東方幻想物語   作:空亡之尊

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月移住計画

神無 優夜side

 

 

この世界に着てもう一年が過ぎようとしている。

時の流れとは随分と早いもので、交友関係もだいぶ落ち着いてきた。

永琳には前ほど実験に付き合わせられることもなくなったし、依姫や豊姫とは永琳の代役として指南することになった。輝夜とは遊び相手として月美と一緒に暇つぶしに付き合わされている。三貴子とはたまにだがよく話すようにもなったもんだ。

 

そして今は、いつもの様に郊外の森で稽古に励んでいた。

妖怪が襲ってこないかと思われるが、なぜかここ最近妖怪たちが大人しい。

嵐の前の静けさ、というよりはモンハンで言う古龍討伐の時に他の敵がいないみたいな状況だ。

だが、それだとまるで妖怪どもに恐れを抱かれるほどの存在が近くにいるってことだろうか。

 

 

「今日のところは早めに帰るか」

「それは残念。もっと見てみたかったのに」

 

 

街へ戻ろうと振り返ると、そこには一人の青年が岩の上に座っていた。

俺と同じ黒髪、黒いスーツの上に白いロングコート、白い帽子を被っている。

俺を見てニヤニヤと笑うその彼を、俺は本能的に警戒した。

 

 

「誰だ?」

「ふふ、ただの一般人ですよ」

「ただの一般人がこんな所にいるはずねえだろ」

「それもそうですね」

 

 

彼はクスクスと笑う。

 

 

「それより、君はこの世界を楽しんでいるかい?」

「どういう意味だよ」

「元の世界よりは刺激的でしょって意味だよ」

「……お前、何でそれを」

「人間ってのはいつも見てて面白いから、その一環ですよ」

 

 

彼はそう言うと岩から降り、俺に背を向けた。

 

 

「殺し殺され死に晒せ、脆い人間は笛の音で躍る演者に過ぎない。

 穢れに満ちた哀れな少女は、最期の最後、誰の為に死ぬのかな?」

 

 

詠うように語る言葉を最後に、青年は森の奥へと消えていった。

そんな彼の後ろ姿を、俺は見送ることしかできなかった。

 

いつの間にか俺は郊外の街の入り口へと戻ってきていた。

そこには、いつかであった警備隊の隊長さんが立っていた。

 

 

「いつもお勤めご苦労さんです」

「なんだお前か」

「素っ気ないな。まあ、前よりは話してくるからいいか」

「お前は相変わらず稽古の帰りか」

「そう。街の中じゃ被害でそうだから」

 

 

俺はケラケラと笑いながら隊長さんにそう言った。

稽古をしているうちに隊長さんとは少しだが仲良くなり、今では彼の愚痴を聞きながら飲み屋で呑んだりしている。ちなみに、本名は『天野 田力』というらしい。

 

 

「もう、その心配はいらなそうだ」

「どういうこと?」

「実は上の方で、月へと移住するという計画が持ち上がっているらしい」

「月へ?」

「ああ。何でも近々、大規模な妖怪の群れが攻め込んでくるらしい」

「それで月へ逃げようって魂胆か」

「月には穢れが無い。まさに一石二鳥の考えなのだろう」

 

 

月移住計画、月夜見が計画した大規模な移住計画。どこの二次創作でもそれは持ちあがるが、それと共に起こるのが妖怪の群集が攻めてくること。

原作での名称は無いが、二次創作では『人妖大戦』として語り継がれる。

だが、その際にはいつもその主人公が取り残されている。ほとんどが不老不死なんだけどね。

しかし、そう語る隊長さんは、なぜか表情が優れていない。

 

 

「隊長さん、何を悩んでるんだ?」

「……少し悪い噂が出回っているんだ」

「もしかして警備隊は取り残して囮にするってやつか?」

「それだけなら私一人残って部下を助けるが、そうではないらしい」

「どんな噂だよ」

「実はな………」

 

 

その時、街の方から警鐘が鳴りびいた。

 

 

『緊急事態、緊急事態、妖怪の群れが接近中。ただちに住民は中央の広場へ避難してください。

緊急事態、緊急事態、妖怪の群れが接近中。ただちに住民は中央の広場へ避難して…………』

 

