世界変えるは天才少女と傭兵とバカップル二組   作:砂利道

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今更ながらハヅキ君のプロフィールです。

神連ハヅキ
17歳、8月4日生まれ。糺の森高校二年生、成績は中の上。取り合えずバカではない。両親が一級時計技師で小さい頃から機械に触れていた。3歳の頃急激に全身の触覚が鋭敏となりマトモに動くことさえ出来なくなった。両親の知人の医者に頼り両腕以外の感覚神経を全て潰した。結果的に痛みや熱を感じず気付かぬ内に大怪我が日常茶飯事だった。また、相対的に両腕の感覚は更に鋭敏となり物体に触れるだけで遥か遠くの物を感じることが出来る。空間に伝わる振動も感じることが可能。ただし範囲は狭くなる。両腕の保護のため両親がコネの全てを使い衝撃100%吸収の二の腕までを覆う手袋を使っている。因みに伸縮可能。また、本人も薄々自覚しているが眠り姫に恋愛感情を抱いている。


寄り添うもの(マンダリン)

今朝の重力異常で散らかってしまった家を一通り片づけ終えて作業部屋に籠りはや三時間。俺は一旦作業を中断し書斎から過去の雑誌を取り出しリビングで読んでいた。半年ほど前の現行のゼンマイと過去のゼンマイ、更にはこれから予想される未来のゼンマイとゼンマイ尽くしの特集を組んでいた雑誌だ。表紙には滅多に顔を出さないブレゲ家の次女が出ていると言う理由で裏ではプレミアがついている一冊でもある。

 

「うーん…いつ見てもこの先を行き過ぎたゼンマイは不可能な気がするぞ?なんだよこの摩擦ゼロで動くゼンマイて、どうやって噛み合うんだよ。妄想全開だなぁ…確かにできたら永久機関だが…」

 

とそこで玄関が開く音がする。

 

「せんぱーい、ただいま戻りましたー」

 

「おう、おかえ…り?」

 

部屋に入ってきたナオトとリューズ、そこまでは良い。だがその後ろ、まず目についたのは前に大支柱で会ったヤーさん事ハルターさん。そして視線を下げればそこには今持っている雑誌の表紙と同じ顔が…

 

「いや、ナオト…なにしてはるん?」

 

思わず方言が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突然お邪魔して申し訳ありません。私はマリー・ベル・ブレゲと申します。こちらは…」

 

「マリー嬢のボディーガードを務めさせてもらっています、ヴァイネイ・ハルターです」

 

「これはどうもご丁寧に…汚い所で申し訳ありません、家主の神連ハヅキです。あの、今日はどういったご用件でわざわざこのような所に…」

 

と、食卓を囲んで互いに腰の引けた状態で話していた。

 

「すげ…先輩敬語話せたんだ…」

 

おいこらナオト、お前は俺をなんだと思ってんだ。

 

『ハヅキ様はナオト様と違い良識のある人間でございますから当然のことかと。もっともナオト様は人類の最高位にお立ちになる方なのでそのようなものは必要ないかと』

 

「…すいませんこいつらは無視の方向で」

 

「え、ええ…」

 

マリーさんは軽く引いていた。

 

「そ、それで今日のご用件でしたね。ではまず一つ、神連ハヅキさん。新島リョウジさんとの約束であなたの保護及びサポートを頼まれました」

 

「は?リョウ兄が?」

 

「はい」

 

どういうことだ?なんでリョウ兄が…?

 

「あの…どういうことで?」

 

「実は…」

 

そこでマリーさんの口からとんでもない事実を聞かされた。

 

「七時間後に京都がパージぃ!?避難勧告も出さずに!?」

 

そこで俺は一昨日のリョウ兄の様子を思い出す。

 

ーだから俺を県外に出そうとしてたのか…

 

どこか追い詰められていた感じのしたリョウ兄、そう言う事かと納得がいく。

 

「こうでもしなければあなたは京都から出ないと言われましたので…」

 

「そうですか…」

 

心配かけてたんだな…

 

「あの、あなたの口ぶりだとまだ何かあるように思うのですが…」

 

「ええ、そうです。…リューズ、手を貸して貰いましょうか?」

 

