東方幻想物語   作:空亡之尊

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千手の白狼、神風の鴉

神無 優夜side

 

 

「さあ、遊んでもらうわよ」

 

 

凪が葉団扇を横薙ぎに振るうと、目に見えない真空波が俺たちの足元へと飛んで来た。

河川に直撃した真空波は大きな水飛沫を上げ、俺たちの視界を遮った。

それと同時に、刀を構えた楓が一気に距離を詰めて俺へと斬りかかった。

『月美』でそれを防ぎ、鍔迫り合いに持ち込まれると、隣に居たルーミが凪へと突っ込んだ。

 

 

「あら、相手をしてくれるの?」

「言ったでしょ。鬱憤を晴らすって」

「面白いわね」

 

 

二人は互いに笑うと、空中へと飛んだ。

騒がしいのがいなくなると、鍔迫り合い越しに楓が話し始めた。

 

 

「………まったく、あの人は」

「面白い奴じゃねえか。俺と話が合いそうだ」

「………似てますからね」

「それじゃあ、こっちはこっちで楽しもうか」

「………侮らないでくださいよ。神無殿」

 

 

楓は刀を持つ手に力を込めると、力任せに『月美』を弾いた。

 

 

「そっちもな」

 

 

俺は体勢をすぐに立て直すと、楓の懐へと踏み込んだ。

俺は『月美』の刃を河川に沈め、『弥生』を放つ構えを取る。

 

 

「………次、逆風」

「え?」

 

 

楓はニヤッと笑い、俺の放った『弥生』を軽い足運びで後ろへと退いた。水飛沫が上がった先では、楓が何食わぬ顔で立っている。

彼女が口にしたのは剣術における九方向のうち、下段から刀を斬り上げる技。俺の『弥生』は彼女から見ればそれによく似ている。

俺の次の行動を読んでいた、そう表す他なかった。あの時、俺ができる行動は限られていたが、それを一つに絞って回避するなんて、並大抵のことじゃない。

 

 

「お前、結構強いだろ?」

「………伊達に警備隊長をしていませんよ」

 

 

楓は表情を緩めることなく、ただ俺の事をじっと見ている。

もしかしたら、俺の行動を先読みしているのかもしれない。なら、その上を行くしかない。

俺は『月美』を鞘に納めると、楓へと向かって走り出した。

 

 

「………次、突進からの居合切り」

「――『如月』」

 

 

案の定、俺の行動は読まれていた。

楓は俺に向かって走り出すと、俺が『如月』を放つと同時に俺を踏台にして跳んだ。

 

 

「かかったな。――『陸月』」

 

 

俺はその場で踏み止まり、『月美』を瞬時に持ち変えて背後の空中にいる楓へと突きを放つ。

『如月』が読めていたとしても。こっちまでは読めていないはずだ。避けられる物なら…………。

 

 

「………次、振り向かずに刺突」

「なに……!?」

 

 

楓は空中で振り返ると、回転する力を加えて『月美』を叩き伏せる。

バランスを崩した俺は急いで振り向くがが、目の前に楓の刀が迫っていた。咄嗟に後ろに飛んで回避するが、刃は俺の頬を掠めた。だが、俺は頬の痛みなど気にならないほど困惑していた。

全て読まれていた。『如月』による陽動から『睦月』による奇襲まで、先手を読まれていた。

 

 

「なんでだよ………俺の心でも読んでるのか?」

「………読んでいるのは心ではありません。『一手』ですよ」

「一手?」

「………次の相手の行動、その何手先を読む力、それが私の『千手先を読む程度の能力』です」

「『千手先を読む程度の能力』って、マジかよ」

 

 

将棋の達人は何手先を見据えて打つというが、それが戦闘で活かされればどういう事になるのか。

相手の行動を先読み、回避するのも攻撃するのも容易になる。つまり、俺が今相手をしているのはそういう人だということだ。

 

 

「………貴方ほどの人なら、私には勝てませんよ」

 

 

楓は静かにそう言うと、俺に向かって斬りかかり、怒涛のように刀を振るった。

俺はそれらを防いでいくが、心の中で動揺していた。行動が読まれる。それは剣術を使う者として致命的だ。

打算する策も思い付こともなく、俺の背後にはいつの間にか道はなかった。

正攻法も通じない上に、千手も先を読まれれば裏をかいて攻撃も出来ない。完敗だ。

その時、俺の心が折れると同時に『月美』が弾き飛ばされた。

 

 

「しまった!?」

「………やはり、人間は心が弱い」

 

 

楓は悲しげな声で俺にそう言うと、俺を思い切り蹴った。

後ろに飛ばされた俺は滝へと突き落とされた。見上げると、そこには悲しげな眼をした楓が居た。

それは失望したような目だった。それはそうだ、たった一つの要因だけで心が折れてしまったのだから。

俺は歯ぎしりをしながら滝壷へと真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

 

