世界変えるは天才少女と傭兵とバカップル二組   作:砂利道

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二話めっちゃ難産でした…


破滅させるもの 上

けたたましい騒音を立てながら八束脛は東京へと歩を進める。だが八束脛が進んでいる道は本来歯車が密集していて道の体を成していない。では力づくで進んでいるのかと言えばそうではない。八束脛の前を小さな少女が進んでいる。──身を遥かに超える大きさの歯車を、豆腐を崩すように壊しながら。その様子はまさに破壊の権化、それが唯一の証明。

 

 initial-Yシリーズ肆番機『撃滅するもの(トリーシュラ)』アンクル。姉妹の中でただ一人兵器として設計された少女は行動の自由を許されぬままただただ命令のままに眼前の障害物を壊していた。

 

──…つまらない

 

少女は意味のない思案をする。それは幾度となく考え、出してきた答えだった。

 

──誰か、壊してくれないかな…

 

少女は自滅願望を持つ。だがそれは叶わない夢だった。永久運動機関(パーペチュアル・ギア)より出力される無限のエネルギーが彼女を停めることを拒み、比類ない戦闘力がすべてを蹴散らす。ゆえに彼女は動き続ける。ただ命令されるがままに。

 

少女はやがて目標地点までのトンネルを開通させた。そこは立体駐車場の最下層らしく薄暗かった。そしてどうやら別のルートからたくさんの人間が八束脛の進行を止める為にトンネルに侵入したらしい。だが新しいオーダーは無い。少女は何もせずに待機する事にした。

 

…幾ばくか経った頃だろうか、頭上で何かが崩れるけたたましい音と沢山の足音がまるで逃げるように駆けて行ったのを聞いた。少女は状況把握のために聴覚機能を上げた。

 

〔──でしょうか?今宵のショウはこれにて閉幕!皆様風邪などを召されませぬよう暖かくしてお過ごし下さい。快適な夜を!それではシーユーアゲイン!アディオス!アミーーゴ!!〕

 

少女は余りの意味不明さに首を傾げたがすぐにどうでもよくなった。どうせ自分には関係が無いのだから。少女は再び思考を止めようとしたが目の前から足音が聞こえてきた。

 

『随分と派手に動きましたね。おかげであなたの位置の特定がすぐに出来ました』

 

まぁ実際に特定したのはナオト様達なのですが、と銀髪の美しい自動人形(オートマタ)は呟いた。少女は足音の方向を向いた。その声を聴き間違えるはずは無い。それは少女が──アンクルが大好きな姉の声なのだから。

 

──おねえちゃん!

 

前にあった時はろくに話す事も出来ずに離脱してしまった姉を前にアンクルは声を上げた。…だがその声は届くことは無い。アンクルには話す事を許可されてないのだから。

 

『…今、あなたが何を私に伝えたいのかを知る術は残念ながら私は持ち合わせておりません』

 

アンクルは姉の言葉に落胆する。

 

『ですが安心なさい』

 

姉の声は優しく、何か確信を持って聞こえた。

 

『あなたを自由にするために私の(マスター)とその先輩、それにノミよりかは幾分マシな方々が動いて下さっています。ですのであなたは安心して…()()と戦いなさい』

 

姉は音も無くスカートから二つの漆黒の鎌を出した。アンクルは設定された状況に該当すると判断して戦闘態勢に入った。でもそれがひどく残念でならない。それはどう足掻いても自分が勝ち、姉を壊してしまうからだ。

 

『おや?なぜ悲しそうな顔をするのでしょう』

 

その声は本当に不思議そうだった。

 

『ああ、もしかして戦えば私を壊してしまうと思ったからでしょうか?だとしたらこう答えましょう』

 

姉は不敵に笑っていた。

 

『──姉より優れた妹など、存在しませんよ?』

 

アンクルは先んじて宣言を行う。

 

『定義宣言──』

 

