東方幻想物語   作:空亡之尊

93 / 106
菖蒲と墓標と双つの罪

神無 優夜side

 

 

とある昼下がり、屋敷でのこと。

俺がいつも通り縁側で昼寝をしている時に、彼女はやってきた。

 

 

「あの~ユウヤさん?」

 

 

呼びかける声に反応して身体を起こすと、そこには桜良がいた。

相変わらず物腰が低く、弱々しく見える。………可愛い。

 

 

「どうしたんだ? 料理ならまた今度に」

「い、いえ。今日は違います」

「じゃあ、何なんだ?」

「あ、あの………できればその、都に」

「都に?」

「都に、花を買いに行きたいので、付いて来てくれませんか?」

 

 

桜良はそう言うと、潤んだ目で俺を見つめる。

俺としては別に構わないので、断る理由なんてなかった。

 

 

「いいぜ。俺もゆっくり見て周りたいしな」

「ありがとうございます。折角お昼寝してたのに」

「気にするなよ。たまには身体を動かさないといけないしな」

 

 

俺はそう言って桜良の頭を優しく撫でた。

しかし、桜良が自分から都に行きたいなんて、それも花を買いに。

食材を買いに行くのも遠回しに拒んでいたのに、もしかして何かあるのだろうか。

その時は無理な詮索をしなかったが、彼女の表情がなぜか暗かったのを、俺は気付いていた。

 

 

 

少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

やはりというか、予想はしていた。

都の人達からの視線、それは俺の後ろについている桜良へと向けられている。

あんなにも頑なに拒んでいたのは、十中八九これだろう。

 

 

「………ません」

「え?」

 

 

後ろで俺の服の裾を握ったまま、桜良は今にも消えそうな声で言った。

 

 

「私たちの所為で……ユウヤさんまで」

「気にするなって言っただろ。こういうのには慣れてる。………はずだ」

「でも……」

 

 

裾を握る手に力が籠る。

元の性格の所為か、自分の所為で俺まで蔑まれると被害妄想してるのだろう。

これはいくら言っても無駄だ。なら、一刻でも早く桜良の用事を終わらせよう。

 

 

「花屋、着いたぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 

桜良はそう言って俺から離れると、目の前にある花屋へと入っていった。

それからしばらく経つと、花屋から彼女が出てきた。その手には菖蒲が握られていた。

 

 

「菖蒲?」

「ええ。私たちが好きな花なんです」

「そうか……」

「あの、ユウヤさん」

 

 

桜良は俺を見つめると、こう言った。

 

 

「迷惑ついでにいいですか?」

 

 

 

少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

桜良に連れられてやってきたのは、都の先ある一本道だった。

真昼だというのに、周りに植えられた桜の木々が日差しを遮って薄暗かった。

こんな所に何があるのかと思っていると、辿り着いたのは墓標が建てられた寂れた場所だった。

 

 

「ここは……」

「今では西行妖の所為で死んだ者を、ここに埋葬しているんです」

 

 

そう言って、桜良は墓地の奥へと進んでいく。

いつも弱気な彼女が、なぜか今は殺気立っているように見える。

そんな風に思っていると、一つの墓標の前に桜良は立ち止った。

いや、墓標と呼べるものなのか。そこには一振りの刀が地面に突き刺さっていた。

 

桜良は菖蒲を墓標の前に供えると、手を合わせた。

俺も手を合わせるが、心の中では少し困惑していた。

 

 

「桜良、この墓は?」

「私の……家族の墓です」

「家族の?」

「ええ。でも、不思議なことに誰もこの存在を知らないんです」

「え?」

 

 

桜良は立ち上がると、静かに語り始めた。

 

 

「とあるところに、双子の姉妹がいました。二人は生まれてからずっと一緒でした。

 ある時、二人は剣術を学びはじめ、やがて互いに正反対の剣を極めました。

 『姉』は己の力を証明する『殺人剣』を、『妹』は人を助ける『活人剣』を。

 二人の剣は対立し、やがて離ればなれになりました。

 そして『姉』が人殺しの罪を犯しましたが、なぜか『妹』がその罪を被り、殺されました。

 しかし、不思議なことに次の日から『妹』の事を憶えている人はいなくなりました。

 残った『姉』は、『妹』が居たという記憶を残し、そしてその罪と罰を背負いました」

 

 

語り終えた彼女は、俺に尋ねた。

 

 

