神無 悠月side
いつもと変わらぬ日常、俺は小屋の中のベットで横になっていた。
薊の攻撃を受けた俺の身体は流石に無事では済まず、所々の骨が折れていた。
あれから一週間、安静にはしているが、暇で暇でしょうがない。
本当なら無茶をしてでも身体を動かしたいが、ルーミアに怒られるので我慢している。
仕方がないので、俺は日課である能力の組み合わせを考える。
すると、小屋のドアが開いた。そこには林檎を片手一杯に持ったゆかりがいた。
「ユウヤさん、林檎取ってきたわよ」
「お、ありがとう、ゆかり」
紫は林檎を近くの机に卸すと、俺の寝るベットの横の椅子に座った。
最近はお目付け役としてゆかりが俺の近くによくいることがある。
不自由な俺の世話をしてくれたりもするが、主に俺が考えた能力の組み合わせを見て色々と意見してくれたりもする。
紫は原作でも頭がいい方だったけど、ゆかりからはたまにその片鱗を垣間見える。
「ところで、ユウヤさん」
「なに?」
「小屋の前にこんなものが」
ゆかりはそう言って一通の手紙を俺に手渡した。
差し出し人の名前は書いていないが、なんとなく嫌な予感がした。
とりあえず手紙の内容を見てみることにした。
「『今宵、貴様を攫いに来る。薊』…………え?」
その一文を読み終えたと同時に、小屋のドアが勢い良く開けられた。
「久しぶり~元気してたかい?」
「……凪さん、うるさい」
そこに居たのは、鴉天狗の凪と白狼天狗の楓だった。
久しぶりに見る顔だと思ったが、俺はすでにこの後の展開が予想できた。
「ゆかり、今こそ修行を成果を見せる時だ。俺を此処ではない何処かへ送ってくれ」
「む、無理よ‼ ユウヤさんが教えてくれた『スキマ』の使い方、まだ全然なのに」
「くっ、どうやら俺はここまでのようだ」
「え~と、話は終わりましたか?」
「ああ。どうせ、薊の命令なんだろ。さっさと連れていってくれ」
「……潔くて助かる。まあ、安心しろ。取って食いはしない」
「もしもの時は全身の骨が砕けても逃げさせてもらうだけだ」
俺はベットから立ち上がると、壁に掛けてあるコートを羽織った。
「ユウヤさん……」
「大丈夫、ルーミアにもそう伝えておいてくれ」
「それじゃあ、行きますよ」
「ああ。どこへでも連れていけ」
凪は俺の手を握ると、風を巻き起こしながら空へと飛び立った。
薊直々に呼び出しということだけど、さて、どうなるかな?
期待と不安を胸に、俺は神速を体感しながら妖怪の山へと向かった。
少 年 祈 祷 中
「しかし、まさか薊に勝つなんてね」
「……正直、予想外だったです」
二人は俺の前を歩きながらそう言った。
周囲はいつの間にか夜の暗がりに包まれ、月の灯りだけが夜道を照らしていた。
「ヒドイ言い方だけど、相手が相手だしね」
「でもまあ、こっちはお礼を言わなきゃいけないわね」
「なんでだ? 仮にもお前らの大将、同時に友人をぶん殴った奴だぞ?」
俺のがそう尋ねると、二人が静かに語りだした。
「……私たちは薊が不老不死になる前からの付き合い。
だから、自殺癖や自暴自棄になった理由もよく知っていた」
「妖怪の落ちこぼれ同士、仲が良かったんだけどね。
時間が流れるにつれて、アイツは生きることの意味を失っていったわ」
「……友人である私たちがどうにかしなければいけなかった。
でも、どんな言葉を薊にぶつけても、廃れてしまった心には響かなかった」
「かといって、力ずくで言うこと聞かせようとしても無理だった。
能力を殺す力に加えて鬼の怪力、私たちじゃ相手にすらならなかった」
二人は表情をこちらに一切向けず、語り続ける。
友人の苦悩、それを解決できなかった二人の気持ちがひしひしと伝わってくる。
「……でも、それを貴方が救ってくれた」
「アイツが最弱といっていた人間が、最強である鬼の姫に勝った」
「……お蔭で今じゃ、貴方に勝つまで死ぬ気はないみたい」
「マジか。流石に何度もアイツの相手をするのは嫌だぞ」
「諦めることね。鬼に惚れられると、逃れられないわよ」
二人は振り返ると、俺に向けて悪戯な笑みを浮かべた。
「やれやれ。面倒なのはルーミアだけで十分なのにな」
