神無 優夜side
竹取物語を中心に起こった今回の騒動は、無事終わりを迎えた。
都ではかぐや姫の話題で持ちきりだったが、一週間もしないうちにその話は途絶えた。
人の興味や関心なんて、所詮はこんなもの。次の話題が広まるまで、この都は少し静かになるだろう。
輝夜と永琳は身を隠すために、あの竹林に移り住むことにした。
念の為にてゐに相談してみたが、理由を聞かずに許可してくれた。思えば、俺の話を聞いていた時点で何か企んでいるようにも見えた。
ちなみに、住居の方は薊に頼んで鬼たちに建ててもらうことになった。一応、俺への借りを返すためと言っていた。借りなんて貸した覚えはないはずなんだけどな。
阿礼は俺たちの旅に同行しようとしていたが、俺が止めさせた。
彼女には彼女の場所がある。それに、俺たちの旅は彼女には荷が重すぎるからだ。
最初は残念がっていたが、とある約束をすることで彼女を説得した。
いつか俺の話を元にした物語を書きたいと言っていたが、それを見ることはできるのだろうか? 少しだけ、彼女との再会の楽しみが増えた。
妹紅は当分の間は人目を避けて生きていくと言っていた。
光姫から教わったことを生かして、各地を転々としながら旅をしていきたいとも言っていた。とても元貴族の娘とは思えないほどの行動力だ。
彼女には輝夜の事を黙っていたが、いつか二人が出遭った時、できるだけ仲良くできるように仲裁はしたいと、そう思った。
ここからは、それぞれの別れ際の会話を載せていきたいと思う。
「何から何まで、本当に世話を掛けるわね」
「いいよ。昔の借りを返しただけだ」
俺は永琳にそう言った。
どこにも行く場所がなかった俺によくしてくれた恩は、今でも忘れない。
そして、色々な薬の実験体にされて生死の境を彷徨ったことは、今でも忘れない。
「ねえ、ユウヤ」
「なんだ? 輝夜」
「その……いえ、なんでもないわ」
「え? 何なの、気になるじゃん」
「何でもないって言ってるでしょ」
輝夜はそう言って俺から背を向けた。
思えば、彼女と出会ったのは月美との接点があったからなんだよな。
お陰で、こうやって仲良くなることも、彼女の性格を知ることもできた。
「ねえ、ユウヤ」
「なんだ?」
「私、ユウヤの事が」
「待った」
俺は輝夜の言葉を遮ると、彼女に言った。
「輝夜、悪いが俺はまだ旅を続ける。まだやらきゃいけないこともあるからな」
「………そう、よね。ごめんなさい」
「でも、俺からの難題を解いてくれるっていうのなら、考えてやるぜ」
「え?」
「輝夜が持ってる蓬莱の玉の枝、その花が咲いた時、お前の想いに応えてやる」
「花が、咲いた時………?」
俺は輝夜にそれだけを告げると、その場から立ち去った。
蓬莱の玉の枝こと『優曇華』は穢れによって実を付け、花になる特殊な植物。
でも、これから彼女たちは身を隠すために永遠亭に閉じこもるだろう。そして、輝夜の能力で屋敷総てが永遠に保たれる。
優曇華の花は咲くことは、当分後の話になってしまうだろうな。
我ながら、嫌な無理難題を吹っ掛けたものだ。でも、それまで俺は死ねないな。
少 年 祈 祷 中
「いや~お世話になりました」
「ああ、身体には気を付けろよ?」
「わかってますよ」
阿礼は笑って言っているが、どこか元気がなかった。
「ユウヤさん」
「ん?」
「私、旅をして良かったと思います」
「面白いものが見れたからか?」
「それもありますけど、一番は貴方に出会えたことですね」
阿礼はそういうと、俺の事を見つめた。
「人の身分とか、妖怪だとか、そんなのに囚われない貴方が眩しく見えます」
「そう素直に褒められると、少し照れるな」
「貴方を見ていると、いつの日か人間と妖怪が共に暮らせる未来がくるような気がします」
