神無 優夜side
都へ戻ってきた俺たちは、各々の場所へと帰っていった。
光姫と妹紅は藤原の屋敷へと、俺はルーミア達がいる宿屋へと向かった。
二週間ぶりにみんなと会えるのを楽しみにするが、どんな反応をされるだろうか。
阿礼は土産話を聞きたいだろうし、ゆかりは怪我の心配とかしてそうだ。ルーミアは、アイツには何も言わなくても分かるだろ。
そんな事を思いながら、俺はみんながいる部屋の戸を開けた。
「ただいまー‼ 主人公のご帰還だ……ぞ…………」
その時、戦慄が走った。
部屋の中ではルーミア、ゆかり、阿礼の三人が布団をかぶって寝ていた。
それだけを見るとなんとも仲睦まじい光景の筈だが、何故か布団の外に宿屋の浴衣が脱ぎ捨てられていた。ちなみに、三人の普段着はちゃんと畳まれて部屋の端に置かれている。
この状況、健全な野郎なら分かると思うが、完全にあの後にしか見えない。
「………落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。
もしかしたら一糸纏わぬ姿で寝ただけかもしれない。ほら、このところ暑かったし」
俺は自分に言い聞かせながら落ち着きを取り戻す。
そうだ。ここで変な誤解をするのはもはや定番だろ。
隣の部屋から色っぽい声がして、覗いたらマッサージしてただけという、あれと同じだ。
あらぬ誤解で三人を怒らせるのもまずい。ここは一度部屋を出て落ち着こう………。
「………ぁら、帰ってきたのね。ユウヤ」
部屋を出ようとすると、寝惚けたルーミアが欠伸を掻きながら起き上った。
俺は変なものは見まいと、そのまま背を向けたまま彼女に返事を返す。
「あ、ああ。意外と早く用事が終わったからな」
「そうなのぉ………良かったわね」
「かぐや姫の所に行く前に寄ったんだが、元気そうで何よりだ」
「まあね。昨日の夜もみんな元気だったのよ」
「へ、へえ~…………(昨日の夜って何だよ!?)」
「ゆかりは初心で面白かったけど、阿礼が結構手慣れてて驚いたわね」
「良かったね………(ダメだ、どうしても思考があっちに行ってしまう‼‼)」
「ユウヤもいればもっと楽しめたのに」
「あはは、それは残念だったな………(消え去れ煩悩、じゃないと消されるぞ‼‼)」
「よかったら今夜、相手してくれるかしら」
背中を向けていて見えないが、ルーミアは立ち上がると俺に抱き着いて耳元で囁いた。
「―――」
「……!?」
「楽しみにしてるわ」
「……わかった」
俺はルーミアにそう言って部屋を出る。
湯っくとした足取りで宿屋を出ると、押さえていたものを爆発させるように走り出した。
「そのままの意味だったのかよ、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼‼‼‼」
その日、俺はかぐや姫の屋敷へと向かって走った。
そうでもしないと、俺の理性というか色んなものが破裂しそうだったからだ。
しかし、ルーミアって色々食べるんだな(意味深)。
少 年 爆 走 中
息を切らしながら辿り着いたかぐや姫の屋敷。
屋敷の人間に用件を伝えると、快くかぐや姫のいる部屋へと案内された。
「貴方で最後ですね」
「最後ってことは、車持皇子はもう来たのか?」
「はい。昨日、蓬莱の玉の枝を持ってここに来られました」
「でも、贋作だったんだろ?」
「ええ。姫様も本物と思っていたのに、あろうことかそれを造った職人が乗り込んできて」
「それは大変だったな」
「でもあの方、おかしな事を言っていましたね」
「おかしなこと?」
「たしか、『アイツが金を払ったはずだ‼』って、怒鳴っていましたね」
「アイツ……もしかして」
「着きましたよ」
考える間もなく、かぐや姫のいる部屋の前に辿り着いた。
案内してくれた女性は頭を下げてその場を立ち去ると、俺は意を決して襖を開けた。
そこには以前見た時と同じ、部屋の奥に扇子で顔を隠したかぐや姫が座っていた。
「二週間ぶりですね。かぐや姫」
「ええ。随分と遅かったですね」
「ふふ、旅の途中に懐かしい顔に会いましてね。つい楽しくて」
「懐かしい顔、ですか」
「ええ。その所為か、昔の友人を思い出しましたよ」
「そう………」
かぐや姫は、暗い声でそう頷く。
「何かと人の事を薬の実験体にしようとするけど、本当は面倒見のいい薬師。
いつも仕事のことしか考えない堅物だけど、みんなを守るために頑張ってた隊長さん。