「ユウヤさん。もしも、罪人の罪を肩代わりしようとする人間が一人います。

その人は、自分が死ぬかもしれないのに、どんな気持ちで罪人の罪を背負うんでしょうか。」

「多分、そいつはその罪人の事を心の底から愛してるからだ。死んでほしくないからだ」

「でも、その罪人は殺されて当然のことをした。それでも、その人は罪人を愛せますか?」

 

 

背中を向けてそう言う彼女に、俺は答える。

 

 

「ああ。命より大切なものなんて無いって言うが、他人の為に命を張る奴だって居るんだ。

 その罪を背負い、代りに自分が死んだとしても、生き残った奴には自分の分まで生きていてほしんだ。それで、その罪を少しでも償おうとする心があれば、その人も本望だろ」

「罪を償う……ですか」

 

 

彼女は小さく笑うと、俺に振り返った。

 

 

「今日は私に付き合ってくれて、ありがとうございました」

「いいよ。居候させてもらって何もできないのは嫌だからな」

「ふふ。ユウヤさんはいつだって私たちを助けてくれてますよ」

「そうか?」

「ええ。お嬢様も笑うことが多くなりましたし、妖忌さんも少し柔らかくなってきました。

 私も、少しずつですが料理の方も上達してきました。ユウヤさんには感謝しきれませんよ」

「そこまで言ってくれると、少し照れるな」

 

 

俺は照れ臭そうに頬を掻いた。

それを見て、桜良は楽しそうに笑った。

 

 

「ところでさ、桜良は幽々子とどれくらいの付き合いなんだ?」

「そうですね………親に捨てられた頃ですから、かれこれ十年ですね」

「十年か……結構長いんだな」

「長いですよ。だからこそ、あの人の傍を離れられないんです」

 

 

桜良は妹の墓標を見つめた。

 

 

「今の幽々子が死に誘う亡霊でも、あの人は私たちの恩人です。

 彼女に拾ってもらわなければ、私たちは生きてはいなかったのだから。

 例えそれで自分が死んだとしても、私はあの人を恨んだりはしない。

 最期まで私は笑います。道化のように、涙での別れなんて、私には勿体ないですから」

 

 

そう言って桜良は俺に歩み寄ると、胸ぐらを引っ張って俺の唇を奪った。

突然のことで呆然としていると、桜良は唇を離した。

 

 

「お前……‼」

「次の満開、私は死ぬかもしれません」

「そんな事」

「ないかもしれない。でも、もしそうならば、私は悔いの無いように死にたい」

「それが、これなのか?」

「どうでしょうね。ただの気紛れかもしれません」

 

 

桜良はそう言って微笑むと、俺の横を通り過ぎた。

その時、彼女がどこか悲しそうだったのが、気になった。

呼び止めようと振り返っても、もうその場には桜良はいなかった。

 

春の訪れを告げる風だけが、寂れた墓地に吹いていた。

振り返ると、墓標の前に供えられた花が風に吹かれて揺れていた。

 

 

「双子の物語、か……」

 

 

俺は不安を振り払うように、その場から逃げるように去った。

そして、忘れていた“その時”が、徐々に近付いてきているのだった。

 

 

 

 

 

???side

 

 

ユウヤ達が去ったその墓地には、誰も知らぬとある噂があった。

 

それは、この墓地の先にある人知れる広場に、一本の桜の樹が在るという。

 

広場を囲むように普通の桜の木は植えられているのだが、それらよりも一際美しい桜がある。

 

とある噂では、ある歌聖が死ぬ間際まで愛した桜と同じ苗木だとか。

 

知る者によれば、その姿は西行妖と瓜二つと言われるほどだった。

 

ここは罪を犯した者が眠る地、それ故に誰も好き好んで近寄ろうとしない曰付きの場所。

 

ちなみに、桜の根は大きい物で5mも地面の中に張られるそうです。

 

もしかしたら、人知れずこの桜はその怨念を取り込み、成ろうとしているのかもしれません。

 

人を死に誘う、“もう一つの西行妖”に。

 

その傍らで、黒い扇子を持った女性は妖艶に笑う。

 

 

 

 

 

春は始まりの季節、だが同時に終わりを告げる季節ともいう。

 

その終わりは、着々と近づいてくる。

 

 

 

 





これは誰も知らぬ御伽噺の一つ。
哀れな姉妹の物語、だがそれはまた別のお話で語るとしましょう。


次回予告
あの日、俺は大切なものを自分で傷つけた………。
東方幻想物語・妖桜編、『最下位と信頼と蘇る記憶』、どうぞお楽しみに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。