東方幻想物語   作:空亡之尊

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紅い髪のC/本当の記憶

???side

 

 

夢を見た。けれど、それはあまりにも現実味を帯びた夢だった。

 

ネオンの光で満ちる街を見下ろすように建てられた、街外れの教会。

教会の中はステンドグラスの色鮮やかな光に照らされ、それはとても美しかった。

 

そこに、少女達が居た。いや、倒れていた。

血だまりに沈む少女達を、俺は見ていることしかできなかった。

 

奥で男が笑っている。楽しそうに狂った笑いを上げている。

どうやら少女達を殺したのはこの男らしい。だが、月明かりの影で顔が見えない。

 

まだ息がある少女は、必死に男に手を伸ばしている。

何か言っているみたいだが、俺にもその男にも声は届かない。

 

目障りだと思ったのか、男は手に持っていた銃を少女へと向けた。

そして…………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

神無 優夜side

 

 

嫌な夢を見た。それはそれは気味の悪い夢を。

今思いだすと、何故か胸が締め付けられているようで苦しい。

隣を見ると、光姫が静かに寝息を立てて寝ていた。妹紅は何故か布団があらぬところへと行っていた。

 

 

「………気晴らしに月でも眺めるか」

 

 

俺は妹紅に布団を掛けると、外に出た。

夜空にはまだ月が出ているが、ここからでは良く見えない。

俺は鳥居の方へと足を運んだ。だが、そこには先客がいた。

 

紅いポニーテールを靡かせ、林檎を齧っている少女の姿がそこにあった。

 

 

「お前は………」

「久しぶりだな。神無」

 

 

振り返った彼女は、口元を吊り上げた。

『生ける炎』の呼び名を持つ邪神、クトゥグア。

以前、チクタクマンから俺を助けてくれた恩人の一人で、終始俺の事を気に入っていない様子だったのを覚えている。

容姿を簡単に表すなら、佐倉〇子を大人にしてみたような姿をしている。ちなみに胸も、

 

その時、俺に向かって林檎が投げられ、見事顔面に命中した。

 

 

「いたっ(> <)」

「今余計な事を考えただろ?」

「すみません(T_T)」

「ったく、早く上がって来い」

 

 

俺は落ちた林檎を拾い上げると、鳥居の上に登った。

隣では彼女がラズベリーを口にしていた。

 

 

「お前も食べるか?」

「いや、俺はこっちの林檎でいい」

「そうかよ」

 

 

月を眺めながら、俺と彼女は黙々と食べた。

なぜだろうか、前にもこんな事をしたような記憶がある。

 

 

「偶には月美をするのも悪くはないな」

「どちらかというと、月より団子でしょ?」

「違いない。でも、誰かと一緒に見る月は綺麗なものだ」

「ああ、そうだな」

 

 

俺は芯だけになった林檎をゆらゆらと揺らしながら月を眺める。

 

 

「なあ、アンタは知っているのか。俺の事」

「ああ、知っている。けど、今は話せない」

「なんでだ?」

「今のお前じゃ、この真実を受け止められない。それだけだ」

「それだと余計気になるな。俺の本当の記憶」

「怖くはないのか?」

「主人公には暗い過去が付き物。それを乗り越えてこそ真の主人公、ってね」

 

 

俺は無邪気な笑顔を彼女に向けた。

怖くない。と言えば嘘になるが、知らずに生きるよりは何十倍もマシだ。

それに、さっきの夢も気になる。アレはただの夢じゃない、確かに俺が見た記憶だ。

どこから嘘で、どこから本当なのか、もうそれすら分からなくなってきた。

 

 

「ところで、アンタは何でここに?」

「『風歌(ふうか)』から、お前に届け物だってさ。ったく、俺を何だと思ってるのか」

「風花?」

「ああ、今のお前は知らなかったんだっけな。あの時、一緒に居た奴さ」

「名前もあったんだな」

 

 

アイツといい、邪神もいやに普通の名前を名乗るんだな。

もう少し厨二臭いかと思った俺の思考は間違っているのだろうか?

