神無 優夜side
チクタクマンこと、アヴァンとの戦闘から逃れた俺は湖の畔にいた。
どうやら目の前に居る少女達に助けられたようだが、どの顔も初めて見る奴だった。
一人は鮮やかな紅い髪のポニーテール、炎の様に赤い瞳、黒いショートパンツに赤いノースリーブのシャツ、その上に黒いジャケットを羽織っている。何だかさっきから俺の事を睨んでいて怖い。
もう一人は後ろでまとめた綺麗な金髪の三つ編み、透き通る碧の瞳、緑色の風の模様が入った白いワンピースに、黄色いローブを羽織っている。こっちは俺の方をニコニコとした表情で見ている。
とりあえず、この状況を把握したい。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「君らは、一体………?」
「……別に怪しいものじゃない」
「いや、傍から見たら結構怪しいと思うよ。僕たち」
「ん、そうか?」
黄衣の少女にそう言われた紅髪の少女は首を傾げた。
………何だかこのやり取りだけ見ると、そこまで危険視する相手でもなさそうだ。
そう思って緊張が解けたのか、俺はその場に座り込んでしまう。
「っと」
「どうやら警戒は解いてくれたみたいだね」
「気張りすぎるのもあれだからな。それに、助けてもらった恩もある」
「甘い奴だ。そんなだからあの“ニセモノ”n………イダダダダダ‼」
紅髪の少女の言葉を遮るように、ポニーテールを引っ張った。
「悪口が過ぎるよ。僕はむしろ褒めたいぐらいのに」
「褒めるって?」
「君は最後まで諦めなかった。だから僕たちが助けた。そうでしょ?」
「痛い(>_<)……‼ 分かったから、その手を離してくれ」
黄衣の少女がポニーテールから手を離すと、紅髪の少女は痛そうに髪を撫でる。
「さて、とりあえず初めましてかな。神無 優夜」
「俺の事を知ってるってことは、邪神か」
「そう。『名状しがたきもの』と『生ける炎』、それだけで分かるでしょ?」
黄衣の少女の言葉に、俺は思い当たる者がいた。
『名状しがたきもの』ハスター、クトゥルフと対立する風を司る邪神。
『生ける炎』クトゥグア、ニャルラトホテップと対立する炎を司る邪神。
どちらもクトゥルフ神話の中で代表的な邪神であるが、何かと人類と敵対しているイメージが強かったりする。それを言うとほとんどの邪神が当てはまるわけだが。
「そんなお二人が、どうして俺を助けた?」
「さっきも言ったけど、君が気に入ったから。ではダメかい?」
「悪いが、邪神の言うことはそう簡単に信用したくない」
「なんだと‼ 助けてもらっておいてその口の利き方は」
紅髪の少女が俺に掴みかかろうとするが、黄衣の少女がの手がそれを遮った。
「おい」
「こう言われても仕方ないですよ」
「だからって」
「僕たちがここに来た目的を忘れてないよね?」
「……ったく、わかったよ」
紅髪の少女は俺を睨むと、後ろへと下がった。
「さあ、どこから話しましょうか」
「なら、俺を助けた本当の理由を教えてくれ」
「いいでしょう」
黄衣の少女はそう言うと、俺の目の前に腰を下ろした。
「単刀直入に言うと、君には“彼”を殺してもらいたいんだ」
「彼って、美命のことか」
「そう。“彼”の行動は目に余る上に、少々度が過ぎていますからね」
「なんでだ? 仮にも同じ邪神だろ?」
「それが違うんですよね。これが」
「なに?」
「アイツは“本物”を似せただけの“ニセモノ”だってことだ」
後ろで木に寄り掛かっていた紅髪の少女がぶっきら棒に答えた。
「ニセモノ? どういうことだ」
「言った通り“彼”は“ニセモノ”。ただし、その力は“本物”と同等ですけどね」
「ちょっと待て。解るように説明してくれ」
「そうですね。ならば、ちょっとした“お話”でもしましょうか」
そう言って黄衣の少女は語りだした。
「君は“コックリさん”を知っていますか?」
「ああ。一時期俺の地元でも流行ったからな。それがどうした?」
「ではこんな話を知っていますか? コックリさんとTRPGがよく似ていると」
「その話なら知ってるさ。俺がクトゥルフ神話TRPGにはまった起源だからな」
俺は彼女の言葉で、あの動画の話を思い出した。
人は怖い話を好む。恐怖の神々を想像し、時にはゲームのキャラとして体現する。
