神無 優夜side
この諏訪の国へ来て早くも一年が過ぎた。
村の人達とも交流が深まり、今ではよく手伝いに呼ばれたりして大変でもある。
ルーミアも、妖怪として警戒されることもなくなり、最近は子供たちの遊び相手と忙しい。
諏訪子や叶恵はここに永住する気はないかと聞いてきたが、俺の目的の為にそれは断らせてもらった。ちなみに星羅は何故か残念そうにしていた。
こんな日常が続けばいいと思うが、その願いが叶えられることは無いだろう。
とある昼下がり、俺が日向ぼっこしていると神社の中からとてつもない殺気を感じた。
気になって中に入ると、そこには諏訪子と叶恵と星羅の三人が机を囲んで座っていた。机の上には一通の手紙が置かれている。
諏訪子は歯を食いしばりながら怒りの表情を浮かべ、叶恵は横目でそれを見ながらおずおずしている。星羅はその中でも冷静に手紙を見つめている。
「どうかしたの?」
「あ、ユウヤさん」
「……まるで鬼の形相だね、ケロちゃん」
「これで怒らないほうがおかしいですよ」
星羅が俺に手渡した手紙、差出先は………案の定、大和の国の神からだった。
内容は、諏訪子が納めるこの国を無条件で受け渡せとの事。もしも、これを拒むのなら、全勢力を持って侵攻する。なんとも解り易い脅迫状だ。
「諏訪大戦、か」
諏訪大戦、それは原作をやっている者なら誰もが聞いたことのある言葉だ。
この時代、破竹の勢いで勢力を拡大していた大和の神々は、全ての国々を統一するという大望のため、諏訪の国をも併呑しようとした。
それに対抗して諏訪子は迎え撃つが、その圧倒的な軍勢に負けを認めた。
いわばこれは勝敗が見えている負け戦、果たして俺はこれを彼女たちに教えるべきなのだろうか。
「諏訪子………」
「私は嫌だからね。この国を渡すなんて事」
「だが、大和の神々の軍勢はこっちを大きく上回るぞ」
「それでも、私は」
「それで、どれくらいの人間が死ぬと思ってる」
俺は残酷にもそのセリフを言ってしまった。
何よりも民の事を思っている諏訪子だ、その民の事を大事に思っていれば子の台詞は残酷にも彼女の心を揺さぶる。
それが解っていて、俺はこの言葉を彼女に投げかけてしまった。
もう誰にも傷付いてほしくない。負け戦だと解っていて、それを正直に話せない臆病な俺が放った最低最悪の台詞。
諏訪子は言葉を呑み込む。叶恵も一緒になって俯いている。しかし、星羅は違った。
「私は、戦うべきだと思いますよ」
「星羅……?」
星羅は諏訪子へと顔を向けると、真っ直ぐその瞳を見つめた。
「ここは貴女の国です。それはこの国も誰もが理解しています。
たとえこの国が大和に侵略されようと、民の心は貴女を信仰し続けます。
それは崇り神の恐怖があるからではありません。みんな、貴女の事が好きだからです。
神としての権力に溺れることなく、民のことを第一に思う。そんな貴女が好きだからです。
だから、お願いです。この国を自分勝手な想いで見捨てようとしないで下さい。洩矢諏訪子様」
星羅は言い終わると、深く頭を下げた。
彼女はずっとこの国と諏訪子を傍から見てきた。それは良いところも悪いところも、すべてひっくるめて見つめてきたこと。
どれだけ自分が悪く言われようと、どれだけ自分の神がダメでも、彼女はこの国を想っていた。
ああ、どうやら俺は大切なことを忘れていたようだ。
「そうだな……星羅の言う通りだ」
「ユウヤ」
「諏訪子、さっきの俺の言葉は忘れろ」
「え? でも」
「大丈夫だ、問題ない。俺にいい考えがある」
「ユウヤさん?」
