始まりの街
神無 優夜side
ルーミアとの戦闘から一夜明け、俺は朝日の光で目が覚めた。
身体を起こした俺は大きく伸びをすると、寝惚け眼を擦りながら周囲を見渡した。
「……やっぱり夢じゃないか」
安心したような、それと共に少しだけ落胆したような声で呟いた。
憧れの東方の世界に居るのは非常に喜ばしいことだが、絶賛迷子中の俺はこの森を抜けなければ、原作キャラに出会うという目的も果たせずに野垂れ死ぬことになりそうだ。
それだけは何とか避けなければならない。それで終ったら一番恥ずかしいからだ。
「……こっちに行ってみるか」
俺は意を決してその場から立ち上がると、自分の勘を頼りに歩き出した。
果たしてこの決断が吉と出るか凶と出るか、はたまた鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだ。
少 年 祈 祷 中
しばらく歩き続けた結果、出てきたのは街でした。
正確に言うなら巨大な都市、しかも俺が居た時代の物よりも遥かに発展しているように見える。
俺はその光景を見て、今がどの時代かということを確信した。
「月の民が地上に居た頃……神代の時代か」
神代の時代、簡単に言えば日本神話の発端となった時代の事を表す言葉。
天照の岩戸隠れ、因幡の素兎、天津神の国譲り、富士山と八ヶ岳の背比べ、それらの日本神話の出来事が起こったのが時代のことを指し、最初の天皇である神武天皇が即位するまでの時代だ。
そして、原作では月夜見が地上を離れ、月に移住するのもこの時代。
目の前にこんな街が残っているということは、今はまだその時期ではないということだろうか?
そんなことを推測しながら立ち惚けていると、俺はある異変に気付いた。
「……ん?」
俺が街の入り口へと視線を向けると、そこには警備兵らしき男たちが数十人ほど並んでいた。
手に持たされた銃はすでに俺へと照準を向け、男たちの瞳には敵意しか見受けられなかった。
とりあえず何か言い訳を考えようとすると、隊長らしき男が声を上げた。
「そこのお前、何者だ」
「いやだな~皆さんと同じここの住人ですよ」
「ならば何故、郊外にいる」
「実は薬の材料を探しに森に入ったら迷子になってしまって」
「妖怪には出遭わなかったのか」
「これでも足には自信があるんで、死ぬ気では知ったら逃げれました」
「ちなみに、郊外への外出許可証は?」
「その妖怪に追いかけられている最中に失くしちゃいました。てへっ」
「………そんなものは存在しない」
「……………………ありゃ?」
「全員構え!」
隊長の掛け声に全員が引き金に指を掛けた。
くっ、なんて高度な誘導尋問だ。岡崎教授の講義に10回遅刻してその度に誤魔化してきた俺の話術がこうも簡単に見破られるなんて。あのお方、只者じゃない!?
俺は身構えながらスマホへと手を伸ばす。最悪、強行手段を使わざるを得ない。
いつ戦闘が行われるか分からないそんな殺伐とした空気を、一人の女性の声が勝ち割った
「そこまでよ」
その声に男たちの身体が僅かに揺れた。それは畏怖によるものだとすぐに分かった。
徐々に足音が聞こえてくると、男たちはその張本人の道を開けるために左右へ退けていく。
やがて声の主である女性が姿を現すと、俺は目を見開き、そして2度目の衝撃を喰らった。
後ろで三つ編みをしている長い銀髪、左右で赤と青に分かれた特殊な配色のフリルの付いた半袖とロングスカート、頭には赤い十字マークが入った青いナース帽、雰囲気からして周りの男たちよりもより一層恐れを抱きそうになる。
彼女は隊長の真横を通り過ぎると、俺の目の前に立ち止った。
「はじめまして。侵入者さん」
「いや、侵入どころか街に入ってすらいないんですけど」
「あらそうなの。なら、どう呼んだ方がいいかしら?」
「まずは自分から名乗るのが礼儀だが、美しい女性に無礼はできないな。
俺の名前は神無 優夜、そこの森で迷子になっていたただの人間だ」
「お世辞がお上手ね。私は八意 ××、言いにくかったら永琳で構わないわ」