「………そうだな」
「だから、その未来がきた時のために、私も少しばかり努力しようと思います」
「よければ、聞かせてくれるか?」
「う~ん、たとえば妖怪の特徴とかを詳しく書いて、それに対処するための方法などを書きたいですね。それと、友好的な妖怪には直接話を聞いてその良い所を載せたいです」
楽しそうに話す阿礼の姿を見ていると、俺は自然と笑みがこぼれた。
幻想郷縁起の起源は、案外阿礼の趣味で始まった物の延長線じゃないかと思えてきた。
でも、そのお蔭で俺は東方の人物たちの良い所を知ることができた。阿求の性格は、もしかしたら阿礼の性格をそのまま受け継いだのかもしれないな。
「阿礼」
「はい?」
「その話、今度会った時にたくさん聞かせてくれ」
「はい。でも、その時私死んでるかもしれませんね」
「だったら、お前の生まれ変わりを探すさ。お前なら、死んでも覚えてそうだからな」
「そうですね。もしも生まれ変われるのなら、その時はまたお話ししましょう」
「ああ、約束だ」
俺と阿礼はそういうと、指切りをした。
寿命の短い稗田の娘、俺が初めてまともに出会った、人間の友人よ。
今度再会したときは、どうか、こんな俺の事を憶えていてください。
少 年 祈 祷 中
「おーい、妹紅」
「やっと来た。いつまで待たせるのよ」
「いいじゃねえか。どうせ行く宛てだって決まってないんだろ?」
「そうだけど………人に見られるのはちょっと」
「そういうところは可愛いのに」
「余計なこと言うと燃やすよ?」
妹紅は右手に炎を出しながら俺を睨みつけた。
蓬莱人になったお陰か、以前よりも妖術が扱いやすくなったらしい。
俺にとっては有難迷惑な話なのだが、妹紅には十分過ぎるほど役に立つだろう。
「ところで、こんな所に呼びだしたのは?」
「ああ。光姫からお前に渡したいものがあったらしい」
「光姫から?」
俺はそう言って、妹紅に風呂敷に包まれた物を渡した。
光姫の記憶に、妹紅に渡したいものが屋敷にあると教えられ、さっき屋敷に侵入して取ってきたところだ。意外にも警備が薄くて助かったぜ。
妹紅が包みを広げると、そこには白いカッターシャツとサスペンダーが付いた赤いもんぺに、赤い線が入った白いリボンが複数入っていた。
どう見ても原作の妹紅の衣服だ。もしかして、作ったのか………!?
「これって………」
「光姫からの贈り物だろうな。動きやすいように作られてるし」
「なんで……」
「いつか妹紅が家を出た時のために、贈ろうとしてたからじゃないのか?」
「私のために、こんな」
「今は着れないかもしれないが、いつか着てみたらいいんじゃないか」
「そうするよ。光姫が残してくれたものだもの、大切にするよ」
妹紅はそう言って笑った。
光姫には前世の記憶があったが、それを抜きにしても、妹紅のへの気持ちは本物だった。
あいつも、いつか妹紅と旅に出ることを願って、これを作ったのかもしれない。
いつか、これを着た妹紅と再会するときには、どうか彼女が笑顔で溢れていますように。
空亡「別れはつらいですね」
優夜「ああ。輝夜には無理難題を押し付けてしまったしな」
空亡「そうとも限らないですよ。原作では時間が動きだしますから」
優夜「その時はもう……」
空亡「それに、阿礼さんとの約束はいつか果たせますよ」
優夜「生まれ変わりだけどな。でも、その時俺の事を覚えてるか」
空亡「忘れられそうにないですよね。君みたいな人」
優夜「余計なお世話だ」
空亡「妹紅さんは……まさかの光姫さんからのプレゼントですか」
優夜「俺も見てビックリしたよ。ちゃんと夜なべして作った記憶があるのにも」
空亡「誰かさんと同じでスペック高いですね」
優夜「誰のことだろうな」