だがそれを姉であるリューズは許さなかった。即座にアンクルに肉薄し、鎌を振るう。アンクルは、姉は同様に宣言を行うと予想していたが為に反応が刹那に遅れ途中で止められてしまう。大きく飛びのき距離を取るがリューズはそれを逃がさぬように進行方向に鎌を伸ばし、塞ぐ。アンクルは宣言を諦め空間から大剣を取り出し、振るった。アンクルが一撃でビルを倒壊させるような勢いで大剣を振るうとリューズは二つの鎌を器用に使い受け流すように逸らす。そんな攻撃の応酬が続くがスペックの差が徐々に表れ始める。リューズは次第に大剣を捌ききれなくなり紙一重で避けはじめる。

 

『ッ!』

 

そしてついに大剣の切っ先がリューズの左肩を掠めた。上に跳ね上がるように振るわれた大剣はその風圧で天井に大きな穴を開ける。あとは大剣を切り返し、振り下ろすだけ。体勢を崩されたリューズに避ける余裕はない。アンクルは決まりきった結末に失望しながらも振り下ろそうとするが、そこで姉が笑っている事に気付いた。

 

『アンクル、私は、()()と戦いなさい、と言いましたよ?』

 

月明かりが差し込み砂煙が舞う大穴に人影が写っていた。アンクルは上を見上げ人影を見る。

 

『定義宣言──』

 

それは静かで豊かな声だった。

 

『initial-Yシリーズ監督機〔寄り添うもの(マンダリン)〕イース』

 

それは自分たちと同じ起句を言った。

 

『固有機能──【位相変換(ワールド・ワープ)】……起動シークウェンス、開始します』

 

それは美しく奏でられた。

 

『──一方運動から全方運動へシフト開始』

 

それは自分たちと同じ…いや、それ以上の世界への冒涜を感じた。

 

駆動(クロノフック)──直径10メートル、全高30メートルの空間を現実世界から狭間世界へワープします』

 

その言葉に本能が危険信号を発し、即座に離れようとした。だがそれは間に合わない。

 

『───歪曲機動(トラベル・ストップ)───』

 

直後、アンクルとリューズは知覚することなくこの世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生命の気配のない全ての可能性が消え去った世界。無限に存在する平行世界の間に存在するそれは通常なら机上の空論でしかなく観測することは不可能な世界だ。規格外の能力を有するinitial-Yシリーズですらそれは例外ではない…筈だった。少なくともアンクルはそう思っていた。

 

 リューズとの戦闘中に突然現れた謎の自動人形(オートマタ)、それはアンクルにとって飛び切りの異常事態(イレギュラー)であり事前情報にもない不確定要素だった。

 

『さーてさて、ようこそ!何もなくて全てがある狭間の世界へ!』

 

つい先程まで空色の髪に夜空色の瞳は逆転し、瞳は澄み渡った空色に、髪は移り行く夜空を写していた。アンクルは明らかに先程までいた空間とは違うと直感しかつその変化を行ったのが目の前の所属不明の自動人形(オートマタ)であることを確信していた。

 

『ここが姉さんの言っていた狭間の世界ですか。確かに何もなく退屈過ぎて興味のそそられる事の無い世界ですね』

 

『私そこまで言ってないよ!?』

 

アンクルは不明な自動人形(オートマタ)の隣に立つ長女であるはずの壱番機(リューズ)が姉と呼称したことに疑問を浮かべた。

 

『お?もしかしてリューズちゃんが私の事を姉って呼んだことに不思議がってるのかな?』

 

なぜ分かったのか、アンクルには分からない。

 

『なに、簡単なことだよ。元々は私が壱番機として製造されてたの。だからリューズちゃんが私の事を姉と呼ぶのは必然なのさ!』

 

『…それでイース、これからどうするので?』

 

『姉呼びじゃ無くなった上に呼び捨て!?』

 

この自称‟姉”はシリアスというものを知らないのだろうか?アンクルはイースが固有機能を発動させていた時の神聖さが幻想だったのではないかと思い始めていた。

 