「うっ……ところで、ルーミアさんは元気?」
「元気だな。って、さん付け?」
「いや、その……。私も少し図に乗りすぎたというか、喧嘩を売る射手を間違えてたわ」
「……あれ以来、暗闇が怖くて夜は私と一緒寝てるのよね」
「ちょっと、楓!?」
「意外と可愛らしいな」
そんな会話をしながら歩いて行くと、あの日戦った山の頂上へと辿り着いた。
月明かりを遮るものはなく、その下にはただ一人、薊が俺を待っていた。
「遅かったな」
「悪い。話に花が咲いててな」
「まあいい。凪、楓、ご苦労」
「は~い。後はと二人でごゆっくりと」
「……失礼する」
二人はそう言ってその場を立ち去るが、スレチが一瞬、凪にウインクされた。
何を期待してるのか知らないが、とりあえず俺は薊の隣に歩み寄った。
「随分と楽しそうに話したみたいだね」
「世間話は必要だろ? 少なくとも寡黙は俺のキャラじゃない」
「だろうな。その減らず口、戦ってる最中一言も黙らなかったものな」
「相手を知るにはまず会話から。お陰でお前に勝てたからな」
「まったく、お主は退屈させないな」
薊は小さく笑うと、その場に座り込んだ。
俺も同じように地面に腰を下ろすと、薊は瓢箪を取り出し、大きな盃へと注いだ。
「飲むか?」
「いや、遠慮しておく」
「下戸か。つまらないな」
「酔って襲い掛かるかもしれないぞ?」
「……それもいいかもな」
「え?」
「冗談だ。気にするな」
薊はそう言って笑うと、盃に注いだ酒を一気に飲み干した。
「良い飲みっぷりだな」
「世辞はいい。恥ずかしくなる」
「嘘は言ってないぜ。それよりも、随分と丸くなったな」
「お主のお陰だ。長年付けられていた枷がようやく外れたような気分だ」
「それは良かった。美人を殴るという愚行をした甲斐があったというものだ」
「何だお主、ああいうのが好みだったのか?」
「いや、特に子の身ってのもないけど。女を殴るのはこの世で最低な事だからな」
「意外とそう言うところはきちんとしておるのだな」
「意外って何だよ。普段からお前の目には俺がどういう風に見えてるんだ」
俺は溜息を吐くと、両手を広げて夜空を見上げるように寝転んだ。
隣では薊がそれを見て愉快そうに笑う。
「お主は変わってるな」
「変わってる、か」
「人間なのに妖怪と共に暮らし、不死なのに命を大切にして、
他人の悩みに土足で踏み込んで、人間の癖に我に説教をし、挙句の果てには殴った」
「後半だけ聞くと、どう考えても悪いのは俺だよな」
「まあ、最初に喧嘩を売ったのは我だ。結果がどうであろうと、それを責める気はない」
「今日はその事を伝えたかったのか?」
「いや、それだけじゃない」
薊は盃に映る月を見つめながら静かに語る。
「お主と戦ってよく分かった。我はただ、逃げていただけだ。
他の者が死んでいく悲しみや、自分という『化物』という存在から、目を背けていた」
「目を背けていた所為で、近くにいた友人のことも見えなくなっていたか」
「ああ。思えば、凪や楓はずっと我の隣にいた。
出来損ないだったとしても、不死になっても、アイツ等だけはずっと傍に居てくれた。
なのに、我はそんな大切な事すら目を背け、今日まで生きてきた。まったく情けない」
薊は自分を嘲笑うと、夜空の月を眺める。
「独りでは生きていけない。それは人間も妖怪も同じだという事をお主に教えられた」
「そんなつもりはなかったんだけどな。まあ、終わり良ければ総て良し、か」
「ああ、もう自分を殺すのは終わりだ。これからはこの命が尽きるその時まで、生きる」
薊はそう言って、俺に微笑んだ。
「鬼姫も、笑えば案外可愛いじゃないか」
「おうか。なら、いっそのこと我の婿にならんか?」
「え?」
咄嗟に起き上がって薊の方を見る。
「お主は我を倒した男、それに不死だ。婿にするには申し分ない」
「おいおい。鬼が酒に酔うなよ」
「酔ってはおらん。いや、今宵は酔っているのかもしれないな、この月夜に」
薊はそう囁くと、俺に覆いかぶさるように押し倒した。
至近距離で見ても依っている気配はない。というより、いつの間にか大人化してる!?