「断る!」

 

マリーさんは俺からリューズちゃんに視線を移して問うた。だが答えたのはナオトだ。

 

「…ナオト、マリーさんはお前に聞いたんじゃないんだぞ?」

 

「そうですけどリューズをこいつらなんかに渡すのは問答無用で却下だ!」

 

「…とりあえずマリーさん、理由をうかがっても?」

 

「え、ええ…」

 

マリーさんはこめかみをひくつかせながら話を続ける。うちのバカがすいません…

 

「まず元々リューズは我がブレゲ家の財産です。その時点でこちらに返還要求の権利があることは明白です」

 

「んな訳無いだろこのアンポンタン!」

 

「ナオト、黙れ」

 

「すいませんでした」

 

ナオトは即座に土下座に移行した。

 

「…加えて今、京都はパージの危機に瀕しています。ここからは推測ですが私はinitial-YシリーズをYが後世に残したこの星のメンテナンスマシンと考えてます」

 

「要約するとリューズちゃんはブレゲ家のもので、かつ今は緊急事態なのでリューズちゃんに大支柱の修理を頼みたいと」

 

「その通りです…あなたの存在する理由はそうなんでしょ?リューズ」

 

マリーさんのこの仮説にはいくらか納得がいく。さっきまで嫌な顔をしていたナオトでさえこの話には食い付いていた。

 

『その話ですが…全くの検討違いです』

 

時が止まる。あまりにもドヤ顔で話していたので俺も"そうなのか"と思ったが違ったようだ。

 

「ち、違うの…?」

 

『はい、もし本気で仰っているのなら深刻に危険ですよ…頭が』

 

ガチャン、と顔から食卓に落ちる。耳は赤く染まり恥辱に震えている。

 

「まぁ、その…自信を持つのは良いことだと思いますよ?」

 

「ただの自滅じゃん」

 

「ナオト、黙れ」

 

「さーせん」

 

ナオト、本日二度目の土下座。プライドねぇのなお前…

 

「じゃああなたは何なのよ…」

 

付き従うもの(ユアスレイブ)

 

リューズちゃんは胸に手を置き大事そうにその言葉を紡ぐ。

 

『それが私に刻まれた至上命令、ナオト様のお側に侍り、仕える事が私の存在理由です』

 

「…何なのコイツら」

 

いや、もうほんとうちの二人がすいません。

 

「リューズ、せめてこちらに戻ってきてはくれませんか?」

 

「だから嫌」

 

そこでナオトの態度に遂に堪忍袋が切れたらしい。マリーさんは表情を消して、

 

「ハルター、ナオト(こいつ)解体(バラ)して良いかしら?」

 

マリーさんはわりかしマジの殺気を乗せる。あ、これ不味い。マリーさん達が。次の瞬間、

 

 

 

 

 

マリーさんの首筋に死の象徴が添えられていた。

 

 

 

 

 

ハルターさんは熟練の速度で懐から銃を抜き去りナオトに向ける。

 

『…誰に(それ)を向けておられるので?』

 

リューズちゃんからはナオト相手のあの甘々な雰囲気が一切消え去り機械的な殺気がマリーさん達に向けられていた。

 

「連れの口が滑った事は詫びる、だから頼むからうちのお姫さんの首を跳ねるのは止めてくれないか?」

 

『先にそれを納めないのであれば二人仲良く細切れに致しますが?』

 

「分かった。ほら、セーフティはかかったままなんだ、撃つつもりは無い。だから頼む、そっちもその()をしまってくれ」

 

マリーさんの首筋に添えられている物、それは黒い鎌だ。触れるだけで何もかもを切り裂いてしまう飛びっきり危険な鎌。ハルターさんはゆっくりと銃をしまう。完全にしまったのを確認してからリューズちゃんは鎌をシュルシュルとスカートの中にしまう。

 

「ーッハ!ハァ、ハァ…」

 

呼吸をすることさえ許されなかったマリーさんは思い出したかのように息を吸う。

 

「ハルター…私、生きてる…?」

 

「マリー!二度と迂闊な事は言うな!神連の坊主はともかくヘッドホンの坊主はまだほとんど無関係なんだぞ!」

 

「…リューズちゃん、お願いだから我が家を殺害現場にしないでくれ」

 

『申し訳ありませんハヅキ様。次からは敷地から遠く離れたところで行うように致します』

 

いやいや、まず殺したらあかんよ?