 

ルーミアside

 

 

「さあ、楽しみましょうか」

 

 

大きく翼を広げた凪は愉しげに笑う。

私はコイツを見ているといつも不愉快になる。

私と対峙してもふざけた様子でおしゃべり、本気を出すことなく手抜きをして私と戦う。

性格が気に入らない。それもあるが、生理的にこいつを受け入れたくないと私の中で思っている。

 

 

「ところで、気になったんだけど。彼とはどういう関係?」

「ユウヤの事かしら? アイツとは特に何も無いわよ」

「何も無いわけないじゃない。人間と妖怪、合間見えない存在なのよ?」

「今はそんなこと関係ないわ」

 

 

コイツと話していると心をかき乱される。

私は剣を構えると。凪へと下へと距離を詰めて勢い良く振り下ろした。

しかし、そこには彼女の姿はなかった。ただ、黒い羽根が舞っているだけだった。

 

 

「闇の妖怪と奇妙な人間、面白い組み合わせよね」

「――!?」

 

 

後ろに振り返ると、そこにはいつの間にか凪が移動していた。

『神速の凪』、それが彼女の通り名、その名の通り彼女の速さは折り紙付きだ。

私もその速さにはいつも手を焼いている。

 

 

「ねえ、できれば二人の馴れ初めでも教えてくれないかしら?」

「うるさいわね。無駄話なんて」

「――そう?」

 

 

その時、私の頬を鋭い風が掠めた。

私の目に彼女は居なかった。いつの間にか、私の背後に彼女は居た。

瞬きをする暇もなかった。それなのに、私は彼女の動きを追えなかった。

 

 

「私が本気なら、今の一瞬で貴女を殺せるわよ?」

「ふざけないで」

「悪いけど、今回はおふざけナシ。なにせ仕事だからね」

「とても仕事熱心な天狗には見えないけど?」

「ふふっ、嘗めないでよ?」

 

 

私は振り返ると同時に剣を薙ぎ払うが、また高速で移動されて避けられてしまった。

その瞬間、私の背中を風の刃が直撃し、大きく仰け反った。

何とか空中で踏み止まるが、彼女の姿は未だ確認できない。

 

 

「ちょこまかと………」

「さっきから動きが悪いわね。いつもならもう少し遊べるというのに」

「知らないわよ」

「もしかして、彼の事が気になるのかしら?」

 

 

凪の嘲笑うかのような声だけが聞こえてくる。

たしかに、ユウヤの事を気にすることもあるが、自分でもそこまで気にしている様子もない。

でも、いつもより動きが鈍いという事は私でも解ってる。

嫌なところを指摘され、私の心はより一層かき乱される。自分でも冷静さを保つので精一杯だ。

 

 

「図星なのね。今のでよく分かったわ」

「黙れ……‼‼ アンタには関係ない」

「そうかしら? 私は興味があるわ。妖怪を受け入れる人間なんて珍しいもの」

「うるさい………」

「やっぱり気が合うのかしら、ひとりぼっちの化け物同士ってのは」

「うるさい‼‼」

 

 

その時、私が抑えていた感情が爆発した。

自分の事をバカにされるのは構わない、でも、アイツの事を言われるとなぜか感情が抑えられなかった。彼女に幾度も負けるのは、主にその事が原因でもある。

私は影の形を刃に変え、凪の軌道を追った。だが、冷静さを失った私がそれに追いつけるはずもなかった。

その時、視界の端にユウヤが滝へと落ちていく光景が見えた。

 

 

「ユウヤ!?」

「よそ見をしている暇はないでしょ」

 

 

凪は私の影を移動する風圧だけで影を消し飛ばし、私の首を掴んだ。

一瞬の好き、いや、それ以前に彼女に勝てる要素がなかった。

 

 

「っ……!?」

「やっと怒ってくれたわね。彼に感謝しなくちゃ」

「な…ぎ………‼‼」

「貴女は闇の妖怪、闇は人間に限らず妖怪も畏怖する恐怖の象徴。

 だけど、今の貴方からは微塵も恐怖を感じない。牙を抜かれた狼と同じよ」

「くっ………」

「そんな貴女が私に勝てるはずもないわ」

 

 

凪は悲しげな声でそう呟くと、私を川へと投げ飛ばした。

 

 

「さよなら。人間に恋をした哀れな妖怪」

 

 

彼女は小さく囁くと、葉団扇に集めた風の塊を私へと放った。

風の刃が私の身体を切り刻む中、凪が私を見下しているのを最後に、私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 





次回予告
敗北した二人は、自らの弱さを悟り、再び立ち上がる。
東方幻想物語・邂逅編、『型破りな人間、人恋し妖怪』、どうぞお楽しみに。

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