神無 優夜side
輝夜と別れた日の夜、俺は宿屋の一室でルーミアとゆかりと三人で話していた。
話の内容は、十五夜の夜に来る月の使者への対策だった。
二人に事情を話すと、ゆかりは数億年前に人間が存在していたことに驚いたが、ルーミアは途中からかぐや姫が輝夜だということに気付いていたようだった。
「月の民ね……妖怪に怯えて逃げただけの奴等が随分と調子乗ってるわね」
「そう言うな。普通の人間にとって妖怪は恐怖そのものだ。逃げるのも無理ない」
「遠回しに、貴方普通じゃないっているような物よ」
「今更だろ」
「そうね」
「でも、あの月に人が住んでるなんて、まるで御伽話ね」
「事実だ。実際に、輝夜はそこから来てるからな」
「月か……」
ゆかりはぶつぶつと呟きながら顔を伏せた。
何か考え事をしているように見えるが、なにやら嫌な予感がした。
厳密に言うなら、数百年後に月に向かって宣戦布告して土下座するような未来が見えた。
「しかし、あのお姫様、なんでまた蓬莱の薬なんて飲んだのよ」
「本人はただ地上に来る口実が欲しかっただけだよ」
「そんなことの為に命を捨てるなんて、意味が分からないわ」
「鳥籠の中で一生を過ごすくらいなら、籠の外の広い世界で永遠を過ごしたかったんだよ」
「不死の貴方でもそう思うものかしら?」
「少なくとも、籠の中は嫌だな」
俺が輝夜の立場だったら、多分同じことをしただろうな。
だから、彼女の意思を尊重するためにも、十五夜の襲撃は何としても阻止する。
「月の民に目に物見せてやるか」
「ええ。数億年も忘れていた妖怪も恐ろしさ、思い出させてあげるわ」
「何だか二人共、楽しそうですね」
当たり前だ。募りに募ったこの想い、思う存分八つ当たりさせてもらう。
今度の満月の晩が楽しみでたまらない。
少 年 少 女 祈 祷 中
十五夜の満月にかぐや姫が月に帰る。そんな噂が都中に広まった。
翁は帝に兵を賜るよう奏上すると、およそ二千ほどの兵が輝夜の屋敷へと派遣された。
俺とアゆかりは輝夜の護衛の為に『スキマ』の中から屋敷を監視、ルーミアにはもしもの時のために別の場所で待機してもらっている。
屋敷の中には帝の兵が今か今かと、敵いもしない月の使者を待っていた。
「さて、本当なら楽しく月美と洒落込みたかったんだけど」
「たかが女性一人にここまでやるなんて、人間ってよく分からないわ」
「そういうもんだよ。世界の全てを敵に回しても、護りたいものだってあるしな」
「そういうものかしら」
「ゆかりもそのうち解かる時が来るさ。人を愛するってことがね」
「愛する、か………」
ゆかりはそう呟くと、何故か俺の方を見つめた。
するとその時、屋敷の方で動きがあった。
「――ゆかり」
「――ええ」
俺たちは『スキマ』から出ると、屋敷の中庭へと駆けだした。
その道中、帝の兵はみんな深い眠りに襲われて地べたに横たわっていた。
「この感じ、眠り薬か」
「わかるの?」
「遠い昔、知り合いに一服盛られたからよく覚えてる」
「何よその知り合い」
そんなことを話しながら中庭へと到着すると、物陰に隠れて中の様子を見た。
そこには、物語序盤で見たことあるような警備兵らしき奴等が数十人と、見覚えのある人物が二人、警備隊長と永琳だ。そして、その前には輝夜が立っていた。
「姫様、お迎えに揚がりました」
「追放しておいてよく言うわね」
「仕方ありません。蓬莱の薬を服用することは禁忌、いくら貴女でも」
「例外はない。なら、どうして連れ戻しに来たのかしら?」
「それは……」
「よしなさい。これ以上言っても無駄よ」
口ごもる隊長さんに、永琳は冷たく言い放った。
「相変わらずね、輝夜」
「あの時も言ったはずよ。私はこの地上を見てみたいって」
「それで、満足したかしら?」
「全然。見て周るどころか、この都からさえまともに出れてないわ」
「それじゃあ、月に居た頃と何も変わらないわね」
「そうね。でも、月なんかよりここの方がよっぽど居心地は良かったわ」
永琳の言葉に、輝夜は負けじと言い返す。
「まあ、これ以上話を続けても平行線よ」
「ええ。なら、力づくにでも」
隊長の合図で後ろにいた兵共が動きだす。
二人の表情からして、上の命令で無理矢理やらされてるっぽいな。
それを理解してるのか、輝夜は二人の隙を作るためにこんな言葉を放った。
「自分勝手すぎるのよ。少しはユウヤを見習ったらどうなの?」
輝夜のその言葉に、前に居た二人の目が見開いた。
「今よ‼」
輝夜の合図で俺とゆかりは物陰から飛び出した。
目にも止まらぬ速さで輝夜を捕まえると、俺とゆかりは目を見開いている二人の肩を踏台にして屋敷の屋根へと跳び上がった。