簡単な事だったんだ。どうして忘れていたのか疑問に思うぜ。
どれくらいの人間が死ぬ? そん事を言った自分を今すぐにでもぶん殴りたい気分だ。
圧倒的戦力差、負けが決まった戦争、だがいかなる予定調和でも異端が関わればすぐに崩れる。
「諏訪子、この戦い……俺も参加させてもらうぜ」
「ちょ、何言ってんの!?」
「簡単だ。犠牲を出さないための最善策、それは俺と諏訪子だけでいいってことだ」
「そ、そんなの無謀です‼ 相手はあの大和の神々ですよ」
「叶恵、多分こいつはそれが解っていてこの提案をしているんだよ」
「でも、いくらなんでもそれではユウヤさんが」
「大丈夫、俺、強いから」
「そういう問題では」
「無駄よ。どうせ何言っても聞きやしないわよ」
叶恵を宥めるように頭を撫でたのは、ルーミアの手だった。
「ルーミア」
「話は聞いたわ。どうせだから私も参加するわ」
「いいのか?」
「言ったはずよ。貴方を喰うのは私、途中で行き倒れたら骨も残さず頂くわ」
「それは怖い。なら、死なないように気を付けなきゃね」
「まあ、後ろを守るぐらいはやってあげるわ」
「ありがと」
ルーミアは優しく微笑んだ。
「まったく、何でも勝手に決める居候人だね」
「でも、なんだかユウヤさんらしいです」
「たしかに。これだと神様としての威厳もあったもんじゃないね」
「言葉一つで心揺れていた人が言う台詞じゃないですね」
「星羅、アンタは少し辛辣すぎると思うよ」
「自分を見直してから言ってください」
「は~い」
「ふふっ、諏訪子様も元気が戻ってよかったです。星羅、ありがとう」
「巫女として、神を支えるのは当然ですよ」
星羅は叶恵に頭を撫でられながら恥ずかしそうに顔を背けた。
これでいつもの雰囲気に戻ったが、問題はこの先ってわけになるよな。
「とりあえず、行くか」
「行くって、どこへ?」
「決まってるだろ、大和の神のところだ」
「え?」
「戦う覚悟はできたんだ。あとはあちらさんに意思表明でも出してこようかな」
「でも敵地に行くのは危険ですよ」
「できるだけ対話で終わらせてくる。最悪、戦争始まる前にこの戦い終らせる」
「どうせなら私も同行するわよ?」
「一悶着起きる可能性があるから却下」
「なら、いい土産でも持って帰ってくることね」
「考えておく」
俺はスマホを起動させ、とある項目をタップした。
すると俺の手元に一振りの鎌が現れた。ちなみに段ボール製では無いようで安心した。
『小野塚 小町:距離を操る程度の能力』
「それじゃあ、宣戦布告に行ってきますか」
???side
「『神無ノ御子』が動いたわ」
赤いドレスを身に纏った女は上の空を見つめながらそう言った。
「読み通り、大和の神のところに向かったようですね」
黄色いチャイナドレスを着た女は黒い扇子の陰で笑った。
「……何故、ワザワザ敵地ニ?」
紳士服を着た男はぎこちない動きで首を傾げた。
「そういう人なんですよ、彼は」
そして、渾沌の邪神は嬉しそうに笑った。
空亡「さて、いよいよ諏訪大戦が始まります」
優夜「このまま原作通りに事が運ぶ、わけないよな」
空亡「当然。できればどこにもない宴会にしたところで素が、果たしてどうなるやら」
優夜「別に構わないぜ。片っ端から蹴散らすだけだ」
空亡「どうでしょうかね。何せ次回でるのは」
優夜「嫌なフラグを建てた気がする」
空亡「杞憂ではないことを断言しますよ」
優夜「……orz」
次回予告
大和の国へと宣戦布告をしに出向く優夜、そこに待ち構えていたのは!?
東方幻想物語・大戦編、『戦争の布告』、どうぞお楽しみに。