京都にある自宅で俺はイースと共に設計図の照らし合わせをしていた。イースが記録した設計図は一部ではあるものの相当な枚数があるので書斎で見つけた設計図との照らし合わせは重労働だ。
「どうやら基本的に電磁動力事態の構造は同じのようだな。ただ配置が違う」
『やっぱり義手とは違うから?』
「だな。あっちはあの兵器そのものを動かすためであって、こっちの義手は脳からの電気信号を増幅して補う為のだからな」
『でも動力自体の個数は段違いだね』
「そりゃ大きさが違い過ぎるからな」
義手に使われていた電磁動力の数は2063個、対して八束脛は20000個。およそ十倍の差がある。更に、
「これを100潰したとしても負荷がほんの少し増えるだけで変わらないんだよなぁ」
仮に一つ潰したとしてもこの動力は失った一つの動力を他の全ての動力が肩代わりをするように設計されている。恐らく機能を潰すには1/5である4000個を壊してようやく支障が起こるようになるだろう。
「とんでもないな、つくづく…」
『でもやらなきゃいけないよね?』
「ああ、でもどうすれば…」
休憩がてらイースがいつの間にか入れてくれていたお茶を啜っていると玄関の方から誰かが駆けてくる音が聞こえた。そして、
バァン!!
「ハ~ヅ~キ~さ~ん!!」
「…マリーちゃん、頼むから玄関は壊さないでくれよ」
「んなこたぁどうでもいいんですよ!!」
『わぁ暴君!』
数十時間ぶりに
マリーちゃんは怒りマークが目に見えるくらいに怒っていた。…まぁ理由は分かり切ってるんだが。
「ハヅキさん!!あなた今まで何をしてたんですか!こっちがどれだけ心配してたと!」
「あーうー…いや色々あってね?ちょっと精神的に参ってて…」
「そんなのこっちも同じですよ!」
「マリー、ちょっと落ち着け…」
「ハルタ―は黙ってなさい!!」
ハルタ―さんがマリーちゃんを諫めようとするがあえなく撃沈される。
『リューズちゃんよく無事だったね』
『ナオト様の指示通りにアンクルの
『足場跡?…ああ、そういえばそんなのあったね。あれ?それでもあそこって人間には死の空間じゃない?』
『はい。ですがそこは脆弱な人間が生存できる環境が整っていましたので』
『なんで?』
『それはまた後程…』
『うーん…まぁとりあえず分かったのはナオト君は飛びぬけたおバカさんだって事だね!』
「あるぇ!?どうしたらその結論に!?」
『ええ、その通りですね』
「リューズも否定してくれない!」
あっちは和気藹藹だな!
「ハヅキさん聞いてるんですか!?」
「聞いてるからちょっと落ち着け!」
「これが落ち着いて…ぎゃ!?」
マリーちゃんが俺に詰め寄ろうとしたとき足元にあった紙に滑ってこけた。
「痛っつ…」
「だから落ち着けと言ったろうに…」
「うるさいわよハルタ―!…て、これ何の設計図ですか?」
「それ?あの巨大兵器の動力部」
「はい!?」
マリーちゃんが目を点にする。同時に全員の会話が止まった。
「今からちゃんと説明するから全員よく聞いてくれよ」
さて、やっと真面目な話し合いが出来そうだ。
ハヅキさんに座るように指示され和室の卓袱台を囲むように全員で座った。その中で私はついさっきハヅキさんに説明された事に関して頭痛が起きてしまい頭を抱える。
「……ハヅキさん、それ本当ですか?」
「あんな衝撃なものを見せられて嘘つく余裕があると?」
「ですよね…」
私は卓袱台に広げられた設計図を見る。歯車やスプリングなんかがびっしりと描かれた設計図は幾度となく見てきたが目の前にある設計図にはそれはあくまでおまけ程度にしか描かれていない。代わりにそこにはコイルやモーターといった現代ではお目にかかることが無い部品が所狭しと描かれている。こんな設計図では私の知識は半分も役に立たないだろう。
「
「
「そこまでの物か…」
ハルタ―も顔を盛大にしかめる。多分完全に理解は出来て無いんでしょうけど予想を遥かに超えて厄介なものという事ぐらいは分かっただろう。一方ナオトは…
「先輩!話の八割がた分からないっす!」
「うん、期待も何もしてなかったから心底どうでもいい。ちなみに理解できたところは?」
「これに先輩の両親が関わっていた事くらいです」
「だろうなおバカ」
「なんかいつもより罵倒が多い気がする…」
そう、更に驚愕なのはこの設計図の大本を作ったのがハヅキさんの両親だという事だ。神連夫妻、夫婦で
‟機械の異常を見つけ出すには全体の流れを見てしまえばすぐに分かる。一々大掛かりな点検機を持ち出すのは時間の無駄だ。どうすればそんな事が出来るかだって?そんなもの、機械を一分たりとも見逃さず考え続けていれば勝手に出来るようになる”
‟どうやって見つけているのか?まず全体を見て変な駆動をしている所があればそこに異常がありますよ?え?あの人も同じような事を言っていた?あらあら、やっぱりお似合い夫婦なのね私達!”
