はんぱもののラブライブ!   作:夕藤

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第十話 リーダー、という存在は

 昨日のにこの取材に対する一人芝居については、割愛しよう。ただ一言言うのなら、あれだけの演技力があるのに何故あんなにも残念なのか。あれだけ多彩な演技が出来るのなら、と雪が真剣に矢澤にこというアイドルを考えたのも、この際省いておく事にしよう。

 

 今、雪達は一人部室で演技を続けているであろうにこを置いて中庭に出てきていた。

 残るは一年生の撮影のみ。既に携帯で呼び出しをかけているのですぐに撮影を始めることが出来た。

 

「た、助けて……」

 

 ただし、花陽は少し恥ずかしがりやなのである。

 

「花陽、これ編集できるから大丈夫大丈夫」

「そうそう。長くなってもここにいる雪ちゃんが全部何とかしてくれるから」

「……やっぱり私の仕事ですか」

「うちも少しは手伝うよ?」

 

 ニコニコと笑う希に対し、深い溜息をつく雪。この後にやる仕事が一つ増えた、とぼやきながらも撮影を続ける。

 

「かーよちんっ! 凛も一緒にいるから平気にゃ!」

「り、凛ちゃん……!」

「真姫もこっちに来てくれないと、撮影できないんだけど」

「私はやらない」

 

 凛が花陽と一緒に映ることで、花陽は幾分かマシになったらしい。

 が、そうなると残り一人、真姫だけが残ってしまう。それならば三人で纏めて撮った方が早いと雪が声をかけるも、真姫はそれを一言で断ってしまった。

 

「もぉー!」

「ええんよ、凛ちゃん。どうしても嫌なら、無理にインタビューしなくても」

 

 希が雪にウインクを送る。雪は短くはいはいと返事をしながらカメラを真姫へと向けた。

 

「真姫だけは、インタビューに応じてくれなかった。スクールアイドルから離れれば、ただの多感な十五歳! これもまた、自然な事――」

「何勝手にナレーション被せてるの!」

「あぐっ」

 

 カメラを手で掴まれ、雪は止む無く撮影を止める。しかしその顔はしてやったり、という顔をしており、真姫は雪のように溜息をつきながら凛と花陽の横へと並んだ。

 

「では、まずアイドルの魅力についてまずは花陽さんからお願いします」

「え、えぇっと、その……」

「かよちんは昔からアイドル好きだったんだよねー!」

 

 昔から、という言葉に雪はくすりと笑った。

 確かに以前、部室で始めて伝説のアイドル伝説、通称伝伝伝を見た時から花陽がアイドルオタクであることは証明されている。にことはそういった面で仲良くなったらしく、よく部室でDVDやCDを見ては二人で何かを語らっていた。

 

「それでスクールアイドルに?」

「はいっ……え? ふ、ふふっ……!」

「ちょっと止めて!」

「うぐぁっ、今度は何!」

 

 再び真姫が雪の持っていたカメラを手で隠した。

 後ろを振り返ってみれば、そこには変顔をした穂乃果とひょっとこの面を付けたことりが立っており、雪は数秒固まってから漸く口を開いた。

 

「何やってんの」

「いやぁ、緊張してるみたいだったから」

「ガ ン バ ッ テ イ ル カ ネ」

「……その面何処から出したの」

 

 ことりの変声に、思わず凛も笑い出す。

 緊張している花陽をリラックスさせてあげようとするところまでは良かったが、穂乃果の全力の変顔にひょっとこの面である。リラックスさせるというよりは、ただ単にウケを狙っているようにしか見えないのだから驚きだ。

 

「全く! これじゃあμ'sが誤解されるわ!」

「おぉ! 真姫ちゃんがμ'sの心配をしてくれた!」

「そ、それは……」

 

 真姫が照れた事でカメラから手を離す。雪が照れる真姫をそのまま撮っていれば――

 

「撮らないで!!」

 

 再び、雪はカメラに額をぶつけることとなった。

 

