東方幻想物語   作:空亡之尊

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闇に怯える

ルーミアside

 

 

この国に来てもう数ヶ月が過ぎた。

ユウヤはみんなに忌み嫌われていると知っても尚、相変わらず人助けなどしている。

初めの頃は根も葉もない噂が村の中で絶え間なく話されていたが、今はそんな声も徐々になくなっていき、今では評判も良くなっている。

 

しかし、相変わらず私に対しての声はひどいものだ。

ここ最近、近辺で闇を纏った妖怪が人間を襲っていると噂さているが、その犯人が私ではないかとあらぬ疑いを掛けられている。

今は諏訪子たちがどうにか無罪を主張してくれているけど、それもいつまで保つか分からない。

 

 

「いっその事、このまま出て行こうかしら」

 

 

ふと、私は夜空に浮かぶ月を眺めながらそんな事を呟いた。

本来私は人間の中には居てはいけない妖怪、アイツの隣にいるのだって、私がアイツを食べる時を待っているだけ。

こんな理由だけでここに居るのも、人の声が嫌になるくらいなら、いっそ昔のように気ままに旅をして人を喰らって生き続けた方が良いに決まっている。

 

でも、そしたらアイツはどんな顔をするだろうか?

居なくなって清々したとでも心無い事を言うのか、それとも少しでも悲しんでくれるのかしら?

 

 

「……どうかしてるわね」

 

 

まるでアイツが悲しんでくれるのを期待しているみたいだ。

私にはそんな事を願う資格も無いのに………………………。

 

村はずれの森の中で夜空を眺めていると、視線の先に人が立っているのが見えた。

叶恵だった。いつもの巫女服に片手に持っている御札からは霊力を感じる。

叶恵は周りに誰かいないか見渡しているが、どうやら私には気付いていない様子。

私は気付かれないように歩み寄ると、挙動不審な彼女の肩を叩いた。

 

 

「ひゅい!?」

 

 

可愛い悲鳴を上げながら彼女は尻餅をついた。

瞳に涙を浮かべながら私を見上げるその姿に、私は少し微笑ましく思えてしまった。

 

 

「る、ルーミアさん!?」

「ごめんなさい。驚かせたかしら」

「驚かせないで下さいよ~。心臓が止まるかと思いました」

「その時は美味しく頂くわ」

「ひぃ」

「冗談よ。それより、こんな時間にどこに行く気かしら?」

「そ、それは………」

 

 

叶恵はバツが悪そうに顔を背ける。

彼女が持つ御札を改めて見て、私は察した。

 

 

「妖怪退治なんて、貴女の分野じゃないでしょ」

「……解っています。でも、私がやらないといけないんです」

「巫女だから、かしら?」

「そうです。けど、それだけが理由じゃありません」

「何かしら?」

「………ルーミアさんが犯人ではないことを証明したいからです」

 

 

叶恵は私の目を見つめながらそう答えた。

いつか私が見たお人好しな人間の同じ、真っ直ぐな意志を持った瞳だった。

 

 

「貴女じゃ無理よ」

「それでも、これ以上ルーミアさんが悪く言われるのは我慢なりません」

「妖怪だから当然よ」

「妖怪も何もありません。私は家族が悪く言われるのはもう嫌なんです」

「家族、ね………」

 

 

私には、目の前の彼女が何を言っているのか理解できなかった。

妖怪と人間は闇と光と同じく合見えない存在、それを家族を言い切る彼女。

少なくとも、私のことを家族だなんて呼ぶ人間がもう一人いた事には驚いた。

 

 

「光は闇を恐れ、闇は光を嫌う。しかし、光は闇を創る権化でもある」

「え?」

「人間という光がるからこそ、私達妖怪という闇がある。妖怪は人間の影なのよ」

「影、ですか?」

「悲しみ、怒り、妬み、恨み、憎しみ、恐怖、それらの感情に影響されて妖怪は生み出される。

 中には人間の抑え込んだ感情によって強い力を持った妖怪も生み出されるわ」

「……つまり、人間がいる限り、妖怪も消えないと?」

「そういうことね。暮れない昼が無ければ、明けない夜も無いのよ」

「でも、何で今その話を」

「それは―――」

 

 

その時、周りの暗がりから幾つもの黒い球体が飛び出し、私と叶恵に向かって牙を剥けた。

私は“既に”周りに配備させていた影の刃で叶恵を守り、私は剣を召喚して黒い球体を弾いた。

 

 

「人間の勝手な想像で同じ形をした妖怪が増えるってことよ」

「これは……!?」

「私と同類、ただ暗闇を纏っただけの人喰い妖怪よ」

「わ、私も戦います」

「必要ないわ」

「え?」

 

 

