はっきりとしない意識と視界の中、秘密工作員のベルモットは意識を覚醒し始めた。
───…なんだ、ここ?
「なんで…なんでこんなところが合流地点なのよぉぉぉぉぉぉ!!」
「うわぁ…目に毒だなこりゃ。アンクルちゃん?目隠しといてね?」
『…?うん、わかった』
───うるせぇガキどもだな…こっちは気持ちよく寝てんだから静かにしてくれよ…
『もう入ってきちゃったから今更だけどマリーちゃん、ここ本当に合ってるの?』
「そうなんでしょうね!だってコンラッド先生がわざわざ出迎えて下さったんだから!」
「あのじいさん何者なんだよ」
「私が尊敬する
「自信失くしてんじゃん」
「うるさい!これ以上言うなら
『いい感じに動揺してるね~』
───…どういう状況だこりゃ?
ベルモットは現状の把握に困難した。マリー達の会話から誰かの隠れ家に合流できたのだろうと推測できる。
───にしてもなんで視界が戻らねぇんだ?接続が上手くいってないのか?
「ああもう!とにかくさっさとこいつを叩き起こすわよ!」
その言葉と共にベルモットは自分の頭が持ち上げられたように感じた。
───なんだ?何をされるんだ?
疑問符を頭に浮かべながら漠然とした恐怖を感じていると、
「グギィッ!!?」
神経を強制接続される痛みに悲鳴を上げる。
「あら、ようやく起きたのね」
「何しやがるこの腐れビッチ!…って、あ?」
なにやら様子がおかしい、ベルモットは自分の声が妙に高く聞こえた。
「ん?」
目線を下に向けるとぴったりと貼り付くようなボディスーツを押し上げる豊かな双丘。
「んん?」
顔を横に向け、ガラスに写った顔は金髪碧眼の美人。…どう考えても女性の体だった。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
たまらず絶叫したベルモットを非難するものは誰もいなかった。
ひとしきり仰天した後ベルモットはじっとりとした目でマリーに質問した。
「で?こりゃ一体どういうことだ?なんで俺がナイスバディな別嬪さんになってやがる」
「ちょうどいい
「待て待て待て!
「あら、なにか問題でもあった?」
ベルモットの事を一切心配していない口調。それは自分のした仕事に対しての絶対的な自信だ。それを聞いたベルモットは自分に一切の不調を感じないことから追及してもしょうがないと割り切った。
「ホント、イカれてるぜ、嬢ちゃん」
「あ、そう。今更ね」
付き合いの短いベルモットは気付かなかったがマリーの返答にナオトとイースは少し驚いた。あのマリーがイカれてるという発言を受け入れたのだ。その変化が良いものかどうかは分からないが何かが確実にマリーの中で変わっているのだろう。
「マリー先生」
マリー達がいる部屋の外からこの隠れ家を提供したコンラッドが姿を現す。
「コンラッド先生、ハルターはどうでしたか?」
「知り合いの闇医者にも見せましたがこれと言った異常は見受けられなかったそうです。生命維持装置には繋いであるのでひとまずは大丈夫でしょう」
「そうですか…」
『ハヅキは?』
「…彼は分かりません。どうやら脳に相当大きな負荷が掛かったそうで多少のダメージがあるそうですな」
重い沈黙が場に漂う。マリーもナオトも俯き唇を噛み締める。
『そっか…うん、了解』
イースは気丈に言う。
『ハヅキはその程度じゃどうにもしないよ。ご両親の問題もあるしずっと寝てるはずは無いから』
この場の誰よりも圧し潰されそうであろうイースは微笑み、断言する。
「…ええ、そうですね」
「先輩は大丈夫だ、うん」
マリーとナオトも強く頷いた。
「それで、これからどうすんだ?」
「まずあの兵器の動向がどうなのか知りたいわね…」
「それなんだけどあおのデカブツ、しばらく動かないぞ」
「…どういう事よ」
