そしてなんと!この度は新上なお様に再びイースを描いていただきました!もう物書きとしては光栄の極みですね!本当にありがとうございます!
それは人には認知が出来ない速度で起きていた。無数に等しい剣戟の如く火花が散る。その事にアンクルは恐怖を覚える。造られてこのかた、自身とまともに攻撃をぶつけ合うという行為が出来る存在は無くいつも一方的に自身が相手を屠るばかりだったからだ。そして鳴りやむ事の無い警鐘。それが僅か3秒後、正しいという事を知る。
一分、それが姉妹を狩る為に私が一切の感情を切り捨てて行動できる活動限界だ。それを過ぎれば問答無用で活動は停止し強制的に元の世界へと戻される。そもそもこの機能は使いたくはなかった。誰が好き好んで愛しい姉妹を壊そうとするというのか。だけど私は今この場限りその選択を選ぶ。それが他ならないこの世で最も大切な愛する人のためになるから。一秒が一時間以上に延ばされた世界で私は目の前の
残り活動時間55秒
突然死の気配が強くなった。わたしは振るわれたスピアを弾くことなく避けた。すると背後にあったビルの柱が粉塵となり消失した。
『ッ!』
ついさっきまで打ち合いが出来ていたこのスピアは突如防御不可能な絶対の槍と化したのだ。即座に解析をして悪態を吐きたくなる。原理は
『ッ!?』
こんな風に大きさを変えられるのかもしれない。と言うより変えられるようだ。わたしは自身の膨大なエネルギーに物を言わせて飛びのき空間から共振破砕砲を取り出す。即座に充填、発射する。だがそれも逆位相の振動で相殺された。一歩ずつ、着実に死が迫ってきている。
残り活動時間45秒
武装の展開は完全に終了、能力の展開準備に入る。必要想定時間10秒。
残り活動時間42秒
攻撃は避けられたけど撤退させることに成功。これは大きな成果であり勝機にもなった。少なくともわたしの攻撃は脅威として判断されている。ならば逃げ道を失くした後不可避の一撃を与えよう。わたしはいつも通り狩りをする為に行動を起こした。ひたすらに空間を捻じ曲げ壁を作る。行動範囲を極限まで狭める。だがそう上手くいく筈も無く迎撃される。超高速のスピアが捻じ曲がった空間の隙間を正確に射貫く。触れた鉤爪の一部が消失する。腕そのものが消えなかったのは僥倖だ。わたしは引き続き追い詰めていく。…そう思いたい。
残り活動時間36秒
残り活動時間35.5秒
突然相手が動きを止めた。フェイクの可能性を考えるがどうやら完全に止まっているようだ。理由は分からない、だがまたとない好機だ。わたしは欠けた鉤爪を振るい敵の周囲50メートルを歪め囲う。これで万が一の逃げ場はない。わたしは持てる力の全てで敵を壊──
『エネルギー充填完了。対肆番機固有能力【空間跳躍】使用可能──』
──すことは出来なかった。逃げ場が無い筈の空間で敵は一瞬で姿を消した。そして誰もいないはずの背後から死の一撃が迫ってきた。
残り活動時間34秒
投げ飛ばされた。もうわたしは体勢を立て直す余裕も気力も無くしていた。あれはわたしが勝てる相手じゃなかったのだ。空間を操作していくら破壊の渦を作り出したとしても空間そのものを跳ばれては意味がない。何よりもあの能力を観測してから0.01%あった勝率が明確にゼロになった。勝ち目は無い。
──…ああ、終わるんだ
遠くで死神が槍を振るうのが見えた。約50メートルの距離があるけどあの死神にとってそんなものは誤差だろう。穂先は真っ直ぐにわたしを向いている。きっとあと数瞬でわたしは機能を完全に破壊…無にされる。なにも残せず、楽しい事が何もなく終わる。自分は壊されることを願っていた筈なのに、何故だろう。
──嫌だよう…
わたしは死ぬのが嫌だった。だって、何も楽しい事が無かったのだから。この造られた心が満たされずに逝くのは嫌だった。
だけどどうする事も出来ない。わたしの万策は尽きた。あらゆる武装は意味をなさず、兵器としての存在意義を失ったわたしにはもう、何もない。ふと、遠くにお姉ちゃんが見えた。…あは、初めて見たよ。そんなに焦った顔。お姉ちゃんもそんな顔するんだね。話す事は出来なかったけど、最期に会えて、嬉しかったよ。
──さよなら…
わたしの意識は暗闇に吞まれた。
私は焦っていた。姉さんが姿を変えてからの戦闘は最弱である私には観測するのが難しくて断片的にしか情報は得られなかった。それでも姉さんが終始最強のアンクルを追い詰めていたのは分かった。だがそれがあまりにも作業的で…機械的で恐ろしかった。姉さんは私よりも人間らしく感情が豊かだった。なのにあの姉さんの感情が一切感じられなくて、妹を壊すことになんの違和感も持っていないように思えた。時間にすれば30秒に満たない時間は余りに長く、私の心胆を冷やした。アンクルが死んでしまうのではないかと、本当にそう思ったのだ。そしてついに姉さんがアンクルを壊す最後の一手を打とうとした。私は恐怖を抑え込み固有機能を使うのも忘れて姉さんに攻撃をしようと動き始めて…
