東方幻想物語   作:空亡之尊

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忘却と出会いと双刀の花

???side

 

 

夢を見ていた。とても嫌な夢だった。

 

俺が居たのは、夕暮れの光が差し込む教室だった。

後ろには無造作に机が積み立てられ、今にも崩れてきそうな微妙なバランスを保っている。

 

残っているのは俺が今座っている席と、左右横一列に並べられた六つの空席だった。

席にはそれぞれ『月』『星』『光』『花』『雨』『日』と書かれた名札が置いてあった。

 

誰もいない教室で、俺は黒板に映り出される映像を見ていた。

フィルムロールの音と、カチカチと目に障る古びた映像、まるで一昔前の映画館だ。

 

 

この世界で初めてルーミアと出会い、月美に一目惚れした……………………………削除。

月の都で永琳と出会い、それから綿月姉妹と輝夜と友人になった……………………削除。

明星美命と名乗る邪神と出遭い、初めて俺は愛する者を失った………………………削除。

諏訪の国に向かう途中で星羅と出会い、二度目の恋をした……………………………削除。

諏訪子や叶恵たちと共に暮らし、ルーミアも人間に馴染んできた……………………削除。

諏訪大戦で三貴子と神々の軍勢と戦い、俺は人として見失う…………………………削除。

突如乱入した忌み嫌う狩人に星羅を殺され、俺は二度目の失恋をした………………削除。

チクタクマンと遭遇し、風歌と深紅から真実を語られる………………………………削除。

樹海の中で紫と出会い、娘ができたように嬉しかった…………………………………削除。

妖怪の山で天狗たちと戦い、鬼姫である薊と喧嘩した…………………………………削除。

都に向かう途中で竹林で迷い、そこで光姫と出会う……………………………………削除。

都で阿礼と出会い、噂のかぐや姫と対面すると難題を出される………………………削除。

難題探しに光姫と妹紅が同行し、二人の仲を羨ましがる………………………………削除。

輝夜を護る為、月からの使者を退き、永琳と再会を果たす……………………………削除。

チクタクマンにリベンジするが、そこで光姫を失ってしまった………………………削除。

紫が理想郷を創るためにと、俺のもとから離れていった………………………………削除。

旅路の途中で蒼香と木ノ葉と出会い、佐渡の島で影と戦う……………………………削除。

 

 

今までの物語の映像が映し出される度に、ノイズと砂嵐が記憶を消去する。

そして、黒扇との戦いが映し出され、最後に彼女の顔が画面に近付いてきたところで映像は終わった。

 

一本の映画が終わったような悲壮感が漂う中、黒板に最後の一言が映し出された。

 

 

『貴方は一体誰ですか?』

 

 

 

 

 

神無 優夜side

 

 

夢が終わると、俺は見知らぬ部屋で目を覚ました。

起き上がろうと手をつくと、腕に小さな痛みを感じた。

 

 

「いつっ……怪我、してたのか」

 

 

俺は“いつできたのかもわからない腕の怪我”を抑える。

周りを見渡してみると、そこは風情のある和室だった。枕元には俺の物だと思われる黒い服が置かれていた。

 

 

「とりあえず、着替えるか」

 

 

嫌な夢を見た所為か、着ていた浴衣が寝汗でびっしょりだった。

俺は立ち上がって浴衣を脱ぎ捨てると、自分の服に手を伸ばした。

その時、部屋の襖が静かに開かれた。

 

 

「すみません。起きてま……!?」

 

 

襖を開けて現れた少女と一瞬目が合うと、彼女は何も言わずに襖を閉めた。

俺はゆっくりと視線を下げると、自分が下着しか履いてない事に気付いた。

 

 

「……最悪だ」

 

 

俺は最悪の初対面に涙しながら着替えることにした。

着替えが終わると、再び襖が開かれ、そこから声がした。

 

 

「あ、あの……もうよろしいですか?」

「ああ。大丈夫だ。もう着替えたよ」

 

 

