東方幻想物語   作:空亡之尊

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Oを乱す人形/復讐、そして別れ

神無 優夜side

 

 

十五夜から一夜が明けた。

都中ではかぐや姫が月に帰ったという話題で持ちきりだ。

最後に輝夜は蓬莱の薬を帝に残したが、それは史実通りに富士の山で焼くことになった。

今はそれを持った岩笠とその月人の兵士たちが富士に向かっている。

そして、恐らくもこうも、その後を追っているに違いない。

 

それに、光姫のことも気になっていた。

光姫は蓬莱の玉の枝の贋作に対する支払いをしていなかった。

その所為で史実通り、怒った職人たちは直談判しに輝夜の屋敷に居た藤原不比等へと代金を請求しに来た。

不比等は輝夜の前で恥をかき、それから表に顔を出すことをしなかった。

光姫はその事を咎められる前に姿を消したらしく、今どこにいるのか分かっていない。

 

日が暮れて、夜が訪れても、俺の心はまだ迷っていた。

 

 

「……俺は、どうしたら」

「ったく、どこで油を売ってるのかと思ったら、ここにいたのか」

 

 

声のした方へと目を向けると、そこには深紅が窓枠に座って林檎を食べていた。

 

 

「お前、か……」

「元気がないな。まあ仕方ないか」

「何しにきやがった」

「何も、ただお前の様子を見に来ただけだ」

 

 

深紅はそう言うと、林檎を一口齧った。

 

 

「しかし、人間の復讐心って言うのは面白いよな」

「……?」

「自分の家族に恥をかかした相手に対して、ちっぽけな悪戯で仕返そうとする。

 子供らしい考えと行動だが、それが自分の人生を狂わせるなんて、思わねえよな」

「妹紅の事か」

「復讐という感情は人を動かす原動力にもなるが、同時に身を滅ぼす毒にもなる」

「それ、もしかして俺に言ってるのか?」

「復讐と深く結びついてるお前には丁度良い話だろ?」

 

 

深紅は食べ終わった林檎を床に置くと、懐からもう一つの林檎を取り出した。

 

 

「お前は“ニセモノ”を殺すために旅をしているようなものだ。違うか?」

「そうだな」

「なら、その復讐の果てに、お前は何を見ている?」

「俺は………」

 

 

その時、俺は咄嗟に言葉が出なかった。

昔ならこんな質問なんて笑って返せたはずなのに、今の俺には何も答えられない。

 

 

「人は小さなきっかけ一つで聖人にも狂人にも変わる。

 俺が視たいのは、復讐の先にある自分を見つけている人間の姿だ。

 復讐の執念に囚われず、自分の意志を持った、そんな人間が俺は好きなんだ」

 

 

そう語る彼女の瞳は、何よりも純粋だった。

邪神とかそういうのは抜きで、彼女は心からそう思っているようだった。

 

 

「邪神らしくない発言だな」

「人間と同じで、邪神にもいろいろいるんだよ」

「そうか………ふふ」

「気は晴れたか?」

「ああ。ありがとう」

 

 

深紅に説教されたお陰か、俺のするべき事が見えてきた。

 

 

「復讐に駆られる主人公なんて格好悪いからな、俺はお人好しなお調子者が似合いだ」

「……そうだな」

「とりあえず、妹紅の事は出来る限り支えてやる。光姫は今からでも探してくる」

「そういう単純な考え方、俺は嫌いじゃないぜ」

 

 

深紅は口端を吊り上げて笑うと、手に持っていた林檎を燃やして灰にした。

 

 

「そんなお前に一つ残念な知らせだ」

「なんだ?」

「この近くの竹林で“ブリキ野郎”が誰かと戦ってる」

「チクタクマン……!? いや、それより」

「戦ってる相手が誰なのか、想像にお任せするぜ」

 

 

深紅に教えられなくても、俺はその相手が誰なのか察した。

 

 

「待ちな」

「何だよ、早くしないと光姫が……‼」

「最後に忠告しておく」

「忠告?」

「復讐に我を失うな。怒りに身を任せれば、お前はまた同じ失敗を繰り返す」

「どういう意味だよ」

「その時になればわかる。さあ、急ぎな。もう時間はないだろうからな」

 

 

深紅はそう言って窓から飛び降りる。

最後の忠告の事を胸に仕舞うと、俺は急いで竹林へと向かった。

 

 

 

少 年 祈 祷 中

 

 

 

十六夜の月が竹林を照らされるお陰で、足元は幽かに見える。

ただでさえ迷いやすい竹林の中を、俺は必死になって走っていた。

 

 

「どこに……‼ アイツと、光姫は……‼」

 

