東方幻想物語   作:空亡之尊

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Tな口付け/あなたを想う気持ち

神無 優夜side

 

 

風の噂というものは、どこまででも流れてくる。

それは諏訪の国でも同じこと、村ではかぐや姫に求婚した貴族たちの事を噂していた。

 

石作皇子は『仏の御石の鉢』を持ってきたが、言わずもがな贋作だとばれてしまった。しかし、鉢を捨てられてもかぐや姫に言い寄った。このことから面目ない事の『恥(鉢)を捨てる』といった。

 

阿部御主人は『火鼠の皮衣』を唐の商人から買い取ったが、燃えないはずの皮衣はいとも容易く燃え尽きた。阿部が因んでやり遂げられなかったことを『敢え(阿部)無し』と言った。

 

大伴御行は『龍の頸の玉』を探しに海に出たが嵐に遭い、重い病をかかって両目が李のように腫れてしまった。世間の人々は龍の珠ではなく、目に李のような球がある。ああ食べがたいと言った。これから『ああ堪え難い』と云うようになった。

 

石上麻呂は『燕の子安貝』を探して、大八洲という名の大釜が据えてある小屋の屋根に上って子安貝らしきものを掴むが、誤って落ちてしまい腰を溜めてしまう。しかし、掴んだ物は燕の卵だった。これから期待外れなことを『甲斐(貝)なし』といった。

 

残ったのは俺と車持皇子こと藤原不比等だけとなった。

幸い、藤原の情報はまだ聞いてないと思うから、まだなのだろう。

 

都へと帰る用意を済ませると、俺は諏訪子がいる湖へと訪れた。

 

 

「短い間だったが世話になったな」

「構わないよ。こっちも久しぶりにユウヤの顔が見れて嬉しかったよ」

「それは良かった」

 

 

俺はそれだけを告げると、光姫と妹紅が待っているところへと向かう。

その時、諏訪子が俺を呼び留めた。

 

 

「ねえ、ユウヤ」

「なんだ?」

「アンタさ、あの子に惚れてるのかい?」

「……別に、誰があんな男装趣味の奴なんかに」

「図星だね。それに、私は名前は言ってないよ?」

「うぐ……」

 

 

諏訪子は俺に悪戯に笑った。

妹紅にも言われるし、それに加えて諏訪子にまで、俺ってそんなに解り易いのかな。

 

 

「どうなの?」

「……ああ、好きだよ。でも、俺はアイツの事を何も知らない」

「知らないのなら、今から知ればいいだけ。違う?」

「そうだけどさ。ある意味、初めて見るような奴だからさ」

「弱気ね。そんなアンタに一つ助言しておくよ」

 

 

諏訪子は俺の元へと歩みると、俺を見上げた。

 

 

「私みたいな後悔はするな。それだけだよ」

「………ありがたい言葉、痛み入るぜ」

「どういたしまして。さあ、行ってきな」

「ああ。また会うときは、面白い話でも持ってくるぜ」

「楽しみにしてるよ」

 

 

再会の約束をすると、俺は諏訪の国を出た。

後悔するな、そうだな。この一件が終わったら、告げてみるか。

そう思いながら、俺は二人のところへと歩みを進めた。

 

 

 

               少 年 祈 祷 中

 

 

 

都へと戻る途中、俺たちはとある村に立ち寄って宿を借りた。

光姫たちとは部屋が分かれたが、一人でゆっくりするには申し分ない。

その晩、俺は部屋からいつもの様に月を眺めていると、襖が開いて誰かが入ってきた。

 

 

「夜分遅くに失礼しますよ」

「………ああ。光姫か」

「なんですか? 今の間は」

「いや、ごめん」

 

 

普段と違って浴衣に髪を下ろしている所為か、一瞬誰だか分からなかった。

でも、よく見るとやっぱり美人なんだよな。男装させるのが勿体と思うくらい。

 

 

「髪を下ろしただけでこうも印象が変わるものなんですね」

「光姫の場合、中性的な顔だから余計に分かりにくいんだよ」

「なるほど。今度から変装するときの参考にしておきますね」

「変装って、もはや何者だよ」

「あくまで、ただの人間ですよ」

 

 

光姫はにっこりと頬むと、俺の目の前に座った。

こうしていると、やっぱり光姫も女性なんだなと思ってしまう。

 

 

「何じろじろと見てるんですか?」

「悪い……」

「まったく、これだから男は嫌いですよ」

「そこまで言うか」

「容姿だけ良ければ他はどうでもいい。そんな風にしか見てないですよ」

 

 

光姫はそう言うと不機嫌そうに俺から目を逸らした。

彼女が感情を露わにしているところを、俺は初めて見た。

 

 

