世界変えるは天才少女と傭兵とバカップル二組   作:砂利道

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2017年5月5日、そして11月18日。お気付き頂けただろうか?半年、半年も更新をしていなかったのだ。
いや、ちょっと新年度を舐めてました。最初の一月でお、大丈夫かなと思った矢先一気に来ましたよ…もう一気に書く気が失せまして…でもハーメルンよ、私は帰ってきた!

と、言うわけで長らくお待たせしました、最新話です!


歴史の転換点

 俺とアンクルちゃんはおでかけから帰ってくるなり目を剝いた。

 

───空気が軋んでいた。

 

歯車が、導線(ワイヤー)が、円筒(シリンダ)が、螺子(スクリュー)が、ありとあらゆる時計部品が空中を舞い、空中で組み立てられ、横たわるリューズの中に納まっていく。呼吸、筋肉の収縮、骨の軋み、本来なら聞くに堪えない人間の発するすべての音が完璧に調和し奏でる音楽は正しく神の交響楽団だった。

 

「ようボウズ、随分と可愛い恰好してるじゃねえか」

 

「あれは、どれくらい…」

 

「…心中察するぜ───四時間だ、四時間ぶっ続けで作業してる。あの嬢ちゃん本当に人間か?」

 

確かにそれは疑ってしまっても仕方が無いだろう。俺だって疑ってしまう。まだ人型のオルゴールだと言われた方が納得できる。

 

『おとうさん、これが…‟てんさい”?』

 

「ああ…そうだよ…」

 

アンクルの言葉に言葉にナオトはそう答える。その表情は隠しきれない悔しさが滲んでいた。

 

(ああ、知ってたさ、マリーがどうしようもないほどに天才だって事なんて)

 

少しずつ、だが確実に直っていくリューズと直しているマリーを前にナオトは歯が砕けんとばかりに食い縛っていた。

 

(でも、それでも…)

 

俯いたナオトにアンクルは心配そうな顔を向け、ベルモットは話しかけずにそっとしておいた。

 

(そこにいるのが、なんで俺じゃない…!)

 

ナオトにはマリーがどうしようもなく遠くにいるように思えた。遥か先、自分では決して追い付けない高みにいた。

 

「━━ハァッ!糖分きれた!チョコ、チョコはどこ…」

 

マリーは大きく息を乱しながら床に倒れこんだ。そんなマリーにアンクルが買ってきたチョコを片手に近寄っていく。

 

『おかあさん、これ…』

 

「ん?あら、帰って来てたのね。お帰りなさい。あとアンクル、チョコありがとね」

 

『うん、ただいま!どういたしまして!』

 

「ついでにナオトも」

 

「ついでってなんだよ…」

 

ナオトは憮然とした様子で答える。マリーはそんなナオトの様子に疑問符を浮かべるがナオトの耳にここ数時間無かったヘッドホンを見付け3人で出かけていた時に言っていた事を聞いた。

 

「…探し物は見つかった?」

 

「ああ、それは後で言うけど…マリー、一つ聞いていいか?」

 

「なに?あ、作業は続けるわよ?」

 

「ぜひそうしてくれ…どうやってリューズを直してんだ?リューズ部品の代替品なんて市販じゃ手に入んないだろ?」

 

「そうでもないわよ?あんたが直した虚数運動機関(イマジナリー・ギア)なんて言う不条理以外ならどうとでもなるわ。リューズは元々私の実家であるブレゲ家が管理していたのよ?いつか動かしてやろうと何回も解体(バラ)しては組み立てたからその構造は粒子レベルで覚えてる…ってこれ数時間前も言った気がするわね。とにかく、そこらに転がってる無駄に質の良いジャンクから必要なパーツを取り出して応急処置程度は出来るわ」

 

マリーの言葉は一見簡単に出来ると言っているように聞こえるが実際はとんでもなく高度な事だ。同じ規格の量産品ならともかく単一品(ワンオフ)、それもinitial-Yシリーズともなると全く同じ部品は存在せず、大企業の専用の機械が無ければ再現出来ないようなものばかりの物を、マリーは自身の記憶を一部たりとも疑わずに、違法人形から取り出した部品一つ一つを()()()()()イースに1/1000単位で削るように指示した。…寸分の誤差無く、だ。

 

「ただ残念だけど最終的な調整はあんたに任せるわ。なんでも聴けるけったいな耳を持っていない私じゃこれが限度だからね」

 

ナオトは小さく頷いたがその耳は直すところがほとんど無いということを聞き取っていた。

 

「ハルターのおっさんは?」

 

「…そっちは義体が手に入らなくて後回し」

 

これは正確では無い。実はマリーは一度音声装置にハルターの脳殻を繋いでいた。だが反応が無かったのだ。例え正規の手順を踏んだとしても生身の脳を移植するのはそれなりのリスクがある。機材がほとんど無い状態で脳殻を取り出し、更にそれ以前には電磁パルスによる大規模なダメージを負っている可能性もある。最悪もしかしたら━━

 

「マリー?」

 

ナオトの声にマリーはハッとして頭を振り最悪可能性を振り払った。

 

「なんでも無いわ、それよりも手伝ってくれない?共振接続ムーブメントを三本欲しいんだけど」

 

「…悪い、出来ない」

 

「?じゃあ回路だけで良いわよ、それなら━━」

 

「それも無理だ。俺には…マリーがやっていることがなんにも理解できない」

 