──空間が爆ぜた
それは突然で私は硬直してしまった。爆発したのは遥か先、アンクルのいた場所だった。
『──アンクル!!』
私は今現在出せる最高速度でアンクルの下に駆け寄った。
アンクルは道路に倒れ伏していた。慌てて抱える。すぐに機関部に耳を当て稼働しているかを確かめる。
カチ、コチ、カチ、コチ…
動いている。それも正常にだ。あの爆発では無事では済まないはずなのに…すると背筋に悪寒が走った。ゆっくりと振り返るとそこには
『…アンクルにはもう交戦する意思は無い筈です。これ以上はいくらあなたでも許しません』
込み上がる恐怖心を抑え込み自分の意志を伝える。かつてここまで緊張したことがあっただろうか、…造られてこのかた無いだろう。姉さんがその無機質な目をアンクルに向けていると…
ピシッ…
『え?』
アンクルの仮面にヒビが入りやがて粉となり砕けた。
『これは…』
『──目標の破壊を確認、活動限界時間に到達。全能力を解除します』
姉さんが感情の無い声音で言う。直後、目の前の世界が歪み私の意識は空白に吞まれたのだった。
ギギッ…と体が軋む。急速に自分に感情が戻ってくる。ああ…最悪な気分だ。いくら妹を救うためとはいえ〔
『ここは…』
『元の世界だよ』
…やっぱりそういう反応をするよね。今のリューズちゃん、すごく怯えた顔をしてるよ。
『…安心して、もういつも通りの私だから』
『姉さん、いくらアンクルと戦うためとはいえ、あそこまでする必要があったのですか?私にはあなたがアンクルを壊しに掛かってるようにしか見えませんでしたが?』
『…まず言っておくね、確かにあの時の私はアンクルちゃんを壊しに行ってたよ』
『なぜ…!』
『──俗物に操られる妹という要素を殺すためにね』
『…どういう意味ですか?』
『あの状態─〔
『あれが救済措置?正気ですか?』
『正気だよ。
『…ですが、』
『やり過ぎというのは認めるよ。でもアンクルちゃんの外傷は微々たるもの、内部機構は一切傷つけてないし停止も起こさせてない。そこの調整はちゃんとしたから大丈夫。私達に協力してもらえるようにエネルギー消費も抑えさせたしね』
『いえ…エネルギーは大分消費してるように見えますが…』
『見かけはね。
最後の爆発はそこを誤認させるために起こしたんだしね。気絶してても戦闘中と誤認しておけばエネルギーは高速で生成される。ハヅキ達と合流するころには問題無く空間操作は出来るはず。ほんと、大変だったよ。
『…あれは、いったい何なのですか?』
『正式なinitial-Yシリーズに対する防御機構のようなものだよ。姉妹一人に対して完封できるまでの武装と能力を扱う為の処刑機械、世界を破滅に導く五番目の試練を司る奈落の主を冠した最低最悪のね。…できれば使いたくは無かったんだけどね、アンクルちゃんとまともに戦うとなるとアレに頼るしかなかったんだ』
『使いたくなかったのであれば私も使えばよかったのでは?そうすれば少なくとも…』
『‟人間”をベースに設計された私達が‟兵器”に勝てるとでも?今回は失敗は出来なかったんだよ?勝率3割に満たない状況を10割にするにはあれしかなかったの』
『ですが!』
『リューズちゃん』
リューズちゃんはとても悲しそうな顔をした。きっとこの顔は姉である私にしか見せないだろう。全く、優しい子になったものだよ。
『私はね、妹が無事にその使命を全うできるように見守ることが使命なの。間違っていれば正し、挫けそうなら支える。生涯にたった一人のマスターと妹に寄り添う。それが私なんだよ』
あの人は何を思って私を造ったのか、それは分からない。それでも、私は自分が正しいと思ったことをやり遂げる。たとえ、それが身を亡ぼすことになるとしてもね。
『さ、皆の所に行こう。アンクルちゃんは背負ってくれる?実は血がもうギリギリで動くのも精一杯なんだよね』
『…分かりました』
『よし、じゃあ『姉さん』ん?なに?』
『…私は、あなたが怖いです』
『……』
『ですが私にとって唯一の姉でもあります。ですからお願いします。…無茶は止めてください』
先に行きますよ、そう言ってリューズちゃんはビルの間を駆けて行った。
『…ほんと、優しい子になったよ』
私は妹の成長に心が少し、救われた気がした。
『あ、ハヅキへの口止め忘れてた!リューズちゃん待って!』
私は悠々と進む妹を必死に追いかけたのだった。