神無 優夜side
諏訪大戦当日、俺と諏訪子は国と国との間にある平原で待っていた。
時刻は草木も眠る丑三つ時、できるだけ村の人達に知られたくないので時間を指定した。
乾いた風が二人の間を吹き抜けると、諏訪子は真剣な面持ちで俺に問いかけた。
「ユウヤ、一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「なんで私が一対一の決闘することになったのよ」
「この国の王は諏訪子だ。美味しいところはお前に譲るよ」
「でも、その代わりユウヤが」
俺は諏訪子の言葉を遮るように帽子を押さえた。
「な、なにするのよ」
「心配すんなって。俺、強いから」
「その自信はどこから湧いてくるのよ」
「お前に勝ったあの時から」
「アレは引き分けだったでしょ!?」
「いや、あのままいけば俺の勝ちは確定だった」
「いいや、あれから私の逆転劇が始まるところだったんだよ」
「違うあれは」
「何やってんのよ二人共」
諏訪子と言い争っているとルーミアの操る影に頭を叩かれた。
視線を向けると、そこには溜息を吐くルーミアと星羅、そして叶恵がいた。
「なんでお前らまで」
「諏訪子様たちが戦いに行くのに、自分たちだけ安全な場所にいるのは嫌ですから」
「私は止めたんですけど、姉さんはこういうことになるという事を聞きませんから」
「でも、星羅もまんざらではありませんでしたよね?」
「……仕方なくです。それに、私もユウヤや洩矢様のこと心配でしたし」
「素直じゃないわね、このお嬢さんは」
「うるさい」
星羅は溜息を吐いてそっぽを向くと、俺と視線が合った。
彼女は若干顔を赤くさせると俺の下へと早足で歩み寄ってきた。
「ユウヤ、少しお願いがあります」
「なに?」
「少し屈んで下さい」
「ん? まあいいけど」
俺は彼女の視線を合わせるように屈む。
すると、彼女の唇が俺の唇と触れた。それは一瞬だったが、確かに感じた。
「え?」
「前払いです。必ず生きて帰ってきてください」
「……ああ」
「星羅、私の前でよく堂々とできたわね」
「これから素直になる第一歩ですかね」
星羅はクスリと笑った。
そんな時、遠くの方から大和の神々の軍勢が侵攻してくるのが見えた。
「さて、そろそろ行くか」
「さっきよりもやる気になってるわね」
「そんなに嬉しいのかい?」
「当たり前だ。それに、約束は絶対に破りたくないからな」
「そうね。なら、こっちは諏訪子の護衛でもしておくわ」
「頼むぜ。こっちは適当に周りの雑魚を殲滅するだけだ」
「ユウヤ、頼んだよ」
「そっちこそ。最後の最後に負けるなよ」
「言われなくても」
「必ず帰ってきてくださいよ。でないと、怒りますからね」
「気を付けてくださいね~」
「「「おおう‼」」」
星羅たちに別れを告げると、俺たちは歩き始めた。
諏訪大戦、果たしてその敗北の歴史を俺は代えられるのだろうか。
少 年 少 女 祈 祷 中
目の前に立ちはだかったのは十万を超える神々の軍勢。
それに対してこちらは人間が一人、妖怪が一人、神様が一柱、勢力差は火を見るよりも明らかだ。
軍勢を成している神々の中には俺たちを見喰出し、嘲笑っている者が多い。
「所詮、人間も神様も変わらねえってことだ」
「だね。同じ神様として恥ずかしいよ」
「ちなみに、あれは食べていいのかしら?」
「殺すのは屑だけにしろよ。まだ見込みのありそうなのは今後が期待できるからな」
「良いこと言ってるのに、前半が物騒だね」
「俺も所詮は人間ってことだよ」
「都合がいいね」
「そういうもんだよ」
俺はニヤッと笑い、手元に刀を召喚する。
ルーミアは静かに目を閉じると、周囲の影が刃となって神共へと突き立てる。
俺は悪意に満ちた笑顔を浮かべると、神共へと向かって走り出した。
神共からすれば、たった一人の人間が十万もの神の軍勢に挑むなど自殺行為。
それを哀れや愚かだと笑うが、そのうちの数十人の神の首が宙高く斬り飛んだ。