 

 

「本名じゃ何かと呼びにくいからな、それに…………いや、いいか」

「ちなみに、アンタは?」

「『深紅(みく)』だ。女々しい名前で嫌気がさすぜ」

「そうかな? 俺は可愛いと思うよ、その名前」

「………二度も同じ台詞、か」

「何か言った?」

「何も」

 

 

深紅は誤魔化すように笑うと、俺に何かを投げ渡した。

それは土に汚れた弓袋だった。中には、真っ二つに折れた弓が入っていた。

間違いない。遥か昔に俺の手違いで折ってしまった永琳の弓だ。

 

 

「ん? これは」

 

 

袋の中に、何かは言った。

それはTRPGで使うような赤色の10面ダイスだった。

 

 

「俺からの贈り物だ。もしもの時に役に立つ」

「もしもって」

「そうだな。お前が復讐に我を失うような愚か者じゃなかったら」

「なんだ、このダイスが応えてくれるってのか?」

「まあ、そういうところだ。試しに振ってみろ」

「と言っても、俺ってダイス運悪いんだよな」

 

 

俺はダイスを鳥居の上で転がすと、あの独特のダイス音が鳴った。

 

 

「1Ⅾ100、結果は97。ファンブルか」

「何してんだよ」

「ここでファンブル、この後不運な出来事になるかも」

「まだその時じゃないってことか。時期尚早だったか」

「帰るのか?」

「お前みたいに暇じゃないんだよ」

 

 

彼女はそう言って俺の手から林檎の芯を奪い取る。

 

 

「お姫様の遊びに付き合うのもいいが、気を付けろよ」

「何をだよ?」

「この世界は普通とは違う世界線だ。お前の原作知識なんて無意味と思うほどな」

「そんなこと、とっくの昔から気付いてる」

「なら、一つだけ悪いことを教えてやる」

 

 

彼女は口元をニヤッとさせると、手に持った林檎の芯を燃やした。

 

 

「愛識 光姫、アイツは殺される」

「なんだと……!?」

 

 

メラメラと燃える林檎は燃え尽き、灰となって崩れた。

 

 

「全てのイレギュラーが消えた時、何が起こるか。アイツはそれを知りたいんだ」

「イレギュラーって、まさか光姫も」

「せいぜい、頑張れよ。神無」

 

 

彼女はそう言い残すと、鳥居から飛び降りた。

下を見ても、そこには彼女の姿はどこにもなかった。

 

 

「光姫が……?」

 

 

彼女の言葉の真意は、俺にはわからない。

ただ、どうやら光姫にも、何かある事は確かだった。

 

 

「ファンブルの結果は、こういう意味かよ」

 

 

俺は受け取ったダイスを握り締め、相も変わらず照らし続ける月を仰ぎ見た。

 

 

 

 

 

???side

 

 

彼と別れた後、深紅はとある場所に訪れていた。

そこはかつて“美命”が一番最初に滅ぼした世界だった。

 

廃墟となった街を見下ろすように建てられた、街外れの教会。

教会の中はステンドグラスの破片が地面に散らばり、かつての面影などどこにもなかった。

 

その奥の会衆席に、風歌はいた。

 

 

「どうだった?」

「相変わらず、女に振り回されてたよ」

「やっぱりね。でも、安心した」

「それと、頼まれてた物も渡してきた」

「ありがとう。わざわざ行ってくれて」

「どうせ暇なんだ。これくらいやるさ」

 

 

深紅はそう言うと、風歌の隣に座った。

 

 

「……随分とここが気に入ってるんだな」

「まあね。ここには“彼”も来ないから」

「滅んだ世界なんて眼中に無いってわけか」

「それは、僕たちも同じでしょ」

「……そうだな。結局は同じか」

 

 

深紅は会衆席に寄り掛かると、穴が開いた天井を仰ぎ見た。

 

 

「神無の記憶が戻った時、どうなるんだろうな」

「わからないよ。それこそ、神のみぞ知るってやつじゃないのかな」

「それ、皮肉ってるつもりか?」

「そうだよ。所詮、僕たちは邪神。自分たちの事しか考えない自己中心的な生き物さ」

 

 

風歌は立ち上がると、祭壇に飛び散っているステンドグラスの破片を拾い上げる。

 

 

「彼の記憶はこのステングラスの様に粉々になってる」

「修復するには、破片をすべて集める必要があるか」

「でも、破片を集めるたびに浮かび上がるのは、とても残酷な真実」

「果たしてステンドグラスが完成した時、そこに出来上がるのは何なのか?」

「答えは、神のみぞ知る」

 

 

廃墟となった世界で、二人の邪神は空を見上げた。

そこにいるはずもない神に、まるでその答えを求めるように。

 

 

 





空亡「さて、ここからどうなるのでしょうね」
優夜「目的は案外あっさりと終ったが、嫌な台詞残していきやがって」
空亡「止められますか? たとえ変えられぬ結末でも」
優夜「最後まで何が起きるか分からねえのが、人生の良い所だろ」
空亡「そうですね。まあ、期待してますよ」
優夜「どっちの期待なのかは聞かないでおくぜ」


次回予告
不老不死の苦しみを知る者は、そうなろうとする娘に何を伝える?
東方幻想物語・蓬莱編、『不死を恐れるP/藤原の娘』、どうぞお楽しみに。

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