「ところで優夜、お前に届けた手紙の内容を覚えておるか?」
「そういえば、攫いに来るとか書いてたな」
「鬼は気に入った人間を攫う。それをいつまでも見ておきたいからね」
「俺は観葉植物か何かか?」
「いや、我の婿だ。そう決めた」
流石に冗談かと思ったが、彼女の目が本気だとそうもの当たっている。
どうにかして逃れようと必死に足掻いても、鬼の力には敵わない。
「さて、では頂くとしようか」
「何を!? 今の俺から何を奪う気だ!?」
「……それを我の口から言えというのか///」
「そこ照れるのかよ。ってか、そういうことする気かよ!?」
「なに、痛いのは我だけだ」
「いやいや、そんなことしたらこの作品がR-18に飛ばされるから‼‼」
「知るか。我だって※※※を●●●して×××したいぞ」
「やめろ‼‼ それ以上口にすると小説自体が亡くなる‼‼」
「うるさいやつだ。まずは――」
「――まずはその口を黙らせるわ」
薊を遮ったその声の主、視線を向けるとそこにはルーミアが居た。
満面の笑みを浮かべた彼女、その足元には目を回している凪と楓が転がっている。
どうやらルーミアに鎧袖一触されたようだ。なんと恐ろしい。
「ゆかりに優夜の行き先を聞いてやってきたら、どうやら面白い事になってるわね」
「誰かと思えば、優夜と共に暮らしている人喰い妖怪か」
「アンタね、私の優夜に何しようとしてるのよ」
「言われなくとも、見て解かるだろう」
薊は俺から離れると、ルーミアに歩み寄る。
流石鬼姫、俺でもビビるくらいの殺気を出しているルーミアに物怖じしていない。
「…………優夜」
「はい、なんでしょうか」
「無理矢理か、同意か、その答えによっては死体が増えるかもしれないわ」
ルーミアの雰囲気からして、どうやら下手な回答をすると終わりみたいだ。
ここは薊に悪いが、正直に言わせてもらおう。
「……無理矢理です」
「解ったわ。とりあえず、この鬼からね」
「ほう、我に喧嘩を売るか。人喰い」
「当然よ。ユウヤは私の物よ。鬼姫」
「そうか。ならば、お主から奪うしかないな」
「ふざけた事を言うわね。不死だからと言って油断しないことね」
「我より年増なお主に負けるとでも思っているのか?」
「―――殺すわよ、餓鬼」
「―――やってみろ、影法師」
「モテる男はつらいわね」
「他人事だな」
「……とりあえず、見物しておこうか」
「巻き込まれる前に逃げるのは?」
「鬼ごっこが始まるだけよ。大人しくしておきましょう」
「そうだな」
その夜、妖怪の山の頂上で不死の鬼姫と常闇の妖怪の激戦が夜通し繰り広げられた。
結果は引き分けとなったが、山のあちこちが削られるという被害が出た。
この時、俺ははじめてルーミアが本気になったところを見た。
正直言って、今の俺じゃあ勝てる見込みはなさそうだ。
夜空に浮かぶ月は、下で起こっている修羅場など関係なく、静かに照らし続ける。
空亡「優夜は章ごとにフラグを建てるようです」
優夜「好きで建ててるわけじゃねえよ」
空亡「いいですよね~」
優夜「目の前で繰り広げられる修羅場ほど怖いものはないぞ」
空亡「この感じだと、ルーミアさんの実力って今のところ最強ですよね」
優夜「正直、薊よりルーミアの方が強い」
空亡「大丈夫かな……」
次回予告
時が経ち、ついに舞台は日本最古の物語へと突入する。
東方幻想物語・蓬莱編、『Eへの始まり/旅立ちはいつなのか』、どうぞお楽しみに。