東方幻想物語   作:空亡之尊

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Fにさよなら/旅立ちに涙はいらない

神無 優夜side

 

 

それぞれとの別れを終え、俺たちは都を旅立とうとした。

その直前、俺はゆかりに呼び出され、月がよく見える宿屋の屋根へと向かった。

そこには、俺の事を待っていたゆかりがいた。

 

 

「待たせたな」

「いいえ。呼び出したのは私ですから」

「どうしたんだ。愛の告白ならいつでも受け付けるぜ」

「それは嬉しいですけど、今は違います」

 

 

ゆかりは真剣な面持ちで俺を見つめる。

わかってんだよ、ゆかりがこれから言おうとしてることくらい。

でも、どこかで怖がっている俺が居る。でも、今はそれを殺してみせる。

 

 

「ゆかり」

「はい」

「今から俺は茶化さない。だから、伝えたいことがあるなら言ってくれ」

「ありがとう、ユウヤさん」

 

 

ゆかりは、静かに話し始めた。

 

 

「私、ユウヤとルーミアを見ていてずっと考えてた。

 人間と妖怪、互いに共に暮らせるにはどうしたらいいのか。そんな事を考えてた。

 人間からも、妖怪からも嫌われていた私を、二人は受け入れてくれた。

 人間も妖怪も嫌いだったけど、二人と過ごしていくうちにその見方も変わっていった。

 人間も妖怪も違いなんてない。ただ、どっちも歩み寄ろうとしないだけなんだって」

 

 

ゆかりは深く深呼吸をすると、意を決して俺に言った。

 

 

「だから、私………人間と妖怪が共に暮らせるような世界を作りたい‼‼

 憎むことも、差別することも、退治されることもない、そんな幻想の様な理想郷を」

 

「だが、その理想を叶えるのは困難な道のりだぜ?

 人は妖怪を憎み、退治する。妖怪は人間を見下し、喰らう。

ゆかりがやろうとしてるのは、そのルールを変えることになる」

 

「わかってる。でも、ユウヤにそう言われても諦めたくない。

 やっと見つけた。私が本気でやりたいこと、それが二人に向けての恩返しだから。

 その為なら、私はこの世の理であろうと破ってみせる。

 それが、この数百年間で貴方から教わった覚悟、これだけは譲れません」

 

 

紫はそう言い切った。

初めて出会った時は、孤独を埋めるために俺のところに来たか弱い少女だったのに。

今目の前にいる少女は、自分の夢の為ならルールさえ破ろうとする覚悟を決めている。

子供は親の知らぬ間に成長するというが、まさかそれを自分が味わうとは思わなかった。

さすが、俺とルーミアに何百年も付き合ってきただけあるぜ。

 

 

「いいぜ、やってみろ。お前の夢、俺は応援するぜ」

「ユウヤ………」

「その代り、ちゃんと完成したら俺らの事呼んでくれよ」

「当たり前よ………」

「なら、俺らはここで別れきゃな。お前の夢に、俺らは関われない」

「ええ。貴方は、貴方の旅を続けて」

 

 

ゆかりはそう言って俺に背を向けた。

背を向ける時、ゆかりは涙を堪えていた。

ゆかりはいつも泣く時、俺に背を向けていた。泣いている姿を視えたくないからと。

そんなの、俺だって同じだ。泣いてる姿なんて、お前らに見せられるか。

俺は紫に歩み寄ると、後ろから抱きしめた。

 

 

「……ゆかり」

「なん…ですか?」

「今まで、俺たちといてくれてありがとう」

「水臭いですね。私は……ユウヤさんたちと……一緒に居られて………ッ」

「わかってるさ。だから、お前に贈るものがある」

 

 

俺はゆかりから離れると、指を鳴らした。

その瞬間、ゆかりの服が紫を基調としたドレスへと変わった。

 

 

「これって?」

「俺が密かに作ってたお前の衣装だ。他にもチャイナ風のもあるぞ」

「なんで……服なんか」

「いつまでも質素な着物じゃ、折角の美人が台無しだからな」

 

 

俺は最後に、リボンの巻かれたナイトキャップの帽子をゆかりに被せた。

 

 

「可愛い娘が一人立ちするんだ。ちゃんとした姿で送り出したいだろ?」

「どうして………そこまで、貴方は優しい……のよ」

「さあな。ところでゆかりにはちゃんとした名前がなかったよな」

「……うん。自分で適当につけたから」

「なら、ついでに名前も付けてやるか」

 

 

俺は一呼吸置いて、彼女に言った。

 

 

「八雲 紫、それがお前の名前だ」

「八雲………紫………」

 

