よし、落ち着け。俺は今どこにいる?
リューズに連れていかれるままに昼飯を楽しんでたらハヅキ先輩が来て「お楽しみのところ悪いがちょっといいか?」って聞かれて俺が答える前にリューズが『私とナオト様の二人の時間に入ってこられるとは…どうやらあなた様の目は節穴で、かつ死んだ魚の目の様に腐っておいでのようですね。一度目を洗浄なさってから出直しては如何でしょうか?綺麗になることは無いと思いますが』と言って空気が凍っただけだ。
…うん、なにこの状況?
「…ああ、うん。そういうキャラなのね。一部の人には嬉しいご褒美なんじゃない?俺は違うけど」
『…少し驚きました。今までの方はこの時点で醜く地面に這いつくばっておられるのですが…もしかしてあなた様はナオト様並みの変態であられるのですか?』
「流石にナオトには負けるよ。勝ちたくもないけど。てかそういうのを言いたいんじゃなくてな」
先輩が俺の方を向く。
「ナオト、お前この
ああ、やっぱり先輩気付いてたか。
「え~とですね…話すと少し長くなるんすけど…」
「そうなの?昼休みあと5分しかねぇか…んじゃ放課後時間くれ。こっちからはあまり時間取らせねぇから」
「あ、はい。分かりました。…良いよねリューズ?」
『…ナオト様が仰るなら』
「悪いね、じゃまた」
そう言い残して先輩は戻っていった。いちいち動作がクールだなぁ…
『ナオト様、あの方はどなたですか?今までの愚劣凡庸たる方々とは違った方でしたが…何より私がオートマタであることに気付いていました。私自身人と遜色無いと思っているのですが…』
「リューズは人間以上だよ。あの人は俺が普段からすんごいお世話になってる先輩で神連ハヅキさんって言うんだ」
『そうなのですか?ではほんの少しだけ態度を改めなければなりませんね。今の変態であるナオト様を育て上げたのはあの方の様ですし』
「リューズさんそれ褒めてない…まぁそうしてもらえるとありがたいな。あの人キレるとマジで恐いから…」
やべぇ、思い出しただけで漏らしそう…
『あの空前絶後の変態であるナオト様にそこまで言わせるとは…やはりあの人も変態なのですね』
「ははは…すいません先輩、否定しにくいです。リューズの変態の基準がどうなのかは分からないけどそうかも。俺の話に平然とついてこれる人だし」
『ーあの方をナオト様より空豆一つ分下の変態に設定しておきますね』
「お願いだから先輩の前であまりそういうの言わないでね。俺が裁かれるから…」
ああ、どうか放課後が無事で過ごせます様に…
「さて、話してもらおうか?」
現在俺は京都の大支柱近くのファミレスに来ている。勿論ナオトとリューズちゃんにも来てもらっている。
「まず一つめ、どこでリューズちゃんと会った?」
「風呂に入ってたらコンテナごと落ちてきました」
「…ゴメン、初っぱなから躓いたわ。は?落ちてきた?」
「うす、ちょうど俺の家の真上を飛行機が通ったときにストッパーが外れたらしくて家に直撃でした」
「つーとなんだ?もしかしてお前の家…」
「見事に崩落、ホームレスの一員です」
「とんでもねぇことになってんなおい!お前これからどこで寝泊まりするんだよ!」
『それについてはご心配無く。既に検討をつけてあります』
「え?リューズマジで?」
『はい、ここから40分程のホテル街の"ザ・アーハン"というところに…』
「リューズちゃん、お前さんはナオトを社会的に殺す気か?んな所出入りしてるの見られたら一発で退学になるわ!」
『しかしそこ以上にコストとリターンが良いところはありませんよ?』
「いや、リューズ。流石にダメだから、せめて満喫に…」
「いやもうお前らうちに来い。部屋有り余ってるから問題ないし」
「え?いいんすか?」
「話聞かせてもらってる礼って事で良いよ。代わりにまだ聞きたいことがあるけど」
「全然いいっすよ、泊めてもらえる身ですし」
「んじゃ二つ目、リューズちゃん、お前は一体誰に造られた?五大企業ですら霞む精密さだよその造り」
『私はinitial-Yシリーズ壱番機です。つまりはあなた方がYと呼ぶものに造られました』
「Initial-Yシリーズ!?都市伝説じゃなかったのか…つーことはあれか?もしかして1000年前に造られたのか」
『その通りです。あなた様がノミの方々と違って理解が早くて大変助かります』
「いやまぁ似たようなのを見てるし…」
「先輩それ詳しく」
「あ、しまった失言だった…嫌だよ、いくらお前でも教えん」
「良いじゃないすか~」
『…ナオト様、私では不満だと?』
「リューズこそが至高で最上です、それは絶対不変の摂理だ!」
「ブレねぇなお前…」
俺は半ば呆れるを通り越して尊敬した。やっぱこいつの機械愛スゴいわ。
「んじゃ最後な…リューズちゃん、空色の髪の
その言葉にリューズちゃんは目を瞠る。
『…どこでそれを?』