ナオトの言葉にマリーは訝しげに言う。

 

「はぁ?なんでよ。こんなの、あの幼稚な教材を読むだけでもできる作業よ?」

 

「分からなかったんだよ!ボロボロになるまで読んでも、どれだけ沢山の本を読んでも作業一つ理解出来なかったんだよ!」

 

ナオトのそれはもはや慟哭だった。何も出来ない自分への怒り、自分に出来ないことをしているマリーへの八つ当たり、情けないとは思っているが吐き出さずにはいられなかった。

 

「…あんた、そんなのでどうやってリューズを直したのよ?」

 

「手探り」

 

「なんですって?」

 

マリーは思わず作業の手を止めた。リューズの機構は一級時計技師(マイスター)の中でも限り無く頂点に近いマリーでさえ複数回解体、修復を繰り返してようやく暗記したほどの複雑さを持っている。それを手探りで直したというのはあまりにも荒唐無稽だった。

 

「片っ端から気持ちの良い音になるまで試したんだよ」

 

(ナオトの異常聴覚は私の想像を遥かに超えてる。当然リューズの構造も私よりもできているはず、だと言うのに教材が理解できない?もしかして───)

 

マリーは得も知れない冷たさを背筋に感じた。

 

(───もしかして、ナオトは何か根本的にとんでもない勘違いをしてるんじゃ…)

 

ナオト、そしてハヅキと出会ってから幾度となく感じた驚愕と悪寒、マリーは自分も一歩そこに踏み出したと思っていたがどうやら入り口にも立てていないことに気づき始めた。生唾を一つ飲み込む。

 

(いえ、今は考えない方がいい)

 

「まぁ、いいわ。それで?散歩のときに言ってた探し物、それは見付かったの?」

 

「ん?ああ。本当は先輩に意見を聞きたかったんだけど…今は寝てるし俺の考えだけ言うよ」

 

ナオトは被っていたパーカーのフードを取る。その両耳には新調したヘッドホンが付けられていた。自分にできること、勝ち目を探す事を終えた少年は不敵に笑う。

 

「"天御柱(アマノミハシラ)"を、日本の象徴を乗っとるぞ」

 

その言葉を聞いたマリー、ベルモット、アンクルはキョトンとした。そして現状最もナオトと思考の近いベルモットがその意味を理解して笑う。

 

「アッハッハッハッハァ!!最高だなナオトちゃんよぉ!お前さんみたいのがこんな極東にいるなんて思いもしなかったぞ!」

 

『おとうさん、すごい…!』

 

マリーは未だにポカンとしていたがやがて全容を理解する。

 

「…東京の各区画(グリッド)大支柱(コア・タワー)を統括する国家区画中枢管理制御塔(オロロジカル・コントロール・タワー)"天御柱"、この国の人が最も神聖視する場所を占拠するって言うの?」

 

マリーは自分の頬が引き攣っているのを感じた。

 

「テロの実行犯は俺達ってことになってる、だったら纏めてあのデカブツも電磁パルス攻撃も、俺らがやったことにすれば良い」

 

その発想はあまりに犯罪的で、英雄的だった。

 

「マリー、俺はリューズと先輩をこんなにした連中を丸ごと茹で揚げるぞ」

 

マリーは無表情でそれを聞いていた。

 

「ナオト、あんたのそれはここ千年の歴史で最も罪深いことをするって言うのは理解してる?」

 

「当然」

 

ナオトはマリーの問いに即答する。そんなナオトにマリーは深い、本当に深い溜め息を吐く。

 

「あんたの事、いつも頭が狂ってると思っていたけど、今ほどそれを強く感じたことはないわ」

 

「おい」

 

ぶすっとした顔でナオトが言う。

 

「だけど、それって最っっ高に気持ち良さそうね」

 

無表情から一転、ニヤリとマリーが笑う。

自分達がやることは間違いなく世紀の大犯罪であり、どうしようもない悪だ。

だけど、面倒くさいカビの生えた奴らの企みを根こそぎ掻っ攫い、メチャクチャにするのは控え目に言って最高だ、そうマリーは思う。

 

「あんたのそのトチ狂った作戦、乗ったわ!ここにいる全員、どうしようもない馬鹿の集まりよ!だったら、」

 

「めんどくさいモンは全部無視して俺達がやりたいことをやるだけだ」

 

動く。世界が、積み上げられた歴史が、ここにいる小さな存在によって動き始める。ベルモットは強くそう思った。

 

「いいね、裏で生きてきた俺が、歴史の変わる瞬間を目にできそうだ」

 

タバコが最高にウマイぜ、そうぼやいてベルモットは二人の会話に混ざった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうやらマリーちゃん達が動くみたいだよ、ハヅキ』

 

私の握ったハヅキの手から血の流れる感覚が伝わってくる。それはハヅキが生きている証拠だ。ちょっと疲れたから眠ってるだけ。きっとすぐに目を覚ます。

 

『早く起きないと、仲間外れになっちゃうよ?』

 

ぎゅっと握ったその手を私は額に押し付ける。祈りに似たそれは私の本心だ。

 

『待ってるから』

 

ぎゅっと目を瞑った私はそのまま祈り続けた。

 

 

だから気付かなかった。私が握っていない方のハヅキの手がピクリと動いていたことに。




リハビリ兼ねての投稿でしたので何かありましたら御一報のほどよろしくお願いします。m(_ _)m

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