東方幻想物語   作:空亡之尊

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五柱の神と五つの絆と完全な闇

ルーミアside

 

 

『ルーミア、お前はそこで終わりか? 俺との約束を果たすまで、死ぬんじゃねえぞ』

 

 

ふと、そんな言葉が頭に響いた。

それと不思議なことに、来るはずの痛みがなぜか一向に訪れない。

目を開けると、そこには黄龍に対して左手を突き出して立っている一人の少女が立っていた。

 

 

「この程度の相手に苦戦するとは、お主も情けないな」

 

 

月明かりに照らされる黒髪を揺らしながら、彼女は私に振り返った。

その姿を、私は憶えていた。かつてユウヤが真っ向から勝負して打ち破った鬼の長。

相手の能力を殺し、純粋な力のみで戦う、不老不死の鬼姫。

 

 

「薊……!」

「どうした? まるで幽霊でも見たかのような目をしおって」

「アンタ、生きてたのね。てっきり旅の途中で野垂れ死んでるかと思ってたわ」

「馬鹿言うな。我が死ぬことなんぞ絶対にない」

「そうだったわね」

 

 

薊の隣へと歩み寄ると、空を見上げる。

神々しい光を放つ黄龍の周りには、青龍・朱雀・白虎・玄武の四神が佇んでいる。

 

 

「黄龍に四神、結構危ない状況だな」

「これでも一度は殺したんだけど、どうやらあっちもしぶといみたいね」

「だろうな。仮にも神、そう簡単には倒れてくれんだろ」

「それなら、倒れるまで何度でも殺すまでよ」

 

 

私は黄龍を見ら見つけると、それに応えるように黄龍は天高く吠えた。

それを合図に、四神が一斉に私たちの方へと襲い掛かってきた。

私は周囲に影を展開してそれを待ち受けるが、薊は腕組みをしたまま意味深に笑った。

 

その時、私の背後から何かが放たれた。

一つは鉄輪、空気を斬りながら投げられたそれは青龍の身体に深い傷を負わせた。

一つは弓矢、狙い誤らず放たれたそれは白虎の左目に深々と突き刺さった。

一つは炎の弾、闇夜を明るく照らすそれは朱雀と玄武に直撃すると爆発した。

突然の攻撃で後退りする四神の背後で、黄龍だけが静かに私の背後を見つめていた。

 

 

「やれやれ、都から強い神力を感じたかと思ったら、また面倒なことになってるわね」

「あの人が行く先々ではいつもこんな音が起こってるのね。ある意味退屈はしなさそうね」

「でも、神様相手に喧嘩を売るのは、あの人らしいわね」

 

 

私が後ろを振り向くと、そこには見覚えのある面々が立っていた。

洩矢諏訪子、八意永琳、藤原妹紅、昔からユウヤと深く関わってきた人たちが並んでいた。

 

 

「久しぶり。ルーミア」

「諏訪子、なんでアンタがここに」

「紫っていう妖怪に言われたのよ。ユウヤの助けになってくれって」

「紫が?」

「そう。他の二人も同じだと思うわよ」

 

 

諏訪子は後ろ指を指して笑った。

 

 

「永琳……妹紅……アンタたちまで来るなんてね」

「まあ、ユウヤには返しきれない恩があるから。これくらいわね」

「私も同じよ。数億年前の借りは、私の一生を使ってでも清算するつもりよ」

「つまり、ここにいる奴ら全員あやつのことが好きだってことだな」

「あぁ、なるほど」

「「「なんでそうなるのよ!?」」」

「お、息が合ってるわね」

 

 

そうやって三人をからかっていると、後ろの方が妙に静かだということに気付いた。

振り返ると、苛立つ四神を黄龍が無言の圧力で無理やり押さえつけていた。

まるで私たちの会話を邪魔させないように、準備が整うまで待っているかのようだった。

 

 

「ご丁寧に待ってくれてるわね」

「邪神の手先だといっても、さすがは四神の長ってことね」

「正々堂々と、というわけか」

「ならば、その心意気には全力で応えるとしようかの」

「やれやれ。どいつもこいつも血の気が多いわね」

 

 

私はそう言って小さく笑うと一歩前へと出て、五人横一列に並ぶ。

 

 

「適当に、玄武は我が相手になる」

「なら、炎繋がりで朱雀は私が」

「動きが速そうな白虎は私が適任ね」

「余った青龍は私が引き受けるとするよ」

「……黄龍は、私が仕留めるわ」

 

 

それぞれの相手を決め、四人は四方へと散らばった。

四神はそれを見ると、光の球となってその後を追った。

その場に残された私と黄龍は、ただ静かにその時を待つ。

 

 

 

 

 

???side

 

 

青龍と諏訪子は都から東にある鴨川へと移動した。

静かに流れる夜の川に、雷を纏う龍と諏訪の祟り神が対峙する。

 

