神無 優夜side
突然だが、みんなはこういう経験はないだろうか?
親が大事にしている高級そうな壺や趣味の物を不慮の事故で壊してしまったことなど。
素直に謝れば許してくれるかもしれないが、それが叶わない時のお仕置きを考えれば必死に隠したくなるだろう。
なんでこんな話をしているのかというと、今まさに俺がそんな状況だからだ。
話をしよう(指パッチン)、あれはかれこれ二時間前。
俺がいつものように永琳の部屋で寝ていると、寝相が悪くて近くの棚を思いきり蹴ってしまった。その衝撃で、その上に置いていた永琳の弓が真っ二つに折れてしまったのだ。
焦った俺は何とか直そうとしたが、どの能力も役には立たなかった。
修復不可能だと悟った俺は、それを隠すために郊外の森へと向かい、地面に埋めた。
現在、俺はその帰りで、これからどうするか考えていた。
「永琳は大きな仕事があるからってしばらく帰らない。その間に何と――うおっ!?」
考えながら街を歩いていると、不意に襟を掴まれて路地裏へと引きずり込まれた。
俺は咄嗟にその手を振り払い、路地裏の壁にその人物を追い詰めた。
「………え?」
「久しぶりね。ユウヤ」
意外、その人物はこの前出会ったばかりの輝夜だった。
俺は彼女のから少し距離を置くと、一応事情を聴いた。
「ところで、どうしてお姫様がここにいるんだ?」
「抜け出してきたのよ。どうせ屋敷には誰もいないし」
「月美はどうしたんだ?」
「今日はお偉いさんに呼ばれてるわ。なんでかわからないけど」
「そうか。で、暇つぶしに街に来たと」
「そう。でも、なぜかみんな私のことをじろじろと見るのよね」
輝夜は困ったように溜息をついた。
屋敷の使用人の様にパッとしない着物だが、彼女から溢れ出る高貴な雰囲気は隠せていなかった。やはりというか、こういう人には変装は無意味だな。
「とりあえず、家まで来るか? その恰好じゃ差がありすぎて逆に目立つ」
「どういう意味よ」
「可愛いお姫様には相応しい服装があるって意味だよ。まかせろ」
「可愛い、ね」
「お世辞だと思うか?」
「そうなの?」
「悪いな。ほめるのは得意だが、お世辞や嘘は苦手なんだよ」
俺はそう言うと、輝夜の手を取って家へと向かった。
あまり目立たないように、路地裏や『サニーミルク』の能力を使って、無事辿り着いた。
「意外と片付いてるのね」
「ほとんど俺がやってるけどな」
「ああ~永琳ってそういうところは無頓着なのよね」
「まあ、ごはん抜きって言ったら素直に片付けてくれるけど」
「貴方くらいよ、あの永琳に言うこと聞かせれるのは」
「アンタほどじゃねえよ」
俺はお茶を淹れると、輝夜の前へと出した。
「それにしても、不思議よね」
「何がだ?」
「永琳もだけど、あの綿月姉妹とも仲が良いらしいじゃない」
「片は決闘、片は俺の料理が目当てだけどな」
「それでもよ。特に、穢れが嫌いな依姫があそこまで貴方に執心なのは目を疑ったわ」
「そういうもんかね」
俺はそう言って自分で淹れたお茶を一口飲んだ。
「羨ましいわね」
「鳥籠の姫様には屋敷は狭いか?」
「そうね。本当なら、今にでも屋敷を出ていきたいわ」
「それはそれは」
「でも、今の私にはそんな勇気もないわ」
輝夜は呆れるように小さく笑うと、お茶を一飲みした。
「いっそ、貴方が攫っていってくださらない?」
「悪いな。それだと俺もここを離れないといけなくなる」
「離れたくない理由でもあるというの?」
「ああ。だから、輝夜の頼みは断らせてもらう」
「残念。貴方となら退屈せずに済みそうと思ったのに」
「気が向いたら遊びに行ってやるから、そう不貞腐れるな」
俺は輝夜の隣に座ると、頭を優しく撫でた。
「ずるいわね」
「悪いな」
「あ~あ、フラれちゃったわ」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
「その通りじゃない」
「お前な………」
「ふふ♪」
輝夜は悪戯に笑う。
「ところで、貴方と月美ってどこまで行ってるの?」
「期待してるところ悪いが、俺と月美はそういう関係じゃねえよ………まだ」
「あんなに仲が良いのに、意外と奥手なのね」
「真剣に想うと臆するもんなんだよ」
「腰抜け」
「うるさい」
俺は彼女から目を逸らした。
まあ、ここまで言っててなんだが、俺は月美のことが好きだ。
『Like(好き)』ではなく『Love(愛してる)』の方だ。一目惚れというべきか、とにかく彼女のことは大好きだ。
しかし、うまく想いを伝えようと思うと臆病な自分が出てきて、いつもの調子で彼女のことをからかってしまう。
「やっぱり傍目からでもわかるのか」
「月美のことで依姫と喧嘩したんでしょ? 解らないと思った?」
「それもそうだよな」
「まあ、どっちもどっちでしょうね」
「え?」
「なんでもないわ」
輝夜は意味深に笑うと、話を切り替えた。
「ところで、気になったんだけど」
「どうした?」
「永琳の弓がないわよね」
「!?」
「あれって、永琳が妖怪退治するときに用いっていたのに、どこにいったのかしら?」
輝夜はわざとらしく俺を見る。
明らかに犯人が解ってる目だ。解っている上で無知を装っている質の悪い人だ。
「バレたらどうなるかしらね?」
「何が望みだ?」
「ふふ、冗談よ。別に永琳に告げ口しようなんて思ってないわ」
「どうだか」
「なら、代わりの物を明日持ってきてあげるわよ」
「そんなものあるのかよ」
「当然よ。だってあれ、私が永琳にあげたものだから」
「マジか……」
なんだか罪悪感が込み上げてきた。
やっぱり、素直に永琳に謝っておいた方が……。
「丁度良かったわ。永琳から新しいのに代えたいって言われてたのよね」
「………………え?」
「じゃあ、永琳には古いのは回収したから後日新しいのを送るって伝えておいてね」
「お、お前……!?」
「私に弄ばれてどうかしら?」
「輝夜あああああああああ!!!!!」
一瞬でも沸き上がった俺の罪悪感は、怒りでどこかへと消えていった。
その日、俺は輝夜がこういう性格だということを心底思い知らされた。
空亡「続いて輝夜さんの話でした」
優夜「あのお姫様、行動力がすごいな」
空亡「元気がよくていいじゃないですか。僕では無理ですけど」
優夜「だろうな」
空亡「しかし、最後は彼女にしてやられましたね」
優夜「冒頭で必死に隠蔽しようとしていたのがなんだか恥ずかしい」
空亡「過去というものはバラバラにしても、石の下からミミズのように這い出る」
優夜「ジョ○ョの名言、なんで出した」
空亡「いつかこの言葉の意味を、君が理解するからですよ」
次回予告
忘れていたが、この時代にも神はいる。太陽と闘いと月の、三貴子が。
東方幻想物語・神代編、『三柱の神様』、どうぞお楽しみに。