神無 優夜side
「行くぜ、深紅」
『――ああ、行こうか‼‼』
互いに鼓舞すると、俺たちはアヴァンへと向かって走りだした。
光姫の命を受け取ったお陰か、傷は完治している。これなら満足に動ける筈だ。
アヴァンは目の前の状況に困惑していたが、スイッチを切り変えるようにその雰囲気が一変した。
「……殺す」
アヴァンは静かにそう言い放つと、俺に向かって走りだした。
互いに距離を詰めると、アヴァンは俺に殴りかかった。俺はそれを紙一重で回避すると、その流れでガラ空きとなった奴の背中へと回し蹴りを直撃させた。
攻撃で怯んだアヴァンはすぐに振り返って俺に拳を突きだすが、蹴りでそれを振り払う。
そのまま旋風脚を奴の身体へと連続で当て続けると、最後は前蹴りで決めた。
「……その攻撃は」
「ああ、光姫の蹴り技だ」
「……何故お前が」
「俺の能力を忘れたのか?」
「……吸収した者の命、しいては記憶まで自分の物にしたのか」
「吸収じゃねえ、受け取ったんだよ」
俺はアヴァンへと指を突き立てる。
「確かに俺は他人の命を取り込んで生きてる。
だがな、俺はこの命を、ただの残機なんて一度も思った事はねえ。
こいつらから受け取った記憶も、想いも、全部まとめて背負ってるんだ。
それを物同然としか見ていないお前なんかに、俺は負けられねえんだよ‼‼‼」
「……ふざけたことを‼」
アヴァンは俺たちに向かってワイヤーを放った。
今までなら避けるなり防ぐなりしていたが、今のコイツにはそんな考えなんて無かった。
『――優夜、身体貸せ‼』
「ああ、いいぜ」
俺がそう答えると、俺と深紅の意識が交代した。
それと同時に、俺の左腕から紅く揺らめく炎が燃え上がった。
「燃やし尽くす‼」
深紅は迫り来るワイヤーに向かって火炎弾を放った。
火炎弾がワイヤーに直撃すると、爆発と同時にその軌道を逸らした。
「……!?」
全く予期していなかった真正面からの攻撃に、アヴァンはただ目を見開くことしかできなかった。
爆発に紛れながらアヴァンへと接近すると、再び左腕に炎が纏った。
「この一発は、光姫の分だ‼」
思い切り振り下ろされた拳が、アヴァンの顔面を捉えた。
鈍い金属音が竹林の中に響き渡ると、殴られた衝撃でアヴァンは吹っ飛ばされた。
「これで借りは返したぞ、光姫」
『――その台詞、まだ早いと思うぜ』
「だろうな」
俺たちが見つめる先では、操り人形のような不気味な動きで起き上るアヴァンがいた。
相変わらず無表情だが、ガラスの瞳からは底知れぬ殺気を感じた。
「……その力、まさしく神降ろし」
「ああ。コイツには元かその素質があった。だから俺たちが手を貸した」
「……なぜ、邪神が人間に手を貸す?」
「お前らニセモノにはわからないだろうな。特に、殺人人形のお前にはな」
「……黙レ‼‼ 私ハ、人形デハナイ‼‼」
怒り狂ったアヴァンの表情が、殺意に満ちた表情へと変わった。
次の瞬間、深紅は後ろに向かって跳んだ。すると、俺たちが居たその場に霧スの銃弾が撃ち込まれた。
『――銃弾?』
「周りを見てみろ」
周囲を見渡してみると、そこにはいくつかの人影があった。
それは良く見ると、昨日の晩、輝夜を連れ戻しに来た月の使者たちだった。
だが、その目には生気はなく、心臓と思われる場所には大きな風穴が開いている。
『――なんでこいつらが』
「おおよそ、あの姫様を捕まえる別動隊だったんだろうな」
『――通りで、アイツ等にしては守りが手薄だったわけだ』
「あのガラクタ野郎、ワイヤーで死体も操れるからな」
