神無 優夜side
突然だが、ふと最近思ったことがある。
それはこの世界でいくらの年月が経っているのかということだ。
諏訪を旅立ってからこの樹海に何百年も暮らしているが、外の方は何時代なのかもわからない。
俗世を忘れて生きているわけではないが、俺はそんな事が気になった。
原作では諏訪大戦というイベントが印象に残りやすい所為で、その後の出来事の印象は薄い。
つまり、何が言いたいのかというと、暇だ。
ルーミアとゆかりは山へ狩りに、俺は小屋の中で留守番をしている。
ここで俺が川に出も行けば何か始まるのかもしれないが、正直動きたくない。
ああ、このままではニートになってしまう。………あ、もうなってたか。アハハ♪
「………虚しい」
机に突っ伏していた俺は深い溜息を吐いた。
その時、静かな小屋の中にドアを叩く音が響いた。
ルーミアかと思ったが、彼女なら何も言わずにドアを蹴り開ける。つまり来客だ。
こんな寂れた樹海の中に誰かいるのも不思議だが、ここを訪れるのもまた不思議だ。
最低限の警戒をしてドアへと近付くと、静かにそのドアを開けた。
そこには一人の女性が立っていた。
自分の姿を他人に見られないようにするためか紫色のフードに身を包んでいるが、なぜかその人物が女性だと俺は気付いた。
この上なく怪しいが、今の俺は来るもの拒まず。とりあえず話だけでも聞いてみよう。
「こんにちは、お嬢さん。こんな辺鄙なところに何の御用ですか?」
「あの、ここに古くから住んでいる人間がいると聞いてきたのですが」
「古くからね………こんな所に住んでいる物好きなんて、俺ぐらいしかいないけど?」
「では、アナタがその人物ということですか?」
「そうなるね。まあ立ち話も何だし、中に入ってゆっくりしてよ」
俺は彼女を小屋の中へと通すと、椅子に座らせた。
緊張しているのか、彼女は小屋の中をキョロキョロと見渡ている。とりあえず悪い人間ではなさそうだ。
俺は湯呑にお茶を淹れると、彼女の目の前に差し出した。
「はい。喉乾いたでしょ?」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても、よくこんな所まで来たものんだね」
「恐縮です……」
彼女は小さく会釈すると、湯呑に口を付けた。
「どう、美味しい?」
「はい、とても」
「それは良かった。大変だったでしょ、この森を歩くの」
「妖怪に見つからないように来るのには苦労しました」
「それはそれは…………そんな苦労をして俺に会いに来たのには何か理由があるんでしょ?」
「はい。その……」
「あ、ちなみに俺の名前は神無 優夜、よろしく」
「では、優夜さん……貴方は不老不死なんですか?」
「そうだよ」
彼女から尋ねられた質問に、俺は呆気なく答えた。
彼女がその事をどこで知ったのかは俺には正直どうでもいい。それを知った上で俺に会いに来た理由、今の俺はそれだけが知りたい。
「隠そうともしないんですね」
「意味の無いことはしたくないしね。それに、俺は君がここに来た理由が知りたいんだ。
不老不死の化け物に、一体何の御用があるのか。まあ、話相手が欲しいだけなんだけどね」
「変わった人ですね」
「必死に人間ぶってるだけだ」
「やはり、不老不死というのは苦しいものなんですか?」
「苦しいよ。特に俺はその代償に大切な奴を二人も亡くしてしまった」
「大切な人、ですか」
「ああ。お陰で俺はその二人の命で不老不死だ。皮肉なことにな」
俺は瞼を閉じると、その裏にあの二人の面影が思い浮かぶ。
後悔なんてないはずなのに、やっぱりこういうところが俺の弱いところだな。
「まあ、極論すると不老不死なんて寂しいだけだ」
「寂しい、ですか」
彼女は顔を俯かせ、そのまま黙り込んでしまった。。
しかし、彼女が纏っているコート、どこかで見たような気がする。
仏教文化の重みを知らしめるような捨て身の攻撃をしてきそうな…………それは某ギャグマンガの太子様か。
…………そういえば、今の時代は東方の太子様の全盛期か。
「一度お会いしてみたいものだな」
「どうしましたか?」
「いや、巷では聖徳太子の話をよく聞くなと思ってね」
「聖徳太子ですか。優夜さんも興味があるんですか?」
「興味というより、ちょっと聞きたいことがあるだけなんだよね」
「聞きたいことですか?」
「……人を裏切って手に入れた物は如何なもなのかなってな」
「――!?」
俺の言葉に、彼女の動きが止まった。
聖徳太子こと豊聡耳神子、彼女は死ぬことを恐れ、道教を信仰した。しかし無理な錬丹術により、水銀などの毒で身体を壊してしまう。死を恐れた彼女は尸解仙になることを決意する。
だが、それは多くの人々を騙し手に入れた不死の命、俺ならそんなものは御免だ。
「死ぬのが怖くない人間なんていない。それを感じない奴は人間じゃない。
でも、だからってそれで自分を慕ってくれている民の心を裏切る言い訳にはならない」
「……もしも、その方が後戻りも出来ない所まで来ていたら、どうするんですか」
「ならそのまま突き通せ。少なくとも、一人や二人は付いてくる馬鹿がいるのならな」
物部布都と蘇我屠自古、神子と一緒に尸解仙になる道を選んだ従者たち。
不老不死になったとしても、傍に誰かがいるだけで少しは違うのかもしれないな。
思えば、ルーミアが居なければ俺は今頃廃人になっていたのかもしれない。
「まあ、少しは罪悪感があるのなら、この言葉を送りたいよ」
「何ですか?」
「後戻りできないのなら、先に進んでから反省して後悔しろ。
裏切った人々の事を思いながら日々を暮せ、それに報いるために精一杯生きてみろ。
どうせ不老不死になるのなら、そのくらい悔やむ時間なんて捨てるほどあるのだから」
俺は目の前の彼女にそう言った。
実際、あれから俺の時間は吐き捨てるほどあった。限りのない時間というのは退屈だった。
だから、アイツ等との想いや記憶を失くさないように、俺はアイツ等を思い続けながら今を生きている。受け取った命を、一つも失わないようにな。
「……身に余るお言葉、ありがとうございます」
「ただの人間の戯言だと思って聞き流してよ」
「いえ、やはり貴方に会いに来てよかった」
「迷いは晴れましたか? 太子様」
「はい」
そう言って彼女、豊聡耳神子は席を立った。
「優夜さん」
「何?」
「もしも、私が次に目覚めた時には、友として会いに行ってもよろしいですか?」
「構わないよ。まあ、その時まで俺が生きていればの話だけどね」
「そうなることを願っていますよ」
彼女は最後に優し気な笑みを浮かべるると、その場を後にした。
物語は史実通りに進行する。だが、何故か俺には言い表せないような違和感を感じていた。
ここは本当に、東方の世界なのか?
俺の問いかけに、誰も答えてはくれない。
空亡「二作同時進行、きついです」
優夜「あっちの方は原作迷子だし、こっちは有名な人に出会うし、大変だね」
空亡「互いに干渉しないように作ってますけど、これが結構大変で」
優夜「なんでよりにもよってこの時期に」
空亡「十月って神無月じゃないですか」
優夜「……それだけ?」
空亡「それだけですけど?」
優夜「……やれやれ」
次回予告
不老不死とは幸福なのか? 死にたいと願う姫は今日も自分を殺す。
東方幻想物語・邂逅編、『死にたがりの鬼姫』、どうぞお楽しみに。