俺は刃に付いた血を振り払い、その光景を見て目を開いて怖気づく神共に向かって微笑む。
「さあ、豚のような悲鳴を上げろ」
旦那のセリフを言い放つと、俺は刃を神共に向けた。
人ならざる異様な殺気を目の当たりにした神共は恐怖で逃げ出そうとする。
ちなみに、さっき笑ったやってた奴は全員皆殺しだ。人間を嘗めた礼はたっぷりとしてやる。
「――『殲月』」
俺は神の群れへと突っ込むと、一気に加速して一陣の風のように神共を通り抜ける。
その一瞬、きらりと輝く剣閃が神共の身体に一線を描くと、綺麗な血飛沫を拭きながら倒れていった。それを何度も繰り返して斬りつけながら神共を殲滅していく。
吹き上がる血飛沫はまるで桜の花弁のように散る。
「大和の神もこの程度か?」
挑発的な俺の言葉に、周りの神共は逆上した。
自分らよりも見下した人間に逆に見下され、そのうえ蹂躙されている。
神様としてのプライドが微レ存なら、怒りに任せてこっちに突っ込んできてくれた方がいい。
怒りに我を忘れる神共は、その手に持った剣を振りかざしながら俺に向かってきた。
俺は刀を垂らしてそれを迎え撃つと、剣が振り下ろされる直前にその神を斬り捨て、次々と向かってくる神共を殺陣の要領で薙ぎ倒していった。
次々とできていく血の海と屍の山、その光景はあまりにも狂気的だったのに、俺は何にも感じていなかった。目の前で死んでいるのに、自分が殺しているのに、何も感じていない。
あ~あ、これじゃあまるで、本物の化け物じゃねえか。
その時、俺の頬を鋭い風が切り裂いた。
小さく流れる血の筋を撫でると、風が吹いてきた方向へと視線を向けた。
そこに居たのは剣を構えた須佐之男、それに寄り添う天照と月夜見の三人の姿があった。
「随分と好き勝手やってるな。優夜」
「まあな。散々嘲笑った人間に殺される屈辱ってのを身をもって教えてやってるから」
「変わりましたね。前までの貴方はそこまで命を踏みにじる人ではありませんでしたよ」
「変わるものさ。大事な人を目の前で殺されればな」
「……今のユウヤはまるで化け物よ」
「化け物か……神様に言われたらもうダメだよな」
俺は気が狂ったように大笑いした。
今の今まで殺そうとして奴と同じ化け物に成っちまった。もう笑う以外なにもないな。
息を切らしながら笑い終わると、俺は三人に向かって視線を向けた。
「ありがと、少し暴走してた」
「狂ったり笑ったりと、忙しい奴だな」
「うるさい。それより、諏訪子はもうあっちに行ってるのか?」
「ええ。今は神奈子ちゃんと戦ってる」
「神奈子……八坂の軍神か」
八坂神奈子、諏訪子と肩を並べる神として有名。原作で神奈子はこの戦いで諏訪子に勝利し、守矢神社の祭神となっている。技術革命が好きだということで、原作でも色々と厄介事を巻き起こしている。また守矢の仕業か。
「……本当、色々知ってるのね」
「まあね。そんな事より、三人もやることがあるんじゃないの?」
「解ってるならいい」
須佐之男は剣を振り上げると、俺に向かって剣を突き出した。
「三対一ってのは嫌だが、受けてもらうぜ」
「元からそのつもりだ。全員いっぺんに掛かってきな」
「言っておきますが、手加減なんてできませんよ」
「こっちの台詞だ。ようやく本気出せそうだからな」
「……ちなみに、私たちが勝ったらいう事を聞いてもらうよ」
「なら、俺が勝ったらそれと同じで頼むぜ」
俺は刀を三人に向かって突き立てる。
化物と化した人間が三貴子に挑むか…………面白そうだな。
空亡「さて、予想通りの無双状態ですね」
優夜「たまに俺のキャラが分からなくなる」
空亡「戦闘になると豹変します」
優夜「嫌な設定だ」
空亡「それより、お次は三貴子との戦闘です」
優夜「他のところでもこんな鬼畜バトル見たことないんだけど?」
空亡「これでも手を抜いてます。これ以上の修羅場はこの先いくつもあります」
優夜「俺は生き残れるだろうか……」
次回予告
神産みで生まれた三柱の神、人の身で果たしてどこまで行けるのか?
東方幻想物語・大戦編、『太陽と闘いと月』