私は剣と影の刃を振り払い、黒い球体を次々と斬り裂いた。

黒い球体は小さな破片となって崩れ去るが、その破片は地面に落ちることなく、私の目の前に収束されるように集まっていく。

やがて、巨大な黒い球体へと形を変えると、その側面に無数の目玉が浮かび上がり私を睨んだ。

 

 

「ひっ!!」

「やれやれ。どうやら頭が弱くて解からないみたいね。格の違いというのを」

「る、ルーミアさん?」

 

 

私はクスリと笑うと、黒い集合体は無数の目玉を血走らせながら私に向かってきた。

危険を察して身を縮める叶恵、私は襲ってくる集合体を見つめながら微笑を浮かべる。

 

 

「……童が」

 

 

私が小さく呟くと、黒い集合体の動きが止まった。いや、止めさせた。

月明かりに照らされた木々の影から伸びた“影”が黒い集合体に巻き付いていた。

黒い集合体は無数の目を私に向けるが、それが何かを懇願しているように見えた。

 

 

「叶恵」

「は、はい」

「妖怪ってのはね、怖れられてこそ存在できる脆い生き物、人間なんかよりよっぽど弱いのよ」

「妖怪が、ですか?」

「妖怪は人間の弱い部分が集まってできた物。コイツは私のという暗闇を恐れた人間たちによって生み出された存在、言うなれば村の人間から見た私の姿なのよ」

「これが……ルーミアさんの姿」

 

 

叶恵は目の前にいる黒い集合体を見る。

人間とは遠くかけ離れた姿、気が遠退きそうになる殺気、人を喰らいことしか考えられない本能。

運が悪ければ、私もこの有様になっていた可能性もある。

対峙する妖怪(人)と妖怪(化物)、それが同一の存在ということを彼女は理解した。

 

 

「どう。これでも私は貴女にとって大事な家族かしら?」

 

 

私は意地悪な問い掛けをした。

妖怪という異様な存在は人間には受け入れられることは無い。

すべてを受け入れるなど、夢のまた夢、幻想よりも遠い理想の話だ。

 

彼女は私と黒い集合体を交互に見ると、その重い口を開いた。

 

 

「馬鹿なこと言わないでください」

「そうよね。結局私みたいな人食いが、人間と暮らそうだなんt」

「ルーミアさんは私の大事な家族だということは変わりません」

「え?」

 

 

言い放たれたのは思いもよらぬ言葉だった。

 

 

「人間だって姿や性格が違う人だっています。妖怪もそれと同じです。

 その妖怪は無暗に人を喰らいますが、ルーミアさんはそんなことしません。

 それに、ルーミアさんがこの森に入った村の人達を助けていること、私知ってますから」

「……誰から聞いたのよ」

「勿論、助けられた人達からです。よくお礼を言いに来てくださるので」

「姿は見せていないはずなのにね」

「それでも見ているんですよ。人間っていうのは」

「そう……」

 

 

それを聞いた私は、嬉しくて笑ってしまった。

気紛れでやってきたことを認められ、目の前の少女からはここに居て良いと言われた。

今まで悩んでいたことが一瞬にして馬鹿らしくなった。……これも、アイツの影響かしら。

 

 

「ありがとう。叶恵」

「いえ」

「……アナタにも言っておくわ。ありがとう」

 

 

私は目の前の同類にそう言った。

同類の無数の目が次々と閉じていく。まるで私に身を委ねるように、安らかに眠るように。

私は同類へと手を添えると、私の影に溶けるように姿を消した。

 

 

『―――――。――』

 

 

その時、声が聞こえた。

幼子のような陽気で無邪気な明るい声が。

 

 

「さて、帰りましょうか」

「はい。早く帰らないと星羅にバレますからね」

「心配ないわよ」

「どうしてですか?」

「神社の方から物凄い殺気を感じるのよ。アレは多分怒ってるわね」

「え?」

「さあ、早く帰りましょうか」

「は~い」

 

 

さっきまでとは別の意味で涙を流す彼女の後を、私は付いて行った。

私のその道中、最後に聞こえた言葉を思い出した。

 

 

「『ありがとう。母上』、か」

 

 

 




空亡「さて、今回はこのような感じでしたが」
優夜「珍しく俺の出番はなしか」
空亡「たまにはそう言うのも良い物ですよ」
優夜「まあ、俺は良い物見れたから別に気にしてないよ」
空亡「男同士の友情もいいですが、女同士の友情もいいですね」
優夜「この作品にそういう場面ってないでしょ」
空亡「まあ、男性キャラの出演は当分ないですからね」
優夜「俺はむしろ女性をもっと出してもらいたい」
空亡「そんなこと言ったら怒られますよ」
優夜「誰に?」
空亡「う~ん、正妻?」
優夜「え?」


次回予告
これから先の事で思い悩む優夜に、諏訪子様から嫌な提案が?
東方幻想物語・大戦編、『蛙な祟り神』、どうぞお楽しみに。

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