 

「ッ!私は殺されかけたのよ!?」

 

「ああ、理解が早くて助かる。そして今のは忠告だ、もし本気ならとっくに頭と体がおさらばしてただろうよ」

 

「何で自動人形(オートマタ)が人を殺せるのよ!?」

 

「倫理規定が無いんだろ」

 

「だからなんで…」

 

「完全自律型の自動人形が出来たのは今からおよそ800年前、その頃から倫理規定は付けられてます。ですがリューズちゃんが作られたのは1000年前、倫理規定が出来るずっと前なんですよ」

 

「そう言うことだ」

 

「…理解したわ」

 

マリーさんはようやく人心地がついたのか冷静になり頭を抱えた。

 

「どうだ、これがリューズの力だ!思い知ったか!」

 

ナオトが調子着く。

 

「あとオッサン、こんなチビに銃を向けるなんて最低だぞ!今度向けたらどうなるか分かってんだろーな!」

 

と、リューズちゃんの後ろに隠れて大口を叩く。あ、もう無理だ。

 

「…ナオト」

 

「ん?なんすかせんぱ…い?」

 

俺はイイエガオで立ち上がり、右足を天高く振り上げる。

 

「ー調子乗ってんじゃねぇぞーーーーーーー!!」

 

「ギイィィヤアァァァァァァ!!」

 

ナオトの頭に踵を見舞う。ズドン!と鈍い音を鳴らしてナオトが地に沈む。

 

「…もう、どうすれば良いのよ…」

 

マリーさんが目の前の光景込みで嘆く。

 

『お話を伺う限り大支柱を直せれば良いのですね?』

 

「ええ、そうよ。だけど最後の望みだったあんたが使えないんじゃ詰みよ…」

 

『でしたら直せる人間はここにいます』

 

「え?」

 

「は?」

 

マリーさんと俺の声が重なる。

 

『私を直したナオト様と、ハヅキ様なら現状を打破することは可能です』

 

「ちょっと待って!あなたを直した?このバカが?嘘よ!あなたはどこも壊れてなんて無かった!」

 

『それはあなた様がナオト様に劣る無能だっただけです』

 

「な!?」

 

おぉう…一級時計技師(マイスター)を無能呼ばわりってリューズちゃん、アクセル全開だなぁ…

 

『ナオト様はあなた方が206年掛けて見付けられなかった故障を直したのです。たった三時間で』

 

「嘘…こんな冴えないのが!?」

 

その言葉にリューズちゃんはむっとしたのかスカートの裾を摘まむ。

 

「わ、分かったわよ!ならなんでそんな奴が市井に埋まってるのよ…」

 

マリーさんが呻く。そりゃあ認められないよな…てか、

 

「は?俺もか?」

 

『はい、その通りです』

 

「いやー、流石に無理あるだろ。てか実際に二十四層まで行かないと分からんぞ。なぁナオト」

 

「そう…すね…」

 

ナオトは痛みに悶えながら何とか声を絞り出す。

 

「ちょっと待って!」

 

「ん?どうかしました?」

 

「なんで異常箇所が二十四層にあるって知ってるんですか!?」

 

「あーと…そうだった説明しなきゃダメか。え~とですね、俺達は…」

 

その時、食卓に伝わった振動に本能的に手を引っ込める。ナオトを見ればヘッドホンを抑え顔を顰めている。

 

「ちっ、またこの振動かよ…」

 

「またこの音…」

 

「振動?音?」

 

「俺には何も聞こえんが…」

 

そして

 

ズシン!!

