世界変えるは天才少女と傭兵とバカップル二組   作:砂利道

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この話でいったんクロプラは更新停止します。次はクロプラのアニメ放送中になりますかね?まぁもう一作の進み具合によりますのであしからず…


停止

 マスター認証からアンクルちゃん…いや、アンクルはその人格を戻すことは無かった。変わらずの無機質な瞳のままだった。そう、アンクルの‟兵器”としての本来の姿だ。

 

「イース、説明しろ。俺はお前からマスター認証についての事しか聞いてないぞ。これはどういうことだ?」

 

『…何度も言ってたはずだよ?initial-Yシリーズ肆番機〔撃滅するもの(トリーシュラ)〕アンクルは‟兵器”として設計されたって』

 

「…‟兵器に”意思はいらないって事かよ」

 

ギシリ、と空気が軋む気配が場を支配する。ハヅキが本気で怒っている。その怒りはこの場の誰でもなく遥か過去の‟あの人”に向いている様に感じた。

 

「俺は、‟兵器”を手に入れたくてこの騒動を起こしたわけじゃねぇんだぞ…!」

 

──優しいなぁ…

 

私は場にそぐわない、嬉しい気持ちを持った。私達はどこまで行っても無機質な機械であることに変わりはない。だけどハヅキやナオト君、そしてマリーちゃんは私達を‟人”として扱ってくれる。私はリューズちゃんを見た。薄い表情だけど、そこには確かに姉としての‟願望”が見える。

 

──お願い、‟兵器”として生まれてしまったアンクルちゃんを、‟人”にしてあげて…!

 

 

 

 

 

 

 

 

心の底から腹立たしい。仲間になった直後にその力を行使させようとした俺が言えた筋合いじゃないかもしれない、だがそれでも‟ただの女の子”にすることじゃない。ハッキリと言えば今すぐにでもこんなクソみたいな設定をした‟Y”をぶん殴りたいがそれは叶わない。だから俺は言った。

 

「…君が決めろ、マリーちゃん」

 

アンクルのマスターであるマリーちゃんに俺は任せた。何もできない俺は誰かに託す事しか出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハヅキさんからまるで突き放すように言われた言葉に私は凍り付いた思考を溶かした。確かに人として接してやると誓った矢先にアンクルはその人間性を一切放棄したのだ。とんだ裏切りだ。

 

「なぁリューズ、これってマリーが選択を間違えたとかじゃねぇのか?」

 

『いえ、マリー様は正解を導き出しています。姉さんが言っていたようにアンクルは‟兵器”です。ですのでそこに自由意志は必要ありません』

 

「ふざけ『お言葉ですが』…!」

 

『ナオト様、ハヅキ様、そしてマリー様。お忘れでありませんか?私達は人ではなく自動人形(オートマタ)です』

 

リューズの冷然とした言葉に私はどこか納得していた。たとえどんなに人に姿を似せてもその体は無数の歯車によって構成されている。どんなに足掻こうとそこには越えられない壁が隔てられているのだ。

 

「だからって…」

 

『私はナオト様とハヅキ様、ついでにマリー様なら()()()()()()()()()()()と思っております』

 

技師としての私はその言葉に自信を持って頷ける。最適なタイミング、最適な出力、最適な攻撃優先順位を指示できるだろう。万一違えたとしても元軍人のハルタ―がいる。盤石だ。でも…だけど…私はそれが心底──

 

「「気に入らない…!」」

 

呻くように絞り出された声はナオトと被った。私はついナオトを見る。浮かんでいる表情は憮然。きっと私も同じ表情をしているだろう。

 

「ものすごく腹が立つわ」

 

「兵器だからって意志を持つな?ふざけんな!」

 

「あくまで‟設計目的(コンセプト)”が兵器であるだけ、それ以外はれっきとした淑女(レディー)よ!」

 