 

 

 

 ひと通り撮影も終わったということで、渡り廊下へ移動して見てみたものの、これまで撮った部分を見ただけでは巫山戯ているようだと言う意見が出揃った。

 まあ、練習光景を撮ればそれも拭えるだろう、と雪達は練習着に着替えて屋上へと移動していった。

 

 

「――花陽、ちょっと遅いよ。凛はもう少しゆっくり!」

「「はいっ」」

「にこ先輩、ステップ間違えないで下さい、真姫はもっと大きくっ」

「わかってるわよー!」

「はいっ」

「穂乃果まだいける?」

「まだまだぁー!」

「ことり、今の動き忘れないで。海未、移動もうちょっとスムーズに」

「うんっ」

「はいっ」

「ラストー」

 

 

 ラストの決めポーズ、みんながしっかりと決める。雪はそれを見てから叩いていた手を止め、ふぅと息をついた。

 

「ラストは特に問題なし、と。じゃあ休憩ー」

「つっかれたーー!」

 

 どさーっと倒れこむ穂乃果達に、雪はタオルとスポーツドリンクを手渡していく。

 かれこれ一時間もぶっ通しで踊り続けたのだ。体力作りをしているとはいえ、日差しも強くなってきているのだから辛いだろう、と雪は同情した。

 

 しかし、それは雪も同じことだ。

 七人もの動きを同時に見て、指示を出す。μ'sの歌、振り付けなどは全て誰よりも一番先に頭に叩き込み、指導する。体調面もしっかりと計算し、穂乃果達に手渡したスポーツドリンクでさえもそれぞれの好みにあうように作っている。動きっぱなしの穂乃果達よりは疲れはしないが、頭は疲れる。確実に溜まっている疲労を騙すように梅干しやチョコレートを食べるようにしている事は、雪だけの秘密だ。

 

「次はパート毎のステップ確認するから、ちゃんとイメトレしておくこと」

『はーい』

 

(……それにしても、何について話してんだろ)

 

 休憩に入った瞬間から、真姫と希が何かを話している。

 雪はそれを見ながら、欠伸を一つ零した。

 

(ま、いっか)

 

 

 

 

 

 

 

 ――だがその日の放課後、穂乃果の自宅である穂むらで出てしまった『疑問』は、大いに今後のμ'sの方向性を左右するものであった。

 

 

 

「――大体、私が部長に就いた時点で考えなおすべきだったのよ。誰がリーダーに相応しいのか、なんてね」

 

 にこは机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきているポーズを取りながらそんな一言を発した。

 μ's練習内容の作成及び決定は海未と雪で行っており、曲作りは真姫が、歌詞は海未となっている。衣装製作もμ'sが三人だった時からことりが全て担っている。

 

 だが、現リーダーである穂乃果はどうだろう。

 

 ことりの衣装製作を、周りから意外だと言わせるほどの器用さで手伝うことはあれど、実質何もしていない。

 精々やっていることといえば自宅という名の集合場所と、和菓子屋だからこその和菓子の提供のみ。海未や雪に混じって練習を考えたりする事もなく、真姫やことりのように何かを作ることもない。

 

 ただ、μ'sのリーダーはずっと穂乃果だったのだ。

 

「私は、穂乃果ちゃんでいいけど……」

「ダメよ。今回の取材ではっきりしたでしょ? この子はまるでリーダーに向いてないの」

 

 ことりの発言をにこはバッサリと却下した。

 確かに、穂乃果にリーダーの素質があるかないのかと言われると皆が言葉に詰まってしまう。

 

 リーダーという重要なポジションを今まで成り行きで穂乃果にしていた分、みんな思うところがあったのだ。

 

「そうとなったら、早く決めたほうがいいわね……PVだってあるし」

「PV……?」

「リーダーが変わるってことはセンターが変わるって事。ほら、ABK48みたいなのだって総選挙とかやってるでしょ?」

 

 雪の大雑把な説明に、ああ、と海未や周りが納得した。

 