 

その時、俺の耳に小さな音が聞こえた。

それはチクタクと秒針が振れている様な、不気味な音だった。

忘れもしない、数百年前に聞いたチクタクマン特有の機械音だ……‼

 

 

「こっちか‼」

 

 

俺は急いで音が聞こえた方向へと走った。

走っていく途中、周囲の竹林が鋭利な刃物で斬られたかようになっていた。

チクタクマンのワイヤーと光姫の光糸、それぞれが争った後だった。

余計な事に、竹には血が飛び散ったような跡がある。嫌な予感が頭を過る。

 

 

「俺は……また……‼」

 

 

不安を拭い去るように、俺は走った。

そして、ようやく俺は光姫の下へと辿り着いた。

 

 

俺が辿り着いた時、そこには無残な光景が広がっていた。

片は邪神、チクタクと音を鳴らしながら、月明かりに照らされたワイヤーは生き物の様に不気味に揺らめき、目の前の少女を無機質な瞳で見下している。

片は人間、途切れ途切れの息を吐きながら、月に照らされた光の糸は彼女を捕える蜘蛛の巣のように散らされ、目の前の男を弱々しい目で見上げている。

 

 

「光姫‼」

 

 

俺の声に気付いた光姫は、ボロボロになった身体をこちらに向けた。

それと同時に、アヴァンも俺の方を見た。

 

 

「ユウヤ…さん……」

「……来たか、神無優夜」

「てめぇ……アヴァン‼」

 

 

俺は『月美』を召喚すると、アヴァンに向かって斬りかかった。

しかし、それは軽く躱されると、周囲に漂っていたワイヤーが一斉に俺に向かって襲い掛かってきた。

次々と迫り来るワイヤーを刃で弾くが、何十本のもあるワイヤーの余波が徐々に俺の身体を斬り裂いていく。

 

 

「くっ……」

「……好都合だ、ここで二人まとめて消せる」

「ったく、意外と流暢に喋れるようになたな‼」

「……まあな」

 

 

アヴァンはワイヤーを操作すると、『月美』の刀身と俺の腕にワイヤーを巻き付けた。

その瞬間、互いに逆方向に引っ張られて『月美』から手を離してしまった。

 

 

「くそっ……‼」

「……お前は何も変わっていないな」

「なんだと…‼」

 

 

俺は『星羅』を取り出し、照準をアヴァンへと向ける。

銃声と共に放たれた銃弾は周囲の竹に着弾すると、跳弾の様に角度を変えて奴の身体へと飛んでいく。

 

 

「……無駄だ」

 

 

アヴァンはワイヤーを自分の周囲に広げると、銃弾と共に周囲の竹もろともバラバラに斬り裂いた。その攻撃は、俺と光姫にも及ぼうとしていた。

 

 

「この野郎‼」

 

 

俺は咄嗟に光姫を抱えると、ワイヤーが飛んでくる範囲外へと跳んだ。

その時、俺の負傷していた左腕が悲鳴を上げた。

 

 

「……っ!?」

「……隙アリ」

 

 

その隙を見逃さなかったアヴァンは、ワイヤーを一点に集めて俺に放った。

俺は光姫を放り投げるとバランスを崩し、放たれたワイヤーが俺の右足を掠めた。

お陰で致命傷は負わずに済んだが、思ったよりもワイヤーの切れ味が良かったようで、俺の右足からは血が流れていた。

 

 

「……これで、もう逃げられないな」

「卑怯な真似しやがって」

「……殺し合いに卑怯なんて言葉はない」

 

 

アヴァンは一歩、また一歩と、俺に歩み寄ってくる。

逃げられない獲物を前にして、狩人は勝ち誇るかのように目の前に立つ。

ここで終わる。数百年前と同じと思いを、俺は抱いた。

 

 

「……惨めだな」

「ああ、そうだな」

「……数百年前の決着、ここで終わらせる」

 

 

アヴァンは哀れみの目を俺に向けると、手刀を天高く掲げた。

この状況で助かる見込みなんてない。ならば、せめて潔く死を受け入れよう。

 

 

「ごめん……月美……星羅……」

 

 

悔しさで涙があふれたが、俺は最後まで笑っていた。

そして、アヴァンは容赦なく、手刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

「――死なせはしませんよ……ユウヤさん」

 

 

 

 




次回予告

在る世界で、一人の少女は邪神に殺された。

少女は復讐と、愛していた少年のために、この物語の舞台へと上がった。

最期に、少女は少年に想いを伝えられるのか?

東方幻想物語・蓬莱編、『受け取ったJ/別れ、そして覚醒』
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