東方幻想物語   作:空亡之尊

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鬼姫よ何を思う

神無 優夜side

 

 

鴉天狗の凪、白狼天狗の楓を倒した俺とルーミアは山頂へと向かって歩みを進めていた。

紅葉彩る山道、鴉天狗も鬼も出てこないその道中は、あまりにも不自然で不気味だった。

しかし、木々の物陰からはたしかに妖怪の気配は感じられる。

 

 

「見られるわね」

「ああ。でも襲ってはこないみたいだな」

「誰だって下手に命を落としたくないわ」

「妖怪に恐れられるって、あんまり嬉しくないな」

「……私は、気にしないわ。ユウキがどんな人でも」

 

 

そう言ってルーミアは俺の腕に抱き着いてきた。

さっきから思っていたが、やけにルーミアが積極的になったような気がする。

もしかしてさっきの戦闘でどこか頭でも打ったのだろうか?

 

 

「あの、ルーミア?」

「なに?」

「その、大丈夫? 結構やられてたみたいだけど?」

「心配ないわ。これでも妖怪は丈夫なのよ」

「そうか」

 

 

何だかいつもと違う様子で調子が狂う。

なんだろう、いつもの俺なら素直に喜ぶのに、どこか照れくさく感じてしまう。

そしてなんだか、周りからの視線から殺気と嫉妬を感じてるのは気のせいだろうか?

しばらくそんな調子で歩いていると、山の頂上に辿り着いた。

 

 

「やれやれ、見せつけてくれるね」

「…………薊」

 

 

そこには薊が岩の上に座って待っていた。

肩まで伸びた長い黒髪、黒と赤を基調とした少し大きめな和服に紅い帯。昨日出会った時とは違い、その雰囲気は生き生きとしている。

彼女は俺を見下ろしながら、待っていたといわんばかりに口端を吊り上げた。

 

 

「少し遅かったみたいだね。どうだい、強かっただろ?」

「強過ぎるだろ。普通だったら俺死んでるぞ?」

「その時は、お主の力がその程度だったと諦めるしかないな」

「言ってくれるな」

「当然だ。お前は“弱者(にんげん)”だからな」

「はははっ。“強者(ようかい)”らしい言い方だな」

 

 

俺は彼女の皮肉など気にせず、そう言い返す。

本当は何故死にたがるのか聞きに来ただけだけど、どうやらそれだけでは終われそうにないな。

 

 

「ルーミア」

「解ってる。邪魔はしないわ」

「ありがとう」

「気を付けなさいよ。相手は鬼の中でも最強なのだから」

「精々死なないようにするさ」

「死なないでよ」

 

 

ルーミアはそう言ってその場から後ろに下がった。

俺は意を決して一歩前に踏み出すと、薊は満足げに笑みを浮かべながら岩から降りた。

 

 

「ここでは場が悪い、もう少し広い所に移るか」

「ああ」

 

 

俺は薊に着いて行くと、そこは何も無い更地の場所へと案内された。

そういえば、守矢神社はまだ移っていないから妖怪の山には湖も無いのか。

 

 

「さて、お主がやる気になったのならもう言葉は不要だな」

「その前に、俺がここに来た目的だけでも果たさせてもらうぞ」

「……ああ、そう言えばそんなこと言っていたな。何だ?」

「なんで、お前はそんなに死にたいんだ?」

 

 

薊は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、俺に向けて語った。

 

 

「我はただの鬼だった。だが、昔は今よりも弱かった。

 人間には無意味な暴力を振るわれ、同族には鬼の面汚しだと蔑まれてきた。

 そんなある時、我がいた住処に人間が攻め込んできた。当然、あっさり退治されたよ。

 けれど、酷かったのはその後だ。同族は我の命を差し出すという条件で命乞いをした。

 絶望したよ。仲間に裏切られ、嫌いな人間に殺される。そんなのは嫌だった。

 だからあの時、私は生きたいと願った。そこから私の運命は変わった」

 

 

薊は虚空を見つめながら語る。

どこにでもあるような不幸な話、俺はそれ聴くことしかできなかった。

 

 

「人間に首を落とされた時、私は死ななかった。

 混乱した人間は手に持つ武器で私を幾度となく殺したが、私は死ななかった。

 何度か殺されていくうちに私の意識は途切れ、次に目を覚ました頃には周りに誰もいなかった。

 地面には苦悶の表情で死んでいる人間と、血だまりに沈む同族の骸があった。

 私が全員殺した。それを理解するのに時間は掛からなかった。

 元々鬱陶しい思っていた自分がいたんだ。同族を殺しても不思議じゃなかった」

 

 

薊はそう言って乾いた笑いを溢す。

 

 

「それから時間が無駄に過ぎていくにつれて、我は今の地位に至るということだ」

「不死なら倒せないからな。自然と下に集まるってことか」

「元々群れるのは好きではなかったが、良い退屈しのぎにはなった」

「退屈しのぎか…………なら、死にたいと願ったのは何故だ」

「その答えは…………」

 

 

薊は静かに目を閉じると、彼女の妖気がだんだんと大きくなっていくのを感じた。

すると、彼女の姿が大きく、いや、成長していくように見えた。

身長は俺と同じぐらいまで伸び、髪も膝の辺りまで伸び、着ていた和服は少し窮屈そうに着崩れている。

やがて目の前には、先ほどの少女と出はなく、美しい女性が立っていた。

 

 