TRPGとコックリさんが似ているのは、怖いもの見たさに霊を呼び出し、紙に書かれた文字の上でゲームのキャラとして遊ぶ。そんなところだろう。
「だが、恐怖の本質はコントロール不能の想像力。人の想像を超えた存在だ」
「あの動画では、TRPGをした人間の下へ呼び出された邪神が人を攫っていた」
「コックリさんと似ていると言ったのは、遊び半分で“そういう存在”を引き寄せること」
黄衣の少女はポケットから黄色の10面ダイスを取り出すと、掌で弄ぶ。
「“彼”は元々、とあるシナリオに登場する『ニャルラトホテプ』だった。
性格は世間でよく聞くように、面白半分に混乱と破滅をもたらす狂った邪神。
配下には忌まわしき狩人、チクタクマン、膨れ女、赤の女王、などなど。
まるでテンプレの様な設定。だけど、それが始まりだった」
黄衣の少女はダイスを弄ぶ手を止める。
「そのシナリオをプレイした人間が次々と死んでいき、死のシナリオと噂された。
けれど、怖いモノに興味を抱く人間は絶えず、やがて一人の邪神を生み出してしまった」
「それが、アイツか」
俺はいつかルーミアから聞いた話を思い出した。
人間の勝手な想像で妖怪は生まれる。暗闇を恐れる人間がルーミアを生み出したように。
だから、アイツも同じだ。『ニャルラトホテプ』という邪神を想像し、恐怖したことで生まれてしまった。
例え本物ではないとしても、アイツは紛れもなく『ニャルラトホテプ』だ。
「“彼”をこのままのさばらせておくわけにもいかない。だから」
「俺にアイツを殺してほしわけか」
「はい。これ以上、世界を壊されてしまうと僕たちも嫌だからね」
「遊び場を奪われて迷惑してるってわけかよ」
「そういう事です。これまで破壊された世界の数を聞きたいですか?」
「別にいいよ。どうせ、いままで食ったパンの枚数くらいだろ」
「だとすれば、彼は洋食派のようですね。しかも一日三食」
黄衣の少女はそんな皮肉を口にする。
あっちからすれば、新参者が調子に乗っているから始末してほしいって所か。
そんな事、頼まれなくても最初からそのつもりだっての。
「さて、他に聞きたいことは?」
「じゃあ………アイツの目的は何なんだ?」
「目的なんてないですよ。彼はただ遊びたいだけですから」
「どうして、俺なんだ」
「それは君自身が一番良く知ってると思いますよ?」
「俺が?」
黄衣の少女は立ち上がり、俺を見下ろしてこう言う。
「君、自分の前世をちゃんと思い出せますか?」
「それは………」
俺は、その問いに答えられなかった。
最近になって、前の記憶が薄れてきた。それと同時に、知らない記憶が脳裏をよぎった。
まるで記憶が上書きされるように、俺の記憶がどんどん消えていく。
「君は思い出さなくてはいけない。本当の自分を」
「……そうかよ。俺もただの一般人じゃなかったってことか」
「ええ。だからこそ、ここに来た」
「どうやら、アイツには色々と聞かなくちゃいけないらしいな」
俺はそう言って立ち上がる。
「………最後に一ついいか?」
「何でしょう?」
「アイツがニセモノなら、“本物”は今どこにいるんだ?」
「――本物なら既に出会っているはずですよ。物語の一番初めにね」
「え?」
「では、僕たちはこれで」
黄衣の少女はそう言い残すと、風に紛れて二人の邪神は姿を消した。
残った俺は、夜空に浮かぶ月を見つめる。
「物語の始め………ああ、そういうことかよ」
どうやら、俺と邪神との戦いは、あの日死んだときから始まっていたようだ。
これからの事に不安を感じながら、俺は溜息を吐いた。
空亡「ここにきての新事実、どうでしたか?」
優夜「とりあえず、色々設定詰め込み過ぎ」
空亡「恐らく、今月中で一番頑張ったところだと思います」
優夜「というよりこれ、お前が昔作ろうとしたCoCのシナリオだよな」
空亡「若さゆえの過ちを、ここで晒してやろうかと」
優夜「それよりも、何だか俺の事もとんでもないことになってないか?」
空亡「貴方にこの言葉を送りましょう。設定は生えるもの」
優夜「そんな設定、今すぐにでもぶち殺す」
空亡「まあ、そんなわけで。より一層、クトゥルフ色の濃い作品になってきましたね」
優夜「タグに追加しておかないとな」
空亡「あらすじも付け加えておかないといけませんね」