「ハッハー、ボウズ、可愛い顔して発想がエグイな!だが適格だぜ?」
「男とオカマで納得してんじゃないわよ」
「俺はオカマじゃねぇ、よしんばオカマだとしてもそうしたのはお前さんだビッチ」
ガンッという音と共にベルモットが仰け反る。マリーがスパナを正確に最も力が乗る位置にぶん投げたのだ。
「さ・っ・さ・と・説・明・し・ろ」
「お~イテテ…簡単に言っちまえばチェスでキングの目の前にいきなりクイーンが出てきたようなもんだ。国際条約真っ黒の代物がぽっと沸くはずが無い、それはつまり政府が容認したうえで開発しあまつさえその制御下から離れてるってこった。これが各国に知れ渡ってみろ、世界中から非難の雨霰だぜ?」
「国家転覆の危機って訳ね…これが仕組まれたってことは相当用意周到じゃない…」
「それだけじゃない」
ナオトが淡々と言う。
「なんですって?」
「さっきは‟動かない”って言ったけどあいつらは同時に‟動けない”んだ。多分さっきのデンジパルス?って言うのでエネルギーを使い切ったんだと思う。そんで今も常に8%近くを消費しながら充填してる」
「まだ何かやらかすってこと?」
「これはテロじゃないんだぜ嬢ちゃん、───クーデターだ。奴ら政府が自滅するのを待って、まだ何かやらかす気だ」
「…政府が‟
マリーは最悪の結末を脳裏に思い浮かべながら吐き捨てるように言った。その時今まで口を閉ざしていたイースが口を開いた。
『…ナオト君、あれが動き出すのがあとどれぐらいか分かる?』
「え?えーと、先輩のご両親の設計図と
『そっか…』
「まてガキ、今なんつった?設計図?それに先輩のご両親だぁ?」
「あのデカブツに使われてる動力はハヅキさんの両親が設計した‟神連・伊波式電磁動力”ってやつなのよ、全体に合計20000個もの動力がそれぞれを補助、増幅させる異色の機構をしているこの場においては何よりも厄介な代物よ」
「おいおいマジかよ…よりにもよって神連か…世界最高峰の時計技師による超変態動力システムってだけで絶望的だな」
『でもそれをどうにかする術をハヅキは見付けてた』
イースの言葉に全員がそちらを向く。
「ど、どうやって…」
『ごめん、分かんない。聞く前にハヅキが意識失っちゃったから…』
「どうにかして起こせないのかよ、この際手荒な手を使ってでも…」
マリーとナオトは‟あ、やばい”と思ったが時遅くベルモットの眉間に破壊の矛先が突き付けられていた。
『───今、ハヅキに何しようって言った?』
部屋の中はまるで極寒の様に空気が冷え込んだ。超高振動を起こしているスピアが突き付けられているベルモットはその一瞬だけで走馬燈が何度も駆け巡り気を失う一歩手前まで持ってかれた。なんとか意識を繋ぎ止めゆるゆると両手を上げて降参のポーズをとる。
「───オーケー、俺は何も言ってないぜ?」
『そう………気を付けてね?いま私作られてから一番機嫌が悪いからうっかり〔
それを聞いたベルモットはおろかマリーにナオト、そしてコンラッドは顔を青褪めさせ冷や汗をだらだらと背中に搔いていた。
「あ、あーそうだ!アンクルちゃんお外に買い物に出かけようか!1000年も好きなこと出来なかったんだからな!」
『おでかけ…!』
冷え込んだ空気の中ナオトがなんとか絞り出した提案にアンクルは顔を輝かせた。
「ちょ!わ、私も行くわよ!アンクルの正式なマスターは私なんだからね!」
「えぇ~…」
マリーの言葉に心底嫌な顔をするナオト。
『おとうさん…おかあさんと一緒、いや?』
「全然嫌じゃないぞ~!アンクルの笑顔のためならお母さんと一緒にどこまでも行ってあげよう!」
手の平クルクルである。
『私はここに残ってるね、ハヅキから離れたくないしちょっとやることもあるから』
「分かりました」
「ふむ、外出ですか。ならば変装が必要ですな」