俺が返事をすると、安堵の溜息の後に少女が部屋に入ってきた。

左目を隠すように伸びた黒髪のロング、桜吹雪が描かれた黒い着物、髪には桜の花を模した髪飾を付けている。見た目大人しそうな印象を抱いた。

少女に話かけようとすると、目にも止まらぬ速さで彼女は床に座った。

 

 

「すみませんすみません‼ 着替え中に部屋に入ってしまい、あろうことか裸体を見てしまったというのに謝罪もせずに黙って部屋を出ていってしまい誠に申し訳ありません‼

 本当なら切腹でもしてお詫びしたいのですが、お嬢様に強く止められているので、こうなったら私の貧相な体を見てお相子ということにしてください‼ お願いします‼」

 

 

そう言って彼女は自分の着物に手を掛ける。

俺は急いで彼女の手を掴んでその手を止める。

 

 

「いやいやいや‼ 早まらないで‼」

「止めないでください‼ これしか詫びる方法が」

「いいって‼ 別に俺の身体なんか見ても減るもんじゃないから」

「それでも、覗いてしまった罪は消えません‼」

「だからってアンタの身体を見ても……」

 

 

俺は自然と彼女の胸へと視線を落としてしまう。

あ、F…………って、違う違う。何を考えてるんだ俺は‼

 

 

「やっぱり脱いで詫びるしか……‼」

「やめろ‼」

 

 

 

少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

「すみません。取り乱して」

「いや、いいんだ」

 

 

落ち着きを取り戻した少女と俺は、正座して二人向き合っていた。

それにしても焦った。危うくこの作品がR18に………………作品って何だ?

 

 

「どうかしましたか?」

「いや」

「まさか、私を取り押さえる時にどこか怪我を‼」

「だから、何でそうも悪い方向に解釈するんだよ」

「すみません………私、昔っからこういう性格で」

「謝り癖にもほどがあるだろ」

「本当にすみません」

 

 

彼女はそう言って頭を下げて土下座する。

なんだか、見てると可哀想というか、可愛いとも思えてきたな。

まあ、俺に女を卑下する趣味は無い……はずだ。

 

 

「頭上げろよ。俺は土下座されても嬉しくねえよ」

「なら身体で……」

「そういうわけじゃねえよ。何でもすぐに謝るなよ」

「うぅ……すみません」

 

 

顔を上げても、彼女は涙目で謝った。

その時、俺の記憶の“誰か”と面影が重なったが、すぐに消えた。

そのお蔭か、さっきから感じていた違和感の正体がやっと解った。

 

 

「大丈夫ですか?」

「心配ねえよ。それより、いくつか聞いてもいいか?」

「はい。答えられることなら何なりと」

「なら、ここは何処だ?」

「平安京から少し離れた所にある屋敷です。私はここのお嬢様の従者をしています」

「そうか。俺が前に居た場所は分かるか?」

「貴方が居たのは樹海ですね。偶然通りかかったここの庭師の方が運んで来たんです」

「樹海……なるほど」

 

 

どうして俺がここに居るのかという疑問は解けた。

あとは…………っと、俺としたことが、一つ思い出した。

 

 

「名前」

「え?」

「アンタの名前、聞いてなかっただろ?」

「あ、そういえばそうでしたね。慌てていて忘れてました」

「俺は……神無 優夜。ただの……いや、なんでもない」

 

 

俺の自己紹介に首を傾げるが、彼女はにっこりと微笑んで言った。

 

 

「『双花 桜良(ふたば さくら)』です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 




自分の知らぬ間に、次々と記憶が消されていくのは怖いもの。
他人との記憶が消える中、彼は一人の少女と出会った。
それは今まで出会ってきた少女達とよく似ていた。
結末を忘れたまま、彼は彼女にどんな想いを抱くのか。
白紙に戻される物語、自分が何者なのか、それを見つけられるのか。
そんな事よりも、桜良の胸が大き――ゴフッ。


次回予告
自分の置かれている状況に焦るユウヤの前に、一人の剣士が現れる。
東方幻想物語・妖桜編、『記憶と焦りと堅物な剣士』、どうぞお楽しみに。
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