「そう……次のPVは新リーダーがセンター」

「でも、誰が……?」

 

 その花陽の問いに、にこはガタリと立ち上がりホワイトボードを裏返した。

 

「リーダーとは! まず第一に、誰よりも熱い情熱を持って皆を引っ張っていけること! 次に、精神的支柱になれるだけの懐の広さを持った人間であること! そして何より! メンバーから尊敬される人物であること! この条件を全て揃えたメンバーとなると――!!」

「海未先輩かにゃ?」

「なんでやねーーーん!!」

「これ、いつから用意してたんですか……?」

 

 にこが凛に全力のツッコミを入れる一方で、雪はほぅと感心しながらホワイトボードを見た。

 いつ用意したのかも分からないそれは、にこの可愛らしい字で読まれたこと全てが書かれている。強調すべきところには赤いマーカーで波線がうってあったりと、そこそこ見やすい。

 

「私が!?」

「そうだよ海未ちゃん、向いてるかも! リーダー!」

 

 雪が感心している間に穂乃果からは驚きの発言が出た。

 

「それでいいのですか……?」

「へ? 何が?」

「リーダーの座を奪われようとしているのですよ?」

「? それが?」

「……何も感じないのですか?」

「だって、みんなでμ'sやってくのは一緒でしょ?」

「でも、センターじゃなくなるかもですよ?」

「おお、そうか!」

 

 花陽が食い気味に言えば、穂乃果は手をうち、それからううんと考えこむように腕を組む。

 しかしそれも数秒、次の瞬間には

 

「まあ、いいか!」

『えぇ!?』

 

 と、これまた驚きの反応を見せたのである。

 センターはグループの華。それは誰もが知っていることであるからこそ、この驚き。

 何よりμ'sを立ち上げたのは穂乃果である。誰しもが心の何処かで『きっとセンターにこだわりがあるに違いない』と思っていたのに対し、穂乃果は全くセンターというものに固執していなかった。

 

「……じゃあ、海未が次の新リーダーでセンターって事で、」

「ま、待ってください! …………無理です……」

「あー、やっぱり?」

 

 雪が話を進めようとするも、海未自身がそれを止める。

 ただでさえアイドルに一番抵抗を持っていた海未の事。センターというより注目されるポジションに着くのは難しいだろう、と雪は踏んでいた。

 なにせ、お客さんを野菜に見たてろというアドバイスに対し、一人で歌えというのですか、という突拍子な答えを返して見せたあの海未なのだから。

 

「面倒な人……」

「じゃあ、ことり先輩?」

「副リーダーって感じだにゃ」

「じゃあ雪ちゃんは?」

「天海先輩?」

「……は、え? 私?」

 

 一挙に七人の視線が雪へと集まった。

 まさかマネージャーの自分にリーダーの話が来るとは思わなかったのだろう、動きが全て止まってしまっている。

 

「割りと条件に合うかもね……見た目はともかく、この中じゃ言動はまともな方じゃない?」

「え、」

 

 意外な事に真姫が雪を推し進めてきた。

 確かに雪自身の服装等を正せば、この中で一番まともであるのは目に見えていた事だった。一年生がリーダーをするというのはちょっと、という意見を交えれば、たしかに上級生の中で雪に白羽の矢が立つ事は必然だったのである。

 

「海未先輩を説得するか、天海先輩が引き受けるかが一番妥当じゃないの?」

「い、いやいやいやいや! まだ上級生が一人残ってるから! 私はにこ先輩をおすすめしますよ! ほら、アイドルの事についてよく知ってるし、意識高いし?」

「と、当然っ!」

 

 自分がリーダーという面倒なポジションに就きたくなかったあまり、雪はにこを推し進めた。が、割りと皆の反応は薄い。

 みんなが互いの推薦を再び再会し、それに痺れを切らしたにこがとある提案を出し、一行は部室から秋葉原にあるとあるカラオケ店へと、場所を移すこととなった。

 

 

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