいものは無い。
「…てか腕使えばいいんじゃん」
なんで思い付かなかったのだろうか。俺は手袋を外して壁に手を付け床を蹴った。振動が部屋中に伝わり詳しい構造を俺に伝える。
「ん?」
すると一か所不自然な空間を見付けた。本棚の裏だ。
「イース、ちょっと手伝って…って何してんだ?」
イースは机の引き出しから何か見付けたようでそれを必死に…いや、ニヤニヤと見ていた。
「イースさーん?」
『ふぇ!?な、なに?』
俺が呼びかけるとイースは慌てて見ていた物を背中に隠した。
「何見てたんだ?」
『な、何でもないようん!』
怪しすぎるだろ。
「いやいや、何でも無くはないだろ。もしかしたらなにか重要なことが書いてあるかもしれないだろ?」
『い、いやー…これにはそういうことは書いてなかったかなー…』
「…見せなさい」
『い、嫌です』
マジで何を見つけたんだよ。
「なんでだ?」
『見せたら絶対取り上げるもん!』
「だったらなおさら見せろ!」
『ひぃ!勘弁してください!』
イースは隠したものを渡さまいとその何かを懐に隠した。
「ちょ、マジでなんなんだよそれ!」
『内緒でお願いします!』
「気になるから見せろ!」
俺は詰め寄るがイースが頑なに拒んだ。
「…どーしても見せないのか?」
『…どーしてもです』
あんまりにも意固地なので結局俺が折れた。
「聞くけど別に変な物じゃないんだよな?」
『むしろ最高の逸品です!』
だからそれはなんなんだよ。
「分かった、詮索はしない。代わりにちょっと手伝ってくれ」
『りょーかい!』
なんかやけにご機嫌だなぁ…
『それで?何をすればいいの?』
「本棚の裏になんか空間があるみたいなんだ、そこを確かめたいから力を貸してくれ」
『オッケー!』
イースは本棚の前に立ちペタペタ触り何かを確認した後俺の身の丈を越し本がギッシリと詰まった本棚を、
『よっと』
持ち上げた。
──そうきたかぁ…
てっきり横にずらすとばかり思っていた俺はつい頬を引き攣らした。イースは持ち上げた本棚を音も無く邪魔にならない位置に置いて何事も無かったかのようにする。
『あ、本当に空間がある』
イースが言ったように本棚の裏には縦50、横30、奥行き30の空間があった。そしてそこにはいかにもなファイルが置かれていた。俺はそれを手に取り慎重に開いた。
「…設計図だ」
『じゃあ!』
「ああ、この中にあるはずだ」
俺はファイルのページをめくっていき一つ一つ記憶の中の‟腕”の設計図と照らし合わせる。ちょうど設計図が100個目を迎えた時、それは見つかった。
「あったぞ!」
『ほんと!?』
ファイリングされていたそれには右と左の二つの腕が描かれていて無数の電極と思わしき点が至る所にあった。
『この電極の配置…あれとほぼ同じだ』
「人間の腕と違って人工的な義手はそれなりに強い電流が必要になる。かと言って強すぎれば歯車が磁力を帯びてしまい機能不全を起こす。多分この配置は電磁の力を最大限に生かしつつ歯車やその他の部品が磁力を帯びないようにしてあるんだろうな」
『よく分かるね…』
「ほぼ推測だ。イース、記録にあるあの兵器の設計図を描き起こしてくれ。照らし合わせながら最低限の確証を得るぞ」
『了解!…ってあれ?何か落ちたよ?』
俺が設計図をファイルから取り出した時隙間から一枚の紙が落ちた。
「えーと…通信番号?いったい誰の…」
そこには数字の羅列と共にそのつながる先と思わしき人物の名前が書いてあった。
「これって…」
俺とイースはつい顔を見合わせてしまった。考えてみればあってもおかしくは無いのだがこの状況で見つかるのは奇跡の様だったからだ。
「ふむ…確かにマリー先生の言う通りあのinitial-yシリーズは東京から引き返している。東京の軍の動きも不可解だ。全く、お上は何を考えているのか…」
男性は掛けていた
『三重で、ある巨大兵器を見付けました…』