青龍は夜空に吠えると、彼女の頭上からいくつもの稲妻を落とした。

諏訪子は空へと飛んでそれを避けると、すかさず鉄輪を青龍に向けて投げた。

だが、青龍はその身体を大きく仰け反らせると、その回転で鉄輪をいとも容易く弾き返した。

戻ってきた鉄輪を受け止めると、それと同時に稲妻が彼女に頭上から降り注いだ。咄嗟にそれを避けて地面へと着地すると、諏訪子のいた場所とは遠い所で稲妻が落ちる。

その瞬間、川を伝って稲妻の電撃が彼女の足を止めた。

 

 

「いつっ……忘れてた」

 

 

一瞬足が止まった諏訪子へと、青龍はいくつもの稲妻を収束させた攻撃を頭上から落とした。

彼女はそれを避けることができず、稲妻の瞬きに包まれ、川は落雷の衝撃で天高く撒き上がった。

諏訪子の帽子がゆらゆらと舞い落ちる。相手を仕留めたと喜ぶ青龍は空で優雅に舞った。

 

 

「何を喜んでるのかな?」

 

 

余裕そうにそう囁いた彼女は、帽子を掴んで青龍を見つめた。

青龍の目に映ったのは、軽傷で済んでいる諏訪子の姿と、その背後にある大木だった。

彼女の能力は『坤を創造する程度の能力』、地を自在に操る彼女は雷撃が来る直前に大木を創造し、避雷針として先ほどの雷撃を避けた。

真っ黒に燃え尽きた大木は音を立てて崩れ落ちると、諏訪子はニヤッと笑う。

 

 

「私をこんなにして………祟るわよ?」

 

 

その時、青龍は彼女の周りにいるものに気付いた。

赤い瞳を持つ巨大な白蛇の群れが、青龍のことを睨んでいた。

青龍はその場から逃げ出さそうと空へと逃げるが、その行く手を岩の壁が遮る。

逃げ場を失くした青龍は、背後から迫る白蛇の群れに噛みつかれると、諏訪子の下へと引き寄せられる。そして、その視界を暗闇が包んだ。その中で、彼女の声が響く。

 

 

「私(蛙)に睨まれて、龍(蛇)が逃げられるとは思わないでよね」

 

 

 

少 女 祈 祷 中

 

 

 

永琳と白虎は都より西にある山蔭道へと移動した。

月の光の満足に届かぬ森の中、風を纏う白虎と月の天才が対峙する。

 

白虎は天高く吠えると、風を刃の様にして永琳へと放った。

永琳は静かに弓を構えると、風の刃を紙一重でかわしながら弓矢を放った。

白虎は自身に風を纏わせると、弓矢をいとも容易く避け、彼女の周りを走り始めた。

弓矢で追撃をするが、薄暗い森の中と白虎の並外れたスピードで狙いを定められずにいた。

その時、永琳の足を風の刃が斬り裂いた。

 

 

「しまっ……‼」

 

 

その場で足を止めてしまった永琳を見て、白虎は更に自身のスピードを上げた。

白虎が纏う風は周りに小さな旋風を作り、その中にできた真空が刃となって彼女に襲い掛かる。

一方的に攻撃され、身体が切り刻まれていく中、彼女はニヤリと笑った。

 

 

「……もうそろそろね」

 

 

彼女が呟いたその時、周囲にできていた旋風が徐々に止んできた。

それは白虎の走るスピードが徐々に落ちていき、息は今にも絶えてしまいそうなほど弱っていた。

彼女の能力は『あらゆる薬を作る程度の能力』、物語始めの一撃に遅効性の毒を仕込ませ、その毒が今になって白虎の身体に完全に回った。

永琳は徐々に治っていく自信の傷をなでながら、静かに呟く。

 

 

「不老不死でも、痛いものは痛いのよね」

 

 

白虎はやがてその場に立ち止まり、息を切らしながら彼女を見つめる。

もう走ることも、風も操れない、白虎は徐々に蝕まれていく意識の中で懇願する人見を向ける。

永琳はその場に弱々しく倒れた白虎に歩み寄ると、弓矢を白虎の眉間へと定める。

しかし、放つ寸前に狙いを変えると、弓矢は白虎の胴へと深々と突き刺さった。

 

 

「せめて、最期くらいは安心して楽に死になさい」

 

 

 

少 女 祈 祷 中

 

 

 

妹紅と朱雀は都より南にある巨椋池へと移動した。

水面に月が映る寂れた池に、炎を纏った朱雀と流離いの蓬莱人が空で対峙する。

 

朱雀は天高く鳴き声を上げると、妹紅へと向かって突進してきた。

妹紅もそれに応えるように、朱雀に向かって真っすぐ飛んでいく。

朱雀はその鉤爪で彼女を引っ掻くと、身体に傷を負いながらもサマーソルトでやり返した。

互いに捨て身覚悟の接近戦、朱雀は鉤爪や至近距離からの火球で妹紅を追い詰め、それに対して彼女は蹴り技や炎の妖術を使って迎撃する。

 

 

「意外と楽しいわね。殺し合いも……」

 