永琳はそう言うと社交辞令的な笑みを俺に向けた。
八意永琳、神代の時代から生きている永遠亭の医者。様々な薬を作ることができ、また、知識の高さから月の頭脳とまで呼ばれた原作でも屈指の強キャラだ。
今は不自然なくらい友好に接しているが、裏では何か考えているのではと疑心暗鬼に陥ってしまいそうになる。
俺は歓喜と少しの警戒を抱きながら彼女を見つめていると、彼女は後ろへと振り返った。
「隊長さん、この人を案内してもよろしいかしら?」
「……八意様直々にですか?」
「ええ。少しばかり話をしておきたいことがあるのよ」
「よろしいのですか。そんなどこの誰かも分からぬ輩を」
「神無 優夜、森で迷子になっただけの人間でしょ?」
「……やれやれ。まったく貴女は」
隊長は頭を抱えながら首を振った。
月の民の中でも上部に立つ八意永琳、その信頼と恐ろしさには一介の隊長さんも敵わないらしい。
というより、隊長さんからは苦労人のオーラを感じる。普段から無理に付き合ってるんだろうな。
「ですが、何かあった時には責任はご自分で取ってください」
「大丈夫よ。その時は今開発している新薬の実験に使うから」
「それならいいです」
「……さあ、行きましょうか」
「ちょっと待て、今聞き捨てならない単語が聞こえたんだが!?」
「心配しないで。あくまで、“何かあった時”よ」
そう言ってニッコリと笑みを浮かべる永琳。
とりあえず、この人には逆らうのはやめておこう。流石に度を超えたSは専門外だ。
俺は彼女に言われるがままその後を付いて行った。
街に入り、大きな通りを歩いて行くと、周囲の人達からの視線が気になった。
他の人達と比べれば奇妙な服装をしているが、原因はおそらく彼女だろう。恐らくこの頃から有名な彼女だ、その人物が男を連れて歩いているところを見かけたら気になるに決まっている。
しばらく歩いて街の中心部まで来ると、そこにある大きな建物へと入っていった。
時代に似合わないエレベーターで上の階へと上がり、そこにある一室へと俺は通された。
「ここよ」
「ここって、もしかして永琳の家?」
「家というより、この階全部が私の所有物よ」
「うわぁ……」
改めて永琳の凄さが分かった俺は部屋の中を進んでいく。
山に積まれた資料、色とりどりの液体が入ったビーカーやフラスコ、その部屋に似合わないのに置かれた弓。なるほど、確かに永琳の部屋だ。
「なあ、永琳」
「なに?」
「どこに連れていく気だ?」
「言ったはずよ。少しお話がしたいって」
「それならあの場でも良かったはず。こんな所まで連れてくる義理もないだろ」
「意外とそういうところも考えるのね」
「もしも俺が凶悪な妖怪だったらどうするんだ?」
「それも言ったはずよ」
彼女は扉の前まで歩くと、振り返って俺の瞳を見つめた。
信用なんてしてない。敵意があれば容赦なく殺す。そんな志向が読み解けるような瞳をしていた。
原作を知らなかったとしても、この人には敵わないことは本能で解っただろうな。
「怖いな」
「まあ、自分をそんな風に言う奴が凶悪な妖怪なわけがないと思うけどね」
「つまり自分はイケメンだと思っているナルシストはそんなにカッコ良くないのと同じ」
「どういう例えよ」
「思った事を言ってみただけだ」
「はあ……まあ、入りなさい」
永琳は呆れながら扉を開けた。
そこに待っていたのは、意外にも早い再会だった。
空亡「タイトルがド○クエのの一番初めの街みたいですね」
優夜「それを自分で言うか?」
空亡「これでも考えたんですけどね」
優夜「今更どうしようもないだろ」
空亡「それもそうですね。それに、重要なのは中身ですし」
優夜「そこまで変わってもないけどな」
空亡「文章力が上がっても、こればかりはどうしようもないですよ」
優夜「まあ、記憶処理の所為でこの先の展開が思い出せないけどな」
空亡「それが一番ですよ」
次回予告
運命的な出会いというものは、まあ王道でしょうかね?
東方幻想物語・神代編、『運命の再会』、どうぞお楽しみに。