「どう見たってかわいい女の子だろ!異論反論抗議口答えその他一切受け付けねぇ!」

 

くるりと私とナオトは向き合った。

 

「あらナオト奇遇ね、同じ意見だわ」

 

「まったくだな、一生に一回あるかないかだろこんな事」

 

私はリューズに首を向けて質問をする。

 

「リューズ、私の命令はアンクルにとって絶対なのよね?」

 

『…はい、マスター登録されているマリー様の命令は絶対です』

 

「OKよ。だったら…命令よ、アンクル」

 

『はい──命令をどうぞ』

 

私はアンクルの無機質な目を真正面から見据えて言う。

 

「──女の子になりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‟兵器”は自分のマスターである少女の命令の意図が理解できなかった。

 

『───エラー、命令の意図が不明です、詳細を要求します』

 

「そのまんまよ。女の子として、やりたいことをしなさい」

 

『はい───当機はアンクルとしての機能を全うします』

 

「あーーもう!!違うわよ!!」

 

少女はガシガシと頭を掻きむしった。すると少女の隣に居た敵性反応の無い少年が言った。

 

「あのね、アンクルちゃんがしたい事をすればいいんだよ?」

 

その言葉に‟兵器”は更にエラーを起こした。

 

『ナオト様、今のアンクルに自由意志はありませんよ?』

 

「ある」

 

『…根拠はおありで?』

 

「あの仮面だ。あの仮面がある間アンクルちゃんからはずっと異音がしていたんだ。そして今もしてる」

 

「でしょうね。ひっっっじょうに頭が疲れるけどよく考えれば分かることだわ」

 

『どういう事でしょうか』

 

「もしアンクルが仮面をしていた時から自由意志が無いとすれば私達はとっくの昔に死んでいるからよ。アンクルほどのオーバーテクノロジーの集合体が私達の行動パターンを読み切れずにみすみす見逃すはずが無い。これは第一級時計技師(マイスター)の視点から断言できるわ」

 

「つー訳でアンクルちゃんには自由意志がある!証明終了!」

 

「だからアンクル、あなたにもわかりやすく言ってあげる。今すぐに自由意志の情報開示をしなさい」

 

分からない。

 

『はい───、詳細を確認、それは自己判断で行動せよ、という事でしょうか?』

 

「あなたがしたい事をしなさい」

 

『はい───、それは全ての機能制限(リミッター)を解除せよとの事でしょうか?』

 

「まぁそうなるかな?」

 

分からない。

 

『感情制御回路の開放、自由思考ルーチンの解凍、意見提唱の許可という事で───』

 

分からない分からない分からない分からない分からない─────……

 

「ありとあらゆる自由行動思考の許可よ!あなた(アンクル)のしたい事をしなさい!」

 

分からない────────────────────────────────────────────────いい、の?

 

 

 

 

 

『……なんでも、いい、の?』

 

「当然よ」「もちろん」

 

ゆらゆらと視界が揺れる。

 

『……本当、に?』

 

「ええ」「当たり前だろ?」

 

『──…許可が、欲しい』

 

「「え?」」

 

『泣いていいって、許可が、欲しい』

 

依然とエラーは発生している。でも、それでも流れ出る()()は止まらなかった。

 

「…ええ、許可するわ」

 

途端、目から涙が零れだす。表情機構が不能を起こす。

 

『もっと、許可、欲しい…』

 

「なんでも言いなさい」

 

ゆるゆると手を伸ばした。

 

『触っても、いい…?』

 

「いいわよ」

 

マスターが……おかあさんが手を伸ばしてくれた。ゆっくりとその胸の中に進んでいく。

 

『謝っても、いい…?』

 

「そうしたいなら、そうしなさい」

 

感情回路を制御できずにエラーを起こしたままおかあさんの胸に顔を埋めた。嗚咽が零れてしまう。

 

『ごめんなさい…ごめんなさい…』

 

