神無 優夜side
――八ヶ岳、いや、妖怪の山の山頂にて
そこでは一人の人間(ばけもの)と一人の鬼(ばけもの)が戦っていた。
『ルーミア:闇を操る程度の能力』
俺は能力をは続させると、自分の影から刃の形をした影を撃ちだした。
薊は刃を避けて見切ると、左で振れると同時に影は砕け散った。
「これがお前の言う奇策か?」
「いやいや、お客様。これはまだまだ前座、本番は後に用意してある」
「なら、精々それまで殺されぬようにな‼‼」
薊は地面を蹴って俺との距離を詰める。
『パチュリー・ノーレッジ:魔法を操る程度の能力』
『古明地 こいし:無意識を操る程度の能力』
咄嗟に俺は薊との間に炎の壁を隔てるが、彼女が差し出した左手によって消し去られる。
炎の壁が消される一瞬の隙に発動させ、薊から姿を消した状態でその場から離れたが、数秒のタイムラグでその能力も解除された。
「逃げようとしても無駄だ‼」
「悪いが、俺にはこの手しかないんだ」
『洩矢 諏訪子:坤を操る程度の能力』
『永江 衣玖:空気を読む程度の能力』
薊が次の行動に移る前に、彼女の足元の土を操ってその足を捕まえる。
動けないところへ、上空から大きな雷を落とす。
「そんなもの」
彼女は左手で雷を軽くいなすと、足元の地面を殴って土の拘束を解いた。
「なるほどね……」
「お主、何を狙っている」
「奇策を練ってるに決まってるでしょ?」
「まどろっこしいことなどせずに、正々堂々と戦えないのか?」
「“最弱”が“最強”に勝つにはどうしても必要なんだよ」
「それまでに死ねば無駄になるがな」
「言ってろ」
『河城 にとり:水を操る程度の能力』
『チルノ:冷気を操る程度の能力』
能力を発動させると、薊の身体もろとも川が呑み込んだ。
川は弾け飛ぶように飛沫を上げると、そこには平気な顔をして立っている彼女の姿がある。
薊が俺に向かって走りだすと同時に、周囲に飛び散った水を凍らせて氷柱を作り、向かってくる彼女に向かって放った。
「無駄だ‼」
薊は放たれた氷柱を次々と払い除けながら、その勢いを乗せて殴りかかってきた。
俺は避けようと足を運ぼうとした時、足元の水溜りで足が滑って体勢を崩したが、偶然にもその攻撃を避けられた。
「運がいい奴め」
「ああ、確かに“運”は良いな」
「でも、次はどうかな?」
「さあな?」
『小野塚 小町:距離を操る程度の能力』
『霧雨 魔理沙:魔法を使う程度の能力』
俺は能力を使って薊との距離を空けると、マスパのような魔法を放った。
閃光が彼女を包み込むが、やはりというかそれは簡単に打ち消された。
「これでもダメか……」
「呆れたな。奇策と言っても、結局は能力に頼るのか」
「おや、もう飽きた?」
「言っただろう。呆れたのだ」
薊は心底愛想が尽きたかのように溜息を吐く。
「さっきから他人の能力ばかり多用して、情けない」
「まあいいじゃないか。全部、俺が愛してやまない奴等の力なんだ」
「くだらない。いくら他人を頼ろうと、好いていようが、結局残るのは自分だけだ」
「その言い方だと、自分も同じ経験をしたみたいになるな」
「…………!?」
俺の言葉に、薊の目が見開いた。
「なんとなく、お前が死にたがる理由は予想が付いていたさ。
周りが死にゆき、自分だけ置いていかれる。それに耐えきれなくなっただけだろ」
「何を分かったような口を…………‼‼」
薊は怒りをあらわにして俺に殴りかかるが、感情高ぶりすぎて空振りする。
「不老不死の難儀なところは、他人と一緒の時間を歩めないこと。
それに耐えられるのは、強い心を持った奴か、心さえ持たない化け物かだ」
「それならば、私は心の無い化け物になりたかった‼‼」
薊の猛攻は止まらないが、俺はそれを易々と避ける。