このインタビューはすぐに批判され発売から一月もせずに絶版になったらしい。今ではプレミアムも付いているとか…
──いや、そうじゃなくて…問題はこの電磁動力をそんな二人が設計したって事。だとしたらおそらくこれを完全に理解するのは不可能に近い。だって要は二人は理解をしながらも直感で動いていた可能性が高い!
「ねぇナオト、あんたはこの設計図を見てなにか違和感とかないの?そのぶっ壊れ性能の耳で何か分からない?」
「ぶっ壊れって…残念ながら分かんないよ。俺には知識が無いから理解が出来ないし、何より俺は
「…そういえばそんなこと言ってたけどそれってどういう意味?」
「うーん…こう、いつもなら歯車が嚙み合って次の歯車を動かしてそれがまた次の…って詳しく分かるんだけどあのデカブツの中は聞こえはするけど混ざり合ってるような感じがしたんだ」
「混ざり合う…?」
「多分、それは動力から発生する電磁波のせいだと思う。ナオト、ハルタ―さん宛ての通信はどんな感じで聞こえた?」
「え?そうっすね…宇宙人がいるならこんな感じかなって言う超高い音でし…あ、そっくりだ」
「やっぱりか…」
「どういうことだ?」
「ナオトがまともに聞き取れなかったのはあの巨大兵器が既に動いていて内部に強力な電磁波が発生、反響してたからだろうさ」
「既に起動してる…!?じゃあやっぱりあのデブの言ってたことは本当に…」
私がハルタ―以外の安否を確認できていない時に三重の知事に聞きだした情報が一気に信憑性を増した。
「デブが言ってた?どういうことだ?」
「…政府が、墜ちた威信を取り戻すために違法な実験をしているとされている三重に攻撃を仕掛けるって話です」
「……はぁ?」
「ッ!!」
…まただ。この人は時に一般人とは思えない程の迫力を出すことがある。少なくとも私が知る限りでは二回目。この恐怖はリューズの鎌に首を挟まれた時と並ぶと思っている。
『…リューズちゃん?』
『…何でもありません』
ふとそんな会話が聞こえた。目だけを動かして声の発生源であるイースとリューズの方を見た。リューズの顔はいつも通りの澄まし顔に見えるが幾らか強張っている様にも見える。対してイースの方は笑ってはいるもののどこか
──ほんと、この二人は何なのよ…!