コンラッドはそう言うと指を鳴らした。
「え?」
ドドドと言う音と共に一人の女性が入ってきた。
「私の出番ですねコンラッドせんせっ!生身の人間を飾るのは久々なので気合を入れちゃいます!」
「え、ちょ、あーーーーーーーー!」
ナオトは訳も分からないままに部屋の奥に連れていかれた。
「…私達も着替えましょうか、アンクル」
『うん』
結局何とも言えない空気のままその場はお流れとなったのであった。
ナオト君とマリーちゃん、それとアンクルちゃんが外に出かけてから私はコンラッドさんに工房を借りた。
「どうぞ、ここなら好きに使って貰って構いませんぞ」
『うん、ありがとう』
「何かありましたらお呼びください」
そういうとコンラッドさんは工房から出て行った。
『さてと…───
そう言った瞬間目の前の作業台に千を超える部品が何もない空間から現れる。これらはすべてある予防策のために使う特殊な部品群だ。
『ハヅキは許さないだろうけど…ごめんね』
そうして私は自分と言う存在を…ハヅキの愛してくれたイースと言う存在にメスを入れた。
あれから何時間経っただろうか、私は自分に手を加えてから微動だにせずに横たわっているハヅキのそばから離れることは無かった。その手を握り続け、安心すると言ってくれた振動を聴かせ続ける。…振動は変わってしまっているどきっとハヅキなら分かるはず。そうしているとカツカツと足音が聞こえてきた。
『…あれ?マリーちゃん?ナオト君たちは?』
「ちょっと私だけ先に戻ってきました。ナオトは‟勝ち目を探してる”とか言ってそのままアンクルと一緒にまだ外にいます」
『いいの?仮にも指名手配されてるんだよ?』
「だから大っ変不本意ながらアンクルを残してきたんですよ!それよりもイースさん、ちょっと手伝って貰っていいですか?」
『うん?何をするの?』
「リューズを直します」
『パーツは?』
「そこらへんにいくらでも転がっているでしょう?」
コンラッドさんの言っていた男性向けの高級
『いいの?これ高いんでしょ?』
「こんなろくでもない違法部品だらけのガラクタなんてどうでもいいです。それに高いと言ってもせいぜい数百万でしょう?安いもんです」
…流石お嬢様、価値観が違った。
『コンラッドさんご愁傷さまです…』
「イースさんはそのガラクタを
マリーちゃんはリューズちゃんを作業台に寝かせながら溶解した部分を綺麗に切り取っていく。全体の二割くらいだろうか?腹部を中心に溶解していた部分はがらんどうになった。
「おや?マリー先生帰っていましたか」
「コンラッド先生、このガラクタ使いますね」
「は?使うとは?」
「リューズの修理にです。ざっと…27体
「え、ちょ…」
「じゃ、イースさんお願いします」
『ごめんなさい、コンラッドさん』
私は振動を止めたスピアを振るい十秒ほどで全ての部品を解体し終える。
「はが…!?」
「おう、じいさんどうし…あらら」
騒ぎを聞いたのかベルモットさんも様子を見に来た。そしてその惨状に苦笑いを浮かべる。
「まぁなんだ…酒には付き合うぜ?」
「その気持ちだけ受け取っておこう…」
一体いくらの損失なんだろう…
『それにしてもマリーちゃん、リューズちゃんの構造は知ってるの?』
「元々リューズはブレゲの所有でした、ですのでいつかは動かしてやろうと何度もばらしては組み立てるを繰り返してたので
その言葉にベルモットさんが反応する。
「おいおいマジかよ、億単位のパーツの位置を全部把握してるってのか?」
「この程度、あのバカの耳とハヅキさんの腕に比べたら児戯よ」
その言葉にコンラッドさんとベルモットさんは唖然とする。だけどそれは序の口だった。
「さて、いくわよ」
瞬間、無数の歯車が宙を舞った。
なんか書きやすいんだよね、クロプラって