「孤独に耐えられなくなったお前が選んだのは、死ぬことへと執着だった。
戦うことで自分を殺してくれる相手を求め、暇潰しと言って自分の命を殺す。
最強の鬼姫と呼ばれ様が、やってることは餓鬼の現実逃避だったというわけか」
「うるさい‼‼」
薊の怒りを乗せた拳を右手で受け止める。
拳を突き出した状態で静止する彼女から、涙交じりの声が聞こえた。
「お前に何が分かるというんだ。
私の元に集まった者共が時が経つにつれて置いていく苦しみが、
愛した者の死に際を何度も目の当たりにする悲しみが、
妖怪である私の気持ちを、人間であるお前に何が分かるというんだ‼‼‼」
「知るかよ。他人の気持ちなんて誰にも分からない。
だがな、お前の下に集まった奴等はどんな思いで傍に居たのか、
お前を愛した奴が最期にどんな思いで死んでいったのか、
お前はそいつらの気持ちを、一瞬でも理解しようとしたのか‼‼‼」
俺はあらん限りの声で激昂すると、薊の拳を離した。
「俺は弱いからな。他人の力に頼らなければまともに戦えない“最弱”だ。
愛した奴の命を取り込んでまで生き続けているどうしようもない化物だ。
だがな、俺は不老不死だからって、この命を一個たりとも無駄にするつもりはない。
俺はあいつ等の心を、この先の未来まで持っていってやる。
その日が来るまで、俺は一度たりとも死んでたまるか。命を、燃やしてたまるか‼‼‼」
「なら、証明してみせろ。
私の無限にある命と、お前の尊くも数少ない命、どちらが強いかを」
俺と薊は互いに睨み合いながら対峙した。
一陣の風が、何も無い更地の山頂へと紅葉を届けてやってくる。
一枚の紅葉が風に弄ばれ、やがて力を失くしてゆらゆらと地面に落ちてくる。
ゆっくりと左右に揺れながら、紅葉は、地面へと、落ちた。
それを合図に、俺と薊は互いに向かって走りだした。
「さあ、見せてみろ。お前の奇策を‼‼」
「ここからが本番、本当のステージだ」
『フランドール・スカーレット:ありとあらゆるものを壊す程度の能力』
俺は薊の足元の地面へと視線を向け、『目』を自分の手元へと手繰り寄せる。
俺は『目』を思い切り握り潰すと、周囲一帯の地面が崩壊し、紅葉が宙を舞った。
「なっ!?」
「お前の能力の弱点は、間接的な物には作用できないこと」
「くっ……それがどうした‼‼」
薊は崩れた地面をものともせず、俺には走り寄った。
彼女の拳の射程圏内、おまけに崩壊した地面の所為で回避できそうにない。
「お前の奇策もここまでか」
「いや、お前は常に」
「奇策に嵌ってるんだよ」
「――なに!?」
薊は急いで振り返ると、目を見開いた。
なにせ、“目の前にいる俺”とは別に、“彼女の背後に俺”が立っていたからだ。
俺は動揺で隙ができた彼女へと拳を突き出し、その身体を吹き飛ばした。
土煙の舞う中、彼女はゆっくりと身体を起こした。
「な、何が起きた……」
「簡単な事だ。お前に気付かれないように正体を隠し、
そして能力を使って、ある物を俺に化けさせた。実に簡単なトリックだ」
「能力を使ってだなんて…………私の能力で打ち消されるはず」
「それはお前に直接作用した時だけ。俺が使ったのは物に対してだ」
『封獣 ぬえ:正体を判らなくする程度の能力』
『二ッ岩 マミゾウ:化けさせる程度の能力』
そう。原作幻想殺しでも、間接的な物に対しての効果発揮されない。
だから俺はフランの能力で地面を崩壊させると同時に、ぬえの能力で俺の正体を判らなくし、マミゾウの能力で周囲に舞っていた紅葉を俺に化けさせた。
「くそっ……紅葉に自分を化けさせるとはな」
「ぶっつけ本番でも行けるもんだぜ」
「運が良かったな。でなければこの策は使えなかっただろう」
