神無 優夜side
扉を開けた先に居たのは、一人の少女だった。
美しい黒髪のロング、月の刺繍がされた黒い着物、紅いリボンが頭に付いて、綺麗な紅色の瞳をしている。しっかりとしているように見えるが、頭にあるアホ毛がいい感じに和らげてくれている。
俺は一目見てその少女の事を思い出した。
「あ、あの時の子」
「い……生きてたー!」
少女を見て驚いていると、いきなり俺に抱き着いてきた。
一瞬だけ「何この展開……!?」と思ったが、予想以上の威力が腹部に直撃すると、俺は溜まった空気を吐き出しながら床に押し倒された。
リアルで勢いよく抱きつかれると意外と痛いんだな………この時ほど二次元と現実の違いを痛感させられることは無いだろう。多分、きっと、恐らく…………そう信じたい。
腹部の痛みと床の冷たさを痛感していると、俺の頬に涙が落ちてきた。
よく見ると、目の前の少女が涙をボロボロと流しながら俺を見下ろしている。しかも至近距離。
「えーと、何で泣いてるの?」
「だ、だって、あの妖怪に食べられたのかと思って……」
「まあ、普通はそう思うよね」
「それで私、あの街に戻って、でも助けを呼ぶことも出来なくて……」
少女は涙を流しながらそう語る。
自分だけ助かったことによる後悔に耐えられなかったのか、彼女の目は涙を流し過ぎて真っ赤に腫れていた。きっと、俺が彼女と同じ立場だったらこうなっていただろうな。
俺は起き上がると、未だに涙を流し続ける彼女の涙を指で拭った。
「泣くなよ。可愛い御顔が台無しだぜ?」
「だって……」
「まあまあ、俺はこうして生きてるんだし、それでいいでしょ?」
「でも!」
「それに、俺は君にそんな事を思われるほど良い人間じゃないよ」
俺は申し訳なさそうに目を伏せながら話す。
俺はあの時、ルーミアの問いかけに一瞬だけ迷ってしまった。彼女を助けるか、自分が助かるかの単純な二択に………。
もしも、あの時の選択肢を間違っていたら、俺の人間としての心は死んでしまったのかもない。
「結局、自分が一番かわいいんだよ。そういう人間なのさ」
「そんなこと………」
「でも、ありがとう。元気な姿を見れただけで、俺は満足だから」
俺は満面の笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でた。
彼女は少して臭そうに顔を俯かせるが、口元が嬉しそうに笑っていた。
うん。やっぱり女性は泣いている顔より、笑っている顔の方が100倍可愛い!
「……そろそろいいかしら?」
「「……え?」」
俺と少女はづ時に視線を向けると、部屋のソファに座っている永琳が居た。
そういえば、永琳の案内でここに来たんだっけ…………やばい、本気で忘れてた。
そして俺は今の状況を冷静かつ客観的に捉えてみた。
押し倒されている、互いの顔が至近距離、そして何故か漂っている桃色の雰囲気。
この状況を理解するのに、お互い時間は掛からなかった。
俺と少女は顔を真っ赤にすると、急いで立ち上がって永琳の向かいのソファへと腰掛けた。
「あははは…………お恥ずかしいところを」
「良かったのよ? そのままでも」
「冗談を。そんな黒い殺気を出されたらビビッてなにも出来ねえよ」
「まあいいわ。アナタは私の助手を助けてくれた恩人だから」
「助手?」
俺は永琳の言葉に疑問を抱き、隣に座っている彼女に視線を向けた。
「そう。この子は私の助手、昨晩は新薬に必要な材料を取りに行ってもらってたのよ」
「なるほど。通りであんな危険地帯にいたわけだ」
「貴方も人の事は言えないけど、そんな所に一人で行かせた私にも責任はあるわ」
「せ、先生は悪くないですよ。……嫌われ者の私が悪いんです」
最後の言葉、小さくて聞き取り辛かったが、なぜか彼女が悲しげな表情をしていた。
「さて、ここから本題だけど」
「え? お礼だけじゃなかったのか?」
「それだけなら入り口で済ませてるわよ」
「それもそうだな」
ここに来るときに永琳に言った台詞がブーメランとして帰ってきた。
「で、俺に何かあるのか?」
「率直に言うと、ここに住みなさい」
「すみません。もう少し詳しくお願いします」
言葉だけを聞いたら嬉しさが有頂天だが、相手が相手だけに慎重になる。
もしかしたら新薬の実験とかそういう類の関係で俺を捕えておきたいとかいう理由なのか!?
この世界に着て三度目のピンチ、俺の物語はこれで終わってしまうのか。
「純粋に貴方に興味があるのよ。その身一つで妖怪を退けた貴方という存在にね」
「……妖怪ならアンタでも倒せるだろ」
「そうね。でも、私ではそこらの雑魚が限界よ。でも、貴方が出遭った妖怪は違う。
この子から容姿を聞いて、それがこの辺で噂されている人喰いだということは分かった。
正直言って、助けたお礼に骨だけでも拾いに行こうかとも考えていたわ」
さらっと死亡確定みたいな事を言っているが、あのルーミア相手なら当然の考えだ。
「でも貴方は生きていた。それも満身創痍ではなく、冗談を飛ばせるほど余裕を持っていた」
「一晩も寝れば誰だって冗談を吐けるよ」
「それでもよ。妖怪に引けを取らない人間、興味が湧かないわけないでしょ」
永琳は俺に熱い視線を向ける。
調べ甲斐のある対象を見つけた研究者の目をしている。なんともまあ、恐ろしいものだ。
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「居てくれるだけで構わない。ただ、私の『ワガママ』には付き合ってもらうけど」
「その『ワガママ』ってのは?」
「さあ、住んでみればわかるんじゃないかしら」
俺と永琳は互いを見据えながらただ黙った。
この話に伸るか反るか………愚問だ。そんなの答えは一つに決まっている。
「いいぜ。その話、乗った」
「本当にいいのかしら?」
「どうせ宿無しなんだ。野宿より牢獄の方が居心地いいぜ」
「ヒドイ言い方ね。これでも人並みには扱うつもりよ」
「そうじゃなかったら意地でも逃げるつもりだ」
「その時は楽しみね」
永琳は嬉しそうに微笑んだ。
「良かったわね」
「な、何で私に言うんですか?」
「あら、好きな人と暮らせるのが貴女の夢でしょう?」
「そうですけど………。あ、いや、貴方の事がその、好きというわけでは……」
顔を真っ赤にしてあたふたしている少女を、永琳はそれを見て無邪気に笑っていた。
なるほど。この時代で言う、鈴仙ポジションか。泣けるな。
「あ、そう言えば貴方たち自己紹介がまだだったわね」
「言われてみれば、そうですね」
「それじゃあ俺から。俺は神無 優夜、よろしく」
「わ、私は……」
少女は手をもじもじとさせるが、意を決して俺の手を握った。
「夢燈、夢燈 月美(むとう つきみ)です。よろしくお願いします!」
空亡「さて、この章のメインヒロイン登場ですね」
優夜「………………」
空亡「どうかしましたか? そんなにボーっとして」
優夜「いや、なんでもない」
空亡「あ、惚れましたね?」
優夜「………そうかも」
空亡「ですよね~。優夜の好みドストライクですから」
優夜(ただ、なんだろうな。このどうしようもなく感じる嫌な予感は)
空亡(本当、このあとがきは残酷ですよね)
次回予告
彼が持つ能力は、まだ存在しないはずの、幻想少女たちの能力………。
東方幻想物語・神代編、『幻想の能力』どうぞお楽しみに。