???side
稗田阿礼、
『古事記』の編纂(へんさん)に携わったとされる生没年不詳の人物。
優れた記憶力を持ち、天武天皇から『帝紀(皇室の系譜図をまとめたもの)』と『旧辞(各氏族伝来の歴史書と目される書籍)』を読み習うことを命じられた。
その後、元明天皇の時代に『古事記』の編纂に参加することを命じられた。
その人物像は未だ不明で、藤原不比等説や女性説などがある。
どうやらこの世界では女性説が有効であるようだ。
そして、これからの歴史に深く関わる人物でもある。
神無 優夜side
俺たちは阿礼の案内で都の宿屋に連れてこられた。
あれから彼女に夕飯を奢ってもらい、この宿に泊まれるように手配までしてもらった。
彼女には二階の客室で待っているように言われ、俺は部屋から夜空に浮かぶ月を眺めていた。ちなみにルーミアとゆかりは別室にいる。
竹林に迷ったり、ひったくりを捕まえたりとしていたら、もう夜になっていた。
そんな風に考えながら月を眺めていると、部屋の襖が開いた。
「阿礼か。もういいのか?」
「はい。しばらくの間、ここに泊まっても良いようです」
「悪いな。宿屋の手配までしてもらって」
「気にしないでください。私が勝手に焼いたお節介ですから」
「なら、遠慮なくその言葉に甘えるぜ」
「ありがとうございます」
阿礼は嬉しそうにお辞儀をすると、俺の向かい側へと座った。
「ところで、もう旅の疲れは取れましたか?」
「ああ。あの二人は飯が食えて満足してるし、俺は素敵なお嬢さんに会えて満足だ」
「お世辞が上手なんですね」
「これでも嘘は滅多に吐かないんだけどな。まあ、仕方ないか」
「面白い人ですね。これまで貴方みたいな人には出会ったことないですよ」
「嫌だったか?」
「少し謙遜してるみたいで嫌ですね」
「なら、やめるか。嫌がることはやりたくないからな」
「ふふっ。おかしな人ね」
阿礼は楽しそうに笑う。
「阿礼はさ、どうしてこの都に?」
「そうですね………自分の目でこの国を見てみたいと思ったからですかね」
阿礼はそう言うと、静かに語りだした。
「私は昔から、見た物聞いた事をすべて覚えるほど記憶力が優れていました。
そこを今の天皇様に認められ、今まで大事な書籍などを記憶してきました。
でも、私はこの国の事をこの目で見たことも、耳で聞いたこともありませんでした。
だから、天皇様にお願いして思い切って旅に出てみました」
阿礼は眩しいほどの笑顔でそう言い切った。
彼女の話は史実通りだが、その環境に甘んじるだけではなく旅に出たか。
なるほど。思ったよりも度強あるな、この娘。
「さて、それじゃあ次はユウヤさんの番ですよ」
「俺の話を聞いても鬱になるだけだぞ?」
「それでもいいですよ。私は知らないことを知りたいんです」
「そうか。なら話でもしようか、永い時間を生きた『化け物』の物語を」
俺は意を決して彼女に語り始めた。
遥か昔に月の民が地上に居た事、ルーミアとの出会い、月美との思い出、邪神との邂逅、諏訪の国での出来事、星羅との思い出、諏訪大戦、ゆかりとの出会い、薊との喧嘩……。
どこにでもあるような在り来たりな物語を、阿礼は静かに聞いていた。
少 年 少 女 祈 祷 中
「……そして、現在に至る」
俺の話が終わると、俺は彼女へと視線を向ける。
呆れているか、そう思っていたが、彼女は俺の手を取ると目を輝かせた。
「あ、阿礼?」
「凄いです‼‼ ユウヤさん」
「え?」
「愛する人の為に命を大切にしているその姿、とても素敵です‼‼」
「い、いや、他に思うことはないの? これでも不死というか、化け物なんだけど」
「化け物なんかじゃありません。ユウヤさんは人間です」
「まあ、種族的にはそうなんだけど。不気味とか思わないの?」
「いいえ。それよりも、私はもっとユウヤさんの話が聞きたくなりました」
俺が何を言おうと、阿礼はそれを否定する。
今までこんな反応をする人間に出遭ったことが無かったからか、少し照れ臭かった。
「そのさ、阿礼」
「なんですか?」
「いや、ちょっと……顔が近い」
「……あ、す、すみません‼」
阿礼は俺と顔が近いことに気付き、顔を赤くしてすぐさま離れた。
さすが阿礼乙女、一応心は乙女だったか。
「失礼しました。少し興奮して……」
「いや、気にしてないからいいよ」
「でも、話が聞けて良かったです」
「そうか? 在り来たりな復讐の物語だった気がするけど」
「いいえ。少なくとも、私はそう思いませんよ」
阿礼はそう言うと、立ち上がった。