「本当に運が良かっただけだと思うか?」
「なに?」
「言ってなかったが、俺は能力を三つまで同時に発動することができる」
「それがどうした、確かに今まで複数も使ってきたが」
「その中には戦闘向きじゃない能力もあるんだよな。
人を幸福にするもの、風水を操るもの、そして奇跡を起こすモノとかね」
「……!? まさか」
薊は何かに気付いたように声を上げる。
俺はそれを見て口元をニヤッとさせた。
「そう。すでに使ってたんだよ。
“幸運にもあのタイミングで奇跡的に紅葉が俺の元に来るように”」
『因幡 てゐ:人間を幸運にする程度の能力』
『物部 布都:風水を操る程度の能力』
『東風谷 早苗:奇跡を起こす程度の能力』
俺は戦いの最中で、この三つの能力を所々に紛れさせていた。
てゐと布都の能力を媒介として、早苗の能力でジャストタイミングで奇跡を起こさせた。
所々で幸運が働く場面があったが、それは副作用のような物だ。
「これが俺の、いや、俺たちの奇策だ」
「……ははっ、まさかこの我が一本取られてしまうとは」
「案外、人間の悪知恵もバカにはできないだろ?」
「そうだな。だが、この程度で思い上がるなよ。たかが私一発入れたくらいで」
薊は肩を鳴らすと、埃を払って再び構えた。
「次で決める……‼‼」
「こっちの台詞だ」
『夢燈 月美:絆を紡ぐ程度の能力』
『天宮 星羅:星を描く程度の能力』
俺は能力の全てを右腕に集中させると、薊に向かって走りだした。
薊も自信の力を込めた一撃を放つために拳を握り締めると、俺に向かって走りだした。
互いに向かって走り出し、その距離が零に到達するとき、俺は右の拳を薊に放った。
薊はそれを見切ると、容易くそれを受け止めようと左手を突きだした。
「悪いが、その攻撃は無駄だ」
「何勘違いしてやがる。俺はそれを待っていたんだぜ」
「何を惚けたことを」
「例えどんな能力でも、お前にはそれを難なく殺せる力がある。
逆に言えば、どんな弱い能力でもその結果は同じだという事」
「何が言いたい‼‼」
「つまり、こういうことだ‼‼」
俺の右手が薊の左手に受け止められる。。
その瞬間、俺の右手に宿っていた能力が消え去る。
能力を殺す時、薊には一瞬の隙ができる。
それが渾身の一撃と思っているのなら、その時に生じる油断は大きい。
だから、俺はそれを狙った。渾身の一撃と錯覚させ、左手を差し出させるのを。
「結局のところ、能力に頼っていたのは、紛れもないお前自身だったということだ」
「くっ……‼」
「さあ、お返しの時間だ」
俺は彼女の左手を払い除けると、彼女へと一歩踏み込む。
「――っ!?」
「歯食いしばれよ最強(おにひめ)、俺の最弱(さいきょう)はちっとばっか響くぞ‼‼‼」
空気を斬り裂きながら放たれた拳は、確実に薊の顔面へと突き刺さり、崩れた地面へとその身体を叩き付けた。
何の能力も無い、最弱の人間の拳が、最強と謳われた鬼姫を、倒した。
「言っておくが、俺は左利きだ。憶えておけ」
俺は地面に大の字で伸びている薊にそう告げると、同じように地面に倒れた。
「どうだ? 俺の拳、お前に響いたか?」
空亡「さて、これで今回のラストバトルは終了です」
優夜「ライダー映画ばりのラッシュにどこかで聞いたことあるような台詞」
空亡「後者の場合、なんか訴えられそう」
優夜「その時は違うパターンを考えておくんだな」
空亡「結構このシーン気に入ってるのに」
優夜「俺の方は殴られ過ぎて全身が痛い」
空亡「しばらくは休んでおくんですね。でないと、腕壊しますよ」
優夜「お前が言うと冗談に聞こえねえ」
次回予告
いつもと買わぬ日常、誰にでも等しく月の明かりは二人を照らす。
東方幻想物語・邂逅編、『盃に映る逆さの月』、どうぞお楽しみに。