『…真面目にお願いします』

 

『はぁ、アンクルちゃんと仲良くなるためのウィットに富んだジョークなのに…ま、そだね』

 

ざわり、とイースの纏う空気が変わった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

悪寒、混乱、恐怖…そして死気。イースの放った言葉からアンクルはこれらの感覚を一斉に味わった。体は勝手に反応しその彼我の距離を100メートル以上に伸ばす。アンクルは敵脅威度を最大の【伍】…いや、【()】に設定しようとした。だがそれは自由意志を許されている時のみ出来る行動、アンクルは今ほど自分を縛っている仮面を恨んだことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も無い世界で私は必要のない呼吸が詰まる感覚を得た。全身の歯車が軋む、本能が今すぐに逃げろと叫ぶ。それほどまでに目の前の姉が…イースが怖くてたまらなかった。

 

『──なんで私が‟監督機”って呼ばれてると思う?』

 

その問いは唐突で、答える間もなかった。

 

『もし私がただの予定にない個体だとしたら別に‟番外機”でも‟零番機”でもよかったよね?』

 

それは前から気になっていた事だった。姉の持つ監督とは一体何のことなのだろうと。

 

『…私は妹達の全てを知っている。構成する歯車の個数から各個体に与えられた‟至上命題”の真意まで』

 

私が造られた時には既に機能停止をし、知り得るはずが無い情報を知っていると言った。

 

『だからこそ私は‟あの人”に妹達が正しい選択を出来るように任されたの。だから‟監督機”』

 

それは‟あの人”から伝えられていない情報だった。

 

『時に導き、時に叱責する』

 

姉さんの独白は続く。それに比例して姉さんから何かが減っていくのを感じた。すると向かいからアンクルが宣言を始めたのを聞いた。少しでも早く最強になれるようにという事だろう。

 

『定義宣言──initial-Yシリーズ肆番機〔撃滅するもの(トリーシュラ)〕アンクル』

 

『そして時に諫め、裁く』

 

独白は止まらない。

 

『固有機能──【万華香匣(パワー・リザーバー)】……変動シークウェンス、開始します』

 

『ここは檻、ここは処刑場』

 

そして、歪む。

 

()()定義宣言──initial-Yシリーズ監督機〔破滅させるもの(アバドン)〕イース』

 

私は瞠目した。今、姉さんは二つ目の至上命題を口にしたのだ。

 

『──敵脅威度、種別(カテゴリ)【伍】──階差テン輪、第十二番へシフト開始』

 

アンクルの言った言葉は出力するエネルギーの総量を言う。今の宣言では最高ランクを開放すると宣言した。だが…足りないだろう。

 

『──中枢回路より感情領域を遮断、幻転回路に接続』

 

直後あらゆる場所から無数の歯車が空間を覆いつくさんばかりに現れ、一つの機構を構成する。それは大支柱(コア・タワー)を構成する歯車よりも多いだろう。

 

駆動(クロノフック)──永久運動機関(パーペチュアル・ギア)より架空出力、現出します』

 

『執行対象、肆番機アンクルと認定──第四武装を展開、活動時間を制定』

 

姉さんはその姿を再び変えた。夜空の髪は更に黒く、奈落を思わせる色に。空色の瞳はすべてを返す鏡のような銀色に。その衣服は昏く、純粋無垢を反転させる。スピアは四つに分かれ命をより容易く貫く形に。無数にある歯車から二つが姉さんの背後に移動しゆっくりと回転し、震わす。左手には歯車に縛られた砂時計が浮かぶ。頭には死を告げる天使の如く輪が現れる。心臓部から赤い紋様が浮かび、体を侵食するように広がる。今やそこに私の知る姉さんはいない。今そこにいるのは…私達姉妹を狩る、死神そのものだ。

 

『───絶対機動(ブラッディ・マーダー)───』

 

『執行、開始』

 

直後、最強と死神が激突した。




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