かつて自分が時計技師としての技能を教え、自分の上司としてともに働いていた少女からの連絡は悲嘆に暮れていた。自分の迂闊な行動のせいで本来関係のない人たちを巻き込んでしまった。それも最悪な形でだ。その事実はまだ二十歳にもならない少女にはいくら天才であろうと重く圧し掛かるだろう。
「いや、それは私もか…」
マリーに聞かされたかつての自分の教え子、その中でも一際強烈であった二人の間に生まれた息子の生存不明の連絡は自分が思っているよりもずっと辛かった。なまじ自分が教える気満々であったが為にその思いは強く圧し掛かった。
「マリー先生が言うには現場からは離れていたらしいが状況から推察するに厳しいだろうな…」
男性は重く重く息を吐きだした。その時、通信回線のコールが鳴り響いた。だが男性はそのコールに疑問を持つ。
──プライベート回線?それもかなり古い…
この回線は長い間使っておらず、それこそ十年以上前のものだった。男性は警戒心を高めながらも受話器を取った。
「…もしもし、どなたかな?」
『──────────』
「なっ…君は…!」
その時、男性の耳には今し方諦めていた声が届いたのだった。
雨降る三重の街の中、一人の少女がある少年の胸ぐらを掴み前後に激しく振っていた。
「生きてるんだったらさっさと連絡を寄越しなさいよこのクズ!」
「ぐ、ぐぇ…無茶、言うなよ!こちとらどんだけ大変だったと思ってるんだ!というか早く手を離せ!」
「ナオトの分際で口答えをするな!」
『マリー様、どうやら命が惜しくないようですね、今すぐに解体させて頂き──』
「お前らいい加減に落ち着きやがれ!」
ナオトはつい先程までマリーに死んだと思われていた。それがひょっこりとマンホールから出てきたのでマリーは絶賛混乱&鬱憤の発散をしていた。このままだと埒が明かなかったのでハルタ―はマリーに拳骨を落とす。
「ひぎぃ!」
「うっわ痛そ…」
頭を押さえ涙目でうずくまるマリーにナオトは同情をするものの若干スッキリとした表情をする。
「なんっで私を殴るのよ!!」
「説明が必要かお姫さん」
ハルタ―は目線をある対象に向けた。マリーは憤慨しながらも目線を辿るがそこで一気に青褪める。目線の先には機械の様に無表情ながらも怒りを全身から迸らせていた。
「
『ナオト様に手を挙げた上に要求の重ね掛けですか。私の怒りも一周回って殺意に変わりかねませんよ?』
もはや一触即発の空気だがそんな空気を無視してナオトが素朴な疑問を言った。
「てか先輩はどこにいんだ?別行動?」
その一言を聞いたマリーは顔を強張らせた。その表情とマリーの心音を聞いたナオトはポカンとする。
「…え?」
「ナオト、勘違いをするな。確認が出来ていないだけだ」
「いやだって…!」
ナオトが最後にハヅキを見たのはあの巨大兵器の前で血相を変えて走って行った姿だ。普通でない様子に気掛かりではあったがリューズと同性能のイースがいると思い大丈夫と思っていた。それにハヅキならすぐにマリーの安否を確認するため合流していると思っていたナオトは予想外の展開に動揺する。
『落ち着いてくださいナオト様、ハヅキ様には姉さんが付いています。恐らくですがマリー様に近寄るとどう考えても面倒極まりの無い事に巻き込まれると考え別行動を取っているのでしょう。賢明な判断です』
「あ、確かに」
「
「いや、的を射てるでしょうよ…」
ハルタ―の脳裏にはつい数時間前に忍び込んだ三重の知事の自宅に忍び込み脅は…もとい事情説明を聞いてきた事が巡っていた。
「あ・ん・た・ら・はー!」
暗に地雷密集地帯と言われたマリーは再びナオトに掴みかかろうとしたその時ハルタ―の懐からコールが響いた。
「すまん、俺だ」
「あんた通信機持ってたの?」
「プライベート兼ダミーの使い捨てなんだが、いったい誰から…」
ハルタ―は番号を確認して更に怪訝な顔になった。
「コンラッド先生だと?」