「今夜はありがとうございました」
「いいよ。眠る前の御伽話としては最低だった気もするけどな」
「ふふっ。そうですね、まだ心が興奮して眠れそうにありません」
「なら、ご一緒に月見でもいかがですか?」
「遠慮しておきます。……そうでないと、この胸がはち切れてしまいそうなので」
「そうか」
「それでは、また明日」
「ああ」
彼女はそう言って部屋を出ていった。
静かになった部屋の中、俺は再び月を眺める。
久しぶり人とこうやってゆっくり話した。それが嬉しかった。
「あ~あ、こっちも眠れねえな」
少 年 祈 祷 中
翌日、俺たちと阿礼は都の通りを歩いていた。
結局、あれから一睡もできなかった俺は大きな欠伸を掻いた。
「ふぁ~……」
「みっともないわね」
「うるさい。元から不眠症なんだ、少しは気を遣ってくれ」
「そんな設定有りませんよね?」
「ああ、無いよ。だからそんな目で見ないでくれ」
相変わらず連れの二人は俺に冷たい。
まあ、普段からこんなやり取りしてるから、もう慣れたようなものなんだけどな。
「でも、まさか阿礼まで噂のかぐや姫に会いに来てたなんて」
「はい。噂に聞く絶世の美女、是非ともその姿を私の心に刻み込みたいと思うので」
「絶世の美女、ね……ふっ」
「どうしてユウヤが笑ってるのかしら?」
「いや、なんでも…………ん?」
俺は視線の先に、見たことのある姿があった。
それは昨日竹林で出会った青年だった。その人物は何やら貴族みたいな恰好をした男と一緒に目の前の屋敷に入っていった。
「あいつは……」
「あ、あそこがかぐや姫が居る屋敷ですね」
「へえ~……やっぱりというか、立派な屋敷ね」
「というか、私たちが入れるかしら?」
「大丈夫です。私の連れということであれば、何とかなるでしょう」
「やっぱり凄いわね。天皇の舎人って」
「覚えるだけしかない、窮屈な仕事ですけどね」
阿礼は皮肉を吐きながら歩いて行くと、屋敷の前に居る人間と話をし始めた。
しかし、さっきの奴、貴族の傍に居たってことは従者なのか? 少し妙だな。
考え事をしてる間に、阿礼の話が終わると、俺たちも屋敷の中へと案内された。
印象と言えば、ただ広いだけとしか思わなかった。
阿礼もゆかりも、同じことを思っていたのかもしれない。だが、ルーミアは何か気付いていた。
「――優夜、気付いた?」
「――ああ。屋敷中に見えない糸が張られてる」
「――これって、昨日話してた奴の」
「――間違いない」
俺は歩きながら糸に触れる。
ピアノ線のように細いが、ワイヤーの様な硬さもある。普通ならこんなのが引っ掛かれば誰でも気付くが、触れたことすら分からないように巧妙に張られている。
こんなの人間業じゃないが、周囲からはルーミアとゆかり以外の妖力は感じない。
「――まあ、何かあれば俺が何とかする」
「――無理しないでよ。腕、まだ完治してないんでしょ」
「――ばれたか」
俺は咄嗟に腕を押えた。
実は、薊との喧嘩から、利き腕である左腕の調子が悪い。
日常生活には支障はないが、戦闘となると思うように動かせない。
「――その時は、私が代わりになるわ」
「――それはありがたいな」
「お二人共、さっきから何をコソコソと話しているのですか?」
「いや、かぐや姫ってどんな人なんだろうと思ってな」
「呑気に鼻の下を伸ばしてる馬鹿を叱ってただけよ」
「あはは。仕方ないですよ、男の人達みんなが夢中になるお方ですから」
「……むぅ」
阿礼は笑っているが、ゆかりは不満そうに俺の事を睨んでいる。
自分だけ蚊帳の外なのが気に入らないのだろうか、さっきから視線が痛い。
そんな事をしていると、とある部屋へと辿り着いた。
そこには、五人の貴族とさっきの青年がいた。
そして、奥には…………数億年ぶりとなる姫の姿があった。
空亡「阿礼さんの描写って、参考にできるようなものが無いから困りますね」
優夜「この世界じゃ、面白みを求めて旅をしているって感じだな」
空亡「ま、初代の方は短命じゃなかったって言う、設定なんですけどね」
優夜「今後の辻褄合わせか」
空亡「幻想郷年表通りやらないと、何かと狂いますからね」
優夜「ところで、やっぱりアイツ出てくるの?」
空亡「ええ。楽しみですか?」
優夜「アイツが人間なのか疑わしくなっただけだ」
空亡「一応人間なんですけどね。ウォルター的な」
優夜「半分人間越えてるじゃねえか」
次回予告
友との本当の再会を果たすために、優夜はかぐや姫の難題に挑む。
東方幻想物語・蓬莱編、『五人のF/知られざる難題』、どうぞお楽しみに。