人一番プライドが高くて、他人にも自分にも厳しいけど、本当は心優しい妹。
いつも俺の料理を食っては訓練もサボるけど、本当はみんなの事を大切にしている姉」
俺は、あの時居た奴等のことを話していく。
かぐや姫は、その話を黙って聞いていた。
「それは、とてもいい御友人たちですね」
「あ、一人大切な奴を忘れてた」
「え?」
「我が儘で怠惰だけど、一人の少女との友情を大切にしてくれたお姫様、とかな」
「……っ!?」
彼女の扇子を持つ手が震えていた。
「なあ、かぐや姫」
「なによ……」
「俺は貴女に言われた通り、半月の弓を持ってきました」
「ええ……これで間違いないわ」
「なら、俺の願い。というより、言いたかった事を言ってもよろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
俺は息を整えると、数億年越しに友人に贈る言葉を、彼女に伝える。
「数億年ぶりだな、輝夜」
「……ユウヤっ‼‼」
その時、彼女は扇子を投げ捨てると、俺の胸に飛び込んできた。
俺はそれを受け止めると、優しく抱きしめた。
「ユウヤ……本当に、ユウヤなの……」
「ああ、俺だよ」
「あの時……私、何も……月美も、貴方も、街に残ったって……」
「はいはい。まずは落ち着け、絶世の美女の顔が台無しだぜ?」
「だって……だって……」
彼女は俺の胸の中で泣いていた。
あの日、俺たちを置き去りにしたことを後悔していたのだろうか。
まあ、仕方ない。悪いのは輝夜でも、永琳でもない。悪いのは、気が付けなかった俺だ。
「ねえ、ユウヤ」
「なんだ?」
「頭、撫でて……///」
「え?」
「月美が……貴方に撫でられると落ち着くって言ってたからよ」
「そうか……」
俺は少し笑うと、輝夜の頭を優しく撫でた。
輝夜は嬉しそうに頬を赤く染めると、俺の胸に顔を埋めた。
「ユウヤ」
「今度は何だ?」
「お話、しましょう」
「ああ、そうしよう」
「月で私が犯した罪の話を」
「俺の在り来たりなお話を」
「「今はただ、聞いてもらいたい」」
再会を喜ぶ二人は、互いに顔を合わせると嬉しそうに笑った。
しかし、この物語の終結までの時間は、刻一刻と迫ってきていた。
???side
藤原の屋敷に、光姫は居た。
彼女は怒りで我を忘れている不比等から逃れるように、姿を消していた。
ここへ来た目的は置き忘れた自分の荷物を取りに来たのと、不比等の様子を見るためだ。
「怒ってる怒ってる。こりゃあ相当恥をかいたみたいですね」
光姫はその様子を見て笑っていた。
悪戯が成功した子供が見せる、無邪気な笑みを見せながら、彼女は笑う。
「何でも他人任せにする貴方が悪いんですよ。少しは石上麻呂を見習わないと」
光姫は手に持った『蓬莱の玉の枝』の贋作を見つめる。
彼女はこの代金を払う筈だったが、あえて払わずに、優夜の旅に同行した。
彼の旅にも興味があった。それと同時に、不比等からの目を外す必要もあった。
「……どうですか? こんなちっぽけな悪戯の為に、僕は貴方に仕えたんですよ」
届くことの無い声で、光姫は語り掛ける。
彼女は初めて不比等を見た時から思っていた。
たった一人の少女を蔑ろにしていたこの男に、いつか痛い目を見せてやると。
「さて、用の済んだら後は去るのみ」
光姫は踵を返し、屋敷を背にして歩きだす。
「本当に本当に、なんて遠く長い回り道だったんでしょうね」
光姫が目を閉じると、そこには一人の少女の面影が浮かんだ。
「妹紅、さよならですね」
光姫はそう呟くと、その場から立ち去った。
そして、新たな復讐の炎が、人知れずに燃え上がろうとしていた。
空亡「昨夜はお楽しみだったようです」
優夜「消されるぞ。消すぞ」
空亡「制限に掛かるギリギリのラインを踏んでますからセーフです」
優夜「アウトだよ。スリーアウトで試合終了だよ」
空亡「そんなことより、ようやく再会できましたね」
優夜「話を変えるな。………まあ、輝夜と会えたのは嬉しかったな」」
空亡「あそこまで懐かれていると、何だか兄妹にも見えそうですね」
優夜「手の掛かる妹には違いないけどな」
空亡「さて、物語はここからが本番ですよ」
優夜「嫌な予感しかないぜ」
次回予告
かぐや姫は月から追放されたが、彼女は穢れた地で懐かしき友との再会を果たした。
東方幻想物語・蓬莱編、『竹取物語R/小望月の会合』、どうぞお楽しみに。