ハルタ―は疑問に思いながらも通信に出た。
「それで、そっちは何があったのよ」
「え?言う必要ある?」
「当然でしょうが!」
『ナオト様、マリー様如きにナオト様のただでさえ砂漠のオアシスにある水程に少ない時間を割く必要などございません。ここは無視が最善の選択かと』
「砂漠のオアシスって一見褒められているようで実はそうでもなかった件について」
「茶化す「本当ですか!」ハルタ―の私限定の間の悪さはなんなの!?」
「日頃の行いじゃね?」『日頃の行いかと』
「あははは、あんたらいつか絶対に
マリーが怒髪天を衝く勢いで憤慨する。
「おいマリー喜べ!」
「喜べるかーーーーー!!!」
「ハヅキ達からコンラッド先生に連絡があったらしい!」
「ッ———!」
マリーの目が大きく開かれたと思った瞬間、
「それを早く言いなさいよーーーー!!」
「ぐほぁ!!」
マリーの全力の蹴りをハルタ―は腹部に食らい前のめりに倒れた。
「…なぁリューズ。なんかマリーの奴、いつにも増して狂暴じゃね?」
ナオトはハルタ―が完全義体と知っているのでそんなハルタ―に有効打を与えたマリーに引いている。
『考えなくてもよい事を考えた挙句一人芝居をしていた事に遅まきながら気付かれたのでは?私としては大変滑稽で愉快でしたのでそのままでも構いませんでしたが』
「そしてリューズも辛辣だなぁ…」
リューズが不機嫌なのはマリーがナオトに乱暴をしたからという理由なのにそれに気付かないのがナオトだ。
「もしもし、コンラッド先生ですか?マリーです。え?ハルタ―がどうかしたかですか?どうやらハヅキさん達が生きていたことに嬉しかったらしく咽び泣いてますよ」
「いや、マリーのあまりの一撃に機能不全一歩手前になってっけど…」
マリーは耳聡くナオトの声を拾いギッと睨むがすぐに表情を戻してコンラッドとの会話に戻った。
「それでハヅキさんは何て連絡を…は、はい?兵器の正体を突き止めた?対処法も考えてる?え、待ってください、いったい彼は今までどこで何をしてたんですか?はぁ!?家に帰ってた!?なのにわ、私達よりも詳しく知って…」
「あ、マリーが白くなり始めた」
『どうやらマリー様が残念なおつむを絞って手に入れた情報をハヅキ様がより詳しく調べていたようですね。徒労に終わったのでしょう』
マリーは更に一、二言コンラッドと話したのち通話を切った。
「…ふ、ふふふ」
「あ、これまずい?」
『決してまずいという事はありませんが大変面倒臭い事になるかと』
「ハルタ―!!何寝てんの!?さっさと移動手段の手配をしなさい!今すぐに京都に戻るわよ!」
「そう…言うと思って、手配済みだ…」
「マジかよ!?オッサンすげぇ!!」
ナオトはグロッキー状態のハルタ―がマリーの行動をとっくに先読みをして手配していたことに驚いた。いつの間にかハルタ―の手には二つ目の通信機があったのでそれでどこかに連絡を取ったのだろう。
「なら良し、場所は?」
「ナオトが列車が無理だってんで飛行機を手配した」
「オーケー、分かったわ。ナオト、さっさと京都に帰るわよ」
「先輩に合流すんの?」
「ええ、そしてちょっとお話をしましょう。事細かくね、もう根掘り葉掘り聞いてやるわよ。こっちが絶望してる間に何してたんですか?ってね!」
「(あ、先輩にも切れてんのか)」
「それからの事はその後!こうなったらなるようになれよ!」
「なぁオッサン、マリーって疲れてる?」
「お前さんがいない間ほぼ不眠不休だ。おかしいと思うだろうがほっといてやってくれ、そのうち戻るだろうから」
マリーは謎のテンションのまま一同を引き連れて飛行場を目指して移動し始めたのだった。
「へっくしゅ!!」
『湯冷めした?』
「いやー…どうだろ(そこはかとなく面倒臭そうな予感がする…)」
ハヅキのこの予感は数時間後に見事的中することとなる。
次回こそはご期待に応えられるような一話にして見せるぞ…!(フラグ)