「言われたとおりにやったぜ、輝夜」
「流石ね。で、この女は誰?」
「それは後で説明しますわ。今は逃げますわよ」
「ユウヤは?」
「俺はここで足止めしておく。事が済んだら、向かうから」
「解ったわ。無理しないでね」
「言われなくても。ゆかり、頼んだぜ」
「ええ。それじゃあ、行くわよ」
ゆかりは輝夜の手を引くと『スキマ』の中へと消えていった。
「貴様、姫様をどこへやった‼‼」
「素直に教えると思うか? 悪いが、俺もそこまでバカじゃねえんだ」
「黙れ。穢れた地上の民が、我々に干渉するな‼‼」
「我々ね……ククク」
俺は下にいる月の民たちに背中を向けたまま、肩を震わせて笑う。
「何がおかしい‼‼」
「負け犬の遠吠えを聞いて笑えないはずがないだろ?」
「なんだと‼‼」
「命が惜しくて地上を捨て、月に逃げた奴等が、地上の民を侮辱するな」
俺はキレ気味に『月美』を召喚する。
それを見て、隊長と永琳から驚きの声が上がった。
「……!? その刀」
「もしかして、いや、そんなまさか……!?」
「夢だと思うなら頬でも抓ってみろよ。永琳、それに隊長さん」
俺はそう言って、夜空の月を背にして振り返った。
二人は驚きと嬉しさの表情を浮かべていたが、俺の目に映ったのは容赦なく銃口を向けている兵士共だった。
まあ、あそこまで派手に煽れば当然の結果だ。輝夜を追わせなかっただけでも十分だ。
一瞬の迷いなく、静かな夜を撃ち破るような銃声が響いた。
永琳が何か言ってるように見えるが、放たれた銃弾は俺に向かって飛んでくる。
俺は銃弾を避けると同時に屋根から飛び降りた。
「――鈍いんだよ」
地面に着地した瞬間、俺は未だに銃を屋根へと向けている兵士共に向かって走りだした。
『月美』を腰に携えると、鞘を支え、鍔へと手を添えた。
「――『葉月』、『如月』」
兵士共の前で一瞬足を止めると、そこから一気に加速して兵士を斬り抜けた。
その場を静寂が包み込むと、一拍遅れて兵士の銃が破壊され、そのまま地面に倒れた。
『葉月』で兵士の銃をバラバラに斬り裂き、『如月』で兵士を峰内で仕留めた。
その流れで、俺は永琳も一緒に気絶させた。もちろん、最低限の力を使ってな。
俺は『月美』を鞘に仕舞うと、呆然と立ち尽くしている隊長に話し掛けた。
「さて、これでようやく落ち着いて話ができるな」
「お前、生きていたのか」
「生憎と、死ねない理由ができたからな」
「そうか。だから、姫様はあんな事を」
「それよりも、アンタに一つ頼みがある」
「姫様を見逃せ、そうだろ?」
隊長は始めから分かっていたようにそう言った。
「ああ。アイツは自由になりたいんだ。今更鳥籠の中に戻らせてたまるかよ」
「だと思った。安心しろ、上には何か言っておく」
「ありがと。それともう一つ、永琳も連れて行っていいか?」
「構わないだろう。本人もそのつもりだったからな」
「やっぱり?」
「ああ。姫様の返答次第ではこの地に残るつもりだったらしい」
「永琳らしい」
俺は気絶している永琳をお嬢様抱っこする。
「隊長さん、色々とありがと」
「礼はいい。それに、これでようやく俺も罪滅ぼしができた」
「もしかして、俺と月美の事を」
「……気にするな。お前らを見捨てた時点で、俺も共犯者だ」
隊長さんはそう言って俺に背を向ける。
「さて、後は姫様たちと好きな所に行け。もう邪魔する奴等は居ないからよ」
「ありがとう、隊長」
「礼を言うのはこっちだ。お陰で、憎まれ役をやらずに済んだ」
「そうか。なら、これで本当にお別れだな」
「ああ。最後にお前に会えてよかったよ。優夜」
「俺もだよ。田力」
俺はそう言うと隊長に背を向けてその場を後にした。
「――気を付けて。貴方の大事なものに這い寄る狂気に」
それはたしかに隊長さんの声だったが、どこかが違った。
空耳だと思い、俺は永琳を抱えたまま輝夜たちのところへと向かった。
空亡「これで、竹取物語は事実上の終わりですね」
優夜「永会陰は分かってたけど、まさか隊長さんまで出てくるとは」
空亡「あの頃のメンバー層でですね。綿月姉妹は除いて」
優夜「あの二人が来たら俺でも勝てる気しねえよ」
空亡「ほぼチートに染まってきてる人が何言ってるんですか」
優夜「でも、あの二人が出てこないというと、やっぱり?」
空亡「そのうちやりますよ。月面戦争」
優夜「こっちが終わっても、苦労が絶えることはなさそうだ」
次回予告
再会を果たすユウヤ達、だが、その裏では復讐の物語が始まろうとしていた。
東方幻想物語・蓬莱編、『物語のK/再会、そして復讐』、どうぞお楽しみに。