「答えは……戦ってから聞いてもらおうか」

「これはまた、魅力的な女性が現れたものだな」

「惚れたか?」

「そうだな。こういうのはお互いをもっと知ってからの話だな」

「ならば……‼‼」

 

 

彼女は一瞬で俺へと接近すると、戦意に満ちた笑みを俺に向けた。

 

 

「拳で語るとしようか‼‼」

 

 

彼女は拳を握り締めると、空気を斬り裂きながら俺の顔面に向けて右拳を突き上げてきた。

俺は一歩下がってそれを間一髪で避けるが、追い打ちを掛けるように彼女は向かって左から回し蹴りを放った。

寸前腕で防御するが、勢いを殺しきれずに土煙を舞わせながら吹き飛ばされしまった。

 

 

「――っ‼‼ 流石、鬼の怪力だな」

「どうした? お主の力はその程度か?」

「なんの、まだ始まったばかりだぜ」

「そうだな。そうでなくては困る」

 

 

彼女は愉しげに笑う。

純粋な力比べで俺が勝てる要素は無い。だからと、殴り合いの喧嘩に『月美』と『星羅』を使いたくない。

ここは正攻法じゃなく、小細工ありで戦うしかない。

 

 

「悪く思うなよ……‼」

 

 

『藤原 妹紅:老いることも死ぬこともない程度の能力』

 

 

俺は妹紅の能力を発動させると、足に炎を纏わせると同時に走りだした。

タイミングを計って飛び上がり、低軌道から彼女へと飛び蹴りを放った。

彼女は避ける素振りもなく、俺の蹴りが直撃した。と、思った。

 

 

「なるほど、それなりには能力を持っているようだな」

 

 

彼女は俺の脚を左手で受け止め、纏っていた炎を消し去った。

 

 

「なっ……!?」

「だが、その程度だ」

 

 

彼女は俺の脚を掴んだまま振りかぶると、力任せに放り投げた。

咄嗟に空中で体勢を立て直して薊へと視線を向けるが、彼女はすでに俺の背後へと回り、息つく間もなく俺に蹴りを放った。

一瞬で地面に叩き付けられ、身体中に激痛が走った。

 

 

「…ってぇ。マジかよ」

「おいおい、この程度でまだ死ぬなよ?」

 

 

視線だけ向けると、数歩先で薊が見下すように俺を見ていた。

さっきの蹴りを受け止められたのもそうだが、何かおかしい気がする。

左手で受け止められたと同時に纏っていた炎が消えた。まるで打ち消されるように。

初めにあった時もそうだ。あの左手に受け止められた時、俺の全身の力が抜けた。

 

 

「もしかして………いや、考えるより実行か」

 

 

『十六夜 咲夜:時を操る程度の能力』

 

 

薊の見えないところで咲夜の能力を発動させると、周囲の時を止めた。

しかし、周囲の景色が一瞬モノクロに暗転するが、それは薊を中心にガラスが割れるように砕けて打ち消された。

そして、確信した。この感じ、俺が良く知っているラノベの主人公と同じ能力………‼‼

 

 

「幻想殺し(イマジンブレイカー)、いや、この名前は色々と危ないな。

 ここの流儀で名付けるなら、『あらゆる能力を殺す程度の能力』、かな?」

「ほぅ、我のこれをそう呼ぶか。なかなか面白いところもあるな」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

 

俺は頬を引き攣りながら笑みを浮かべた。

能力を無効化する力、なるほど、だからあの時俺の身体から力が抜けたのか。

 

 

「これで何故、我が最強などと呼ばれているのか分かっただろう?」

「ああ。ほとんどの妖怪は何かしら能力がある。それを殺されれば後は純粋な力比べ」

「特に、能力に頼る奴は触れただけで戦意喪失してしまってつまらないものだ」

「なるほど。でも、完全には殺せないみたいだな」

 

 

薊の能力は一時的に消滅させるもの。でなければ、俺は出遭った時に死んでいるはずだ。

しかし、あの主人公はそれだけの能力だけで乗り切ってきたが、今は状況が違う。

鬼としての純粋な力、それに加えて小細工の通じない能力、まさに詰みだな。

 

 

「さて、お喋りはここまでにしようか」

「俺はこのまま話し合で終わりたいんだけどな」

「……ならば、そのふざけた口が利けぬほどぶちのめすまでだ」

 

 

薊は見るからに殺気がダダ漏れしている。

今まで他人の能力でその場を凌いできた俺、それを封じられてしまった。

これでは美少女が好きなだけの、ただの不死身なだけの人間だ。

こういう時に必要なのは、策というより、相手の意表をつく奇策だ。

 

 

「今まで力押しだったんだ。たまにはこういうのもいいか」

 

 

俺は身体に着いた土を振り落とすと、改めて薊に面と向き合った。

さて、それでは俺の演劇を始めようか。

 

 

「さあ、この神無優夜、物語始まって以来の大ピンチ。

 果たしてここからどう巻き返すのか? 最強の鬼姫にどう打ち勝つのでしょうか?

 ここからは逆転を掛けた俺なりの奇策をご覧いれましょう。

 では、今回はここで一旦幕を引き、次回から華麗なる逆転劇を演じてみせましょう」

 

 

 

 





次回予告

能力を殺し、純粋な力だけで相手を圧倒する鬼姫、薊。

最強と名高い鬼の姫に対し、最弱の優夜は一発逆転の奇策を演じる。

果たして、最後に立っているのはどちらなのか?

東方幻想物語・邂逅編、『最強と最弱』、どうぞお楽しみに。
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