ハヅキ様の出した迫力に、私はまた
──何なのでしょうか…この方は
ハヅキ様のこの迫力だけは別だった。本来あるはずの演算と判断が飛び、直接観測→行動と移ってしまう。こうなればそれは人間の‟反射”と同じだ。ただでさえ早い私の行動が更に早くなる。だというのに、
『…リューズちゃん?』
これだ。どんなに早く動いても先手を打たれて止められる。反射には‟悪意”も‟害意”も‟敵意”も無いはずなのに、この姉は反応する。それが私には分からない。それに私はこの姉に明確に‟恐怖”を覚えている。本能という機械であるはずの無いモノが私に訴えかける。[歯向かうな]、と。
『…何でもありません』
一体姉は…‟
俺は政府の余りの身勝手さに一瞬で頭が沸騰してしまった。どうやらこの国は根本から腐ってきているようだ。
「…マリーちゃん、それは何か予兆でもあっての事か?」
「と、東京の軍が兵力を集中させてる様なんです。複数の
「マジで攻め込む気なのか…」
ああ、腹が立つ。自分達の不祥事をこんな形で払うとか馬鹿じゃねぇの?それで被害を被るのはそこに住む人々だってのに。
「…ナオト」
「うぇ!?な、なんすか?」
「お前はこの話を聞いてどう思った?」
「どうって…まぁ俺が思ったのは‟そんなくだんねぇ事にアンクルちゃんを巻き込んでんじゃねぇよ!”事っすね。なのでさっさと東京に行きましょう!アンクルちゃんが俺を待ってる!」
「…ハルタ―、私一周回ってこの馬鹿さ加減が羨ましくなってきちゃった」
「こんだけシンプルな行動原理ならそう思えてもおかしくないと言っておくよ」
俺はナオトの話を聞いてから目を瞑り天を仰いだ。頭の中の情報を整理する。ナオトは単純だけど確固とした意志を持っている。きっとこいつはどこまで行っても自分の意志を曲げないで貫き通すだろう。それはこいつの数少ない長所とも言えて、俺が尊敬できる事だ。
「マリーちゃん、ハルタ―さん」
「はい?」「なんだ?」
「…俺は今心底腹が立っています」
「それは私達もですよ」
「なまじ大人として分かってしまう事もあるからなぁ…まぁここは合わせておこう」
「なので…ここで一気に発散しませんか?」
「「………」」
『わぁお、すごい事になりそうだね!』
「??」
『私は従者ですのでナオト様の決定に従うのみです』
五者五様、様々な反応が返ってくる。その中でいち早くマリーちゃんが反応した。
「はぁ…そう、ですね。やっちゃいますか。ナオトを羨むなんて屈辱以外の何者でもないし─」
「おい、唐突にディスるな」
「─だったらいっそ、全員で馬鹿にでもなりましょう!」
マリーちゃんが獰猛な笑みを浮かべた。
「あーあ…ハヅキ、俺は知らんぞ。マリーを焚き付けたのはお前さんだからな?」
『と、言いつつ最後までマリーちゃんの護衛を止めないハルタ―さんだった。もしかしてペド?』
「とんでもない事をぶっこむな!?俺はペドでもロリコンでも無い!」
「え…ちょっとハルタ―近寄んないでくれる?できれば半径10メートル以内に」
「数字がリアル過ぎるだろうよ!?」
『ナオト様、お気を付け下さい。どうやらこのガラクタは真正の様です』
「え?なんで俺?」
「ショタコンでもねぇよ!?」
イースの一言から一気に場が賑やかになった。それは正しくイースなりの‟安らぎ”の作り方なのだろう。俺は皆に釣られて笑ってしまった。俺が笑ったのを見て全員が一瞬きょとんとするがすぐに笑い始める。ハルタ―さんは一人憮然としていたが割愛だ。
「…いつだったかマリーちゃんが誘ってきたな」
「ええ、お誘いしましたよ?あの時は私が巻き込むと宣言しましたけど…どうします?」
「…いいぜ、乗ろう。盛大に歓迎会をしてくれよ?」
「むしろ主催してどうぞ」
お?言ったな?
「だったらお誘い通りにテロリストをしてやろうじゃねぇか。いいか?俺達はこれから──」
俺の言葉に皆が嗤う、まぁ悪い顔だこと。
──ナオトは自分の欲望を満たすために。
──リューズは主への誓いを果たすために。
──マリーは自分の正義のために。
──ハルタ―は子供達が起こす変革を見るために。
──イースはハヅキとの思い出のために。
──ハヅキは両親の真実と理不尽を覆すために。
彼らは再び歯車を廻す。歴史に軌跡を残さんとして。それが世界にとって幸か不幸かは関係ない。ただ彼らは思うがままに世界の歯車を廻す。さぁ、ここにまた一つの
「──東京を乗っ取る」
ガチリ、と歯車は廻る。全てを巻き込んで。
どや?頑張ったでしょ!?