神無 優夜side
真夜中の森、月照らす下に二つの影が走り抜けた。
一つは黒い服装に身を包んだ少女が手から黒い弾幕を放ちながらもう一つの影を追いかけている。
もう一つは俺、少女から逃げるように木々を合間を走り抜け、弾幕を次々と避けていく。
背後から迫り来る恐怖に、俺には背後を振り向く勇気はなかった。
「逃がさないわよ」
「ああ、どうしてこうなった!?」
俺は走りながらそう叫んだ。
とりあえず情報を整理しよう。まず、ここは『東方project』の世界だという事が分かった。
そして、楽しそうに殺気を振り撒きながら俺を追いかけてきているのは『ルーミア』本人だ。
しかも二次設定だけの存在でもある『EXルーミア』、状況は大体分かった。
ルーミアが居るということは幻想郷? いや、EXだから随分と過去の世界か。
他の二次創作小説だと諏訪大戦だったり、平安時代だったり、挙句は月の民が地上に居た頃の話だったりと、とにかく時代の特定が難しい。
そんな事が分かったとしても、今の俺には意味の無いことだ。
色々な事を考えていると、後ろからの攻撃がより一層増してきた。
さっきから転倒目的で足元を狙ってきたり、近くの木を撃って進路を妨害したりと、やることが小賢しくなってきた。本人はとても楽しそうですけどね。
「あはは♪ 待ちなさい」
「くそ、好きなキャラに会えて嬉しいけど食い殺されるのは御免だ!!」
「ただの人間が逃げられるわけないでしょ?」
「くっ、本当ならカッコイイ言葉で言い返したいけど、今は逃げるのが優先だ」
「――それはどうかしら?」
一瞬、彼女の声色が何かを察して嬉しそうに呟いた。
草むらを抜けようと一気に足を踏みしめて速度を上げると、予想外の出花事が起きた。
「きゃっ!」
「なっ!?」
草むらを抜けると、そこに居た少女とぶつかってしまい、二人揃って転倒してしまった。
一瞬、長い黒髪と紅い瞳が見えた気がしたが、そんな事を気にしている暇はなかった。
「いたたた……大丈夫?」
「は、はい」
「つ~かまえた♪」
「「あっ/ひっ」」
ルーミアの楽しげな声に俺は唖然とした声を、少女は悲鳴のような声を上げた。
彼女はこれを知っていたのか。なるほど、確かに動きを止められたな。
「さて、これでお終いね」
「そうみたいだな」
「ふふ、今日は良い夜ね。ご馳走が二つなんて」
ルーミアは月の光に照らされながら無邪気に微笑む。
「命運尽きたか」
「そう落胆しないで。貴方には選択肢があるわ。
ここでその女と一緒に食われるか、それを犠牲にして私から逃れるか」
「随分と気前がいい選択肢だな」
「私だって人間一人食べられれば満足なのよ」
ルーミアは冗談交じりにそう告げる。
ここで話に乗れば俺の命は助かる。だが、その代わりに見ず知らずの少女が食われてしまう。
「さあ、どうする?」
「確かに、あんたの話に乗れば俺は死なずに済むのかもしれない」
「そうよ。それにそこの女とは赤の他人、選択肢は決まっているようなものね」
「ああ」
俺はそう言って地面に腰を抜かしている少女に向かって歩み寄った。
少女は恐怖で瞳に涙を溜めながら身体を震わせている。話を聞いて自分の末路を悟ったのだろう。
俺はそんな彼女を一瞥すると、彼女の手を引いて自分の元に抱き寄せた。
「……決して振り返るな」
「え?」
俺は彼女の耳元でそう囁くと、彼女の身体を反転させて突き放した。
「走れ!」
俺はあらん限りの声でそう叫んだ。
少女は俺の事を一瞥するが、俺が満面の笑みを浮かべると彼女は前に向き直って走り出した。
彼女の背中を最後まで見送り、振り返るとルーミアが面白うに俺を見つめていた。
「それが、貴方の答えね」
「ああ。女性は大切にしないと罰が当たるからな」
「でも良かったわ。残ったのが食べ応えのありそうな人間で」
「そいつはどうかな? ここから鬼ごっこ再開でも俺は構わないぜ」
「それはもう飽きたわ。運動するのも十分だし」
彼女はそう告げると、そこを中心に真っ暗な影が鋭利な刃物のようになって俺に向かってきた。
咄嗟にそれを避けるが、周りの森の暗がりからも影が伸びて俺に迫ってくる。
イメージするなら、〇の錬金術師のプラ〇ドみたいなものだ。ちなみに俺のお気に入りだ。
次々とそれを避けていくが、避けた先には彼女が待ち構えており、俺の首を握り締めた。
「これで本当に終わりね」
ギリギリと握られた手に力が込められていく。
呼吸ができなくなり、彼女を剥がそうとする力もだんだんと無くなっていく。
「貴方との鬼ごっこ」
彼女の手に闇で作られた黒い剣が握られ、その剣を天高く振り上げる。
だが俺は、不謹慎にも月明かりを背にするその剣が美しいと思ってしまった。
「楽しかったわよ!」
彼女が振り上げた剣を振り下ろす。
今からありつける食事に胸を躍らせる彼女の表情は狂気に歪んだ。
終わるのか? さっき死んだばかりというのに、もう終わってしまうのか?
絶対に嫌だ。まだ死にたくない。まだこんな所で終わりたくない。まだ、まだ俺は!!
「終わって………たまるか!!!」
その瞬間、俺の右手が突然光り出した。
光に目が眩んだのか、振り下ろそうとした彼女の剣が止まった。
その隙を見逃さなかった俺は彼女の腕を掴んで引き寄せると、勢いよく頭突きをかました。
「なっ!?」
予想以上の威力にバランスを崩した彼女の手が首から離れた。
地面に着地して首を摩る。少し痕が付いたが、命があっただけまだマシだ。
「何だったのよ、今のは」
「奥の手だよ」
「そっちじゃないわよ。さっきの光よ」
「さぁな」
俺がそう答えると、なぜか右手に違和感を覚えた。
よく見てみると、いつの間にか一本の日本刀が握られていた。
意外にも手に馴染んでいるものだから気付かなかった。手に馴染むって何だよ。
「ったく、ご都合主義の展開。嫌いじゃないわ」
「なんでいきなり女口調なのよ」
「気分だよ。それより……」
俺は日本刀を彼女に向けて自信満々に告げた。
夜空に浮かぶ三日月のように口端を吊り上げ、真っ赤な瞳を輝かせる。
「こんなにも月が綺麗なんだ。本気で遊ぼうぜ?」
優夜「ご都合主義かよ」
空亡「せめて予定調和って言ってくださいよ」
優夜「意味は同じだろ?」
空亡「まあ、そうですけど。嫌いじゃないんですよね?」
優夜「ああ。使い古されたような王道の展開とかマジで好物だ」
空亡「じゃあ文句なしということで、次に移りましょうか」
優夜「そういえば、俺って意外とピンチなんじゃ………?」
次回予告
月明かりの下、人間と妖怪の最初の戦いが始まった。
東方幻想物語・序章、『運命の切り札で斬り開け』、どうぞお楽しみに。