()()()は、我慢できずに大声を上げて泣いてしまう。でも、それが嬉しくて、とても嬉しくて、おかあさんの中でずっと泣いてしまった。

 

『ごめんなさい…ごめんなさい……ありがとう…』

 

「…どういたしまして」

 

今、わたしはとても幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった、アンクルの胸元のキューブが突如捻転を始めた。その場にいた全員が何事かと体を強張らせたが、同時に現れた空間の波紋から一つの何かが出てきたのだった。

 

「…こりゃ、全身義体(サイボーグ)か?」

 

訝し気なハルタ―の言葉がその場の全員の気持ちを代弁していた。それもそのはずだ、それは人間と言うにはあまりにも欠損が激しかった。まともに原型が留めているのは胸部と頭部、それに右腕くらいのものだった。

 

「すげーな、このオッサンまだ生きてるよ」

 

「生きてるっていうには何とも言い難いが…」

 

一早くこの全身義体(サイボーグ)の状態を把握したナオトとハヅキが感嘆を表した。

 

「この特徴的な静音機構(ロイヤル・オーク)からしてオーデマ製だと思うけど…アンクル、これどうしたの?」

 

『ぐす…えっとね…しまってた』

 

「しまってたって…」

 

簡潔な事実のみを言ったアンクルにマリーはつい苦笑をしてしまう。

 

「あーと、とりあえずマリーちゃん。そいつ直せるか?」

 

「応急処置程度なら…アンクル、見てなさい、お母さんが凄いところ見せてあげる!」

 

『?…うん!』

 

「ぐぬぬ…」

 

早くも母性を発揮しているマリーに一言申したいナオトだったがアンクルの嬉しそうな顔に何も言えなかった。

 

『ナオト様…やはりそちらのご趣味が…』

 

「まってリューズすごい誤解をしてる!」

 

『?おとうさんなにしてるの?』

 

「アンクル、見ちゃだめよ」

 

ぎゃあぎゃあ騒いでいるナオトを尻目にマリーは手慣れた手つきで余分な部分を除外し必要最低限な部分を脳殻へと繋いでいく。そしてゼンマイの回転数を上げると…

 

「───っ、ぎっ────」

 

男は目をカッと開けて覚醒した。

 

「どんなものよ!」

 

『おかあさんすごい!』

 

ふふんと胸を張るマリーにアンクルは純粋な称賛送った。

 

「が、──ここは?」

 

「あー、聞こえます?」

 

ハヅキが質問をする。

 

「あん?ボウズ誰だ?てか俺は死んだんじゃ…」

 

そう言っていた男の目がある一点で止まった。

 

「あんた、ヴァイネイ・ハルターか!いやまさかあんたに会えるとはな!」

 

男の言い分にハルターは顔を顰める。

 

「若造、俺は自分の事を名乗らない輩と話す気はねぇぞ」

 

「おっとそりゃ失礼!偽名で済まねぇがベルモットだ!」

 

「偽名ね、秘匿工作員か、たいして珍しくもねぇが…なぜ機械お嬢さん(アンクル)の格納庫に居やがった」

 

「格納庫?いや何がなんだか…それよりもサインをくれねぇかね?スカボローフェア事件以来あんたのファンでな!」

 

「スカボローフェア事件?」

 

「気にすんな、カビの生えた古い話だ」

 

ナオトの疑問にハルターは素気無く返す。

 

「あ?待てよ…あんたがいるって事はブレゲのお嬢さんもいるのか?」

 

「なに?私に用?」

 

ひとしきりアンクルに褒められたマリーは満足げな表情で会話に混ざってきた。

 

「なるほどなるほど…という事は通信は無事届いた訳だ」

 

瞬間、マリーの表情は般若へと変わった。

 

「…ああ、あんたがあのクソふざけた通信を送ってきたのね?」

 

声はとても低く自分に向けられていない筈のハヅキとナオトは背筋に冷たい物を感じた。

 