「ねえ、ユウヤさん」

「なんだ?」

「守矢神社で調べている時に見つけた書物に書いてあった事ですが」

「ああ、諏訪大戦の話ならあんまり覚えてないから無理だぞ?」

「いえ、その事ではなく。昔から諏訪に伝わる物語についてです」

「物語?」

 

 

光姫が話し始めたのは、俺が諏訪を出てしばらくして作られた短い御伽話だった。

内容は、俺とルーミアが諏訪に居た時のことを御伽話風にまとめたような物だった。

俺が人助けをしたことや、ルーミアが他の妖怪たちから人間を守っていたことなどだ。

 

その中で、諏訪大戦の話も描かれていた。

だが、その戦いで諏訪の神の巫女、星羅が死んだ時のことも描かれていた。

 

 

「これによれば、その時の人間は、この巫女の事を愛していたみたいですね」

「ああ、そうだな」

「どんな方だったんですか?」

「どんな奴か………物静かで、怒ると怖かったな」

「………本当に愛してました?」

「愛してたさ。だから、アイツの良い所も悪い所も、弱さも強さも知れたんだ」

「強さ……」

「国の人間に嫌われても、それを恨まずに国の事を想ってた。誰よりも強い奴だ」

 

 

国の人間と馴染めずに落ち込んでいた俺を慰めてくれた。

戦争に踏み出すことのできない諏訪子を必死に説得した。

今でも鮮明に思い出すことができる。俺にとってかけがえのない、アイツとの記憶だ。

 

 

「羨ましいですね。そうやって心を許し合える人がいて」

「お前もいないのか? そういう人間が」

「いませんよ。だって、僕自身が人の事を信じていないんですから」

 

 

光姫は悲しげな眼でそう言った。

 

 

「人を信じても、いつかは裏切られる。裏切られるのなら、僕は人を信じない」

「悲しいな。そんな人生」

「他人に何を言われようが、これが僕の本心ですよ」

「それも嘘なのか?」

「どうでしょうね。もはや自分の言葉すら、真実か嘘なのか分からなくなってきました」

 

 

光姫は面白そうに笑う。

 

 

「それに比べて、貴方はいつも正直に人を信じている」

「俺はいつだって人を信じる。この気持ちが何万回裏切られようが、それは変わらない」

「本当に、純粋と言っていいほどのお人好しですね」

「見直したか?」

「ええ。騙すにはいいカモということがね」

「おい」

 

 

光姫は少し笑うと、窓から月を眺める。

 

 

「しかし、貴方と一緒に居ると、調子が狂います」

「なんだよ急に」

「僕は普段、必要な用事以外は誰とも話さないんですよ。妹紅は別ですけど」

「妹紅に聞いたよ。寡黙というより、他人を避けてるようだってな」

「でも、貴方といると自分の事をつい話してしまいそうになる。それが不思議だった」

「同じひねくれもの同士、惹かれ合うのかもな」

「惹かれ合う、ですか」

 

 

光姫は思い耽るように溜息を吐くと、俺の方へと近寄ってきた。

彼女は俺の懐まで来ると、俺を見上げながらじっと見つめている。

 

 

「どうした?」

「ユウヤさん」

「はい」

「恋というのは、どういう感情なのでしょうかね」

「さあな。この人と一緒に居たい、この人は自分の物っていう、単純な感情かな?」

「そうですか…………なら」

 

 

光姫はニヤリと笑うと、俺の腕を掴んで引き寄せた。

その時、彼女の唇が俺の耳へと触れた。

 

 

「……!?」

「貴方と一緒に居る時の私の感情は、まさにそれですね」

「お、お前」

「それではユウヤさん。良い夢を」

 

 

光姫は何事も無かったかのように俺の元から離れると、そのまま部屋を出た。

一瞬の出来事で呆然としていた俺は無意識に自分の耳に手を当てた。

 

 

「あいつ、意味解ってるのか………///」

 

 

恐らく今の俺の顔は真っ赤に違いない。

こんな姿、誰にも見られたくないと思ったが、窓から見える月は終始俺を覗いていた。

 





空亡「さて、折り返し地点につきましたよ」
優夜「今回は長いな」
空亡「思った以上に話のネタが出てきたので」
優夜「最初のころに比べると結構長くなったよな」
空亡「おそらく、この作品で一番長い章ですよ」
優夜「どうしてこうなった」
空亡「それより、光姫さんとなんか良い雰囲気ですね」
優夜「うるさい。どうせからかってるだけだろ」
空亡「どうでしょうかね~?」


次回予告
都へと戻ってきた優夜、彼は数億年を超えた再会を果たす。
東方幻想物語・蓬莱編、『姫様のC/幾億年越しの再会』、どうぞお楽しみに。

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