 

「どうやら、その近々が今日らしいな」

「こっちにも連絡があった。さっきの警報通り、警備隊を含めた住民は広場に集まれとのことだ」

「俺が言うのも何だが、戦わないのか?」

「妖怪の群れはまだ遠くにいるらしい。今から準備すれば間に合うとの事だ」

「そういうことか」

 

 

無駄な戦いを避けるあたり、ここの世界はまだマシらしい。

俺は広場へ向かおうとしたが、隊長さんは立ち止っていた。

 

 

「どうしたんだ?」

「何時はさっきの噂だが、お前の所にいるあの女が関係している」

「月美が………?」

「上の奴等は、アイツを囮にする気だ」

 

 

隊長の言葉に、俺は耳を疑った。唖然としていた俺は、隊長に詰め寄った。

 

 

「どういうことだよ、月美が囮って!!」

「言葉の通りだ。上の奴等はアイツの穢れを利用して時間を稼ぐつもりだ」

「穢れを?」

「アイツが身に纏っている穢れ、それをエサにして妖怪の群れを惹きつけようとしているらしい」

「どういう意味だよ。月美にそんな力は………」

「実際に何度も事例があった。過去に行った郊外での実験、それで結果が出ている」

「過去……もしかして、月美が見つかった時の話か!?」

「ああ。どうやら彼女には妖怪を惹きつける力があるようで、上の奴等はそれに目を付けた。

 いつか訪れる大規模な襲撃、それのほんの少しばかりの時間稼ぎ、それに利用するためにな」

 

 

隊長は神妙な面持ちでそう語る。

月美に聞いたこれまでの経緯、周りからの目、それに耐えてきたこと。

それがすべて上にいる自分勝手な奴等の所為で狂わされたと知ると、俺は激しい憤りを感じていた。

しかし、俺はそこで一つの疑問が浮かんだ。

 

 

「隊長さん、何でアンタがそこまで知っているんだ?」

「俺はあの時その場にいた。たった一人の生き残りだ。上の奴等は気付いていないがな」

「なるほど」

「彼女は郊外にある高原に連れていかれたはずだ」

「アンタはどうする?」

「俺には護るべき部下がいる。悪いが」

「いいよ。アイツは俺が助ける。任せろ」

「悪いな。何もできずに」

「いいよ。それより、永琳はこのことを知っているのか?」

「知らないだろうな。知っていれば反対するはずだ」

「どこまでも汚いな。人間ってのは」

 

 

俺は隊長に教えてもらった場所へと走り出した。

一の犠牲で全が助かるのは御免だ。一も助けて全も助けるのが俺の信条だ。

 

 

「このまま見捨ててたまるか………!!!」

 

 

 

 

 

???side

 

 

誰もいない高原に一人、彼女は立っていた。

彼女は知っていた。自分がこの日のためだけに生かされてきたということを。

妖怪を引き寄せる力、それを知った月の民は彼女を時間稼ぎとして利用した。

 

彼女は抵抗することなくこの場に連れてこられたが、彼女の周りにはその月の民たちがいた。

どれもこれも、刀で斬られて息絶えた屍へと成り果てていて、もう誰も生きてはいない。

その中心に立つ彼女は、汚れてしまった自分の手を見た。

 

 

「……こんなんじゃ、もうあの人には会えませんね」

 

 

彼女の瞳から涙が零れ落ちた。

愛する人と別れるのは悲しい、けれど、今の自分は穢れてしまった存在。

今も、あの日も、彼女は自分を穢して、こうして生きてきた。

 

 

「ならば………せめて、あの人たちだけでも」

 

 

彼女は意を決して歩き出した。

向かってくる妖怪たちを街から離すために、自分へと引き寄せるために。

それが、穢れた自分にできる最後の役目だと、彼女は心に思った。

 

 

「さようなら……」

 

 

 

 




次回予告

物語に這い寄る渾沌の影、

それは更なる絶望と終ることのない悲しみを運んでくる。

東方幻想物語・神代編、『渾沌の邪神』、どうぞお楽しみに。
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