 

八雲は幾重にも重なった雲の事を指し、彼女にはいくつもの苦難を乗り越えてほしい。

重なった雲から差し出す光のように 希望をあきらめずに立ち向かっていってほしい、どこかの小説の受け売りだが、そんな思いも込められている。

紫を見ると、帽子の深く被って顔を隠していた。その下からは涙が流れていた。

 

 

「なんで……っ、貴方の前では泣かないって……決めたのに………っ」

「泣けるうちに泣いておけ、この先、素直に泣ける事なんてないだろうからな」

「ユウヤっ‼‼」

 

 

紫はそう言って俺の胸に跳び込んでくると、大声で泣いた。

念の為に結界を張って周囲に音を漏らさないようにしているが、それでも足りないと思うほど、紫はは泣いていた。

 

 

「立派な淑女がなんて様だ。まだまだ紫も子供だな」

「だって………」

「これで会うのが最後じゃないんだ。いつかまた会えるさ」

「約束ですよ」

「ああ。お前も約束しろよ、夢を叶えてみせるって」

「はい。それまで、ユウヤさんたちもお元気で」

「言われるまでもねえよ」

 

 

俺は紫に気付かれないように、涙を流した。

 

 

 

少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

都を出た竹林の中で、俺とルーミアは静かに歩いていた。

旅の高間が一人減るだけで、こんなにも寂しいものだったなんてな。

ルーミアなんて、さっきから一言も喋らずに俺の前を歩いている。

 

 

「娘が出ていって静かになっちまったな、母さん」

「誰が母さんよ」

「お、やっと話してくれた。一人で黙っていたらなんだか寂しんだよな」

「アンタは、いつも通り元気なのね」

「いつまでもクヨクヨしてられないからな」

「……羨ましいわ」

 

 

ルーミアはそう言ってその場に立ち止った。

 

 

「ねえ、ユウヤ」

「なんだ?」

「私ね、最初はゆかりの事が気に入らなかったのよ。

 赤の他人が、私とユウヤの間に勝手に入られてきたみたいで、何だか嫌だった。今思うと、大人げのない嫉妬を抱いていたんだたわ。

 でも、あの子と一緒に過ごしていたらそんな気持ちなんて自然と消えていって、いつしか妹みたいに可愛がってた。きっと、妖怪同士で惹くものがあったんでしょうね」

 

 

ルーミアは静かに語り続ける。

今まで知らなかった彼女の心情、俺はそれを黙って聞いていた。

 

 

「ゆかりから自分の夢を聞かされたとき、私は何も言えなかった。

 励ます事もできないまま、あの子は私から離れてしまったわ。

 本当はもっと言いたいこともあったのに、何も伝えられなかった」

 

 

その時、ルーミアの地面に涙が落ちた。

 

 

「………お前が泣くなんて、珍しいな」

「何の事かしら? 昔、紫が作ってくれた料理を思い出して涎が出ただけよ」

「良い話で終わろうとしてるのに、なに雰囲気ぶち壊してやがる」

「アンタには言われたくないわ」

 

 

ルーミアは振り返り返りもせず、再び歩きだした。

最古参の人喰い妖怪のプライドは、彼女に泣くことを許さなかったのかもしれないな。

 

 

「しかし、どいつもこいつも素直じゃないよな。………なあ、紫」

 

 

俺は独り言を大きな声で口遊むと、ルーミアの後を追った。

その時、俺の後ろで声を殺して泣く声が聞こえた。

 

様々な人と出会い、そして別れを経験した。

旅立ちに涙はいらない、いつか再会するその日まで……………………………………………

 

 

 

 

 




空亡「これに手蓬莱編、無事完結です」
優夜「紫が出ていって少し寂しくなったな」
空亡「彼女には彼女のやるべきことがある。ただそれだけですよ」
優夜「本編でも言ったけど、娘の独り立ちを後押しする父親の気分だな」
空亡「ほんとうに、おかしな気分ですよね。独り身の僕には想像もできません」
優夜「こうなると、俺って幻想郷誕生の起源みたいになってね?」
空亡「そうなりますね。そのうち神様として崇められそうですね」
優夜「それについては遠慮したいぜ」
空亡「さあ、次回は妖桜(あやかしさくら)編………の前に」
優夜「前に?」
空亡「そこまでの数百年間を描く探訪編を、短い間お楽しみください」


次回予告
とある舞台が始まる前の日、少年は舞台の上の少女が眩しく見えた。
東方幻想物語・探訪編、『とある少年の記憶回想・愛き光』、どうぞお楽しみに。

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