「俺のひいひい爺さんの代からうちに保管されてるんだ。…やっぱ何か知ってるんだな?」
『直接目にしなければ確定は出来ません。しかし、もしも私の知っている自動人形でしたらそれは行方不明になっていた私の姉になる筈だった者です』
「…マジか」
「え!?リューズ姉いるの!?」
『いえ、いません』
「あ、あれ?」
「さっきリューズちゃん自身が"壱番機"って言ってただろうが…」
「あ、そっか…え、でも…」
『しいて言うならInitial-Yシリーズ無番機、と言ったところでしょうか?本来私は弐番機として造られる予定でした。しかしある理由で1000年も前から機能停止に陥っているのです。結果、私が壱番機となり、そのオートマタは番号を剥奪されたのです』
「その理由ってのは?それと名前は?」
『分かりません、名前もです』
「あれ?名前も知らんの?」
『はい。私が造られた時には既に機能停止をしていましたし見たことがあるのは一回だけです』
「うわー…ますます謎」
『…私からも一つ良いでしょうか?』
「うん?何?」
『あなた様はどうして私がオートマタであると気付いたのですか?私は確かに人間を超越した存在ではありますが一目で人では無いと気付くのは不可能だと申し上げます』
「すごい自分の評価上げてるね、しかも否定しにくい…ナオトの耳の事は?」
『存じ上げております』
「じゃあ話は早い。ナオトが耳に対して俺は、そうだな…超触覚とでも言うのかな?触覚が異常に敏感なんだ。触れば大体の事は分かる」
「先輩のそれホント訳分かんないっすよ」
「俺から言わせりゃお前の耳も訳分かんないよ。遮音性100%のヘッドホンつけて会話できるとか変態め」
「先輩も衝撃100%吸収の手袋付けて微細すぎる振動分かるとか変態っすよ?」
『…お二人が最上級の変態であることはよく分かりました』
「ナオトと一緒にせんでくれ」
『その上で一つ聞きたいのですが?』
「うん?」
『あなた様は先ほど触覚が異常に敏感と仰っていました。しかし手袋以外大した対策はしていないようにお見受けします。もしかして自身を痛めつける事がご趣味で?』
「昼も言ったがMじゃねぇ…つかよく負担がでかいって気づいたな」
『ナオト様がヘッドホンの有る無しでずいぶんと体調が変わっておりましたので。付け加えれば人の体に二つの耳と全身では負担がかなり違うと思います』
「正解だ。手袋付けなきゃ日常生活もままならねぇ。んでもって他の部位だけどな、感じないんだ」
『というと?』
「意図的に両腕以外の感覚神経は全部潰した。だから背中とか刺されても衝撃しか感じないんだよね…痛みが無い」
『…それはずいぶん』
「そ、危険だよ。気付いたら大けがとか昔はざらだった。代わりに腕はさらに敏感になったんだけどね」
『…やはりあなた様はナオト様に次いで変態ですね』
「その判定からは逃げらんねぇのかよ…」
どうやら俺はリューズちゃんに不動の変態と決定されたようだ。俺そこまで変態じゃねぇよ…
場所を移して現在俺の家。
「お前らの部屋はここな、トイレは突き当たりを右、喉渇いたら左に行けば台所があるから適当に飲んで良いぞ。風呂入りたいなら台所を突っ切った先だ。多分もう沸いてるから入れるぞ」
「…初めて先輩の家に来ましたけどなんすかこれ?でかすぎでしょ!?」
「お前の家が狭かったんだよ、この家は一般より少しでかい程度だ」
「十分過ぎますて…」
『確かにナオト様の元お家は虫の方々が住むに相応しい廃れ具合でしたね』
「リューズ…所々容赦無いよ…」
「あーあとお前ら、俺の部屋と作業部屋には絶対に入るなよ?入ったら問答無用で追い出すから」
「そんな!?作業部屋位見せてもらっても良いじゃないすか!」
「お前に眠り姫さんを見せるわけにはいかん。てかあれか?浮気でもする気か?」
『…ナオト様?』
「とんでも御座いません!リューズを裏切ることは現在過去未来永劫ありえません!」
「よーし、言質は取った。その誓い破るなよ?」
「あ!しまった!」
「んじゃあとは好きに過ごして良いぞ。あ、それとリューズちゃん」
『何でしょうか?』
「ナオトは入れられねぇがリューズちゃんには後で眠り姫さんがYシリーズか確認して貰いたいから後で来てくれ。玄関から真逆の一番奥だ」
『そうですか…確かに私も姉であるか確認したいので後でお伺いします。それと206年もの間機能停止に陥っていましたので情報収集したいのですが…』
「書斎ならこの部屋から出て左の角部屋だ。好きに読んで良いぞ」
『ありがとうございます。あなた様はどうやらまともな変態であられるようで安心します』
「いい加減変態のレッテル外してくんねぇかな…まぁ良いや、ゆっくり過ごしな」
俺はそのまま自分の部屋に向かう。まずは着替えなくては。
「…良いよな、リューズだけ先輩の作業部屋入れて」
『ナオト様…やはり私の事がお気に召さず…』