「まぁな、おかげで最高の仕事をしてくれた様じゃないか」

 

「えぇえぇ、ほんと大変な仕事をしたわよ…で、覚悟はできてんでしょうね?」

 

「もちろん、とりあえずケツ振っておねだりしてみな」

 

「───────────────!!」

 

「待て待て待て!落ち着いてマリーちゃん!」

 

「ハヅキさんどいて、そいつ殺せない」

 

「殺す以前にまだ大仕事が残ってんだから無駄な労力を使おうとしないでくれ!あとアンクルちゃんも見てるんだぞ!?」

 

ハヅキの言葉にピタリと動きを止めてマリーはアンクルを見た。アンクルはどうしたらいいのか分からずにおろおろとしていた。

 

「──────────命拾いしたわね」

 

「おーおっかね。で、そこのボウズ。デカい仕事ってのはなんだ?」

 

「まだあのデカブツを地の底に沈めるって仕事が残ってるんですよ」

 

「─────────なんだと?」

 

ハヅキの言葉にベルモットはふざけた雰囲気を一変させた。

 

「おい、一体何をしたんだ?」

 

「まず軍をぶつけて足止め、そのあとアイツの足元をぶっ壊す手段を確保した後実行に移そうと…」

 

「よりにもよって軍をぶつけたってのか!」

 

あまりの剣幕にハヅキを含め全員が驚く。

 

「な、なんだよ。足止めですよ?それが一体…」

 

「馬鹿野郎!!戦力分析は正しいがあっちの責任者をしらねえのか!?」

 

「責任者?たしか名前は…」

 

「比良山ゲンナイ…電磁技術の研究者にして()()()()()()()だ!その影響力はいまだに根強い!」

 

そこまで言った時、裏で生きていたハルターがいち早く気付いた。

 

「まさか…」

 

その直後、下から突き上げるような衝撃が全員を襲った。

 

「な、なに!?」

 

「───────嘘だろ!?」

 

ナオトが目を見開いて驚愕を露わにした。一拍遅れてハヅキも喘いだ。

 

「あいつが、八束脛が地下を食い破って昇って来てやがる!」

 

「なんですって!?」

 

「でも、なんでだ!?まだ交戦中だったはずじゃ…」

 

『ハヅキ、もしかしたら…』

 

イースが顔を少し引き攣らせて言った。

 

 

 

 

 

『────内通者がいたんじゃない?』

 

 

 

 

ハヅキは一瞬、呼吸を止めてしまった。ハヅキは無意識のうちに軍が全員八束脛と敵対していて必死に戦っていると思っていたのだ。だがもし、裏切り者が居たら?その分相手の行動を把握できてかつ自分達の行動を早くできるのではないか?

 

その思い込みが致命的な差を生んでしまった。

 

「っ!イース!固有機能で今すぐに撤た…」

 

瞬間、ハヅキは脳を焼かれるような痛みを感じた。呼吸も、喋ることも、体を動かすことも何も出来なくなる。それはナオトも同じだった。耳を押さえて蹲ってしまう。

 

『ハヅキ!』『ナオト様!』

 

イースとリューズが二人に駆け寄るが次の瞬間スイッチが切れるように崩れてしまう。いや、二人だけではない。アンクルも、ハルターも、ベルモットも、機械で出来たなにもかもが──────────────機能停止(ブラックアウト)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中で一面に映し出されたモニターの前で沢山の部下に囲まれた男は、目に憤怒と憎悪を宿らせ呟いた。

 

「地を這う凡俗の意地を知るがいい──────‟Y(怪物)”め」

 

男…ナオトが大深度地下層で会った八束脛の総責任者、比良山ゲンナイはモニターに映し出された秋葉原を睨みつけていた。その先に‟Y(見浦ナオト)”を見据えて。




比良山ゲンナイの肩書は本文から推測したオリジナルです。

ではまた、次の章で会いましょう!
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