『――まさに機械仕掛けの邪神、人間はただの玩具ってわけかよ』
月明かりが照らすワイヤーが使者たちを操り、俺に向けて再び銃弾を放った。
まるで人形劇のマリオネットの様に、意志のない人形に成り果てている。
深紅は銃弾を見切って回避するが、数十人からの一斉攻撃に押されそうになっていた。
「おい、こういう時どうすればいい‼」
『――あんた、邪神だろ』
「ハジキと多人数相手は苦手なんだよ‼」
『――なら、俺に変わって。丁度、良い装備もあることだし』
「なるほど。いいぜ」
銃弾の雨あられの隙を突いて交代すると、俺はフィンガーグローブを締め直す。
「――光よ導け、護刀『光姫』‼」
『藤原 妹紅:老いることも死ぬこともない程度の能力』
俺はグローブから光糸を取り出すと、自分の周囲に展開した。
何十本もの光糸が宙を漂うように俺の周りを囲むと、向かってくる銃弾をすべて弾き落とした。
「……貴様‼」
「てめえの真似だ。ありがたく思え」
「……だが、その糸では耐えきれないはず」
「ああ、だから妹紅の能力を使わせてもらった」
俺は元々妹紅の能力を、ただ炎を付与させることでしか活用しなかった。
だが、本来の能力は永久に耐えることの無い不老不死、そこで俺は思い付いた。
不老不死の概念も、物に適応させられるんじゃないかってな。
案の定、『月美』に使ったら、薊にへし折られても壊れた部分が徐々に再生していった。
「もっとも、俺の刀にはそれぞれ相性があったが、『光姫』と妹紅の能力は絶品だ」
「……斬ってもすぐに再生する糸」
「キル〇キルを参考にさせてもらったぜ。ここまで来たらパクリやパロディ上等だ‼‼」
「……だが、貴様の能力は封じられて使えないはず」
『――おいおい、こっちは本物の邪神が付いてるんだ。ニセモノの力なんか通じねえよ』
「……訳が分からない連中だ…………理解不能だ」
アヴァンは頭を抱えながら俺に殺意の目を向けると、指を鳴らした。
その瞬間、周りの使者たちが銃を乱射しながら俺に向かって走ってきた。
『光姫』で銃弾を防ぎながら近付いてきた使者たちを受け流すと、ある事に気付いた。
彼らの背中に、小型の時限爆弾が張りつけられていた。そして、奴の手にはスイッチが‼
「……吹っ飛べ」
カチッという音と共に、俺の近くにいた使者の五人が爆発した。
だが、飛び散ったのはグロテスクな血肉ではなく、機械の部品の様な金属片だった。
「これって……‼」
『――あの野郎、死体の身体を改造してやがったな』
「……どこまでも気が狂った奴だな‼」
『紅 美鈴:気を使う程度の能力』
俺は美鈴の能力で『光姫』の強度を上げると、網目状に織り込んで目の前に展開した。
爆風と飛び散った金属片が向かってくるが、展開された網の防がれて地面に落ちた。
「……隙ありだ」
アヴァンの声が響くと同時に爆炎が晴れると、そこには残り全ての使者が俺の周りに集まっていた。爆発の中を突っ切て来たからか、原形すら留めてないものもいる。
周囲に不気味な機械音が響き渡るが、アヴァンの声だけははっきりと聞き取れた。
「……これだけの数、防ぎきれまい」
『――甘いな』
「……なに?」
『――人間はそう簡単に諦めない。何故なら、人間は俺たちと違って策を練るからだ』
「……策、だと?」
「ネタ晴らしすんじゃねえ…………よ‼」
俺は『光姫』を手繰り寄せると、周りにいた使者たちが空中高くへと吊り上げられた。
彼らの足元や身体からは、『光姫』の糸がまるで貫通しているように繋がっていた。
『霍 青娥:壁をすり抜けられる程度の能力』