「違うって!そうじゃなくてさ、俺昔から先輩に作業部屋見せてくれって頼んでたんだよ。それでも頑なに見せてくれなかったからさ、スゴい気になってたんだよ。それにさ、リューズの姉がいるんだろ?だったら動かしてあげてちゃんとした姉妹対面ってしてあげたいじゃん。リューズ以外に手を出す気はないけど先輩とリューズの為に手伝ってあげたいんだよね。ほら、俺お世話になりっぱなしだったから」
『…ナオト様、その心意気は大変美徳です』
「でしょ?なら…」
『しかしだからこそ止めた方がよろしいかと思います』
「…どうして?」
『それがハヅキ様の信頼に答える唯一の事だと思っているからです。ナオト様とハヅキ様の親交をあまり知らない私ですらお二人は信頼しあってるとお見受けできます。ならばそれに答えるべきではありませんか?』
「確かにそうだけど…」
『…ナオト様はもし、私が機能停止に陥っていて長年直そうとしている時にハヅキ様が見せてくれと仰ったら如何しますか?』
「問答無用で断る!」
『それと同じことと思います。人にはそれぞれ譲れない一線があるのでしょう』
「…分かった。見には行かないよ」
『ご理解いただきありがとうございます。それではナオト様、私は情報収集の為に書斎へと参ろうと思いますがナオト様は如何しましょう?』
「あー、俺は風呂に入ってくるよ。風呂出たらそのまま部屋にいるから」
『了解しました。それでは暫くの間お側を離れることをお許し下さい』
「大丈夫だよ、気にしないで」
『それでは失礼致します』
「うん、また後でね」
そう言ってリューズは書斎に向かっていった。俺は風呂場に向かって歩き出す。
「…見には行かないけど聞くのは良いよね?」
俺はゆっくりとヘッドホンを外す。耳を澄ます。部屋を照らす
「聞き取りづらいな…」
俺は更に集中する。
『……が来て…だ。も…したらお…さんの…うとかも…ないオート…もいる…』
「え~と?」
ー今後輩が来てるんだ。もしかしたらお前さんの妹かもしれないオートマタもいるんだぜ?
「先輩…動かないオートマタに話しかけてるのか」
その行動原理は良く分かる。長く一緒にいると家族の様に感じてくるからついつい話し掛けてしまうんだよな。更に集中する。てか先輩の作業部屋スゴいな、俺がここまで耳澄まさないと聞こえない防音設備備えてるなんて。
『ほんと良いやつだよ。機械にしか目がないのは流石に考えものだけど何処までも
「うあ…バレてらっしゃる」
『でもやっぱ我慢ならねぇんだよな、他の奴には見せたくないんだ。お前を俺の物だけにしたい、そう考えちまう。これってエゴなのかな?』
「いやいや、それが普通だと思いますよ?」
俺だってリューズが他の奴の手に渡るなんて絶対に嫌だ。
『でももしかしたら本当になにも出来なかったら手伝ってもらうかも知れねぇな…そうなってほしくないけどな!』
「…もしその時が来たら全力で頑張らせてもらいます」
俺はそこまで聞いてようやく気づく。先輩の作業部屋からの主な音は1つだけ。つまり先輩の音しかしないのだ。先輩が話し掛けているであろうオートマタからは一切の音がしない。ゼンマイが動いてる様子もない。
「このオートマタ…本当に動くのか?不安になるくらい音が全くしないぞ?」
『ほんと不安になるよな~ナオト?』
「はい、本当に…え?」
あ、あれ?会話が成立してる?どうやらいつの間にか先輩は右腕の手袋外して壁に手を付けていたようだ。
『お前に聞こえて俺が感じ取れない訳ないだろ?』
「あ、あははは…」
いやいや先輩、耳ならともかく振動で何言ってるか分かるって凄すぎです。それ腕が耳じゃないすか。俺は体中から冷や汗が吹き出してきた。それはもう滝の如く。
『お前後で折檻な』
「ギャーーーーーーーーーーーー!!?」
1時間後…
『ナオト様…ナオト様は随分と学習能力が無いのでございますね、さながら鶏の様でございます。いえ、もしかしたら鶏の方が記憶力が良いかもしれません。いくら3歩で忘れるとしても本能では危険な場所を覚えられるのですから』
冷たい廊下には主に忠告を無視された
裏話
ナオト「ちょ、先輩!?なんで脚振り上げてんすか!?」
ハヅキ「手で殴ったら俺が死ぬからだよ!主に衝撃による脳の負荷でな!という訳で覚悟ーーーーーーー!!」
ナオト「踵落としはないでグボァ!」
リューズ『ナオト様!?ハヅキ様これは一体どういう事で?返答次第では…』
ハヅキ「見には来なかった。だが盗聴していた。謝らんぞ」
リューズ『…どうやらナオト様が全面的に悪いようですね。約束を守れなかった愚かな主に代わり謝罪します』
ハヅキ「おう、お前さんからもキツ~く言っといてくれ」
リューズ『承知いたしました。今後このような事が無いように地獄に落としてから手を差し伸べまた離す方式でやらせていただきます』
ハヅキ「わぁえげつない、じゃあよろしくね」
ナオト(俺、生きてられるかな…精神的に)
完!