 

妹紅は拳銃の構えで炎の弾を撃ち出し、朱雀はその口ばしから火球を吐き出して距離を離した。

妹紅と朱雀は再び炎を撃ち出すと、それが鳳凰の姿形へと変化し、互いに向かった。

互いの炎がぶつかり合い、激しい爆発と衝撃が空に響き渡り、妹紅と朱雀は池へと落ちていった。

 

 

「まだ……まだ終わってねえぞ!」

 

 

巨椋池の水を突き破り、二つの炎の柱が天高く燃え上がった。

炎の柱が消えると、光が収束して妹紅と朱雀がその姿を現した。

妹紅に不死身の存在、細胞一つでもこの世に残っていれば、永久に死滅することはない。

互いに互いの強さは十分理解している。ならばと、二人は対峙したまま構える。

 

 

「燃やし尽くす………!」

 

 

妹紅は天高く雄たけびを上げると、その背中に真っ赤に燃え上がる炎の翼を生やした。

それを見た朱雀は自身の纏う炎を最大限まで燃え上がらせると、妹紅へと特攻を仕掛けた。

彼女再び炎の弾を撃ち出し、炎の鳳凰を形作った。すると、彼女は炎の鳳凰へと突っ込み、その炎をより一層燃え上がらせ、朱雀へと突貫する。

二つの火の鳥が互いに激しく競り合うと、妹紅の拳から炎の鳳凰が朱雀の身体を突き抜けた。

 

 

「安らかに眠れ………」

 

 

少 女 祈 祷 中

 

 

 

薊と玄武は都より北にある船岡山へと移動した。

都を見下ろす小さき山の頂に、冷気を纏う玄武と不死身の鬼姫が対峙する。

 

 

「悪いが、早く済ませるぞ」

 

 

薊は退屈そうにそうつぶやくと、玄武へと向かって歩き出す。

威嚇するように玄武の蛇が喉を鳴らすと、冷気が巨大な氷柱となって薊へと放たれた。

しかし、それを彼女は右手で軽く払いのける。まるで目の前の邪魔な虫を追い払うように容易く。

彼女の左手には『あらゆる能力を殺す能力』があるが、そんなものを使わずとも彼女は強かった。

やがて玄武の目の間へと辿り着いた彼女は、玄武の身体を掴んだ。

 

 

「――貴様なんぞに用はない」

 

 

薊は玄武の身体を天高く放り投げると、拳を握りしめ、落ちてくる玄武を思いきり殴った。

喰らった衝撃はどこへも逃げず、内側から玄武は破壊され、甲羅も粉々となって地面に落ちた。

薊はそれに目も触れず、都へと目を向けた。

 

 

「後はお主だけだ。頼むぞ、ルーミア」

 

 

 

 

 

ルーミアside

 

 

四人と四神が去ってしばらくした後、変化が起きた。

黄龍が持っていた四つの宝玉にひびが入り、やがて粉々となって崩れた。

 

 

「どうやら、仲間がやってくれたみたいね」

 

 

黄龍は動揺する素振りもなく、宝玉を持っていた手を握りしめた。

怒りも悲しみも感じられないその雰囲気に、私は黄龍へと憐れみを抱いた。

邪神に心を奪われ、混沌をもたらすだけとなった四神の長、なんとも可哀想なものね。

 

 

「せめて最期くらいは、派手に行くとしましょうか」

 

 

私は周囲の影を自分の下へと集め、黄龍を迎え撃つ。

黄龍は天高く昇り月に吠えると、その口に光が収束していく。

一撃必殺の閃光、まともに喰らえばひとたまりもないことは私でもよくわかる。

でも、私にはそれを受け止めなければならない。黄龍の悲しみもろとも、ね。

 

 

「闇は光が強いほど深く、そして大きくなる。アンタ(光)で、私(闇)を照らしてみせなさい」

 

 

私は黄龍に向かってそう叫ぶと、黄龍は私に向かって閃光を放った。

閃光が雲を突き抜け、私へと直撃し、その衝撃で周囲のものは風圧によって吹き飛ばされた。

周囲にあるすべての影をかき集め、それを目の前に展開して閃光を防ぐが、それでも閃光の威力を全く殺せず、徐々に影は崩れ始め、光が私を蝕み始める。

 

 

「――まだまだね。やっぱり、私の光は……」

 

 

私の背後には閃光によって生まれた巨大な影が広がる。

その影はどこまでも長く、そして先も見えないほど深く黒い闇、それを私の手に収束させる。

光がある限り闇はある。影は絶えることなく私の手へと収束し、徐々に閃光は輝きを失くす。

そして、閃光が途絶えると、私の手の先にはすべてを悟った瞳をした黄龍が見えた。

 

 

「全てを包み込め――『空亡』」

 

 

私は収束させた闇を開放すると、それが漆黒の閃光となって黄龍を包み込んだ。

光を喰らい、星を喰らい、月をも喰らう、どこまでも暗い闇が空を覆い隠した。

 

 

 

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