『悪戯三月精:サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルド』
「さっきの爆発の隙に、周りにいた奴等のあちこちに糸を仕掛けておいて正解だったな」
「……同時に四つの能力を」
「光姫のお陰だ。これが終わったら、また組み合わせを考える日々が始まるぜ」
「……貴様なんぞに、明日はない‼」
怒りでスイッチを握り潰すと、頭上に吊るされた使者たちが一斉に爆発した。
爆炎が周りの竹林に燃え移り、暗い暗い夜を赤く照らす。
「どいつもこいつも、役に立たないガラクタばかり‼‼」
「てめえが好き勝手に作ったものをガラクタ呼ばわりか。哀れだな」
「黙れ‼ 俺は、あの方の為に完璧でなくてはならないんだ。アイツ等と一緒にするな‼‼」
「同じだよ。他人を巻き込んで自分勝手に狂って、はっきり言って迷惑なんだよ‼‼」
「ダマレダマレダマレ‼‼ アノカタヲ、キサマゴトキガブジョクスルナ‼‼‼‼‼‼‼」
アヴァンは怒り狂い、その姿はもはや人と呼ぶにはあまりにも哀れだった。
奴は懐から白いUSBメモリを取り出すと、それを力任せに握り潰した。
すると、その破片は光の粒子となって奴に吸収され、その身体に蒼い炎を纏った。
「永遠、ニ、地獄、ヲ、彷徨エ、神ナシ、ユウヤアアアアアアアアアアアアアア‼‼‼‼‼‼‼」
奴の殺気と共に、蒼い炎は天高く燃え上がる。
俺は『光姫』の糸を手元に戻すと、哀れみの目でアヴァンを見つめる。
アヴァンは天高く跳び上がると、蒼い炎を纏ったキックが俺に炸裂し、吹き飛ばされた。
余裕綽々と地面に着地するアヴァンは、その場を去ろう為に背中を向けた。
「……俺、ノ、勝、チダ‼‼」
『――そいつは、どうかな‼‼』
響く深紅の声、その声で振り返ったアヴァンは目の前の光景に目を見開いたことだろう。
そこには、渾身の一撃をまともに受けても尚、立ち上がっている俺が居たからだ。
「……な、ナゼ!?」
「あまり、人間を嘗めるなよ」
「……貴サマ、の、ドコに、そんな力が」
「何度倒れても、俺は何度でも立ち上がる。それが俺の、力だ‼」
俺の声に応えるように、スマホに新しいメッセージが表示される。
『Final Joker―――Code:【ブレイブフェニックス】』
「……キ様は、きサマは一体何者ダ‼」
「通りすがりの破壊者だ。憶えておけ」
俺はアヴァンへと向かって走りだすと、地面を蹴って高く跳び上がった。
それと同時に、紅い炎が俺の足に纏うと、その形は不死鳥を模したものへと変わった。
アヴァンはすべてを悟ったように微笑を浮かべると、回避することなくキックが炸裂した。
奴を通り抜けるように着地すると、俺は背中を向けたまま奴に向かって親指を立てる。
「俺の勝ちだ。アヴァン」
「……その…ようだな。これが…………死か」
「てめえみたいなのが死んだらどうなるか分からねえが、これだけは言っておく」
「……俺も、貴様に向けて最期の手向け他の言葉を送ろう」
「「先に地獄に逝って、楽しんで来い/先に地獄に逝って、待ってるぜ」」
俺が親指を下に向けた直後、俺の背後でアヴァンは爆発した。
辺りに金属片が飛び散るが、それらは灰となって風に乗って消え去る。奴が被っていた黒い帽子だけが、ひらひらと落ちてきた。
最期に、心を持たぬ機械仕掛けの邪神は笑っていた。
次回予告
少女は復讐のために罪を犯した。
それは歴史には残らぬ殺しの罪、そいて彼女は死ねない罰を背負った。
一度死んだ不死鳥は、再び飛び立てるか?
東方幻想物語・蓬莱編、『明日へのL/不死鳥の涙』