 

「のわ!」

 

「うお…」

 

「ちょ…」

 

「これは…!」

 

重力異常。それもこれまでで一番でかい。更に不幸な事に熱々のお茶が俺の足にかかり、割れた湯呑みの破片が頬を浅く切った。

 

「あ!くっそ、濡れた…てか頬も切れてんのか」

 

「ちょっとそれほぼ熱湯ですよ!?早く冷やして来てください、熱くないんですか!?あと頬も!」

 

「あー、熱くはないが皮膚には悪いわな、ちょっと冷やして来ます」

 

「え、あの…」

 

ついでだ。いや、冷やすのがついでで眠り姫さんを見てこなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハヅキが去った後のリビング、そこではリューズが零れたお茶をタオルで拭いていた。

 

「ハルター、彼は一体何なの?あんな熱湯を被っても平然としてるなんて…」

 

「分からん、俺と同じ完全義体なのか…というか水道ならすぐそこにあるんだが…」

 

「は?」

 

マリーはハルターの指差した方を見るとキッチンがあった。勿論水道も付いている。

 

「あー…先輩、作業部屋に向かったな。あそこもドアの前に水道あったし」

 

「作業部屋?なんでそんなとこ向かうのよ?」

 

「先輩が長年大事にしてるリューズの姉が寝てるんだよ」

 

「リューズの姉!?」

 

いきなり告げられた事実にマリーとハルターは目を剥く。

 

「ちょっと待って、リューズは壱番機でしょ?姉なんているはずが…」

 

『正確には私の姉になる筈だった者です』

 

「は?」

 

『マリー様の残念な頭でも分かるように説明しますと、私は元々弐番機の予定でしたが私も存じ上げない理由で機能停止に陥っていて1000年眠り続けている寝坊助な元壱番機がいるのです』

 

「うっそ…史実に残っていないYシリーズ?そんなものがなんでこの家に…いや」

 

マリーはハヅキの両親の事を思い浮かべる。

 

「"異常発見機"とまで呼ばれた二人の実家ならあってもおかしくないか…」

 

ハヅキの両親がマリーの父と姉に次いで世界最高峰の技師と呼ばれた理由はその異常なまでの故障箇所の発見速度だった。通常一週間も掛かるような特定作業も神連夫妻に掛かればたったの一時間で全て見つけ、作業を何日も短縮したのだ。迅速な作業が大切な技師においてこの才能は重宝され世界中を引っ張りだこにされていた。

 

「ほんと次から次へと驚愕が…」

 

「あーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「今度は何ぃ!?」

 

「どうした坊主?」

 

『ナオト様、どうされました?まさか遂に頭が…』

 

ヘッドホンを外したナオトの叫びに三人が驚く。

 

「動いてる…」

 

「「『は?』」」

 

「先輩の自動人形(オートマタ)、動いてる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業部屋の中は無残にも散らばってしまっていた。そして眠り姫さんも…

 

「お、落ちてるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」

 

作業台の上から落ちてしまっていた。周りにはパーツやら工具やらが散らばってしまっているので最悪人工皮膚が傷付いてしまっている。

 

「だ、大丈夫…か?」

 

さっと点検をする。目立ったところに外傷は無い。

 

「良かった…本当に良かった」

 

俺は思わず抱き締めてしまう。その時、頬に出来た切り傷が眠り姫さんの口に触れていることに気付いた。

 

「あ!しまった!すまねぇ…」

 

俺は服で拭おうとするが、その手から、

 

カチリ

 

「え?」

 

抱き締めている手から伝わる振動、繊細で美しく、どこまでも広く感じる大空のような震え。

 

『だ…いじょ……うぶ?』

 

ゆっくりと声の方に顔を向ける。声はいまだに途切れ途切れだ。長い間使っていなかった弊害だろう。

 

『あ…なた、が、いつも…私に話し掛けて…くれた人だよね?』

 

その顔を真っ正面から見つめる。そこにはいつも閉ざされていた瞼が上がり夜空の色の瞳が覗いていた。どこまでも吸い込まれそうな安心感のあるソプラノの声。ゆっくりと上がり切れた頬を撫でる白く細い指。その一つ一つが俺に感動と安らぎを与えてくれた。

 

『初めまして、私はinitial-Yシリーズ監督機、"寄り添うもの(マンダリン)"イースです。よろしくね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにまた2つの歯車が噛み合った。6つとなった歯車はこの世界に変革をもたらす。




スゲーな…四時間掛からずに書けたよこれ…
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